1 再びダンジョンへ
ダンジョンの攻略を再開して数日──。
順調と言えば順調だ。
『お姉様、敵が来ます!』
索敵を任せていたココアが、敵を感知したようだ。
通路の奥から、何かがこちらに向かってくる。
……って、ペンギン!?
異世界にペンギンっている──あ。
「オラァ!!」
ペンギンが接近してくる前に、ネネ姉さんが炎で焼き払ってしまった。
そんな……捕獲して水族館でも作ろうと思ったのに……。
というのは冗談だが、可愛いからちょっと心が痛む。
「ネネ姉さん、全部焼き払ったら、素材が台無しになってしまうと言ったでしょ?
それにシファの訓練にもなりません。
手加減を覚えてください」
「え~?
面倒臭い……」
今のは奴隷契約で命令はしていないので、姉さんの物覚えが少し悪い。
でも、なんでも契約を使うと、彼女の成長には繋がらないし、使うのは必要最低限だ。
『まったく、駄目な姉ですねぇ。
アイお姉様の指示も、ロクに遂行できないとは……』
不平を言う姉さんを、ココアが煽る。
彼女は私を尊敬しているようだが、その私に負けた姉さんのことは下に見ているようだ。
実力的には姉さんの方がココアよりも何倍も上なんだけど、ココアの判断基準は私と比べて……ということらしい。
「ああん!?
妹のくせに生意気じゃん……っ!!」
ココアの言葉に気分を害した姉さんが、全身から炎を吹き出している。
耐火仕様の服だけど、限界があるからやめなさい。
「お、また来た。
師匠、オレ達でやっておくよ」
「え……妾も……?」
「当たり前だろ?」
戯れている姉さんとココアの代わりに、現れた魔物の対処をナユタとシファがしてくれるようだ。
さて、私も姉さん達を止めようか……。
あんまり仲が良くないな、こいつら……。
……そんな感じで、ダンジョンの攻略を続けている。
パーティーメンバーの連携という意味ではバラバラなんだけど、それでも戦闘面では危なげなところは無く、大量に魔物は狩ることができていた。
そしてそれを私の「空間収納」ですべて持ち帰っているから、素材として売ればかなりの金額になる。
ただ、一度に市場へ流すと値崩れを起こすので、何割かは復興半ばの王都へ送って復興財源にしてもらおうかな。
そんな訳で私達は、異例の速さで冒険者としてのランクを上げ、私は既にAランク。
他の者も私の従魔扱いのココアを除いて、CかBランクとなっている。
本来ならこんなに簡単には上がらないのだけど、私達が前人未踏の60階層に突入し、その情報を持ち帰ったということで、異例の昇格となっている。
このダンジョンって、10階層ごとに守護者というべきボスが設置されているのだが、この守護者が普通の冒険者にとっては難敵らしく、ダンジョンが発見されてから100年以上が経過した現在でも完全攻略されていない要因となっているようだ。
まあ、私と姉さんならば、問題無く倒せる範囲ではあるが。
でも、できればシファ単独で突破できるくらいにはなって欲しいので、地道に攻略を進めている。
魔王の娘として魔族を率いて行くには、もっと力が必要だ。
そのシファだが──、
「うえぇ……キツイぃ。
もう無理なのじゃ~」
……戦いを繰り返すと、すぐ泣き言を言うんだから……。
ちなみにシファは、最近になってようやく人間語が喋れるようになった。
さすがに人間の世界での生活も長いし、知能が高い魔族ならいい加減に習得できないとおかしいので、遅いくらいだ。
「守護者との戦いが無理だと言うのなら、姉さんと組み手をさせますよ?」
「余計に無理なのじゃが!?」
姉さんは、いまいち手加減が下手だしねぇ。
とは言え、シファだって戦いへの苦手意識を無くせば、そこそこ姉さんと戦えるだけの実力はあるはずだ。
しかし生まれついての性格は、なかなか変えられるものではない。
ここは少し考え方を変えてみようか。
「それではシファは正面から戦うのをやめて、身を隠しながら敵の死角を突くという戦法に変えてみましょうか。
そう、忍者のように!」
「ニンジャ!?
知っておるぞ!
夢の中で見た気がするぞ!」
テンションを上げるシファ。
まあ、ニンジャが嫌いだという日本人はそんなにいないと思うし、前世の記憶は彼女にとっても懐かしいものだろう。
「ええ、ナ●トですよ。
ニンジャ●レイヤーです」
「うん?
それはよく分からぬが、アカ●ゲやハッ●リくん的なものじゃろ……?」
「……そうです、カ●イ外伝的なものです」
Oh……またもや世代間ギャップが……。
いや、私も巨匠漫画家の名作くらいは履修しているけど。
ともかくそんな感じで、シファは新たな戦闘技術に挑戦することになったが、一方でナユタも実力が伸び悩んでいる為、変革が必要だった。
さすがにダンジョンの深層だと、戦槌での肉弾戦だけでは厳しくなってきている。
ナユタにもっと素早さがあれば他にやりようもあるのだろうけど、動きが遅い彼女では魔法でも活用しないと、単独で強大な魔物を撃破することは難しいだろう。
一応ナユタにも補助程度の魔法が使えるけど、補助ではなく魔法だけでも戦えるくらいの技量がないと、この先はついていけないだろうな……。
だがナユタには、急激に魔法能力が成長するほどの才能は無いようだ。
う~ん……となると……。
「ナユタ、ちょっと特殊な武具を作ってみましょうか。
私も付与魔術というものを、試してみたいですし」
「ん?
オレが作るのか?」
ナユタはドワーフだし、ドワーフと言えば鍛冶や細工だろう。
そこに活路を見いだそうじゃないか。
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