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21 逃亡王

 お待たせしました。

 城内ではココアとシファが、騒ぎを起こしてくれている。

 こちらに向かっていたと思われる刺客も、彼女達が引き受けてくれたので、私達にやれることは取りあえず無かった。

 ネコでも撫でて、休憩しよう。


「ちょっと、こんなところでだらけていてもいいの!?」


 クラリスが落ち着かなさそうにしている。

 本来ならラッジーンとの戦いに備えて、神経を研ぎ澄ませているべき状況だ。

 戦いの前とは思えないこの事態の所為で、気勢を()がれたくはないのだろう。


 だが、現状ではラッジーンの居場所もハッキリとしないので、ここで見張っているのが1番効率が良い。

 下手に動いて、すれ違うと余計に面倒だからね。


「焦っても仕方がありませんよ。

 この城からはもう誰も出られないようにしてあるので、慌てなくてもいずれはラッジーンと会えます」


 ここに来ないのなら、城を囲っている「結界」の範囲を狭めて、強制的に誘導する手もある。

 まあ、それだと関係の無い人間まで──おそらく数百人はいるであろう城仕えの者達まで誘導してしまうことになりかねないので、それが問題ではあるが……。

 この場に何百人も押しかけたら、もう収拾が付かなくなってしまう。


 でも、私は信じている。

 ラッジーンがこの状況に国王として対処することなく、保身の為に逃げてくれるクズだということを──。

 おそらく姉さんの力を借りれば、いかなる大軍勢にも対抗できるだろうけど、それだと自身の安全が確実ではない。

 配下を奴隷契約で縛っているような、身勝手で猜疑心が強い男だ。

 きっと自身の安全を最優先にする為に、この隠し通路がある場所へと逃げ込んでくるはずだ。

 独裁者とはそういうものだろう。


 で、暫く待つと、こちらへと近づいてくる気配を感知することができた。

 まあ、それがラッジーンなのかは、私には分からないが。

 私、そいつと会ったことがないから、気配や臭いだけで個人を特定できるほどの情報を持っていない。


 私はクラリスを手伝っているだけの部外者だし、興味も無かったのでラッジーンがどんな奴なのかは知らないのだ。

 遊び半分と言うとあれだが、私はゲームの1周目はネタバレを回避して、2周目から攻略本を読む派なので、些細な情報はあえて聞いていない。

 勿論、本当に危ないことなら、事前に情報を集めて対策を執拗に構築しておくけど、獣人の男1人を倒すだけなら無策でも余裕だ。


 まあ、問題は姉さんの状態がどうなのか……だけどね。

 こればかりは、実際に見てみないとなんとも言えない。

 ただ、姉さんも奴隷契約で縛られているのなら、力尽くでねじ伏せてから解放すればいいだけなんだよねぇ。


 そして近づいてくる気配──それを発している者達の姿が見えてきた。


「ぬぅん……?

 あれは侵入者ではないのか!?

 撃退に向かわせた者は、何をしとったんじゃい!?」


 そう(わめ)くよう言ったのは、ゴリラ……かな?

 チンパンジーとかかもしれないが、パッと見ではちょっと毛深いおっさんのようにも見える。

 おそらく類人猿の獣人なのだろう。

 ちょっと『猿●惑星』を思い出す。


「あれが、ラッジーン……?」


「ええ……私の倒すべき相手よ……!!」


「ああん?

 誰だ、てめぇ?」


 クラリスを前にして、ラッジーンは首を傾げる。

 まるで見覚えが無いとでも言うかのように。

 ……まあ、私も獣人の顔はあまり見分けられないし、彼も人間の顔は見分けられないのだろう。

 あと、口調がヤンキーかチンピラみたいで、王の威厳が無いな……。


 それが気に障ったのか、


「あなたなんかに、王の資格は無いわっ!!

 お父様とお母様の仇、とらせてもらうわよっ!!」


 激高したクラリスは、ラッジーン目掛けて攻撃魔法を放つ。

 何かに命中すれば、炸裂する火球だ。

 だがそれは──、


「……っ!?」


 無数の斬撃によって細切れにされ、火球は霧散する。

 ラッジーンを護衛する、オオカミの剣士によるものだ。

 他にもクマやバイソン、そしてヒポポタマス──つまりカバ型をした、獣人の姿がある。


 だけど姉さんの姿は見えない。

 それっぽい気配は、通路の奥にあるんだけど……動きが無い。

 どうした?

 なにをやっている?


 いや、今はラッジーンとの戦闘が優先だな。

 ラッジーンがこの場にいる以上、姉さんも彼を巻き込むような広範囲・高威力の攻撃は使ってこないだろうから、あまり気にする必要も無いだろう。

 一応警戒はするけど、まずはラッジーンの対処だ。


 とはいえ、ラッジーンは姉さんの力で王位を簒奪した、典型的なトラの威を借るキツネ……ならぬサルだろうし、大した戦闘力があるとは思えないんだよねぇ……。

 その護衛達も、わざわざ奴隷契約で縛って身近に置いておくくらいだから、実力はあるのだろうけれど、私が鍛えたクラリス達が負けるはずがない。


 そもそも、当初はクラリス・キエル・アリゼに、レイチェルとナユタのパーティーで対処させるつもりだったけど、そこにリチアとネコ姉妹も加わっている。

 もう過剰戦力じゃないかな?


「おのれぇ、裏切り者がぁ……!!」


 劣勢を感じたラッジーンが、ネコ姉妹に恨み言を言うが、それは筋違いだ。


「先に裏切ったのは、そちらです……にゃ!」


 セポネーテの言う通り、先に彼女達の信頼を裏切ったのは、ラッジーンの方だ。


 ……それはともかく、シリアスなシーンでまで、語尾に「にゃ」をつけなくてもいいんだよ?

 応援、ありがとうございます。

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