13 孤児達
お待たせしました。
リチアに連れられて貧民街を進むと、臭気が多少マシになった。
これは悪臭に鼻が慣れただけではなく、汚物や生ゴミ、生物の死体などの処理をちゃんとした結果なのだろう。
つまりこの周辺では、ちゃんとした人間の生活が維持されているはずだ。
ただ、あちこちに瓦礫が散乱して、見た目は荒れ果てた貧民街であることには変わらない。
「どうせなら、もう少し片付ければいいのに……」
「綺麗にしていたら、それだけ目立つだろう?
目立てば、それだけ良くない者も寄ってくる」
なるほど……。
リチアの言い分分かる。
「でも、汚れを放置すると、他の者達も汚すことへの抵抗感が低くなると言いますよ?
荒れた状態を見過ごせば、更に荒れた状態を招くこともあります」
確か割れ窓理論とか言ったかな?
割れた窓を放置しておくと、ここは窓を割っても良い場所なのだという不心得者が出てきて、結果的に地域全体の治安悪化に繋がる……という感じの話だったと思う。
治安や景観を守る為には、軽微な犯罪や汚れでも無視してはいけないという訳だ。
「はは……難しいことを言うねぇ」
リチアは苦笑するが、生きるか死ぬかというほど荒れ果てた王都の状況では、私の言葉は綺麗事に聞こえるのかもしれない。
仮に私の言う通りに実践したとしても、それで状況が確実に好転するとは限らないし、子供達に危険が及ぶリスクを抱えるのも嫌なのだろうな……。
で、周囲は瓦礫が目立つけれど、健在な建物の中には、多くの気配が感じられた。
これは孤児のものかな。
「お~い、お客さんだぞ~」
リチアがそう呼びかけると、建物の影から怖々とこちらの様子を窺うように、小さな子供が顔を出す。
「姉貴が帰ってきたぞ!」
と、その子が背後に呼びかけると、更に複数の顔が出てくる。
そして──、
「おかえりなさーい」
ゾロゾロと子供達が出てきた。
最初は私達の姿に警戒していたようだが、リチアの姿を認めて安心したようだ。
……ん?
大多数は小さい女の子だけど、中には成人していてもおかしくないような年齢の娘もいる。
それと……、
「……男の子もいるのですね」
意外にも男児もいた。
「そりゃあ……小さい子は、保護しないと生きていけないからね」
ロリコンにしては、殊勝な心がけだ。
「でも、大人の男はいないのですね……」
「男と女を一緒に生活させるのは、危ないだろう?
特に思春期の男なんて、いかがわしいことで頭が一杯だろうし……。
ある程度成長した男子は、他にも男だけのグループがあるから、そこに任せているよ」
「確かに……」
そうだな……。
私だって立場が同じならば、リチアと同じことをする。
だが、1番の危険人物の口から聞かされても、説得力を感じないような……。
でも、リチアは子供達から慕われているようだし、しっかり保護しているということは間違い無いのだろう。
ただ、あの変態的な言動が通じるのは、意味が分かっていない幼児だけだろうけれど。
実際、ある程度成長している娘達からは、距離を置かれているようにも見える。
一方──、
「あっ、アリゼお姉ちゃんだ~」
「ただいま~」
アリゼの姿を見つけた子供達が、ワラワラと集まってきた。
こちらは、普通に慕われているようだ。
私から見ても、彼女にはあまり人間的な問題点は無いものなぁ……。
むしろ物凄い母性を感じさせる。
納得の人気だ。
そんなアリゼとは違い、クラリスにはそんなに集まってない。
子供達にとっては、顔見知り程度って感じなのだろう。
まあ、お姫様とスラムの孤児なんて、本来は接点が無いものだし、顔見知りというだけでも希有なことではあるのだろうけれど。
そしてココアや私の存在が珍しいのか、遠巻きに見ている子もいるなぁ……。
なお、シファは現在角を隠しているので、そうでもない。
「おや、獣人の子もいるのですね」
「幼女に、種族は関係ないだろう?」
当然のことであるかのように、リチアは答えた。
ガチだよ、この人……。
ある意味では、見境が無いとも言えるが……。
トカゲっぽい子もいるけど、それでもいいのか……。
他には……、
「む、タヌキ!」
我らがキツネ族とは、永遠のライバルであるタヌキ!
タヌキの獣人がいるぞ!
でも、モフモフでめっちゃ可愛い!
「こんちは。
あなたのお名前はス●ッタですか?
水星から来たの?」
「わ、私はコロロだぽん。
水星ってなんだぽん……?」
コロロか。
名は体を表すだな。
豊かな毛皮の所為で、コロコロと太って見える。
「モフってもいいですか?」
「モフ……?」
困惑するコロロの前に、ココアが割り込む。
『お姉様、可愛がるなら、私にしてください!』
ふむ、コロロをライバル視している訳か。
名前も似ているし、いいライバル関係になるかもしれない。
その後、私はココアに毛繕いをしたけど、気持ちよさそうにしているココアを見て羨ましくなったのか、コロロもモフらせてくれた。
実にケモノハーレムだなぁ。
次はできるだけ明後日に……。