シュート・スター、シューティング・スター
こんな「流れ星」も、たまにはありですかね(;^_^A
「いってぇっ!」
目の前に星が飛び散った。頭がくらくらする。流れ星がいくつも落ちて消えていく。このままおれも、流れ星になっちまうんじゃ……。
「……た、翔太!」
「うぉっ、びっくりしたぁ!」
耳元でどなり声がしたので、飛びあがってしまった。目の奥がまだチカチカして、流れ星が残っているようだ。ブンブンと頭を振る。だいぶんマシになった。
「大丈夫か? 交代するか?」
「交代……? 大丈夫です、行かせてください!」
交代だって? 冗談じゃない! レギュラーの福本がケガして、ようやく回ってきたチャンスだってのに、ここで交代なんてするはずないだろ! 小学校最後の試合、ずっと控えでベンチに座ってたおれの、最後のチャンスなんだ。それなのに、ディフェンダーにぶつかって交代だなんて、笑い話にもならないぜ!
「……わかった。だが、無理はするなよ」
監督にうなずき、もう一度ブンッと頭を振る。よし、行けるぞ。一点ビハインド、おれが決めたらヒーローだ!
「……くそっ、ぐるぐるパスを回しやがって……」
残り五分、そりゃそうだ。相手はディフェンダー同士でパスを回して、おれはさっきから無様にそれを追っかけてる。まるで、絶対に捕まえられない流れ星を追っているかのような……。
「ん、あれ、なんだ……?」
おれは足を止めた。背中越しに味方のヤジが飛んでくる。でも、おれは動けなかった。いや、動けずにそれを見続けたんだ。
「あれは……」
おれの頭、さっきのショックでおかしくなっちまったのか? だって、フィールドをぐるぐると、すごい勢いで流れ星が飛び交っているんだもん。目がチカチカする。なんなんだ、これは? おれは……。
『シュート・スター』
「えっ?」
『シュート・スター、シューティング・スター』
「なんだ、なんだよ、なんなんだよ!」
頭をブンブン振るが、声は止まらない。チラッと監督の顔が見えた。ベンチになにか指示を出してる。交代だ! おれがおかしくなっちまったと思って、交代させようとしてるんだ!
『シュート・スター、シューティング・スター』
「あぁっ、もう、わかったよ!」
プレーが途切れたら、そこでおれの小学校最後の試合は終わっちまう! それなら、おかしくなっちまっただろうがなんだろうが、関係ない! 要はあの星をシュートすればいいんだろう? おれはがむしゃらに走った。相手ディフェンダーは相変わらずパス回しをしている。あさっての方向へ走り出すおれを、味方のヤジが襲う。構うもんか! どうせおれはおかしくなっちまったんだから!
「うおおおおっ!」
飛び交う流れ星に突進すると、おれのおかしな行動にビビったのか、相手ディフェンダーがボールをけり損ねた。パスミスだ。転々とボールが転がった先は……。
『シュート・スター!』
「いっけぇぇぇっ!」
流れ星とボールが重なり、思い切り足を振り上げる。そして……おれは、盛大に空振りした。そのままズッコケて、ボールはピッチの外へ出た。ピィーッと笛が聞こえる。試合終了だ。おれのサッカー人生が終わった瞬間だった。
「翔太、お前、中学もサッカーを続けるよな?」
試合のあと、ひとしきり泣いたあとに、監督が聞いてきた。答えられないおれに、監督が小声でささやいた。
「最後のお前の動き、あれはすごかったぞ。ディフェンダーのミスを予測していたようなポジショニング、ありゃプロのサッカー選手顔負けの動きだった。……シュートはミスったが、お前には才能がある。そのポジショニングセンスを磨けば……日の丸を背負えるかもしれん」
目を見開いたおれに、監督はグッと親指を立てた。
「中学も続けろ。部活でもいいし、クラブチームでもいい。とにかく続けろ。お前の夢を……一瞬流れる流れ星をつかめ」
あの声が、『シュート・スター、シューティング・スター』というあの声が、もう一度聞こえた気がした。おれはぎゅっと目をつぶり、それからまっすぐに監督を見あげた。
「……続けます、おれ。日の丸を背負えるように、流れ星を追います!」
監督は試合に勝ったときにも見せたことがないくらいの、とびっきりの笑顔で答えてくれた。
――ワールドカップ決勝で、ディフェンダーのこぼれ球を射抜いて決勝点を叩き出す、エースストライカーの第一歩が刻まれた瞬間であった――
冬童話2021に出した作品『ラストパス』に続いて、サッカーものを書いてみました(^^♪
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