第一話 ゲームへの誘い
第一話 ゲームへの誘い
アレンは木陰に座り、空を見た。昼の空は雲ひとつ無いためか、太陽の光を強く感じる。
太陽の当たっているところでは幼い子供たちが笑いながら走り回っている。彼らの足元から舞い上がる土煙。通行人は子供たちを見て顔をしかめる。雨が降っていないためか土が砂のようだ。簡単に舞い上がるために砂よりたちが悪い。
「おいおい。ここに居たのかよ。」
アレンが声のするほうを見れば、悪がき三人組が居た。名前を言うのも面倒な三人だ。
「なんだよ。何か用があるのか。」
悪がき三人はお互い笑うとアレンを見た。
「これから雑貨屋に行くんだが一緒に行かないか。」
「またかよ。なんでお前たちと行くんだよ。」
アレンは意味が分からないためか首を振る。なぜこいつらと行かなければならない。三人は彼の考えが読めているのか笑ってこちらを見ている。
「いいだろ。何か買ってやるからさ。」
何か買ってやるということだ。まぁ、何かくれるならついて行ってみようか。アレンはそう思いながら立ち上がる。
「ふん。どうせなんかあるんだろ。」
アレンは背伸びをする。しばらく座っていたためか背伸びをしないとやっていられない。
「さてと、行くか。」
悪がき三人組は雑貨屋に向かって歩き出す。その後ろをアレンも歩き出した。
太陽に当たる場所に出たためか、身体が熱せられて暑い。空を見上げれば太陽ととも巨大な黒い塊が見えた。
黒い塊。それは、一言で言えばこの国の城だ。見える範囲すべてが黒いし触れられない。表面が熱いからだ。冬になると白い煙を立ち上らせる。この国でもっとも暑苦しい存在だ。なんとかして欲しいが、国王や王女が住んでいるのだからどうしようもない。国王は見たことがあるが、王女は話を聞くだけで見たことがない。一度は見てみたいものだ。
アレンは陽の当たる場所に出たためか体中が暑くなった。皮膚から汗が噴出してくる。汗をかきたくないのになんてことだ。
アレンは顔を流れる汗を拭いながら歩くと、金属音がぶつかり合う音が聴こえた。見れば子供たちが仕掛けで遊んでいるようだ。あぶないからと母親が子供を仕掛けから引き剥がしている。仕掛けはこの国中に存在する。子供が簡単に触れるほどだ。何時から在るのか、何の為にあるのかは今や誰も知らない。お城も何時誰が作ったかわからないらしい。考えてみればこの国は謎だらけなのだ。人々はそれを気にせず生きている。現状を受け入れた上で先を考えているのだろうか。
アレンは三人組と一緒に広場を抜けて、雑貨屋の前に着いた。
「よし、入るぞ。」
三人はそれぞれ入っていく。アレンも続いて入った。雑貨屋の中は外と同じ暑さだ。光が当たらないだけまだ良いかもしれない。店主を見れば鋭い目つきでこちらを見ていた。店主はいつもそうだ。悪がき三人が品物をいじるのを良く思っていない。前回は四人とも適当なものを買って何か作ったが、さて今回も同じような物だろうか。彼は目の前の品物を見ていた。すると、悪がきたちの声が聞こえてくる。何か話しているようだ。少し距離があるためか聞き取れない。すぐに声は聞こえなくなった。彼は再び目の前の品物を見る。
「行けぇ。」
突然聞こえた声。アレンが振り返れば、悪がき三人組は外へ走っていた。手に何か持っている。あれは、店のものだろうか。
「お前ら待て。」
続いて店主が動き出す。どちらも店の外だ。アレンはため息をついた。彼らは万引きを始めたのか。
「もう帰ろう。残念だ。」
アレンはうつむきながら店を出た。すると、目の前に足が見えた。彼はゆっくりと顔を上げる。そこに居たのは店主だった。
「お前。あいつらと一緒に居ただろ。あいつらは店のものを持っていなかった。俺が出て行った店内で、お前が何か盗もうとしたんじゃないのか。あいつらが囮になったんじゃないのか。」
アレンはすぐに首を振り、弁解する。ただ彼らに誘われて来ただけだと。
「それが万引きの誘いじゃないのか。お前だけを店内に残すことでまんまと品物を盗もうとしたんじゃないのか。」
アレンは勝手な言い分だと思った。何も持って居ない。品物は手に取ったがまた置いたのだ。
「ちょっと調べさせてもらうよ。」
店主はアレンの身体検査を始めた。そして、すぐに店主は何かを見つける。店主の反応に彼は何なのかと思った。店主は笑い出す。
「おいおい。やっぱりお前も共犯じゃないか。こいつが尻のポケットに入っていたぜ。」
店主の片手には細長い棒状のもの。耳掻きだと思う。
「そんなの知らない。俺がやったわけじゃない。」
耳掻きなんて何時触れた。触れて居ないぞ。アレンは考えた。まさか、悪がき三人組が仕掛けたのだろうか。いや、それ以外に考えられない。あいつらは、アレンをはめたのだ。
「おとなしく警察に行こうか。」
店主の顔は恐ろしく気持ち悪かった。
アレンが警察に行くと尋問が始まる。彼が悪がき三人組のことを言っても何も変化は無い。彼らは目の前の獲物に食らいつくだけだ。
アレンと警察はやったやっていないで言い争う。彼の発言空しく、店主の言葉や物的証拠から彼は追い詰められていく。暴力も振るわれた。しかし、絶対にやったと言わない。やっていないのだから。
「この書類を明日お偉いさん方が審議する。それであんたの今後が決まるんだ。楽しみにしとけ。」
警察官はなにやら色々書いた書類を机の上でそろえると部屋を出て行った。すぐに二人の警察官が部屋に入ってきてアレンを部屋から引きずり出す。そのまま長い廊下を何度か曲がって一つの部屋に通された。ここは留置所というやつの一室だろう。壁の一部分がくり貫かれて鉄格子が付いている。昼間のためか室内は暑いが、夜になれば寒くなるだろう。彼は明日も元気で居られるか心配になった。
判決は有罪だった。物的証拠が物を言ったということだろう。現場に居た悪がき三人組については特にお咎め無しらしい。全部アレンが罪を被る形になったのだ。怒りを通り越して笑えてくる。これから刑務所らしい。さてと、どうしたらよいのだろうか。
「アレン君。ちょっといいかな。」
考え込むアレンに白髪交じりの男が話しかけてきた。どうみても彼をこれから刑務所に連れて行く人間の一人だ。
「なんだよ。連れて行くならさっさと連れて行ってくれよ。」
アレンは軽くやけになっていた。どう転がっても行くところは決まっているのだ。あとは遅いか早いかだ。
「それなんだがね。君の入れる刑務所がもう国内には無いんだ。だから、代わりに私たちとゲームをしないか。」
アレンは意味がわからないと思いながら男を見た。
「君がこのゲームに勝てば罪は無かったことにする。すぐに自由の身だ。どうだい、やってみないか。」
男が提示したゲームはこの国の城にある地下牢から城外に脱出するというものらしい。通常は何年も牢に入ったままだが、この場合は出てくればそれでおしまいということだ。脱出の間は誰も邪魔はしないし、危害も加えないらしい。
アレンは考えた。長い年月を刑務所の中で過ごすのなら、いっそのことそのゲームに参加してみるのも良いかもしれない。それに、運が良ければ城内なので王女に会えるかもしれない。
「わかった。そのゲームに参加する。」
男は笑顔で頷きながらアレンに近づいてきた。男は立ち止まり、彼の目を見た。
「じゃあ、早速始めようか。」
男は静かに始まりを告げた。
直後、アレンの視界はまっくらになり、意識は遠のいていく。