11 魔 王
『くっ、殺せ!』
はい、「くっころ」いただきましたー。
シファに敗北して縛り上げられたカシファーンは、まだ私達への恭順の姿勢を示さなかった。
しかし話し合いにならなかったからこそ、戦いになったのだ。
その勝敗が決した今、敗者が勝者に従わないのならば、殺すなり自由を奪って投獄なりするしかなくなってしまう。
だが、そうなってしまうとシファの「魔族の協力を得る」という目的が達成できなくなってしまい、本末転倒だ。
いや……反抗的な者だけ排除するという手もあるけど、それでは独裁だろう。
だからなのか、シファは説得を試みる。
『あのなぁ、カシファーン。
妾は魔族を裏切るつもりは無いのじゃ。
むしろ発展を目指しておる。
それに協力しては、くれないものかのぅ?』
そう呼びかけるシファ。
だが──、
『ふん……200年以上も我々を放置していた王女が、今更何を……。
我々はこの人間に囲まれた土地で、暗いジメジメとした地下に閉じこもり、苦渋に満ちた生活を送らねばならなかったのだぞ……!』
『ぬ……!』
シファは言葉に詰まる。
カシファーンの言葉は、核心を突いている。
敵地とも言える土地で、孤立無援のまま潜むことを強いられてきた彼女達にとっては、今更救援に来たというのならまだしも、協力しろと言われても納得しがたいのだろう。
それどころか、シファに対して恨みすらあるかもしれない。
でもシファにだって、事情はある。
軟弱な性格の所為で何もしなかったのは、非難されても仕方がない。
だけど──、
『シファに力が無かったが故に、救出もできなかったことは認めましょう。
だけどそれは他の四天王についても同じではないですか?
それなのに何故、クジュラウスの口車には乗ってしまったのです?』
ここの魔族を放置したという意味では、他の四天王達も同罪だ。
私の指摘に、カシファーンは口ごもりながら答える。
何処となく、自分達の正しさを言い訳しているようにも見えた。
『それは……。
しかし……奴は魔王様の、復活に協力してくれると言った……』
『母上の!?
ここにおられるのか?
いや、本当に蘇るのか!?』
シファの母親って、人間の勇者に倒された魔王だよねぇ……。
まあ、魔王の復活は異世界あるあるだけど、実際に有り得るのか?
『そもそも、このダンジョンは、魔王様を復活させる為の物ですしなぁ……』
その時、巨竜ガルガが口を開く。
『どういうことなんです?』
『おい、ガルガ殿!
余計なことを言うな!』
『それがのぅ……』
カシファーンはなんか言っているけど、ガルガは無視して語り出す。
その話によると、このダンジョンで吸収された物体や生物の遺体は、魔力に変換されてダンジョンの維持に使われるだけではなく、勇者に敗北して深く傷ついた所為で眠状態になっている魔王へも魔力を供給しているという。
そういえばシファも最初は、怪我をした身体が無駄なエネルギーを消耗することを抑える為に、休眠状態になっていたっけ。
その時は見た目も幼くなっていて……今の魔王も合法ロリなのかな?
でもこれでダンジョンの床に置かれている物が、吸収される理由が分かった。
しかし200年以上経過しているのに魔王がまだ復活できていないということは、その魔力の供給効率はそんなに良くないのかもしれない。
こんな巨大なダンジョンを維持する為には、相当な魔力が必要だろうしね。
『そういうことなら、私が魔力を供給してもよいのですよ?』
『貴様……何を企んでいる……?』
カシファーンは疑念に満ちた目を私に向けるが、他意は無い。
『友人の母親を助けるのが、そんなにおかしいですかね?』
『アイ殿……』
シファは感激しているが、カシファーンは──、
『信用できるものか……!』
と、まだ信用してくれない。
なんなん?
私、君に何かした?
……って、なにやら「念話」の気配が。
その発生源を見ると、ヤギ頭の悪魔──ヤギさんだった。
お前か、お前が余計なことを、カシファーンに吹き込んでいるのか!?
『ひいっ!?』
私は9つの尻尾を、カシファーンとヤギをかすめるように、周囲の床へと突き刺した。
『私はあなた達に許可を得なくても、好きなようにやれます。
それだけの実力があるので。
それでも強硬手段に出ないことで、少しは察してくれませんかねぇ……。
そもそもシファに負けたのに、まだ反抗的な態度なのは、魔族の流儀としてどうなんです?』
『な、なにを……!』
魔族は強い者に従う。
そういう性質の者が多い種族のはずだ。
まあ、先程の戦いの場合、シファが魔獣2匹を操って3対1での勝利なので、強さに関しては微妙なところではあるのだが……。
それでも負けは負け。
状況次第では、カシファーンの命は奪われていてもおかしくなかった。
それにもグダグダと言っている彼女は、潔くないのではないかな?
そんなカシファーンに、巨竜ガルガは告げる。
『無駄に逆らうのは、よしなされ。
この御方はおそらく、全盛期の魔王様よりも強いと思うでな』
『そんな、馬鹿な!?』
え、そうなの?
私、魔王以上なの?
『そんな御方が味方に付いてくれれば、それだけで魔族の再興は一歩前進する』
『…………』
まあ、損得勘定を考えれば、私を味方につけた方が間違い無く得だと思う。
だけど人は損得勘定だけではなく、感情でも動くからなぁ……。
ぶっちゃけ私も好き嫌いは激しいし、人によって態度が違うので、私のことを気に入らないという者は結構いると思う。
しかしカシファーンは、自身の近くに突き刺さっている私の尻尾をじっと見つめ──、
『──っ!』
何かを悟ったような顔をする。
今、ちょっとだけ魔力を解放したから、それで私の実力の一端が理解できたのかもしれない。
『……分かった。
ここは協力しよう。
いや、我らを助けて欲しい』
と、カシファーンは頭を下げた。
結構大局的な物の見方ができるのだな。
えっちな格好をしただけの脳筋だと思っていてゴメン。
『では、母上のところへ、案内するのじゃ』
そんな訳で、魔王の復活に手を貸すことになった。
途中で大幅に書き直したけど、結局大筋はさほど変わっていないということはよくある。