11 おめでた
私、魔物だった!
尻尾が増えるってことは、最終的には「九尾の狐」になるのかな?
まあ、赤い九尾の狐ってのは知らないけど、火属性特化の亜種って感じなのかもしれない。
いずれにしても、九尾の狐は妖怪の中では最強の存在の1つに挙げられる。
私がその九尾のキツネの亜種なら、この異世界で無双展開も可能だってことか!
それに九尾の狐は、美女に化けることで有名だ。
それって将来的には幻術ではなく、本物の人間の身体になれる可能性もあるってこと──。
それならば、私が望んでいた百合展開を狙える!
女の子と百合百合できるんだーっ!!
ふふ……燃えてきたぞ……!
とはいえ、今はまだ家族のことも心配だし、自由に動くのはまだ先の話だな。
とりあえず他の姉妹達のレベルアップを促し、ちょっとやそっとのことでは死なないようにしておかないと、私1人で人間の世界へ旅立てない……。
とはいえ、姉妹達を鍛える為には、もうちょっと意思の疎通ができなければ効率が悪いか……。
そんな訳で、姉妹達にはまず字を教えようと思う。
まずは名前からだな。
はい、妹ちゃん、これが君の名前──「シス」。
と、私は火の魔法で、シスの名をカタカナで空中に描いた。
そして前足で字を指してから、彼女を指さす。
「キュ?」
最初は意味が分からないという反応をしていたシスだけど、何回も同じことを繰り返していくと、それが自分の名前だということを理解してくれた。
私達はただの動物ではなく魔物だ。
その知能は高いのではないかと思っていたけど、それは間違い無いようだ。
そして自分の名前を覚えたら、今度は他の物の名前を教え込み、それが終わったら五十音を教え、文章を見せて理解させていく。
まあ、根気と時間が必要な作業だけど、少しずつ成果は出ているので、途中で挫折することはなかった。
まあ……人間のように声が出せれば、もっと楽ではあったのだろうけれど、現状ではまだ無理だ。
で、私とシスのやりとりを見ていて、姉達やママンも興味を持ったようで、そちらにも字を教えていく。
そんなことを続けて、約2年後──。
『アーネ姉さん、そっちに行った!』
『は~い、ネネちゃん、行くよ~』
言葉を習得した私達は、更に試行錯誤を重ね、魔力に思念を乗せて送ることで、無線通信での会話ができるようになっていた。
これを「念話」と呼称する。
で、「念話」を駆使することで、姉妹で連携して狩りをすることもできるようになった為、効率が劇的に上昇した。
私達4姉妹が協力すれば、巨大な熊だって敵ではない。
……まあぶっちゃけ、私1人でも倒せるけれどね。
そんな訳で、私はあえて狩りには参加せず、他の姉妹に任せることが増えた。
なんでも私がやってしまったら、成長できないもの。
現在はのんびり屋の長女アーネと、男勝りの次女ネネの2匹組で狩りをしている。
なお、お転婆で気分屋の末っ子シスは、私にじゃれついていた。
この子は、隙あらば狩りをサボる。
『お姉ちゃん、遊ぼ~』
『シス……私今、魔法の練習をしているんだけど……』
『え~、お姉ちゃん、これ以上強くなる必要ある~?』
シスの言う通り、最早この地域での私は敵無しだ。
やはり成長促進系のスキルがあるおかげか、私だけ飛び抜けて強い。
今や尻尾も5本にまで増えていた。
尻尾が多いほど強くなる感じだけど、他の姉妹は精々2本か3本だ。
あと、ママンは4本もある。
私達は年齢を重ねることによっても強くなっていく種族らしく、結果的に我らが母親は頭1つ飛び抜けていると言えた。
とは言っても、私達が2歳ちょっとなのに対して、ママンも精々4~5歳だろう。
野生の世界ではこれでも長生きな方なのだろうし、おそらくここまで強くなれる個体は殆どいないのではなかろうか。
実際、我らが家族以外で同族の姿を見たことはないので、増える前に自然淘汰されているとみるべきだろうね……。
まあ、我が家族は私という特殊な個体が守っていたので、みんなここまで強くなることができたが……。
でも、そろそろ私がいなくても大丈夫かな?
ただ、私がいなくなったら、シスは泣くだろうなぁ……。
あるいは私に付いてくると言って、きかないかも……。
……別にそれでも困らないか。
姉妹で2人旅というのも、悪くは無いかもしれない。
そんなことを考えていたある日──、
『あれ……ママンのお腹、なんか膨れてきた……?』
そんな私の指摘に、ママンは事もなげに答えた。
『……おそらく妊娠していますね』
『えっ、いつの間に!?
パパンは誰!?』
他の同族が近くにいたなんて、私知らないんですけど!?
しかしママンの答えは、衝撃的だった。
『父親なんていませんよ。
私達の種族は、雌単体だけでも……雌同士でも子供が作れますから。
あなた達も、私だけで産んだのです』
『そうなの!?』
衝撃的な事実だった。
肋間神経痛が治らない……。