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第八話  王女と迷路

   第八話  王女と迷路

    

 アレンたちは通路に座り込んでいた。アレンもニーナも朝から何も食べていない。いや、今が何時なのかさえ分からない。体力も限界に近いと思った。

 アレンが見上げた天井には人工的な淡い光。視界までぼやけそうだ。歩き回ったためか眠くなってきた。

「この城のどこをどうやって進めば良いのよ。まるで迷路よ。」

 アレンの耳がニーナの声を拾う。そうだ、この城は迷路だ。出口の見えない果てしなく広大な迷路。見つけた階段はみんな一階分しか上れない。迷路を抜けても再び迷路の中に放り出されるのだ。動く気が無くなる。それでも行かないといけないんだ。

 アレンはゆっくりと立ち上がると背伸びをした。

「行こう。上を目指さないと。」

 アレンは歩き出すが、ふと振り返る。ニーナは立ち上がっていたが、付いてこない。

「どうやってこの城から出るのよ。こんなの無茶よ。」

 ニーナはしゃがみこみ両手で顔を覆う。

「最初から私たちはこの城で終わる運命なのよ。そうなのよ。」

 耐え切れず泣き出すニーナ。アレンは彼女に近づき、手を差し伸べる。

「まだ諦めちゃ駄目だ。行くところまで行ってみようよ。」

 アレンはニーナの手を掴んで立たせると、そのまま彼女を引っ張った。彼女は泣きながら抵抗無く引っ張られるままについてくる。

「こんなところで諦めたらジェフに悪い。行くところまでいってからじゃないと駄目だ。」

 アレンは誰に言うでもなくつぶやく。アレンたちはみんな罪を犯した者たちだ。アレンだけは罠にはめられたと言ったほうが正しいかもしれない。なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。ふと、ニーナの手を掴んでいるほうの腕が引っ張られる。ニーナが引っ張っているのだ。進行方向とは真逆のためアレンはのけぞる。

「階段。上に続いているわ。素通りするわけないわよね。」

 気が付けば目の前に階段があった。アレンはニーナの手を掴んだまま階段を上っていく。階段を上りきった先はこれまでの階とはつくりが違うように思えた。振り返れば上ってきた階段はさらに上へ続いている。アレンがそのまま階段を上ろうとしたとき、目の前に一本の剣が現れた。アレンは反射的に飛び退くが、剣の先は彼に向いたままだ。

「あんたたち誰。」

 アレンが声の主はドレスを来た少女。ニーナよりも若い。いや、若いという点は良いとして彼女は誰だ。

「あなた、誰。城の人。」

 ニーナはアレンの手を離すと名も知らない少女に近づく。のろのろと近づくニーナに名前も知らない少女は引いている。

「仕方ないわね。そうよ、私はアメリア。この国の王女よ。あなたたち下層から来たみたいだけど。まさかゲームの挑戦者なの。」

「そうだよ。僕はアレン。彼女はニーナ。下層から来たって言ってるけど。下層って、何。」

 アメリアは交互にアレンとニーナを見ている。大きく息を吐くと何か納得したようだ。

「アレンとニーナね。下層っていうのはこの城の下から二番目の層のこと。ちなみに一番下が最下層。下層の上が中層、上層と最上層って続くわ。ちなみにここは中層。」

 アメリアの話ではこの城は相当大きいらしい。多分最下層は牢から城らしいところに出るまでの場所だろう。人らしい人が居る場所は下層かららしい。

「それよりも何か食べたいわ。ねえ、何か食べ物無いの。このままじゃ本当に死ぬわ。」

 アメリアは近づいてくるニーナから逃れようと後退する。既に死にそうな雰囲気のニーナが言うとやはり説得力がある。

 アレンはニーナの発言が間違っていないと思ったのでアメリアに向かって大きく何度も頷いた。何か食べたい、なにかたべたい。

「そうね。ゲームがどうなろうと私には関係ないけど、空腹で死なれるのはまずいわ。苦しんで死んだ姿なんて見たくないもの。それに……。」

 アメリアは剣をしまうと周りを見回す。何か気にしているようだ。釣られてアレンも周りを見た。見ても特に何も無い。人も見当たらない。

「誰かに見付かるのはもっと面倒だわ。早くここを離れなきゃ。こっちに来て。」

 アレン、ニーナはアメリアの後を追って移動を始めた。これは「誰も邪魔はしない」という事に反する気がしたが、こちらからも頼んでいるので気にしないことにした。

 通されたのは小さな部屋。部屋の端にベッドがある。誰かの部屋だろう。アメリアの部屋だろうか。彼女はテーブルの上に置かれた本を別の場所に移動している。軽くテーブルも拭いた。

「椅子に座ってて。それと、他の人がこの部屋に入ってこないように鍵閉めていくから誰か来ても反応しないでね。」

 アレンとニーナが椅子に座ったことを確認すると足早に部屋を出て行った。扉を閉めると鍵がかかる音がする。

「まさか、閉じ込められたわけじゃないよね。」

 アレンは椅子から立ち上がり、扉を確認する。小さなつまみがあった。回すと鍵が開いた。もう一度鍵をかけてニーナの元に戻る。

「出られる事は出られるらしい。だけど、ここから出てもどうしようもない。彼女が戻ってくるのを待とう。」

 アレンは暇なので部屋の中を見渡した。アメリアが部屋を出るときに鍵をかけていったので彼女の部屋なのだろう。

 その時、扉を叩く音が聞こえた。誰かが来た。

「アメリアさま。いらっしゃらないのですか。」

 アメリアを知る人物のようだ。声から男だとわかる。アレンとニーナは黙ってじっとした。

「どうしたのエドガー。」

 扉の外からアメリアの声が聞こえてくる。男はエドガーという名前らしい。

「お食事の用意が整いましたのでお連れしようと思ったのですが。」

「見れば分かるでしょ。今日は部屋で食べるわ。容器と入れ物はきちんと返すから大丈夫よ。ゲームが終わるまで食事は自分でもらいに行くからあなたは呼びに来なくていいわ。」

「しかし、……。」

 エドガーの声から戸惑っている事がわかる。

「戻って、あなたがここまで来る間に挑戦者にあったらどうするの。そっちのほうが面倒だわ。いいから戻りなさい。」

 アメリアの声から、エドガーは無理やり追い返されているようだ。エドガーはアメリアに何か告げると部屋を離れていった。何を告げたかはアレンの位置からは聞き取れなかった。

 扉は開かれ、アメリアが部屋に入ってくる。手には取っ手の付いた大きめの木箱とビン。透明なビンの中にはなにやら液体が入っている。

 アメリアは二つをテーブルの上に置く。突如木箱に付いた取っ手部分が飛び出し、箱が解体していく。

「うお、なんだこれ。」

 アレンは突然のことにその場から離れようとするが、椅子ごと倒れてしまう。ニーナを見れば器用にテーブルから離れていた。案外落ち着いているのかもしれない。

「はい。ご飯よ。」

 アレンはテーブルを掴んで箱の中を見る。中には野菜をパンで挟んだものと丸い肉の塊があった。見ているだけでよだれが出てくる。

「はいはい。食べたいだけ食べなさい。」

 アメリアはアレンとニーナの前にグラスを置いて、ビンの中の液体を注いだ。

 アレンは準備された食事を目の前にガマンすることは出来ず、さっそく頂いた。空腹を満たすように食べ物を胃に収めていく。

 気が付けばアレンもニーナも椅子にもたれかかり、何処か遠くをぼんやりと見ていた。

「満足したみたいね。」

 アレンが姿勢を正せば、アメリアは箱の中に残った食べ物を食べはじめていた。二人がお腹いっぱい食べたにもかかわらずまだ箱の中に残っているのだ。

「で、あんたたちの罪は何。殺人、それとも泥棒。」

 アレンとニーナはどちらも泥棒と応えた。

事実だから仕方が無い。しかし、アレンについては良い機会なので何故掴まったかの話をした。

「ちょっと待って。それじゃあ、あなたは無実の罪でこのゲームに参加したの。」

 アメリアは驚いている。当たり前だ。罪を犯していない人間がゲームに参加しているのだから。

「無実の罪でゲームに参加か。これならおとなしく刑務所に居たほうが安全だったかもね。」

 ニーナはグラスに入った液体を飲む。アレンも一口飲んだ。アメリアが持ってきた液体は良く分からないものだったが、甘くておいしい。

「あなたそれで良いの。罪を犯していないのよ。このゲームに参加する必要なんてなかったのよ。」

 アメリアは立ち上がりアレンの前に立つ。

「あんたたちの最終目標は何。」

 アメリアの迫力に押される。アレンより年下だと思われるのに何故だろう。

「城の外へ出ること。それがこのゲームの終り。」

 ニーナがつぶやく。アメリアは目をつむり、ニーナを見た。

「いいわ。外へ連れて行ってあげる。ただし。」

 アメリアはテーブルに手を付いて二人の顔を交互に見た。

「この城から出たからといって罪が無くなるなんて思わないことね。」

 アメリアはテーブルを離れるとベッドに寝転がった。

 アメリアはアレンが無実の罪だと信じているようで、実はそうでは無いのかもしれない。

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