11 アラサーとアラフィフ
私達は、貧民街の方へと足を進めた。
そこは思っていたよりも、荒れていないように見える。
元々荒れていたから、それ以上荒れようが無かったともいえるが、貧民街には貧民街なりの秩序があったからというのもあるのだろう。
一方高級住宅街は、その秩序が崩れたからこそ歯止めが利かなかったのだと思われる。
そこには犯罪者達にとって、奪う物も多かったのだろうしね。
逆に貧民街には、人間くらいしか奪う物は無かったから、被害が抑えられたのかもしれない。
……だからこそクラリスとアリゼは、顔見知りの安否を気にしている。
「人がいないのです……」
先程から私が「幻術」を解いて姿を見せているのは、周囲に人がいないからだ。
健康で旅ができる大人ならば、とっくにこの荒れ果てた王都から逃げ出している。
おそらく最初に、貴族などの富裕層が王都を捨てていなくなった。
すると彼らが購入していた食料や物品などは必要なくなり、結果的にそれを売買していた商人や、製造していた農民や職人も職を失い王都を後にする。
そうなると、いなくなった者達が捨てていた残飯やゴミを生活の糧にしていた最底辺の者達の生活すらもおぼつかなくなってしまい、彼らも王都から離れざるを得なかったという訳だ。
一応現国王派は残っているのだろうけれど、彼らから生じる経済活動は獣人達が独占しているのだろうしなぁ……。
で、旅をするほどの体力が無くて、王都へ残っているであろう小さな子供達を私達は捜しているのだが、周囲には見当たらない。
ただ、索敵をすれば、遠くに複数の気配を感知することができた。
それに近づいていくと、こちらに気付いたような動きをする反応がある。
「1人、こちらへと近づいてきました」
その人物は、索敵で私達の存在に気付いたのだろう。
つまり、それなりの実力者であり、常に外敵への警戒もしているということだ。
「何者だ!」
そう叫びつつ現れたのは、細身ながらも長身で、短い銀髪をした美男子……ではないな。
男装をしているが、間違い無く女性だ。
体臭でなんとなく分かる。
なんだよ、タカ●ヅカか?
オス●ルか?
……そんな彼女の年齢は、アラサーって感じか。
「あ~、私達は……」
私がここにきた目的を、話そうとしたところ──、
「貴様っ、ラッジーンの手の者か!?」
「え?」
女は剣を抜いて、その切っ先をこちらに向けた。
何か勘違いを、しておられる?
「私達は、そのような者ではありませんが……」
「嘘を言うな!!
こんなところに、女子供を連れてくるなんて怪しいだろう!!
奴隷として攫ってきたんじゃないのか!?」
うん?
女はともかく、子供って……。
「……」
みんなの視線がナユタに集まった。
「……子供って、オレのことか!?」
それ以外の誰が?
まあ、レイチェルとクラリスも怪しいが。
シファは胸の差でセーフ。
「それに、そこの赤いキツネは、かつてラッジーンと共に王城を襲った紅蓮の獣!!
お前も、同じような耳や尻尾をしている。
それが証拠だ!!」
女はココアと私を、順番に指さした。
「あっ……う~ん」
どうしよう……。
それは誤解されても仕方がない。
このままでは、話し合いは無理か……?
そう思っていたところ──、
「師匠、ここはオレに任せてくれ!
オレが子供じゃないことを、分からせてやる!!」
ナユタさん、挙手。
なにやらご立腹の様子だ。
長寿であり種族的に背が低いドワーフで、見た目が幼いから仕方がないけど、頻繁に子供と間違えられることにうんざりとしているらしい。
「じゃあ、お願いしましょうか。
無力化させるだけで、いいですからね」
「おう!!」
「お……!?」
戦槌を構えて前に出るナユタの姿を見て、女は動揺した様子を見せる。
「待ってくれ、君のような可愛らしい子が、戦うっていうのかい?」
「可愛いって言うなぁ!
これでもオレは、もうすぐ50になる!!」
「なに……っ!?」
ナユタの言葉に、女は衝撃を受けているようだった。
そしてなにやらブツブツと葛藤している。
それに耳を澄ませてみると──、
「馬鹿な……あんな可愛らしいのに、私よりも年上……!?
いや、それよりも、この私が愛すべき幼女と誤認するなんて……!?」
何故そこで愛!?
なんだか「幼女」とか、不穏な単語も聞こえてくるのですが……。
「だが……確かに、よく見れば違和感が……。
肌の瑞々しさが、微妙に欠けるというか……。
それに気配も、幼気な無邪気さとは少し違う……」
え、それ分かるの?
私には分かんない。
そして女は叫ぶ。
「よくも私を騙したな!?」
「騙してねぇよ!?」
あ~……こいつは、別の意味で危険な奴だわ。
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