3 新たな戦闘スタイル
この魔剣は出来損ないだ。
食べられない……じゃなくて、使えないよ。
私がためしに炎を付与した剣は、武器として使い物にならなかった。
まず恒常的に効果を付与させると、そのオン・オフが難しい。
常に炎とかが出ているようでは装備すること自体が難しくなるし、かといってそれを任意で発動させる為には、普段は付与の効果を封じる為の機能が必要になる。
たとえば魔法封じの機能を持つ魔法陣を武具に彫り込み、付与の効果を抑える。
そして魔法陣に魔力を流した瞬間だけ、魔法封じの機能がオフになって、封じていた付与の効果が発動する……という感じだ。
しかしそんな面倒臭い物を作るくらいなら、必要に応じて魔法で武器に炎等を付与した方が手っ取り早い。
まあ私なら、常時炎が吹き出ているような魔剣でも、「空間収納」に閉じ込めて必要な時だけ取り出して使う……ということもできなくはないが、メリットは皆無だな。
他にも燃える剣は格好いいんだけど、最終的には溶け落ちたり、脆くなって折れたりするという欠点もあるようだ。
他の電流などの攻撃に使えそうな魔法を付与しても、やはり武器の耐久力が落ちる場合が殆どだった。
攻撃力を上げる云々以前に、耐久力を維持する機能を持たせないとどうしようもない。
結局、常時発動していても問題が無いような、一見すると地味な機能しか永続的に付与しない方が無難──そんな結論に至った。
「それ、火力を抑えれば、調理器具として需要があるんじゃねぇか?」
「……ああ!」
ドワーフ達に指摘されて、調理用の鉄板を作った。
つまり「ホットプレート」だ。
使いようによっては便利だけど、これを商品として売り出す為には色々と問題があるので、最低でもドワーフ達だけで製造できるように工夫しなければならないねぇ……。
やり方次第では冷蔵庫も作れるはずだし、本格的に商品開発部門を立ち上げようかなぁ。
しかし鉄板か……。
いっそナユタには、某ドラゴンこ●しのような巨大鉄板に「硬質化」とか付与して、振り回してもらったほうが強いんじゃなかろうか?
でも本人は、槌の方がいいって言っているし……。
そもそも鈍器の攻撃力を上げるのって、難しいんだよなぁ……。
「う~ん、じゃあナユタ。
こういうのはどうです?」
「……んあ?」
私が声をかけると、ナユタがうつらうつらとしていた。
鍛冶仕事をしながら居眠りとか、死ぬぞ!?
……まあ、ダンジョン攻略と並行しての作業じゃ、さすがに疲れるか。
仕方がないにゃあ……。
「ほら、寝室へいきますよ」
私はナユタを背負って運ぶが、彼女からは思わぬ寝言が。
「う~ん……母ちゃん……」
おいおい、私は前世を含まなければ、ナユタの3分の1くらいの年齢だぞ。
むしろ私が娘ですよ?
……でも、彼女の母親は、かなり昔に亡くなっているらしいし、やっぱり母親が恋しいこともあるのかな?
それなら今晩くらいは、添い寝をしてやるか……。
その晩のナユタは、私に抱きついて幸せそうに熟睡していたが、朝に目覚めた時には、土下座する勢いで謝ってきた。
普段から大人を自称しているナユタとしては、照れくさかったのだろうな……。
そういうところが、まだまだ可愛いんだけどね。
それから数日後、装備を刷新した私達は、ダンジョンの更なる深層へと挑戦していた。
70階層を突破すると、出現する魔物もこれまで戦ってきた守護者に匹敵する強さになっている。
それでも装備で強化されたナユタは、問題無く戦えているようだ。
事実、欠点だった速度の問題は、新装備で改善している。
彼女の装備に「重量軽減」を付与したおかげで、かなり身軽になったのだ。
まあ、それでも速度はまだまだ足りないが、ナユタの武器となる戦槌の柄を長くし、槌の部分も大型化させてリーチを伸ばすことで補っている。
勿論、リーチが伸びた分、重量は増えたが、それも「重量軽減」でカバーできる範囲だ。
しかも軽いから、小槌のように細やかに振ることも可能だぞ。
ただ、打撃系の武器は、重量自体に攻撃力を依存する部分がある。
軽くなってしまえば、当然攻撃力は落ちる。
でもそこは槌の先端に鋭く太い刺を──しかも「硬質化」の魔法を付与した刺を何本も取り付けたことで補った。
それで引っ掻くだけでも、普通の生物は致命傷を受けるだろう。
名付けて「戦槌・熊手」。
「1人でもいけそうですね。
ナユタ、攻撃は任せます!」
今戦っている敵は、サイのような魔獣が1匹だけだ。
こいつは魔法を使ってくることは無いので、ナユタに任せてもいいだろう。
「おう!」
ナユタは魔獣に対して、勢いよく「熊手」を振り下ろす。
軽量化してあるからこそ速度を出せるし、彼女自身の筋力や、それを強化する「気」を扱う能力も合わされば、「熊手」はその能力を十全に発揮してくれるだろう。
事実、先端の刺は魔獣の分厚い皮膚へと突き刺さり、そしてえぐり取る。
巨大な魔獣に対しては一撃必殺の威力は無いけれど、相手は出血によって一撃ごとに弱っていくので、時間さえかければ問題無く倒せるだろう。
勿論、魔獣だって反撃してくるし、それをナユタ1人で抑えることは難しいけれど──、
「こっちじゃ!」
目の前に現れたシファに、魔獣が突っ込んでいく。
しかしその突進はシファの身体を突き抜け、魔獣は迷宮の壁に頭を打ち付けた。
「ふ……分身じゃ」
まあ、「幻術」だけどね。
シファも私が教えた「幻術」を、上手く使いこなしているようだ。
「そぉいっ!!」
そして壁に突っ込んで脳震盪でも起こしたのか、動きが鈍った魔獣へとナユタが追撃する。
これでもう、勝負は決まったな。
普通の冒険者パーティーならば全滅しかねない相手に対して、攻撃魔法を使わずに勝利できるのなら上出来だろう。
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