12 エネルギー充填
私達はカシファーンに案内されて、魔族の居住区へと足を踏み入れた。
一直線に伸びる通路の左右には扉があり、その向こうにある部屋で魔族達は生活をしているようだ。
気配は感じるが、その数は多くない。
100人に届かないって感じかな?
それにしてもここは、なんとなく病棟のような印象があるな……。
ここに200年以上も生活するというのは、ちょっと精神的にキそうだ……。
『ここから脱出しようと、考えたことは無いのですか?』
『周囲は人間の勢力圏だからのぅ……。
我らの数は少なく、人間に見つかれば多くの犠牲が出ただろう。
昔は勇者も健在だったでな……。
それに魔王城まではあまりにも遠く、「転移」を繰り返しても簡単には辿り着けん……。
しかも魔王様のお身体を運びながらでは、リスクが大きすぎてな……』
と、巨竜ガルガは答えた。
そうか……私なら1~2度の「転移」でいけそうな気はするけど、魔族でも無理なのか。
しかも動けない者を抱えての、長い逃避行……。
うん、無茶だな。
その後も通路を進んでいると、
「なんか食い物の匂いがするな?」
ネネ姉さんが反応する。
たぶん食堂があるのだろう。
進む通路の先が十字路になっていて、左側から食べ物の匂いがする。
「ご飯の時間は、まだですよー?」
「わ、分かってるよ」
一応、姉さんに釘を刺しておく。
それにしても、こんな地下深くで得られる食料というと、魔物くらいだよね……。
香辛料とかを手に入れるのも難しそうだし、ここの料理の味はあまり期待できそうにないな……。
いや、魔法で香辛料の代替物質を、生成することも不可能ではないけどね?
だって毒を生み出す魔法だってあるんだから、香辛料だって不可能ではない。
それに人間に化けて、町へ買いに行くという手もあるだろう。
ただ、元々魔族は料理にさほどこだわりを持っていないようで、シファも最初にレイチェルの料理を食べた時は、その美味しさに驚いていたっけ……。
やっぱり期待はできないな……。
さて、食堂の反対側には、何があるのかな?
なんとなく、私の好む物の気配がする!
私が気にしていると──、
『そちらは風呂だぞ。
後にしろ』
そう教えてくれたカシファーンは、そのまま通路を直進する。
そうだな。
後でみんなを丸洗いにして楽しもうか(女性限定)。
そして更に通路を進むと、やがて左右の扉は見えなくなった。
ただひたすらに、通路だけが続く。
その突き当たりに大きな扉が見えてきたが、ここが目的地か。
『ここで魔王様が、眠っておられる』
扉を開いて中へ入ると、守護者戦用の空間ほどではないが、広い空間に出た。
その中央には石棺。
ピラミッドにある、あんな感じのだ。
中にミイラが収められているのを想像して、ちょっと嫌な気持ちになった。
せめて幼女であってほしい。
『蓋を開けても良いのかぅ?』
と、シファはカシファーンにが問う。
彼女としては、母親の状態をまずは確認したいのだろう。
『窓があるから、そこからどうぞ』
ああ、石棺の蓋に小さな扉がついているな。
なんとなく棺桶を彷彿とさせる。
その窓を開くと、ガラスのような透明な物質がはめ込まれていて、そこから中が確認できた。
『母う……え?』
中を覗き込んだシファの顔が、困惑の色に染まる。
私も窓を覗き込むと、そこには6~7歳くらいの幼女の顔があった。
ママは小学1年生!?
エネルギーの消耗を抑える為に、身体を小さくしているとは思ったけど、予想以上だな……。
『これでも、成長したほうでな……』
『えぇぇ……』
巨竜ガルガの言葉に、シファは呻く。
消耗して眠りについた直後の魔王は、乳幼児くらいまで若返っていたということなのだろう。
そんな母親の姿は、シファにとっても想像の埒外だったのだろうけど、それを想起させる姿が目の前にある。
ふむ……この幼女に魔力を注入し、大人の姿にまで回復させる必要があるのか……(意味真)。
え……と、石棺には、何本もの管が繋がれていた。
これでダンジョンから魔力を供給しているのかな?
『この管に魔力を流せばいいのですか?』
『いや、石棺に直接でもいいぞ。
ただ、いきなり大量に流すとどうなるか分からんから、様子を見ながら少しずつな』
カシファーンに促されて、私は石棺に手を触れた。
『そうですか。
では……!』
私は石棺に魔力を流す。
少しずつ、少しずつ……慎重に。
とはいえ、ダンジョンから200年以上も魔力の供給を受けても、完全に回復しなかった魔王だ。
必要な魔力は、かなりの量なのだろう。
徐々に流す魔力を増やしていく。
現状でも、一般的な魔族十数人分に匹敵する魔力は流しているが……。
『おお……少し成長したような……?』
シファの言う通り、十数分かけて1歳くらいは成長したか……?
でもこの調子なら完全回復するまで、これまでの10倍から20倍は魔力を注入する必要がありそうだ。
このペースだと数時間はかかるな……。
少しは注入のペースを上げた方が──、
「んんっ!?」
その時、ダンジョンが激しく揺れた。
え、なんだ?
地震か!?
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