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第五話 レッサードラゴニュートの巣

第五話 レッサードラゴニュートの巣


サイド クロノ


 あの後、軽いストレッチをしてから森に入った。

 森に入ってすぐ、『魔力感知』を起動する。やはり、微かにだがラプトル達が通った痕跡がある。

 ほぼ毎日ルートを変えずに来ていたのだろう。空中に魔力が残っている。

 それを追いながら、森の中を進む。

 昨日の夜、眠りに落ちる前にラプトル三体を倒して得たスキルポイントを使っていたのだ。

 奴らの巣を責めるなら、万全を期したい。なんせ魔獣というのがどういう生き物なのかほとんど知らないのだ。

 新しくとったスキルは『気配遮断』。効果は文字通り。奴らに気取られず巣に近づきたかった。

 残りは『魔力循環』と『強化魔法』の熟練度に振った。無暗にスキルを増やすより、普段使っていた物の方が正面切っての戦いでは使いやすい。

 森の中を歩きながら、薬草があったら軽くつまんでいく。一応村長から森で使えそうな物があったら使っていいかと許可を取って置いたのだ。

 そうして魔力を頼りに森を進むこと三十分ほど。小さな山にぶつかり、その周囲を歩いていると洞窟とラプトルを一匹見つけた。

 幸い気づかれていないので、そのまま観察する。

 洞窟の前に一体いるが、その場で動かず時折周囲をキョロキョロと見回している。もしかして、見張りだろうか。

 意識を集中して『魔力感知』を広げていく。あの洞窟の中にも反応がある。数は八。いや、やけに小さい反応が更に四つ?

 なんにせよあそこが巣で間違いないだろう。見張りまでいるとは、あいつら獣のわりに頭いいようだ。

 それから五分ほど観察していたが、あの見張り以外動く気配がない。これは、もしかして眠っているのか?

 ありえる。昨日も襲ってきたのは夜。村人の言葉からも今まで夜に村へ来ていたっぽい。なら、夜行性なのかもしれない。

 ならば、眠っているうちにかたをつけたい。その方が楽で安全だ。

 となれば、いかにあの見張りを音もなく排除するかだ。そして、その後巣の奴らを眠らせたまま始末する。

 幸い、森にあった薬草に眠りを誘発する物があった。嗅げばすぐさま眠りに落ちるというものではないが、眠りを深くするぐらいはできるだろう。

 できるなら致死性のものや麻痺して動かなくなる薬草がよかったが、贅沢は言っていられない。

 ここに来るまでで薬草は十分とったはず。なら行動あるのみ。

 できることなら村で待ち構えて様子を見に来た奴から順に殺していくとかしたいのだが、村の雰囲気的に断念した。我ながら押しに弱い。改善していかなければ。

 ナイフを抜き、『気配遮断』をしながらできるだけ風下から近づく。『危機察知』でギリギリのラインを見極めて止まる。


「『筋力増強』『精密稼働』『鷹の目』」


 バフをかけながら、ナイフを構える。狙うのは見張りをしているラプトル、その眼球。

 唐突だが、スキルにはパッシブとアクティブがある。たとえば『魔力循環』と『危機察知』は前者で『白魔法』と『強化魔法』は後者だ。

 そして、『工作』スキルもパッシブとなる。『木工』や『製鉄』スキルよりも効果範囲が広い分、効果は浅い。

 だが、それでもスキルによる恩恵で手先が器用になっている。

 何が言いたいかと言えば、『強化魔法』によるものだけでなく、『工作』スキルにより更に器用さに磨きがかかっている。

 今の自分は、メジャーリーガーも真っ青なぐらいコントロールがいい。

 五十メートルほど離れた距離から、木々の間を縫ってナイフが飛んでラプトルの眼球を貫き、そのまま脳を破壊する。

 ゆっくりと倒れるラプトルに近づきながら、『魔力感知』で洞窟の中を探る。幸い気づかれた様子はない。

 痙攣するラプトルの死骸をどかす。ここからは時間との勝負だ。見張りの交代時間とかあったら気づかれる。

 そうなったら洞窟の前に陣取って戦うつもりだ。入口の広さからして複数でるのは難しい。一匹ずつ切り殺せる。

 だが安全にやれるならそれに越した事はない。

 その辺の枝を集めてくみ上げ、あらかじめ村長から貰っていた火打石と油の入った小瓶を使って火をつける。

 火打石を使っている時、この音で起きないかちょっと心配になったがセーフだった。

 火が付くと、そこに眠りの薬草を投じる。乾燥させたわけじゃないから燃えるのが遅い。その時出た煙を木の皮と枝で作った団扇もどきであおぐ。

 煙が洞窟の中に入っていく。大抵の洞窟は下に向かって伸びていくので、そのまま薬草の効果で眠ってくれるだろう。

 十分ほどたったが、中のラプトル達に動きはない。薬草も燃え尽きてきたので、火を消して中に入ることにする。

 ラプトルの死骸からナイフを回収し、念のためバフをかける。


「『筋力増強』『精密稼働』『武器強化』『魔力装甲』」


 まだ薬草の匂いが残っているが、『魔力循環』と『状態異常耐性』のおかげでこの程度なら問題ない。

 念のため『気配遮断』を使いながら奥に進む。ほどなくして、眠りこけるラプトル達のところにたどり着いた。

 まあ、人工的に作ったかよほどでかい洞窟でもない限り一本道なので当然ともいえる。

 ナイフを逆手に持ち、もう片方の手でラプトルの口を押えると同時に、瞼の上からナイフを突き刺す。

 それを繰り返すこと八回。全てのラプトルを殺しつくした。

 それにしても最後の一体が一番大きかった。色も茶色一色と違ったので性別が違うのだろう。おそらくメスだ。

 というのも、その一体が守るように眠っていたのが卵なのだ。微弱に感じられた四つの反応はこれだったのだろう。

 わずかにだが罪悪感がうかぶ。

 ナイフの血を拭い、鞘に納めてから十秒だけ手を合わせる。


「南無阿弥陀仏」


 よし、これで感傷は終わりとする。仕方のない事だった。それだけだ。


「それにしても……これはどうしたものか」


 死骸の処理に、卵の扱い。こういった場合どうすればいいのだろう。とりあえず、首を持って帰ればいいのだろうか。


*    *     *


 迷った末、メスの首だけ切り取って村に帰った。


「お、おお。さすがです冒険者様」


 なんか村長がドン引きしていたが、仕方ないだろう。討伐の証明としてこれが一番手っ取り早い。


「それで、巣にいた見張りの個体を含めて九匹を殺したので、その死体を運ぶのを手伝っていただけませんか?」

「も、もちろんですとも。人を送りましょう」

「それと、奥に卵が四つあったのですが」

「卵!?」


 村長が目をクワッと見開いて大声を出す。


「ほ、本当ですか!?」

「え、ええ。その扱いについて相談させて頂こうかと」

「そ、そうですね。卵ですか………」


 村長がやけに卵に反応する。周りの村人も一部反応している奴がいる。いったいなんだというのだ。

 もしかして魔獣の卵は危険物なのか?それとも逆に貴重な物なのか?


「村長は、どうしたらいいと思いますか?」

「え、そ、そうですね……」


 とりあえず話をふって反応を確かめる。昨日のようなミスはしない。


「……やはり、冒険者様のものとするべきかと」

「そうですか?」

「ええ。村の者にも盗まないよう徹底させます」


 この反応は貴重なものそうだ。


「ありがとうございます、村長」

「いえいえ、当然のことです」

「それと、レッサードラゴニュートの死体からはぎ取れたものの扱いについてですが」

「ええ、皮と牙、爪はきちんととってあります」


 へえ、その部位が売れる部分なのか。


「量がけっこうあると思うので、大き目の袋をもらえませんか?お代ははぎ取れたものの一部をおわたしするという事で」

「いや、袋ぐらいそこまでは」

「いえいえ、こういうのはきちんとしませんと。お金の問題は諍いのもとになりますから」


 遠回しに報酬はきちんと払えよと念を押す。村長も伝わったようで、笑顔で頷く。


「では、ありがたく頂戴します。報酬は今おわたししますか?」

「いえ、村をでる直前で大丈夫です」

「わかりました」


 そうして話を終え、ラプトルの巣へと村人たちと向かった。


「まじかよ……」

「すげえ………」


 村の若い衆が一か所にまとめられたラプトルの死体に息をのむ。


「ふっ………」


 とりあえず舐められないように『私は強者です』感をだしとく。まあ実際は真っ向から戦ったのではなく全部不意打ちだが。

 だが、荒事が多いだろう冒険者稼業。ここは日本人特有の謙虚さはおさえつけて、やってやったぜという風にしておこう。

 ………大丈夫かな?やり過ぎじゃない?やり過ぎて嫌われたり怖がられすぎたりしたら逆効果なんだけど。

 村人たちとラプトルの死体を村へと運ぶ。途中匂いにつられた狼が遠くから見てきたが、魔力を高ぶらせながら睨んだら尻尾をまいて逃げていった。

 バトル漫画にある殺気をこめて睨むとかわからないから、とりあえず魔力で威嚇できるかためしたが、どうやら成功したらしい。


「どうしたんですかい?」

「いえ、遠くに狼が見えたので」

「え、そ、そりゃあ急いで帰らねえと」

「そうですね。けど足元にお気をつけて」


 それにしても、狼って魔力がわかるのか。睨みだけで逃げたとは思えないので、なんらかの方法で感知する術があるのだろう。それとも野生の本能か。なんにせよ覚えておこう。村にいた頃は獲物を求めてかかってこい状態だから威嚇するなんてなかったから初めて知った。


*    *     *


もらった袋に村人と一緒にはぎ取ったラプトルの部位と布に包んだ卵を詰め、報酬を受け取ってガメル村を後にする。


「本当に、ありがとうございました」

「いえいえ、今後も冒険者クロノをよろしくお願いします」


 最後に名前を撃っておく。冒険者として名前が売れることにどれぐらい価値があるかわからないが、たぶん損はないだろう。

 こうして、冒険者として初の依頼は成功に終わった。


 さて、この卵はいったいいくらで売れるのやら。





読んでいただきありがとうございます。

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