9 駆除作業
翌朝、王都へ向けて村を出発した私達だが、その旅路は順調と言えず、少し煩わしい状況になっていた。
私達は夜だけ「転移魔法」でクラサンドの家に戻り、そこに泊まってから翌朝には元の道へ戻って再び王都を目指す……ということを繰り返した。
その為に、ダリーがクラサンドの家に常駐して、私達の食事の支度などをしてている。
吸血鬼となった今の彼ならば、賊に誘拐されるなんてことも無いだろうし、留守番としても適役だ。
昼間に動けないのは、ちょっと不便だろうけどね……。
で、今日も「転移」で元の道に戻ってきたのだが、すぐに「索敵」に反応が現れる。
最近は盗賊の襲撃も多いが、魔物の襲撃もかなり多い。
「なんでこんなに多いんです?」
レイチェルの疑問は、実にもっともだ。
今は人里離れた街道を通っているとはいえ、魔物の数が多すぎる。
「私達が王都を出た時は、こんなんじゃなかったんですけどね~」
アリゼも首を傾げる。
実際、その時にこんなに魔物が多かったら、彼女とクラリスはクラサンドへ辿り着けなかっただろうな……。
「たぶん、騎士団がまともに動いていない所為で、魔物の駆除がされていないんじゃないかなぁ。
盗賊が増えているのと、同じ理屈」
そんなキエルの予想は、たぶん正しい。
ただ、それが分かったところで、何も解決にはならないが……。
今後も旅人や町村が襲われているところに遭遇して、それを助ける機会が増えそうだ……。
それはクラリスやシファの名声を得る為には好都合だけど、旅のペースは予想よりも落ちるだろうねぇ……。
で、魔物の襲撃なら、普段はクラリスやシファ達に戦わせて、レベルアップに活かすところなのだが、今日はココアがこんなことを言い出した。
『お姉様お姉様!
あたし、お姉様の実力がみたいです!』
ふむ……そういえばココアと最初に会った時以来、彼女の前で戦ったことは無かったかな?
まあ、「転移魔法」やらなにやらで私の凄さは伝わっていると思うが、それでも姉のことをできるだけ知りたいという気持ちも分かるし、私も妹に良いところを見せたい。
私はもうレベルアップの必要は無いから戦わなくてもいいけど、たまには手本を見せた方がいいかもしれないな。
「よろしい、見せてあげましょう!」
『わぁぁーい!』
ココアはピョンピョンと跳ね回ってはしゃぐ。
なにこのカワイスギ●ライシス。
あとで超モフろう。
そんな彼女に、
「ふふん、実際に見たら、ドン引くわよ?」
と、経験者であるクラリスはどや顔で言った。
何故、君が偉そうなんだ……?
でも、最初はココアを警戒していた彼女も、馴染んでくれたようで良かった。
まあ、城を襲ったという姉さんらしき存在のことがあるから、今後も良好な関係を維持できるのかは分からないけど、できれば末永く仲良くしてもらいたいものだ。
「じゃあ、いきますよ!
『炎陣!!」
私の掛け声とともに、地面に円形の魔法陣が書き出された。
書くとは言っても、実際に地面に書いている訳ではなく、魔法の光で投影している感じだ。
直径は10mくらいかな。
もっと大きくできるけど、今はこれでいい。
「みなさん、これに入らないでくださいね。
死ぬので」
『「死!?」』
で、魔物が接近するまで待つ。
暫くすると、魔物達は私達の姿を認めて、突っ込んできた。
そして魔法陣に足を踏み入れた瞬間───、
「ギャッ!!」
「ギャウンっ!?」
魔法陣から数cm程度の炎の弾が撃ち出され、魔物達を下から撃ち抜いた。
銃弾みたいな威力があるから、普通の魔物なら一撃で致命傷だ。
「え……何……!?」
バタバタと倒れる魔物達を見て、みんなは困惑する。
「設置型の魔法トラップというか……。
周囲になるべく被害を出さないように、侵入してきた物だけを自動で迎撃するように術式を設定しました。
ちなみに、この魔法陣は自由に動かせます」
倒れる仲間達をみて、魔法陣に入らなかった魔物へ向けて、私は地面の上を滑らせるように魔法陣を移動させた。
勿論移動させずに、単純に魔法陣のサイズを大きくするだけでもいけるけど、それだとうっかり味方を巻き込みかねないので、それは使わない。
どのみち、魔法陣の移動スピードは速いので、魔物達が逃げ切ることは難しいだろう。
そんな感じで、魔物達は程なくして全滅した。
「……と、魔法陣は自分自身を中心に展開させることもできるので、ただ立っているだけで襲撃してきた者を全滅させることも可能ですね。
弓矢などの飛び道具や、上空からの襲撃に対しても自動で反応するので、防御としても完璧です」
『お姉ちゃん、凄い~!!』
「師匠凄ぇ~!!」
ココアとナユタは無邪気に感心してくれたが、
『血も涙も無い、大量破壊兵器ぶりに、ドン引きじゃよ……』
「戦いというか、作業ですらないのです……」
他の者達からは、なにやら不評だった。
やはり何事も、効率を求めすぎるのはいかんな……。
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