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第九話  出口を探して

   第九話  出口を探して

    

 アレンたちはアメリアとともに部屋を出た。彼らはしばしの休息の後、再び迷路に入り込むのだ。

 アメリアを見れば腰に剣を携えている。先ほどアレンの行動を止めた剣だ。彼女のような王女が何故剣を持っているのだろうか。やはり護身用だろうか。

「行くわよ。付いてきて。」

 アメリアを先頭に城内を移動する。右へ左へと何度も曲がる道順は、アレンの脳をあざ笑う。

「さっき執事と話したんだけど。城内のエレベーターが止まっているらしいの。階段を使うしかないわね。」

 アレンは先ほど居た部屋へ戻る道を見失い、ただアメリアの示す道を辿るだけとなった。ニーナを見れば、角を曲がるときに別の道を確認するぐらいでアメリアの後をしっかり追っている。階段を何階か上ると迷路に入り、迷路を抜けるとまた階段を何階か上る。

「止まって。」

 アメリアは通路の途中で立ち止まる。両側いっぱいに広げた腕に遮られるようにアレンたちも立ち止まる。目の前はただの通路。何があるというのだろうか。

「私が良いって言うまで動かないで。」

 アメリアは歩き出すとある位置で足を引っ込める。直後、アメリアの目の前に壁が現れた。両側から壁がせり出してきたのだ。

「おいおい。なんだよこれ。」

 これではまるでトラップである。ゆっくり歩いていたら挟まれていただろう。それにしてもこんなものが通路の途中にあるなんて考えていなかった。この城で生活している人は大丈夫なのだろうか。

「城の中にはこういう仕掛けがいっぱいあるわ。城内の人間は仕掛けのある場所には近づかないから大丈夫なの。」

 つまり、この道は普段城内の者が使わないらしい。アメリアの話では、ここを通れば他の道を通るよりも早く上の階にいけるそうだ。

 数秒の後、壁は左右に分かれて両側の壁の中に収納された。

「私が先に向こう側に行くから見といて。」

 アメリアは少し後退すると、勢いをつけてジャンプした。着地するとすぐに背後に居るアレンたちを見る。壁はせり出してこない。仕掛けがある場所の床を踏まなければ大丈夫そうだ。

「私がジャンプしたところで同じようにジャンプして。」

 ニーナが先に跳ぶ。何事も無くアメリアと合流するニーナ。

 アレンも合流しようと勢い良く跳んだ。少し遅れてアメリアの驚きの声。アレンが着地すると直後背後に大きな振動が発生する。アレンは体勢を崩して床に倒れた。背後を見れば壁が出来上がっている。着地する時にせり出す壁の床部分を踏んでいたらしい。

「危なかったわね。大丈夫。」

 ニーナがアレンに手を差し伸べる。このやさしさがうれしい。アレンはゆっくりと立ち上がった。

「気をつけてよね。一歩間違えば身体が半分に割れてたわよ。」

 アレンはアメリアに反論しようかと思ったが、彼のみ失敗しそうになったため特に何も言えなかった。これならもっと安全な道を行きたい。

「もたもたしていられないわ。行くわよ。」

 三人は再び走り出した。途中城内の人間がうろついていたが、背後を通るとこで見付からずに済んだ。さらに階段を上って上を目指す。

「エレベーターさえ動いていればこんな面倒なことをしなくて済むのに。」

 アメリアは走りながらぶつぶつとつぶやいている。エレベーターが使えるのならすぐにでも使いたい。

 幾つの階段を上り、幾つの角を曲がったのか。そんな事をアレンが考えることもなくなった時、彼の視界が白で塗りつぶされる。

 アレンとニーナはほぼ同時に呻く。アレンは手で視界を遮ろうとする。目が使い物にならなくなるのではないかと思った。

「あなたたちが来たかったのはここでしょ。」

 アレンはアメリアの声に導かれるようにゆっくりと視界を認識しようとする。真っ白い視界が色を帯びてきた。

「ここ、外だわ。外に出られたのよ。」

 アレンはニーナの声で視界がはっきりした。目の前に現れたのは太陽に照らされた町。アレンたちの町だ。事件を起こした雑貨屋もここからは見える。やっと外に出られたのだ。

 アレンはひとりでに笑い出す。これまでの辛い出来事が思い出される。すべて終わったのだ。やっと、終わったのだ。

「けど、ここって出口じゃないみたい。」

 ニーナの一言でアレンは現実に無理やり引き戻される。笑いもぴたりと止まった。何故出口ではないのだ。アレンが周りを見ると、外は見えた。ここは城から突き出た場所。バルコニーと言えば良いだろうか。外であって外では無い場所だ。

「あれ、城の外だからここで良いかなって思ったんだけど。違うの。」

 アメリアは首をかしげて悩んでいる。間違っては居ない。ここも城の外だろう。しかし、ここは城内の外と呼べる場所だ。城外では無い。アレンは力無くその場に座り込む。大きく息を吐いた。傍ではアメリアが慌てている。ニーナを見れば同じように座り込んでいた。二人ともお疲れなのだ。

「けど良かった。また太陽を見ることが出来て。」

 アレンは自然とそんな事を言っていた。城外に出ることは出来ていないが城外を見ることは出来た。アレンはゆっくりと立ち上がり、アメリアを見た。

「ごめんなさい。ここ以外に外に繋がっている場所は知らないの。だって、私も外に出たこと無いから。」

 アレンはアメリアの言葉に驚くが、外が見える場所まで来たのだ。何処かに出口があるはず。それを見つけることが出来るはずだ。

 ニーナが立ち上がる。背伸びをすると胸の形が見えたが見なかったことにした。ニーナがアレンを見ている。それも見なかったことにした。

「出口を探しましょう。外が見られたんだから出口も見付かるわよ。あなたも外に出たいでしょ。」

 ニーナの言葉にアメリアは頷いている。三人とも立ち上がり、再び動き出す準備を始めていた。

 アメリアはバルコニーから下を見下ろす。何かを確認するとそのまま城の中へ入っていく。

「付いてきて。今度は下るわよ。」

 アレンたちは今来た道を戻って五階ほど下りる。この五階は先ほどアメリアがバルコニーから目視で確認したものだ。この階の前後に出口があると考えて探したほうが良いだろう。

「あとちょっとよね。あとちょっとで外よね。」

 ニーナはうれしそうだ。目の前に出口が見えたら迷わず出て行きそうだ。

「出口、無いわね。」

 アメリアの言う通り、彼女が目星をつけた階前後を探しても出口らしいところは見当たらなかった。他の階を探そうかと移動を開始したとき、角から兵士が現れた。

「あ、アメリア様。なんだお前たちは。」

 兵士の視線はアメリアからアレンたちに移動していた。。見付かってはいけない人間に見付かってしまったようだ。考えてみたら王女を連れまわしているのだ。その気が無くても傍から見ればそうなる。このまま捉まれば城を出ようにも出られなくなるのではないか。そんな一抹の不安がアレンの中を巡った。

 気が付けば、アレンはアメリアの手を掴んで走り出していた。背後からニーナの声。振り返ればニーナがアレンたちを追いかけてきている。それを追う兵士。兵士は仲間を呼ぼうと大声を張り上げている。さてどうしたものか。

「掴まないで。」

 アレンはアメリアに掴んだ手を払われる。怒ったのかアレンの前を走り出した。アレンはショックだったが、この際気にしていられるほど暇では無い。

 アメリアを先頭に三人は何度も角を曲がり、階段をいくつか下りた。走る距離が長くなるに連れて兵士がアレンたちから離れていく。どうにか撒くまで走り続けないといけない。さらに走った。アメリアが背後をちらっと見る。

「あそこ、あそこの部屋が良いわ。」

 アメリアは通路先に見える部屋を指差した。彼女は近づくと扉を開けようとした。そこへ、アレンとニーナが扉に体当たりするように向かっていく。アレンが扉に到達する寸前で開いたため、アメリアを巻き込んで部屋になだれ込んだ。

 三人が部屋に入ると、扉が閉まる音がした。

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