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第五十一話 魔獣戦線

第五十一話 魔獣戦線


サイド クロノ



「矢を放ち続けろ!」


「石でもお湯でもいい!上から降らせろ!」


「これ以上奴らを城壁に取りつかせるな!」


 なんか、ゴブリン達と人間側で弓矢の打ち合いしながら、ミノタウロスみたいな奴らがひたすら門に突進している。また、ラプトル達はその爪を壁に突き立てて、少しずつだが上へと昇ろうとしている。


 明らかに異常な光景だ。今までそこそこの数魔獣を斬ってきたが、こうして複数種の魔獣が一緒に行動しているのは見た事も聞いた事もない。


 というか、なんだこの数。四つある全ての門に攻撃されているぞ。それぞれに軽く千以上の魔獣が群がっている。あれでは迎撃に兵を出す事も……というか、もしかして既に平地で一当てして負けているとかないよな?


 色々眺めていたが、状況はよくわからない。街の中にはライカとアイリもいるのだ。このまま放置というわけにはいかない。


 だが、馬鹿正直に突撃というのも無茶が過ぎる。


 そうこう考えていると、西の門で動きがあった。凄まじい魔力の奔流を感じる。


 慌てて武器を手にそちらへ走っていく。素早く自身にバフを持って行きながら目を凝らすと、西門に攻め込んでいるゴブリンの一部が杖を掲げていた。


 他のゴブリンとは異なり、骨で出来ているらしい装飾品を身に着けた奴らは、『ギエ、ギエ』と何かを言っている。もしやと思うが、いわゆる『ゴブリンシャーマン』という奴か?


 急いで走り寄り、ゴブリンシャーマンへと突撃しようとする。だが、それには目の前のゴブリン達をどうにかしなければならない。


 向こうもこちらの接近に気づいたのだろう。叫びながら盾と木を削っただけの槍を構えてくる。


 そのまま槍と石を投擲してくるが、構わず直進した。『危機察知』でわかるが、そうそう当たるものではない。一、二発は当たるだろうが、その程度なら『魔力装甲』で十分しのげる。


 槍と石の雨を突っ切り、ゴブリンの集団と肉薄する。


 棍棒に持ち替えたゴブリンをすれ違いざまに切り捨てる。狙うのは首ではなく足だ。負傷者を増やした方が、というよりも、単純に身長の問題で首は狙いづらい。


 ならばいっそのこと、ひたすら低い位置を走って足を斬りつけまくった。


 だが、単純に数が多い。一息に十体の脛や脹脛を斬りつけたが、その三倍以上が押し寄せてくるのだ。これでは前に進めない。


 そうこうしている間に、ゴブリンシャーマン達の頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がったかと思うと、ゴブリン達と街の中間地点から土が動き出したではないか。


 この位置からではわかりづらいが、盛り上がった土はそのまま腕の様な形になり、壁へと伸ばされていく。そして、なんと壁の上部分。兵士達が弓を射っている場所に指先がかかったではないか。


 そのまま土は石のように固まり、動かなくなる。まずい。ただの土のままだったならすぐに崩れ落ちただろうに、あれでは術者を殺してもすぐには落ちない。


 当然のように、ゴブリンもラプトルもそこを足場に壁の上へと走り始めた。兵士側もそれを阻止しようと矢を放つが、ラプトルは倒せても盾を持ったゴブリンまでは止められていない。このままでは壁の上に乗りこまれる。


「ちいっ!」


 せめて術者を殺し、少しでもあの足場を崩れやすくする。その為に、ひたすらゴブリンシャーマン目掛けて進んでいく。


 既に足を切り裂かれたゴブリンで後ろは埋まっている。どのみち全身しかやりようがない。


 このまま地道に切り捨てていってはきりがない。目の前にいるゴブリンの脛を切り裂いた後、バランスを崩して倒れそうな体を足場に跳び上がる。


 そのまま次々とゴブリン達の頭や肩を踏みつけてシャーマンの元へ向かう。当然ながら下からゴブリンの手や武器が伸びてくるが、それは『危機察知』と『空間把握』で避けるしかない。


 そのままシャーマンの中に上から跳び込んだ。奴らの周りには当然多数のゴブリンがいたが、跳び越えてしまえばお互いが邪魔でこちらに攻撃は出来まい。


 狼狽えるシャーマン達に次々斬りかかる。大規模な魔法の発動直後。しかも継続的に魔力を送っていなければならない状態では、碌に抵抗など出来ないだろう。


 なにより、シャーマン達は普通のゴブリンに比べて小柄で手足も細い。これなら自分でも首を楽に刎ねられる。


 そうして二十体のシャーマン達を切り捨てた。まだ十体ほど残っているが、流石に他のゴブリン達に邪魔される。


「ギエエエエエエ!」


 というか、シャーマン達を攻撃したらゴブリン達の殺意が跳ね上がった気がする。何故?


 どうにか先ほどと同じ要領でゴブリン達を足場に移動しながら、壁に架けられた土の足場を見る。魔力の供給が滞ったからだろう。あっちこっちにヒビがはいり、上にいるゴブリンやラプトル達の体重を支え切れていない。


 だが、それでも結構な数が壁の上に行ってしまった。遠目でもゴブリンに兵士達が殴り殺されているのがわかる。


 だが、一部抵抗を出来ている者達がいた。というか、魔力も見た目も思いっきり覚えがある。


「ライカ!?アイリ!?」


 あの二人だ。何故彼女たちがあそこにいるのか。いや、今はそれどころではない。壁の上という狭いスペースだからどうにかなっているが、彼女たちでは同時に複数のゴブリンは厳しすぎる。


 ゴブリン達を足蹴にしながら、今にも崩れそうな土の足場に向かう。そしてそのまま上り始めた。


 当然進行方向上にはゴブリンもラプトルもいる。だが、やつらも足場が崩れそうなのはわかっているらしく、進むべきか戻るべきか迷っている。今なら強引に突破するのも不可能ではない。


 左手にも剣を握り、即席の二刀流で魔獣たちを斬りつけていく。殺す必要はない。この足場から落とせばいいのだ。


 ゴブリンの腿を切りつけ、ラプトルの首を刎ね、時折横薙ぎに蹴りつけて足場から落としていく。


 そうして上っていくうちに、遂に足場が崩れ始めた。魔獣たちの意識が完全に足場に向いた。これを好機として奴らの頭を踏みつけて駆け抜ける。


 あと数メートルというところで、とうとう足場が崩れ落ちた。強くゴブリンの頭を蹴りつけて、壁の上に着地。小さく安堵の息を吐く。


 だが、ゆっくり等はしていられない。着地した自分にラプトルが噛みついて来ようとしたのだ。


 すぐさまそいつの首を斬り飛ばし、呼吸を整えながら魔力を調整する。ハーピーの時に覚えたスキル『魔力誘引』を使うのだ。


 案の定魔獣の目が一斉にこちらを向く。ちょっと怖い光景だが、やるしかない。あと、なんか向こうの方で女の子が出しちゃいけない雄叫びが聞こえている気がするが、きっと聞き間違いだろう。


 我先にと魔獣たちが襲ってくるが、ここは壁の上。そこまでの広さはない。大柄なゴブリン達ではお互いの体が詰まってしまい、ラプトルもそれに巻き込まれてその俊敏さを殺す事になった。


「今だ!かかれぇ!」


「おおおおおおおおお!」


 その様子に、兵士達が声を上げて槍を突きかかる。今なら自分達でも戦えると踏んだのだ。ありがたい。


 自分も動きづらそうな魔獣たちに切りかかり、どうにか壁の上に侵入した魔獣たちは殲滅できた。



*        *        *



「クロノ君、とりあえず乳首吸わせて?」


「大丈夫だから。ちょっとお尻をこっちに向けてくれるだけでいいから」


「待ってください今スキル止めますから」


 迫りくる鎧に対して慌てて『魔力誘引』のスキルを切る。普段の恰好ならむしろどんとこいだが、今のフルアーマーな姿で詰め寄られると怖い。


「「はっ、私は、なにを?」」


「お二人ともご無事そうで何より」


 剣を鞘に納め、小さくため息をつく。


「とりあえず、なんですか、この状況」


「わ、わからないよぉ」


「三日前に突然魔獣が大量に向かってきているって報告がされて、隣の街にも魔獣が攻め込んでるって噂だけど……」


「えぇ……」


 なんだその状況。この数はいくらなんでもおかしいだろう。ダンブルグにいた時遭遇したラプトルの侵攻とは比較にならない数だぞ。


 どう考えても国境沿いにある山脈だけではない。ダンブルグからそのまま魔獣が雪崩れ込んでいると考えるのが妥当だ。もしかして、遂にあの国滅んだのか?いや、今はそれを考えている暇はない。


「一応、他の街や王都の方に援軍要請を出したらしいんだけど……」


「それがいつ来るかはわからないと」


 周囲に重い沈黙が流れる。


「……とりあえず、ギルドに向かいます。そこならもう少し情報が集まるかもしれません」


「わかった。私達はここで街を守るよ!」


「いや、二人も来てください」


「え?」


 不思議そうに首を傾げる二人だが、どうやら自覚がないらしい。


「パワードスーツ。もう機能停止寸前ですよ」


 当然と言えば当然だ。流体魔力装甲があるにもかかわらず、既に全身ボロボロなのだ。かなりの修羅場をくぐってきたのがわかる。


 本当なら今すぐにでも修理をしないといけないのだ。このままここに置いておくわけにはいかない。


「ああ、けど先に指揮をとっている人に話をつけた方がいいですね。どこに」


「『魔獣狩り』殿!『魔獣狩り』殿ぉ!」


 兵士達の隙間を縫って、他の人より高そうな装備をつけた人が走ってくる。


「私がそうです。貴方は?」


「私はギルドで指揮をとっている街長のマッケイン様からの伝令です!すぐに会いたいとの事!ギルドへと速やかにお越しください!」


 息を切らせながら、焦った様子で言う伝令の人に頷く。


「わかりました。すぐに向かいます。その際、この二人も連れていきたいので、この場所に指揮官にもお話を通してもらっていいですか?彼女らの装備が既に限界なので、整備をしなくては」


「わかりました!私からお伝えしますので、すぐにギルドへ!」


 そう言って伝令の人が走っていく。それにしても、情報が早いな。壁の上での戦いが終わってから、そこまで経っていないはずだが。


 なんにせよ、伝令の人が話をつけてくれるならちょうどいい。三人で壁を降りていき、ギルドへと向かった。






読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


次の更新は水曜日になると思います。

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