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18 理想は腐る

 私はネコ姉妹(しまい)を縛っていた「奴隷契約」の、術を解除した。

 術式自体は私が使っている物よりも簡易的なので、解除自体は簡単だ。

 この奴隷術式を(ほどこ)した術者には、大した魔法の実力は無さそうだな……。


 そして解放された姉妹はというと──、


「どうしたのです?」


 床に伏せていた。

 ゴメン寝?

 いや、普通にひれ伏しているだけか。


「我らが姉妹を、理不尽な呪いから解放していただき、ありがとうございました。

 我ら猫神の民としては、(つか)える価値も無い(あるじ)に従うのは、屈辱の極みだったのです。

 このセポネーテと妹マルガレテ、あなた様へ限りない感謝を申し上げます。

 ほら、マルガレテも」


「……ありがとうございます」


 私はチラリとアリゼの方を見ると、彼女はコクリと頷き返してくれたので、少なくとも姉のセポネーテは本心から謝礼を述べているようである。

 オーラの()ることができる彼女の前では、嘘を()くことは難しい。

 ならば奴隷契約から解放したばかりの姉妹に、あえて再び奴隷契約を施す必要は無いだろう。


 ただ、姉に(うなが)されて謝礼を述べたマルガレテは、(みずか)らの意思で本当に感謝しているのかは怪しいな……。

 というか彼女の感情は、少し希薄なのではないかと感じる。

 でも、幼い頃から奴隷として働かされてきたのだとしたら、感情が真っ当に育たなかったという可能性もあるか……。


 そういう時にはスキンシップだな!

 愛情を込めてモフってやれば、心を開いてくれるだろう。

 後で嫌と言うほど、モフってやろうぞ!


「ひうっ!?」


 マルガレテがビクンと身を震わせてこちらを見る。

 何君、エスパーなの?

 

 それにしても、猫神の民……そんなのもいるのか。

 ネコ型獣人の中でも、エリート種族って感じなのかしら?


「その奴隷術式は、ラッジーンが?」


「……はい」


 セポネーテは悔しそうに頷く。


「獣人が獣人を、奴隷にしたって言うの?」


 それが意外なのか、クラリスは眉根を寄せる。

 まあ、ラッジーンの体制に、大義が無いと感じるわな。

 そしてそんな奴の所為で、国や両親を奪われたとなれば、彼女もやりきれない想いだろう。


「そもそも、何故(なぜ)奴隷にされたのです?」


「それは……」


 レイチェルの問いを受けて、セポネーテは語り始めた。

 妹のマルガレテは会話がそんなに得意ではないのか、自分からは殆ど口を開かない。


 で、セポネーテの話では、彼女達は元々クバート帝国という、このローラント王国の西にある国の山の中で生活していた一族らしい。

 そんな彼女達の一族は、通常のネコ型獣人よりも能力が高く、かつ少数の民族なのだとか。

 しかしそれが故に、人身売買組織にとっては希少な商品として高額で売れる存在だと、目をつけられた。


 組織による大規模な襲撃を受けて捕らえられた彼女達は、バラバラに各地に向けて出荷されることになったが、その輸送過程で姉妹はラッジーンによって解放された。


「……ん? 

 結局ラッジーンは、獣人の奴隷解放運動はしていたのですか?」


 当初はラッジーンも、真っ当に奴隷解放運動をしていたのだろうか?

 それが心変わりをして、解放したはずの獣人達を、奴隷として使役するようになった……?


「はい……。

 私もそう思っていました。

 だから当初は私も、彼の活動に協力していたのです」


 と、セポネーテ。

 しかし軍事国家であり、国営で人身売買を行っていたクバート帝国で、その活動を続けるのは国家反逆に等しい。

 ラッジーンは国賊として、軍隊からも追い立てられるようになった。

 追い詰められた結果、彼は救い出した奴隷と共にローラント王国へ密入国してくるが、それでも放浪生活は厳しいもので、彼らの集団から離脱する者も少なくはなかったという。


「ラッジーンはこのままでは、奴隷解放運動が立ちゆかなくなると考えたのでしょうね。

 だから能力が高く、活動に必要な人材に対して、奴隷契約の術式を施すようになったのです。

 当時は私も彼を信頼していたので、隙を見せた時に……」


 なるほど……。

 理念が歪み、目的を達成する為の組織だったはずなのに、その組織を維持することが目的化していった訳か。

 まあ、どんな組織でもある程度大きくなると、組織内で序列が生まれ、権力が生まれ、体制の維持が主目的になっていくものだ。

 たとえ最初に、どんな崇高な理念があったとしても──。


 むしろ前世の世界では、崇高な理念を掲げて設立された組織ほど、腐りやすかったという印象がある。

 ……宗教とか。

 というか、活動理念が正しいものだからこそ、それを公然と非難することは難しい。

 故にそれを隠れ蓑にして、悪事を働く者が多かったような……。


 少なくとも、そういう不心得者が組織に入り込んでしまうと、元々いた善良な者達は人を疑うことを知らないので、簡単に(そそのか)されて組織を乗っ取られる結果になってしまうのだろう。

 

 ラッジーンが最初から良からぬことを考えていたのか、それとも途中からおかしくなってしまったのか、それは分からない。

 いずれにせよ、獣人の奴隷解放という目的をなんとか達成したものの、最初の理念は既に失われているから、その後がグタグタで国が荒廃する結果になっているのかもしれないねぇ……。


 うん、じゃあ駄目な組織()のトップは、さっさとすげ替えるべきだな。


「これからラッジーンを倒しに行きますが、あなた達も行きますか?」


「……はい。

 お願いします」


 セポネーテは強く頷いた。

 いつも応援ありがとうございます。

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