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第五十三話 センブルの精鋭

第五十三話 センブルの精鋭


サイド クロノ



 二十の鐘がなってしばらくしたころ、自分達は指定された場所に集まっていた。


 自分達が到着して少しすると、鎧姿の騎士達がやってくる。全員に常人以上の魔力を感じるし、『魔力循環』をやっているのがわかる。全員騎士の家系か、それに準ずるものだろうか。


 騎士たちがこちらを一瞥する事もなく整列し、指揮官らしき派手な兜をつけた男が近付いてくる。


「貴様がクロノとか言う子供か」


「はい」


 姿勢を正し、指揮官と相対する。


「ふん。確かに中々の魔力量だが、所詮冒険者だな。立ち姿でわかる。せいぜい二、三年程度しか武術を学んでおらんな。それも剣と簡単な組内についてのみ。といったところか」


 驚いた。まさか初見でそこまで見抜かれるとは。


「貴様が単独で魔人を撃破したらしいが、よほど運が良かったか、その魔人がとんでもない間抜けだったのだろう。貴様ごときが出る幕はない。我らの後ろで指を咥えて見ているがいい」


 そう言って、指揮官は騎士たちの前に戻っていく。すると、アイリとライカが小声で喋り出す。その声には明確に怒気をはらませていた。


「なにあれ。感じ悪」


「サーガだったらどう考えても噛ませだよあの人」


「落ち着いてください二人とも。こっちを使いつぶす前提で動かれるよりはかなりマシです」


 そう、むしろここで変に『ようし、では本当に魔人を倒したというのなら証明してみせろ。お前たちが先頭だ』と言われるよりはよほどいい。少なくとも今の所は鉄砲玉にするつもりはないという事なのだから。


 そうこうしているうちに指揮官が騎士達への演説を終えたようだ。それにしても、あの鎧姿で行くつもりなのだろうか。一応夜の闇に紛れて魔人の元へ向かう作戦のはずだが、目立たないか?


 こっちは一応パワードスーツを迷彩柄に塗って来たし、自分も黒地に緑色を適当に張り付けた外套を身に着けている。


 そう思っていると、騎士達の後ろから来ていた荷馬車から従者っぽい人達が何か持ってきた。


 従者達が騎士達に羽織らせているのは外套だった。しかも、緑に茶色、黒とまだら模様でどう見ても迷彩色だ。


 なんとなくこの世界の騎士ってああいうの使わないイメージだったが、違ったのか?いや、なんとなく従者たちは不憫な者を見る目をしているし、兜の面を上げている指揮官は外套を憎々し気に見ている。かなり不本意なのだろう。


 それでも不平をいう事もなく外套を鎧の上から装着し終えると、騎士達は動き出した。自分達もその後ろに続く。


 東西南北にある大きな門とは違う、魔法で隠されていた小さな門の前に到着した。というかあんな門あったのか。後ろの二人が小声で、『サーガでよく見るやつだ』『やっぱ隠し通路はロマンだよね』とか言っている。


「諸君、では始めるぞ。後ろのレディたちには悪いが、通常の訓練通りの速度で走る。ついてこられないならお帰り願うとしよう」


 指揮官の声に、騎士達からくぐもった笑い声が響く。というか、レディって自分を含めて言ったな?指揮官は自分の性別ぐらい聞いているはずだ。


 もう慣れたとはいえ、不快なものは不快だ。あの指揮官兜が蒸れて禿げねえかな。


 遠くから二十一の鐘が鳴ると、門が開けられて騎士達が走り出す。その速度は軍馬のそれに近いかもしれない。少なくとも鎧を着た人間が出せる速度ではない。


 だが、自分達からすれば余裕をもって追いかけられる速度だ。一定の距離を保ち、後ろをついてく。


 騎士達の魔力を頼りに、夜の闇の中を走る。今日は雲で月もほとんど見えない。かなり暗い夜だ。目だけでは彼らを見失ってしまう。


 そうして走っていくが、幸いなことに魔獣の類とは遭遇せずに森まで到着した。足場の悪い森の中だというのに、騎士達の速度は少ししか落ちていない。


 自分は森の中という環境に慣れているし、『軽業』のスキルによる補正もある。だが、ライカとアイリのペースが少し落ちた。


 二人とも自分がいない間色々訓練をして、森の中でも多少動けるようになったようだが、それでもまだぎこちない。まあ、ついてこられているようなら変に手助けしない方がいいか。


 それにしても、この騎士達を甘く見ていたかもしれない。てっきりエリートなお坊ちゃまな集団かと思ったが、こういう状況でも動けるように訓練を積んできたのだろう。素直に内心で頭を下げる。


 これは嬉しい誤算だ。最悪センブルの精鋭が使い物にならず、逆に足手纏いになるんじゃないかと思っていたが、それは自分の思い上がりだったらしい。


 ここはダンブルグとは違うのだ。十分以上に戦力として期待がもてる。


 夜の森を走りながら、心の中で安堵の息を吐いた。



*       *       *



森に入って三十分ほど。騎士達のペースはかなりゆっくりになっていた。疲労からではない。魔人側に魔力を察知される可能性や、罠が存在する可能性を考慮した結果だ。


 騎士達とライカやアイリは少し息が上がっているが、戦えないほどではない。すぐに整うだろう。


 そうしてゆっくりと進んでいくと、指揮官が立ち止まる。


「ストーク、見ろ」


「はっ」


 騎士の一人が指揮官の前に出ていく。自分も『魔力感知』と『鷹の目』で観察すると、蜘蛛型の魔獣が夜の森を動いていた。正直気持ち悪い。


「ツリースパイダーを四体確認しました。糸による罠と思しき場所は八カ所です」


 そう言って、騎士が指揮官に糸がある方個を指さしていく。


「よし。魔人がいる方角とも一致する。奴はこの奥にいるぞ」


 指揮官が右手を動かすと、騎士達が音もなく剣を抜く。


「三、二、一、行くぞ」


 小声で指揮官がカウントした後、彼も剣を引き抜いて走り出す。もはや抑えていた魔力を隠しもしない。


「すすめぇぇぇえええええええ!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 隠密行動はここまでという事だろう。騎士達は全速力で走り出し、蜘蛛の魔獣、『ツリースパイダー』に切りかかっていく。


 器用に蜘蛛糸による罠がある場所を避けているようで、誰一人歩みを止めることなく進んでいる。


 自分達も一応剣を手にしているのだが、今の所出番はない。一体だけこっちにも来たのだが、一太刀で終わった。


 このまま全てが順調にいって、騎士だけで魔人を倒してくれたら一番いいのだが……。心構えは必要だろう。


 今はひたすら、騎士達の後ろを走っていった。



*       *      *



道中に現れた魔獣全てを切り伏せた騎士達は、開けた場所に到着した。


「ようこそ、おいで下さいました」


 そう言って騎士達を出迎えたのは、一体の異形だった。


 下半身は、馬車ほどもある巨大な蜘蛛。蜘蛛の頭部分から人間の女性そっくりな上半身が生えている。その肉感的な上半身は露出の多い紅いドレスを着ており、首から上と下半身を見なければさぞや扇情的に映っただろう。


 だが、そうはならない。少なくとも、首から上、というか鼻から上が大きく膨れ上がった脳みそむき出しの存在に欲情できる性癖でもないかぎり、この怪物を美しいとは思うまい。


「私は魔人、フレア。次などないでしょうが、どうぞお見知りおきを」


 そう笑う魔人に、騎士達は指揮官の号令のもと斬りかかっていった。




読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


次の更新は日曜日になると思います。

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