10 王都到着
100話達成に、お祝いのコメントをいただきました。本当にありがとうございます。
1ヶ月ほどかかって、私達はようやく王都へ辿り着いた。
その旅の道中、沢山の人々を救ってきたが、中には私達に同行を申し出る者もいたんだよね。
結果的に大規模な反乱軍が形成されるというのも面白いけど、ぶっちゃけ邪魔なのですべて断っている。
大所帯になるとそれだけ食料などが必要になるし、夜に「転移」でクラサンドにも帰れなくなるからね……。
どうしてもという者には、後でハイラント公爵がくると思うので、その一行に合流してはどうか……と伝えておいた。
まあ、それがいつになるのか分からないし、たぶんその頃には王都を奪還しているとは思うけどさ……。
それでもこの国の混乱で人材は流出しているから人手不足だし、実力があれば採用してくれるかもしれない(※不審者として捕まるリスクもあります)。
で、ついに辿り着いた王都だけど、実際にはまだ少し距離がある。
遠目に見ると、巨大な王城を中心にして街が形成されており、更にその外側を高い壁で囲まれていた。
ああ、あの壁の中に、超大型巨人が隠されているんだな。
……それは冗談にしても、王都が繁栄して街が広がれば、あの壁も外側へ増設されるのだろうから、その工事の時に何かを仕込んでおくのもありだな……。
その辺はいずれ、クラリスと話し合うか。
「うわぁ……なんだか、嫌な感じです~」
王都を見て、アリゼがそんなことを言った。
オーラが視えるという彼女には、混迷の中心である王都で生活する人々の──苦境に喘ぐ人々の、負の感情の集合体とでも言えるような物が見えているのだろうか?
まあ、私も似たような感想を、持ってはいるが。
「確かに淀んだ空気のような物を、感じますね……」
まだ数kmは離れているけど、この鼻には嫌な臭いが届いている。
死体とか汚物とかゴミとか……色々な物が混ざり合った臭いだ。
治安がかなり悪化しているのだろうなぁ。
こんなことなら、もっと早く来ればよかったな……と、思うけど、そうなるとここに来るまでの間に助けた人々を、見捨てなければならなくなっただろう。
魔物の駆除もできなかったから、魔物が更に増えて大きな街が襲撃されるような事態も起こり得た。
結局、どちらも助けることができるような、都合の良い手段なんてないのだな……。
いずれにしても、王都はかなり荒れているようだ。
それだけに余裕のある者達が他所の土地へと逃げ出しているのは、これまでの旅でも数多く見てきた。
それでも簡単には捨てられない場所だと、認識している者もいる。
「……ようやく戻ってくることができたわ……!」
と、呟いたクラリスは、真剣な目で王都を見つめていた。
彼女にとって王都は故郷であり、取り戻すべき場所だからねぇ……。
その胸中では、様々な想いが渦巻いていることだろう。
さて、王都への侵入だが、馬鹿正直に正門から入るなんてことは無い。
みんなに「幻術」をかけて姿を隠した上で、上空から壁を越えていく。
ただ、「幻術」だけでは臭いは消せないので、鼻の良い獣人に気付かれる可能性はあるが、荒れ果てた王都は諸々の臭気がこもっているので、なんとか誤魔化せるだろう。
「ここは……貧民街ですか?」
降り立った場所は、そうとしか言えないようなところだった。
周囲の建物はボロボロだし、道にはゴミや汚物が落ちている。
当然、臭いも酷い。
『うう……鼻が痛いよぅ……』
キツネであるココアも、強い臭いで辛そうだ。
私は人型になると、臭覚が人間寄りになるみたいなので多少はマシだが、鼻が良いというのも考え物だなぁ……。
いっそ、王都全体に浄化魔法をかけたい。
できなくもないけど、潜入がバレそうだから、王都を奪還してからだな……。
「ここは貧民街とは、違いますねぇ……。
比較的お金持ちが住んでいた、区画だと思いますよ~。
昔は貧乏人の私なんて、近づけませんでした……」
確かにアリゼの言う通り、建物はボロボロだが、大きな家は多いね。
「でも今は、私が育った貧民街にそっくりです……」
「ええ、懐かしい空気ね」
つまり貧民街が、拡大したってことか。
貴族や豪商達も、地方へ逃げ出しているらしいしなぁ……。
それにしてもアリゼはともかく、クラリスも貧民街がごとき風景を、本当に懐かしそうに見ているのは、王女様としてどうなんなん?
ただ、かつて城から脱出したクラリスは、アリゼに拾われるまでは貧民街を彷徨い、その後も暫くの間、そこでの生活を強いられていたらしい。
だからいい思い出なんて、無いはずなんだけどね……。
それでも庶民の生活を知って、価値観を大きく変えられたという経験は、彼女にとっては小さくないのだろうし、その切っ掛けとなった場所にも思い入れはあるのかもしれない。
「それでは、早速王城に乗り込みますか?」
私はそう提案してみたが、
「……あの~。
できれば昔の知り合いがどうしているのか、様子を見に行きたいです~」
「……そうね」
クラリスとアリゼには、気になる人物がいるようだ。
彼女らによると、クラリスは現国王の手によって命を狙われていたので、いつまでも貧民街に隠れ住むことは難しく、それ故にアリゼが王都の外へ連れ出したらしい。
しかし本当なら、一緒に連れていきたい者達もいたという。
それはアリゼと共に育った、孤児達だ。
ただ、危険な逃避行に小さい子は耐えられないと判断して、置いてきたのだとか。
貧民街の孤児は逞しく、アリゼがいなくてもお互いに協力して生きていけるだろうから……と。
ただ、王都の状況が思っていたよりも悪かった為、心配になったそうだ。
「分かりました。
行ってみましょう。
必要なら、炊き出しもします」
「ありがとうございます~」
そんな訳で、貧民街へ向かうことになった。
もう、高級住宅街との境目も、分からない状態だけどね……。
次回はなるべく明後日に。