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第六話  扉の先

   第六話  扉の先

    

 アレンたちは光で照らされた広く何も無い場所に到達した。力尽きて床に転がるアレンたち。息が荒く、自然と身体を広げていく。

 アレンが起き上がり周りを見れば次の部屋へ通じていると思われる扉。下を見れば階段状になった壁と巨大な機械の塊。今も歯車は回っている。必死になっていたためか何時の間にか機械の中を通ってここまで来てしまった。

「なんなのよ、この城は。まともな場所は無いの。城ってこういうものなの。」

 ニーナが起き上がる。乱れた髪を片手で整えている。続いてジェフも起き上がった。

「話に聞いただけだが、明らかにこんなところは城内じゃないだろ。」

「城内だけどね。」

 アレンは扉を見た。あの扉の先に、また何かあるのだろう。そろそろこんな場所は止めて城らしい所に入りたいところだ。アレンは再び横になる。空腹だがどう仕様も無い。彼は目をつむり、再び動き出せる程度の体力を回復しようとした。

「おい、そろそろ起きろ。」

 アレンは反射的に起き上がる。見上げればぼやけた世界にジェフとニーナが立っていた。いつの間にか眠っていたようだ。

「済まない。すぐに行くよ。」

 アレンは立ち上がり扉へ向かって歩き出す。手をかけた扉はすんなりと開き、アレンたちを次の部屋へと導く。

 アレンたちが通された部屋は三つの扉がある部屋。アレンは扉に近づいてよく見てみた。扉には左から順に『force』、『skill』と『knowledge』と書かれている。背後で扉が閉まる音が聞こえる。

三人全員が部屋に入ったのだ。すると、どこからとも無く声が聞こえてくる。

「よくここまで来たね。まずはおめでとう。さて、君たちの目の前に三つの扉がある。その先にはそれぞれの試練が待っている。扉の選択はお前たちに任せる。三人が別々の扉を選んだ時、扉は開くだろう。」

 声が聞こえなくなったとき、『force』の扉の先から唸り声が聞こえてきた。アレンは扉から離れる。

「この先に何があるっていうんだよ。」

 アレンはジェフやニーナの位置まで後退する。これまでとは明らかに違う生物の気配。

「まずはどれを選ぶかだな。必ず三つのうち一つは選ばないと先に進めない。」

 ジェフが二人の前に出る。三つの扉が目の前にある。

「選ぶったってどうやって選ぶんだよ。嫌だからな。俺は『force』だけは嫌だからな。」

 アレンは恐れている。『force』の扉の先に居る得体の知れないものに。

「じゃあ、私は『knowledge』にする。『force』とか自信無いから。『force』と『skill』は男二人に任せるわ。」

 ニーナはアレンと違って冷静に扉を選ぶ。ニーナが『knowledge』を選んだ事についてアレンとジェフは特に何も言わない。ここでアレンが『knowledge』が良いと言い出したら冷たい視線が彼に集中するだろう。力が関係しそうなものは男担当と言うことだ。

「じゃあ、残り『force』と『skill』だが……。」

 アレンとジェフの視線が合う。アレンは『force』だけは嫌だと目で訴える。アレンがジェフをじっと見ているとジェフの顔が歪んできた。

「じゃ、じゃあ俺が『force』だな。泥棒に『force』は無理だろ。」

 ジェフはアレンから視線を逸らすと『force』と書かれた扉の前に立つ。アレンはほっとしつつも、ジェフに強制させたようで悪いことをしたと思った。アレンとニーナも選択した扉の前に立つ。

 軽い金属音の後、目の前の扉はゆっくりと開かれた。

 アレンは部屋の中に入る。部屋の光とともに部屋中に無数のろうそくがあり、それぞれが赤い炎を揺らせて辺りを明るくしている。ろうそくで囲まれた中央に居るのは布で覆われた人らしきもの。その背後に扉が一つ。アレンが扉から離れると勝手に扉は締り、再び金属音が鳴った。嫌な予感がする。

「ようこそ、『skill』の部屋へ。私はジュダ。」

 ジュダは布を払い、姿を現す。その姿は背の低い初老の男。白髪も少々見える。

「ちょっと待て。誰も邪魔はしないし危害も加えないって参加する前に言われたぞ。これはどういう事だ。」

 ジュダは肩を揺らしながら笑う。そんなにアレンの言ったことがおかしいのだろうか。

「その言葉はまだ通用されない。この部屋を出た先から適用されるのさ。」

 この部屋までとこの先とで何かが違うのだろうか。アレンはふとそう思っていると、ジュダが何かを探していることに気が付く。

 ジュダはポケットから鍵を取り出してアレンに見せた。

「君が入ってきた扉には鍵を掛けた。これが私の背後にある扉を開ける鍵だ。次へ進みたければこの鍵を……。」

 アレンは勢いに任せてジュダに飛びかかる。しかし、あっさりとかわされてアレンは壁にぶつかってしまった。アレンはぶつけた部分をさすりながら立ち上がる。

「落ち着け坊主。話を最後まで聞け。まぁ、この鍵を賭けて勝負しろという事だ。お前の勝ちは私に参ったを言わせること。お前の負けは地面に倒れるか負けを認めた時だ。そうそう、もう一つある。この部屋はお前が入ってきた時点で密閉されている。部屋の中にはろうそく。酸素が吸えるうちに私を参ったと言わせることだな。」

 アレンは構える。早く決着をつけなくては酸素が無くなってしまう。

「小さいおっさんに負けられるかよ。」

 アレンはジュダに殴りかかるもさらりとかわされてしまう。続けて蹴りや拳を加えていくもなかなか当たらない。当たっても防御されるばかりだ。

「もっと頭を使え。この部屋が『skill』であることを忘れていないだろうな。」

 アレンは考える。『skill』、『skill』とは何だ。力だけでは無いもの。『skill』とは力と知識を兼ね備えたもの。この場合の知識とは何なのだろうか。頭で考えていることとは別に体はジュダへ向かって攻撃を仕掛けている。

「これではただの力押しだ。こんなものでは私を倒せないぞ。」

 アレンはムキになってジュダに攻撃を仕掛ける。それらをことごとく防御していく。そして、気がついた。ジュダが一度もアレンを攻撃していないことを。

 アレンは攻撃をやめて立ち止まる。

「どうした。もうお仕舞いか。」

 ジュダはやはり攻撃してこない。攻撃させようとするばかりで攻撃してこないのだ。

「何故攻撃してこない。何故だ。攻撃する気が無いのか。」

 ジュダは突然笑い出す。ジュダの声が部屋に響く。

「気がついたようだな。私は勝負すると言ったが、何で勝負するとは言ってない。君が勝手に攻撃してきたからかわしていただけだ。」

 アレンはジュダの最初の言葉を思い出す。相手に参ったと言わせることで勝負が決まるが、何で勝負するかは言っていない。しかし、一つ気になる事がある。

「地面に倒れたらってなんなんだよ。殴り合いで倒れたら負けってことじゃないのか。」

 ジュダは肩をすくませて笑う。アレンにとっては気分の悪い光景だ。

「君が殴りかかってきたからそれに合わせただけだよ。正直勝負の内容は何だって良いんだ。君の自由なんだよ。」

 アレンとジュダの勝負は自由。そう、最初から自由だったのだ。ただアレンが勝手に殴り合いだと勘違いをして勝手に攻撃を仕掛けていただけなのだ。

「じゃあ、勝負の内容はこっちが決めて良いんだな。」

 ジュダは無言で頷く。先程から息苦しくなってきていた。早く終わらせなくては酸素不足で参ってしまうだろう。どうする、何をして決着をつける。ふと周りを見る。今も酸素を消費しているろうそくの炎。アレンは勝つ方法を頭の中で構築していった。

「決めたよ。ルールは簡単。順番にろうそくの炎を消していくんだ。最後の一本を消したほうが負けを認める。一度に消せるのは三本まで。僕が先に始める。それで、良いね。」

 アレンは一気に言い終えるとジュダを見た。ジュダはじっとアレンを見ていたが、何も言わず頷いた。アレンはそれを確認すると近くのろうそくを三本吹き消した。

 アレンとジュダは交互にろうそくを消していく。この勝負はうまくやれば先手が勝つことが出来る。説明の時に自分が先手で始めると言ったのはそのためだ。先手となったアレンは失敗をしない事だけを考えた。

 ろうそくがさらに消えていく。火が灯っているろうそくが減れば、それだけ消費される酸素も少なくなる。勝負の途中で酸素切れで倒れては困る。倒れても負けだったはずだ。

 アレンは消しながら残りの本数を数える。残り二十本ほど。残り一本を残して相手に順番が回れば勝ちだ。

 アレンは自分の心臓の音が聞こえてきている事に気が付く。焦るな、しっかり考えて消すんだ。

 火が点いているろうそくは残り六本になる。アレンが一本消せば次の相手の番で彼が負けることは無い。その次のアレンの番で決着が付く。ゆっくりとろうそくに近づく。アレンが吹き消そうとした時、

「早くして欲しいんだが、まだかね。」

 アレンは予期せぬジュダの声に二本も消してしまった。彼はしまったと思う。これで次にジュダが三本消してしまえば最後の一本はアレンが消すことになる。それではアレンの負けだ。

 アレンはろうそくから離れながら先程よりも一層息が荒くなっていることに気が付く。心臓がまるで玉のように胸の中で跳ね回っている。頭も痛くなってきている。そろそろ終わらせないと体が持たない。

 ジュダがろうそくに近づく。三本消せばアレンの負けだ。声を上げても多めにろうそくの火を消すだけで意味がない。アレンにはもうなにも出来なかった。ふとアレンがジュダを見ると、彼がアレンに向かって微笑んでいた。その意味が勝利の微笑と捉えたアレンはその場に座り込む。アレンは早く勝負が決まってくれと願う。うつむきその時を待った。

「君の番だ。」

 アレンは顔を上げ、最後のろうそくを見た。しかし、そこには火が灯った二本のろうそくがあった。彼は何も考えず、そのうちの一本を消す。まさか、勝ったのか。

 アレンがろうそくから離れると最後の一本をジュダが消した。ジュダはその足で扉へ向かった。彼も酸素の少なさに参っているのか足取りがおぼつかない。

 ジュダが鍵を使って扉を開け放つ。その瞬間、冷たい空気がアレンを包み込んだ。酸素が再び体の中をめぐりだす。アレンはその場に座り込んだ。

「なんで、なんで二本残したんだ。」

 アレンは扉のそばで座り込んでいるジュダに聞いた。お互い息が荒い。必死に酸素を体に取り込もうとしている。ジュダは何も無い天井を見ている。

「何故だろうな。全くもってよく分からない。酸素のせいで無意識に行動していたのかもしれないな。」

 アレンにはジュダが勝たせてくれたのではないかと思えたが、この際どっちでも良いと思えた。アレンは勝負に勝ったのだ。

「さてと、他の勝負の結果を見に行こうか。」

 アレンはジュダの声で部屋を出る。部屋を出た先には小さな広場があった。奥には上へ続く階段。振り返れば三つの扉。そのうちの二つの扉の先にジェフとニーナが居るはずだ。

 残り二つの扉のうちのひとつがゆっくりと開いた。アレンの部屋から見て右側なので『knowledge』の部屋。つまりニーナが入った部屋だ。その部屋からニーナが出てくる。ニーナは特に見た目に変化は無いがしきりに頭をさすっていた。

「頭痛いわ。これだったら他の部屋のほうが良かったかも。」

 ニーナはアレンに気が付くと驚き駆け寄ってくる。

「アレン大丈夫。顔色悪いわよ。」

 アレンが酸欠で死にそうになったと言うとニーナは「ほら、いっぱい空気吸って。」と言ってくれた。

「『skill』も終わったようですね。」

 アレンは声のするほうを見ると、『knowledge』の部屋から長身の布を被った男がやってきた。こちらの男は布を脱がないらしい。

「私はヒューゴ。あなたがジュダとの勝負に勝った方ですね。おめでとう。」

 ヒューゴはジュダと何やら会話を開始する。その姿を見るアレンの隣にニーナが来た。

「ジェフが来ないわね。まだ『force』は勝負が付いていないのかしら。」

 アレンは『force』の部屋を見る。部屋に入る前に聞いた唸り声を思い出す。まさか、良くないことが起きているのではないか。そんな考えがアレンの頭をよぎる。そんな考えをジュダが悟ったのかどうなのか、ジュダが一人『force』の扉の前に向かって歩き出した。

「ルークのほうがどうなっているか覗いてみよう。」

 ジュダは『force』の扉をそっと開けた。すると、直後ジュダの顔に何かがかかる。慌てて扉を閉めて顔を拭くジュダ。アレンはすぐにジュダの傍に駆け寄る。嫌な予感は当たっていた。ジュダの顔にかかったのは血だ。血が飛散るほどの戦いをしているのか。

「またあいつは武器を使ってるのか。掃除が大変だから素手にしろとあれほど言ったのに。」

 ジュダは服で顔についた血を拭いながらヒューゴのところへ戻っていく。ジュダと交代で今度はニーナが来た。

「どういうこと。ジュダって人の顔に血が付いてたんだけど。」

 目の前に見える『force』と書かれた扉。この先で、一体何が起きているのだろうか。

「ご両人。そこは危険ですからこちらへどうぞ。」

 ニーナはヒューゴとジュダの元へ歩き出す。アレンは扉の前から動けない。やはり気になった。ジェフは無事なのだろうか。アレンは思い切って扉に触れようとする。

「やめろ。触れるな。」

 すぐにジュダが来て扉とアレンの間に入り込む。ジュダは手をいっぱいに広げて行く手を阻んだ。アレンは諦めてニーナのところに向かう。

「これはあなた方各人と私たち各人の勝負なのです。他の方が介入してはいけません。終わるまで待つのです。」

 アレンはヒューゴの言葉に何度か頷く。頭に入ったがすぐに何処かへ消えてしまった。扉の先が気になって仕方が無いのだ。

 四人は固まってじっと『force』の扉が開くのを待った。

 しばらくたって『force』の扉が開く。疲れて座っていたアレンは立ち上がり扉に向かおうとした。しかし、すぐにその足は止まる。出てきたのは知らない大男。全身血だらけだ。この男がルークだろう。ルークはこちらに気が付く。

「なんだ先に終わってたのか。しかも生きてやがる。」

 こちらに向かってくるルークにジュダやヒューゴが説教している。漂ってくる血の匂い。ルーク自身全身血で染まっているのだから仕方が無い。

「ま、まさか。ジェフは。」

 ニーナはアレンの後ろで小さくなっている。部屋からはルークの他は出てこない。良く見ればルークの身体には大量の血を流すほどの傷は見当たらない。悪いことばかりが頭に浮かぶ。アレンは結論を出すために『force』の部屋へ向かった。ゆっくりと扉を開ける。直後漂ってくる生暖かい血の匂い。視界に入ってきたのは血の水溜り。その中心にある物体たち。その物体が何であるかを考えたとき、身体の中から気持ち悪い何かがこみ上げてきた。それをなんとか抑えようと両手で口を押さえる。

「ねえ、ジェフはどうしたの。」

 アレンは無言でニーナを制止する。これはニーナには見せられない。見せちゃ駄目だ。部屋の中には人間だったころの名残を所々に残す物体たちが転がっている。

 ジェフは死んだのだ。原型を留めないほどに変形して。

 ジェフの死体の周りには使用された武器が二つ転がっている。武器は二つとも同じようだ。戦いとしてはフェアだったのかもしれない。

 ふいに強烈な罪悪感がアレンを襲った。『force』をジェフに選ばせたためにこのような結果が起きたのだ。アレンの頭の中が『もしも』で埋め尽くされていく。

 気が付けばアレンはその場に座って泣いていた。ニーナの悲鳴で気が付いたらしい。彼女はアレンが制止したにも関わらず見に来たのだ。

「もう行こう。ここに居ちゃ駄目だ。」

 アレンはニーナを連れて広場の奥にある階段を上り始めた。いつの間にか広場からルーク、ジュダ、ヒューゴの姿は消えていた。自分たちの役目は終わったからさっさと撤収したのだろう。アレンの中にルークを憎む気持ちは起きなかった。憎んでも、もうどうしようもないのだ。

 アレンたちは階段を上った先の扉を開けた。見えてきたのは横に伸びた通路。これまでとは全くつくりが違う。まるで、お城の中だ。

「やっと城内らしいところまで来たわね。」

 アレンはジュダの言葉を思い出す。ジュダはゲーム参加前に聞いた言葉について、『この部屋を出た先から適用される。』と言っていた。つまり、今までは適用されない場所だったと。

 アレンは天井を見上げる。まさか、ここからが城内なのか。

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