表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/216

10 王都到着

 100話達成に、お祝いのコメントをいただきました。本当にありがとうございます。

 1ヶ月ほどかかって、私達はようやく王都へ辿り着いた。


 その旅の道中、沢山の人々を救ってきたが、中には私達に同行を申し出る者もいたんだよね。

 結果的に大規模な反乱軍が形成されるというのも面白いけど、ぶっちゃけ邪魔なのですべて断っている。

 大所帯になるとそれだけ食料などが必要になるし、夜に「転移」でクラサンドにも帰れなくなるからね……。


 どうしてもという者には、後でハイラント公爵がくると思うので、その一行に合流してはどうか……と伝えておいた。

 まあ、それがいつになるのか分からないし、たぶんその頃には王都を奪還しているとは思うけどさ……。

 それでもこの国の混乱で人材は流出しているから人手不足だし、実力があれば採用してくれるかもしれない(※不審者として捕まるリスクもあります)。


 で、ついに辿り着いた王都だけど、実際にはまだ少し距離がある。

 遠目に見ると、巨大な王城を中心にして街が形成されており、更にその外側を高い壁で囲まれていた。

 

 ああ、あの壁の中に、超大型巨人が隠されているんだな。

 ……それは冗談にしても、王都が繁栄して街が広がれば、あの壁も外側へ増設されるのだろうから、その工事の時に何かを仕込んでおくのもありだな……。

 その辺はいずれ、クラリスと話し合うか。


「うわぁ……なんだか、嫌な感じです~」


 王都を見て、アリゼがそんなことを言った。

 オーラが()えるという彼女には、混迷の中心である王都で生活する人々の──苦境に(あえ)ぐ人々の、負の感情の集合体とでも言えるような物が見えているのだろうか?


 まあ、私も似たような感想を、持ってはいるが。


「確かに(よど)んだ空気のような物を、感じますね……」


 まだ数kmは離れているけど、この鼻には嫌な臭いが届いている。

 死体とか汚物とかゴミとか……色々な物が混ざり合った臭いだ。

 治安がかなり悪化しているのだろうなぁ。


 こんなことなら、もっと早く来ればよかったな……と、思うけど、そうなるとここに来るまでの間に助けた人々を、見捨てなければならなくなっただろう。

 魔物の駆除もできなかったから、魔物が更に増えて大きな街が襲撃されるような事態も起こり得た。

 結局、どちらも助けることができるような、都合の良い手段なんてないのだな……。


 いずれにしても、王都はかなり荒れているようだ。

 それだけに余裕のある者達が他所(よそ)の土地へと逃げ出しているのは、これまでの旅でも数多く見てきた。

 それでも簡単には捨てられない場所だと、認識している者もいる。


「……ようやく戻ってくることができたわ……!」


 と、呟いたクラリスは、真剣な目で王都を見つめていた。

 彼女にとって王都は故郷であり、取り戻すべき場所だからねぇ……。

 その胸中では、様々な想いが渦巻いていることだろう。


 さて、王都への侵入だが、馬鹿正直に正門から入るなんてことは無い。

 みんなに「幻術」をかけて姿を隠した上で、上空から壁を越えていく。


 ただ、「幻術」だけでは臭いは消せないので、鼻の良い獣人に気付かれる可能性はあるが、荒れ果てた王都は諸々の臭気がこもっているので、なんとか誤魔化せるだろう。


「ここは……貧民街(スラム)ですか?」


 降り立った場所は、そうとしか言えないようなところだった。

 周囲の建物はボロボロだし、道にはゴミや汚物が落ちている。

 当然、臭いも酷い。


『うう……鼻が痛いよぅ……』


 キツネであるココアも、強い臭いで(つら)そうだ。

 私は人型になると、臭覚が人間寄りになるみたいなので多少はマシだが、鼻が良いというのも考え物だなぁ……。

 いっそ、王都全体に浄化魔法をかけたい。

 できなくもないけど、潜入がバレそうだから、王都を奪還してからだな……。


「ここは貧民街とは、違いますねぇ……。

 比較的お金持ちが住んでいた、区画だと思いますよ~。

 昔は貧乏人の私なんて、近づけませんでした……」


 確かにアリゼの言う通り、建物はボロボロだが、大きな家は多いね。


「でも今は、私が育った貧民街にそっくりです……」


「ええ、懐かしい空気ね」


 つまり貧民街が、拡大したってことか。

 貴族や豪商達も、地方へ逃げ出しているらしいしなぁ……。

 それにしてもアリゼはともかく、クラリスも貧民街がごとき風景を、本当に懐かしそうに見ているのは、王女様としてどうなんなん?

 

 ただ、かつて城から脱出したクラリスは、アリゼに拾われるまでは貧民街を彷徨(さまよ)い、その後も暫くの間、そこでの生活を()いられていたらしい。

 だからいい思い出なんて、無いはずなんだけどね……。

 それでも庶民の生活を知って、価値観を大きく変えられたという経験は、彼女にとっては小さくないのだろうし、その切っ掛けとなった場所にも思い入れはあるのかもしれない。


「それでは、早速王城に乗り込みますか?」


 私はそう提案してみたが、


「……あの~。

 できれば昔の知り合いがどうしているのか、様子を見に行きたいです~」


「……そうね」


 クラリスとアリゼには、気になる人物がいるようだ。

 彼女らによると、クラリスは現国王の手によって命を狙われていたので、いつまでも貧民街に隠れ住むことは難しく、それ(ゆえ)にアリゼが王都の外へ連れ出したらしい。

 しかし本当なら、一緒に連れていきたい者達もいたという。

 

 それはアリゼと共に育った、孤児達だ。

 ただ、危険な逃避行に小さい子は耐えられないと判断して、置いてきたのだとか。

 貧民街の孤児は(たくま)しく、アリゼがいなくてもお互いに協力して生きていけるだろうから……と。


 ただ、王都の状況が思っていたよりも悪かった為、心配になったそうだ。


「分かりました。

 行ってみましょう。

 必要なら、炊き出しもします」


「ありがとうございます~」

 

 そんな訳で、貧民街へ向かうことになった。

 もう、高級住宅街との境目も、分からない状態だけどね……。

 次回はなるべく明後日に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クライマックスを楽しみにしています
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ