25 戦い終わって
ネネ姉さんが繰り出した全力の攻撃は、私の尻尾ドリルとぶつかりあう。
姉さんの攻撃の威力は、そりゃあ凄まじいものだった。
余波だけでも、周囲に炎が荒れ狂っている。
そう、姉さんが使っているのは、我らが天狐族の種族特性とも言える火属性だけのようだ。
当然それは、私には無効の属性である。
勿論それだけではなく、攻撃には「気」や「魔力」なんかも含まれているから、まったく私に通用しないということはないけれど、効果は確実に弱くなる。
そういう意味では私に鍛えられて、別の属性も使えるシスの方が強敵になり得るかもしれない。
そして私は姉さんよりも、魔法の扱いについては上だ。
私はドリルで攻撃しつつも、姉さんの攻撃に含まれる火属性の力を吸収していた。
姉さんの攻撃は、目に見えて弱っていく。
逆に私の攻撃は、更に力強く──。
「グギギギギ……っ!!」
姉さんは必死で、私のドリルを相殺しようとしている。
だけど攻撃に使おうとしていたエネルギーは、既に使い果たしていた。
今は生命力を削って力を放出して持ちこたえているが、限界を迎えるのも時間の問題だろう。
「お……?」
心なしか姉さんの身体が、縮んだような……。
いや、確実に縮んでいる。
あ~……そういえばシファも、消耗するとロリ化していたっけ。
私達魔族って、みんなそういうものなのか?
そして見る見る間に、姉さんは10歳以下の年齢まで退行した。
ふむ、これくらいでいいかな?
もう抵抗する力も無いだろう。
私はドリルの回転を止め、9本の尻尾へと解く。
「きゅうぅ~……」
おっと、姉さんは戦闘の緊張感から解放されて力が抜けたのか、落下し始めた。
自然に飛んでいたから忘れがちだけど、今私達がいるのは空中だったわ。
私は慌てて、姉さんの身体を受け止める。
意識は……失っているな。
これなら奴隷契約の術式を、解除することも容易い。
「…………いや」
術式は条件を変えて上書きだな。
このまま自由にするのも問題がある。
そしてそれが終わったら──、
「みんなのところへ帰りますか……」
ラッジーンのことも片付いているだろうし、ひとまずはこれで落ち着けるかな?
「おーい!」
「おや」
城の中庭にみんながいた。
私と姉さんの戦いを見ていたのか。
ふむ……ココアとシファも合流しているな。
ラッジーンも縛り上げられているし、一通り全部終わっているようだ。
「おお、その可愛いキツネ耳と尻尾の子は!?」
リチア、ステイ。
幼女化した姉さんにロリコンが反応したけど、お前には近づけさせないよ?
さて、ここで一休みしたいところだけど、まずはラッジーンの処置だな。
奴隷契約の術式を施し、抵抗や逃亡ができないようにした上で、城内にいる者達へ投降を呼びかけさせる。
すると殆どの者が、あっさりと投降した。
うん、人望が無いねぇ……。
まあ、ラッジーンによって奴隷契約で縛られていた所為で、彼の言葉を無視できないというのもあるが……。
私はその者達も解放しておいたが、自由になった彼らもまた、あっさりと我々に恭順の意思を示した。
つまり誰もラッジーンへ、忠誠なんて誓ってはいなかったのだ。
やはりその器でない者が、王座になんて座るものじゃないなぁ……。
誰にとっても不幸なことになる。
だけど相応しくない者が王座から取り除かれたことで、この国も多少まともになることだろう。
「あとはあなた次第ですよ、クラリス」
「ええ、そうね……!」
「私も手伝うのです!」
「……!
ありがとう」
レイチェルの申し出に、クラリスは素直に頭を下げた。
実際、この協力の申し出は、彼女にとって助かることは事実だろう。
レイチェル個人の実力が高いというのもそうだが、彼女の母親セリスの実家である公爵家の後ろ盾が得られるというのも大きいはずだ。
また、レイチェルには、このままトウキョウ村でのんびりと生活する選択肢もあるのだが、かつて貴族の横暴によって真っ当な人生を奪われかけた経験がある彼女には、これからの国の行方に何か思うことがあるのだろう。
国政に対して何か不平不満があったとしても、それを愚痴っているだけでは何も変わらない。
直接政治の場に携わって、改善していくしかないのだ。
無論それは平民には難しい話かもしれないが、幸いにもレイチェルにはそれができる立場にいる。
あと、彼女はクラリスに似ているから、影武者としての役割も演じることができるし、2人で交互に女王として働いていくのも悪くはないのかもしれない。
まあ、数年後にはクラリスの身長の方が高くなってしまい、影武者は難しくなるかもしれないが、「幻術」で誤魔化すという手もあるし。
「頑張るのですよ、レイチェル」
「うん、アイちゃん!」
そう答えるレイチェルの顔には、やる気に満ちていた。
さて、これにて一件落着……ということにはならない。
むしろ国を立て直す為には、これからが大変だろうなぁ。
でもそれは、もしかしたら何年もかかるかもしれないことだ。
焦っても仕方がない。
取りあえず今晩は、ささやかな祝勝会だな。
ただの夕食会ともいう。
『お腹空いた……』
姉さんが器用にも「念話」で寝言をもらしているが、私も同感だった。
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