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第五十五話 長話

第五十五話 長話


サイド クロノ



「メルクリスが死に際に送ってきた念話。ほとんど意味がわからなかったけど、教会騎士の存在だけは伝えてくれたわ」


 だから違います。


「きょ、教会騎士だと!」


 知ってるのか指揮官。


「聞いた事がある。教国に正式に認められた対魔人戦闘に特化した戦闘集団だとか……」


 あ、話長そうだしアイリとライカにハンドサインを送っておく。念のため対魔人用に色々用意しておいたのだ。


「まさか、あの少女の様な少年が教会騎士だと!?」


 違います。


「あの頭のおかしい宗教国家公認の!?」


 だから違います。


「確か、眉目秀麗な男ばかりが選ばれているとか……」


「俺は教養も実力も優れたエリートが選ばれるって聞いたぞ」


「万民に優しく、清く正しい騎士達ばかりだと聞いたな……」


 そうです。僕は教会騎士です。


「でも全員男にしか欲情できなくて後継を残すのが大変って聞いたな」


「あ、それ俺もきいた」


「俺も俺も」


「一番有名だよな」


「僕は教会騎士ではありません」


 なるほど。どうやら自分は教会騎士ではないらしい。僕の宗派は『おっぱい教』だ。よくわからん宗教など知らない。由緒正しいおっぱい教徒をそんなよくわからない宗教家扱いしないで欲しい。


「ふふ……誤魔化しても無駄よ」


「いやだから違います」


 頼むから、人を同性愛者にしないでほしい。別にそういう人達をどうこう言うつもりはない。だが、自分は美女や美少女が好きなのだ。巨乳ならなおよし。万が一にも男相手にフラグがたちそうな事はやめてほしい。


「その練り上げられた魔力。そして、一目見ただけでわかるわ。教国正式の神官すら凌駕する『白魔法』の気配。ただの戦士とは思えないわ」


 そう言われても教会騎士ではないのだが。


「ふふ、まったく。あの『カラス』も頼りにならないわね。まさか、こんな所に教会騎士がうろついていたなんて。そんな話教えてくれなかったもの」


 だって教会騎士じゃないし。そのカラスさんが何者かは知らないけど、こっちの事知っているわけないし。


「所詮は人間。信じるには値しなかったという事。後で相応の罰を与えるとしましょう」


 なんか知らんうちにカラスさんに被害が行こうとしている。ごめんカラスさん。いやけど文脈からしてカラスさんって人類の裏切り者か?じゃあいいや惨たらしい事になれカラスさん。


「レディ、質問してもよろしいですか?」


 油断なく構えをとりながら、フレアに話しかける。ついでにこっそり魔法を発動できるように魔力を練り始める。


「あら、なにかしら」


「魔人が何故、このような場所に来ているのか、自分達には見当もつかないのです。出来れば、無知な我らに教えてはくれませんか?」


 とりあえず時間が欲しいのでなんか話そう。けど、化け物相手にどんな話をすればいいのかわからないし。そのうえ一応生物学上は女?ぽいから余計にわからない。


 むしろ女性とのウイットの効いた話をする術を教えて欲しい。切実に。


「ふふふふふふ……」


 なんかフレアが笑い出した。思い出し笑いだろうか。気持ち悪い。


「教会騎士は嘘が下手なのね。あんな早い段階でメルクリスを討ち取った。つまり、貴方達も『知っている』のでしょう?」


 なにを?


「沈黙は肯定ととるわぁ……。この国にある『アレ』。それを手にする事ができれば、我らが王はまた立ち上がってくださる。忌々しい女神の術など、簡単に食い破ってくださるに違いない」


 だからなにが?『アレ』ってなに。もっとキチンと主語述語使おうよ。そんな身内でしか通じない感じで会話するなよ。お前絶対職場とかで『あの人さぁ、ちょっと何言っているかわかりづらいよね』とか言われているだろ。


「魔人どもの王だと……!?ま、まさか……!」


 なんか指揮官が慄いている。え、なに。何か知ってんの?ちょっとこっそり教えてくれませんか?この空気で知らないとか言えないから、困っているんですけど。


「『魔王』……!千年前に女神『イシューレン』様が封印したというあの……!」


 あ、なんかこのまま解説してくれるっぽい。ありがとうございます指揮官。


「ありえぬ!魔王の封印は決して解くことはできぬよう、女神直々に施したと聞く!それが魔人どもに解けるはずがない!」


「形あるものは必ず崩れ去るものよ、人間。この世に絶対など存在しない。そう、我らが王を除いてね……」


「ばかな……!」


 なんか指揮官とフレアの間で会話が成立している。凄いな指揮官。やっぱ教養のある人は違うな。きっと普段から女性にモテているに違いない。


「だが、何故我が国なのだ!貴様らが求めるものなぞ、ないはずだぞ!」


「ふふ、それはそこの教会騎士にでも聞いてみればいいでしょう?さっきからだんまりを決め込んでいる、寡黙な教会騎士にね……」


 あ、ちょ、こっちに話振るなよ。お前絶対モテないだろ。ないわー、そういう無茶ぶりないわー。


「……僕に言えることは何もありません」


 だって本気で知らんし。


「ふふ、だ、そうよ。貴方達は、何故死ぬのかさえ知らずに逝くの。あの世でならそこの教会騎士も口を滑らせるかもしれないわね」


「くっ……!」


 あ、フレアを挟んだ反対側でアイリがハンドサインを送っている。どうやら準備は終わったらしい。頷いて返答をしておく。


「では、貴方達は優しく殺してあげましょう。そうね。我が秘儀。『狂える――』」


「そおい!」


 背負っていたリュックをフレア目掛けて思いっきり投げつける。空中で緩く縛っていた口が開き、中から木の筒が複数こぼれる。


 それらがフレアに降り注ぎ、中に入れていた油をまき散らした。


「……なんのつもりかしら?油?こんな森の中で『赤魔法』とは。もろとも死にたいのかしら」


 ときに、魔法には基本的に詠唱が必要なのだが、それは言葉に宿った魔力を決まったリズムで大気中に刻む必要があるからだ。『言霊』で空中に魔法陣を描いていると言っていい。


 では、魔法の詠唱を短縮、もしくは省略するには、魔法陣さえ用意していればいいのだ。更に、発動前にあらかじめ体内で魔力を練り上げておけばなおよし。


 そして、アイリとライカにはフレアを中心に羊皮紙に書き込んだ魔法陣を、陣を作るように周囲の木々へと貼ってもらっている。しかも、今回は二種類だ。『赤魔法』と、『白魔法』。


 と、いうわけで。


「『炎槍フレイムランス』」


 丸太ほどもある炎の槍をフレアに叩き込む。


 フレアも騎士達もまさかこんな所で油をまいたあげく炎を放つとは思ってもみなかったのだろう。先ほどの蛇とは火力が違う。


「お、おま!?」


 慌てる指揮官の声を、フレアの絶叫がかき消す。だが、流石にこれでは死なないらしい。まあ、メルクリスの事を思い出せば当たり前か。


「きさ、貴様ぁ!人間風情が調子にのるなぁ!」


 そう吠えながら、フレアが蜘蛛の足を動かしてこちらに襲い掛かってくる。とんでもないスピードだ。だが、怒りからかその動きは単純そのもの。容易に軌道が読める。


 突撃にあわせ、足の間をくぐるように避けながら剣を振るう。魔力で強化した剣を関節に叩き込んだというのに、切断はギリギリだった。かなりの頑丈さだ。


「があああああああああ!」


 怒り狂って蜘蛛の足を振り回してくるフレア。その身から炎は離れる事はなく、どこにも燃え移らずに奴の体を焼き続ける。当然、接近戦をしている自分にも燃え移る事はない。


 剣で足を弾いたり逸らしたりしていながら、時折『破邪』をあびせる。


「『破邪』」


「ふざけるな!この私に傷をつけるなど!」


「『破邪』」


「よくも私の美貌に!」


「『破邪』」


「ありえない!私は魔人だ!人間を超越した存在だ!」


「『破邪』」


「あああああああああああああ!」


 もはや人語さえ喋らなくなったフレアを相手に剣を振り、『白魔法』を使い続ける。途中からここから逃げる様な動きをしていたが、足を三本も切られてからではもう遅い。機動力が足りていない。


 それに。


「奴を逃がすな!包囲し続けろ!」


 指揮官が騎士達を動かして自分とフレアを包囲している。その後方にはアイリとライカもスタンバっている。


 もはやフレアに自分を殺す以外生き残る手段はない。


「おのれええええええええええ!」


「『破邪』」


 何度目か。飛び掛かってくるフレアの足の間を抜けざまに剣を振るって足を切り飛ばす。何度も『破邪』を使った影響か、それとも燃やし続けているからか。たぶん両方だろうが、最初よりも格段に斬りやすくなった。


 遂に左側の足全てを切り落とし、フレアが動けなくなる。


「ま、待て!話し合いましょう!」


「『破邪』」


「カラスの事を教えてあげます!だから、この炎を消して!」


「『破邪』」


「わ、私は貴方に服従します!どんな命令だってききます!」


「『破邪』」


「なんで、なんでこんなにお願いしているのにきいてくれないのよ!」


「『破邪』」


 金切り声をあげるフレアに、『破邪』を使い続ける。やばい、ちょっと魔力切れが近付いてきた。もう残り三割をきってる。


「ああ、あああ、死ぬ!死んでしまう!魔王様!お助けください魔王様!」


 フレアの手が虚空をかく。


「『破邪』」


「まお、う、さ………」


 フレアが力尽きて蜘蛛の体をもろとも地面に横たわる。


 ふむ。


「『破邪』」


「がああああああああ!?」


 やはり死んだふりだったか。『危機察知』が反応したし、経験値も入っていなかったからやっぱりな。


 まあ実際もう少しで死にそうなので、念入りに止めをさしておこう。


「『破邪』」


「いやああああああああああ!」


 こうして、魔人フレアは消滅した。




読んでいただきありがとうございます。


申し訳ありませんが、『異世界成り上がり~チートがあっても大変です~』はここまでとさせて頂きます。作者が構成を失敗したからです。

読んでいてくださった方々には本当に申し訳ありませんが、このお話は完結できそうにありません。

ここまでありがとうございました。

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