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第五十話 護衛終了

第五十話 護衛終了


サイド クロノ



 結論から言うと、モーボン派による凶行はすぐに解決しそうだ。


 あの後、街道にいた賊を蹴散らして一直線に麓の街へとやってきた。盗賊だろうに何故かマスケット銃を複数持っていたが、何だったのか。余裕があれば火薬と銃を頂いたのだが、残念だ。


 街長にはアルフレッド様が持っていた紋章入りの持ち物と、ある程度役職が上に行くとアルフレッド様とあった事がある事ですんなりと面会できた。


 この街の長もモーボン派である可能性はあったので警戒はしていたが、幸いそんな事はなかった。すぐに伯爵の元へ早馬を送ってくれたので、彼の館で匿ってくれることになった。


 一応演技の可能性も考えて伝令が帰ってくるまで護衛を続ける事に。街長に会ったその夜、用意された部屋で休もうと廊下を歩いていると、アルフレッド様が神妙な面持ちで話しかけてきた。というか、部屋って隣なのか。守りやすくはあるが、面倒くさいな……。


「ノワール……」


「はい」


 いい加減メイド服から着替えたい。城に潜り込む必要もないのだし、もう普通の服に変えてもいいだろう。


「ばあやが、俺を裏切るなど思っていなかった。モーボンも、まさか俺を殺そうなどとするとは思っていなかった……」


 流石に、九歳の子供に命を狙われる経験は厳しすぎたか。しかも、メイド長という信頼していた大人が裏切ったというのも大きいのかもしれない。まあ、彼女が何を思って裏切ったのかは知らないが。


「それでも、俺は死ぬわけにはいかない。死んだ母上の分まで、俺は生きていなければならないのだ」


 アルフレッド様が、うっすらと目に涙を浮かべながら、こちらを見つめてくる。


「だから、俺にこれからも仕えてくれ。お前が何者かは知らない。それでも、俺はお前と一緒にいたい」


 決意を込めた目で右手をこちらに差し出してくる。


「ノワール。俺の剣となってくれ」


 ふむ……どう返答したものか。


 ここで手をとれば、伯爵家嫡男の護衛という立場を掴めるだろう。安定した職業だ。当然命の危機はつきまとうが、それでも冒険者生活よりは安定しているだろう。


 運が良ければ貴族の嫁も用意して貰えて、そのまま貴族の仲間入りもワンチャンあるか?いやそれは高望みしすぎか。というか嫁の方が貴族の生まれだと家庭内ヒエラルキーが大変な事になる気がする。ここは地球ではないのだ。


 だが、給金次第では今よりパワードスーツの実験も捗るか?そうすればその功績をもって……いや、あの伯爵が力を持っているうちだと手柄をもっていかれそうだな。


「そして、お、俺の……よ、嫁に来て欲しい!」


「え、嫌です」


 反射で答えると、アルフレッド様が固まってしまった。


「え……だ、ダメ、なのか……?」


「はい。お断りさせて頂きます」


 嫁になれどうこうも条件にはいっているなら、拒否一択だ。無理も無理。何が悲しくてクソガキの嫁にならねばならぬのだ。地獄か。


「アルフレッド様。まず、私が何者かを明かさせて頂きます」


 固まっているアルフレッド様に、一礼をする。


「私の本名はクロノ。平民。それも孤児ですので、家名などありません。普段は冒険者して食い扶持を稼いでおります」


「……!平民でも、孤児でも構わない。俺はっ」


「あと、男です」


「……は?」


「だから、男です」


 胸に手を当て、全力で凛々しい顔をする。これなら男らしく見えるに違いない。


「メイドに扮していたのは伯爵様よりの依頼により、襲撃者に護衛と見抜かれて遠ざけられぬ為。騙してしてしまった形になってしまった事。申し訳ございません」


 まあ自分だって不本意だったので申し訳ない気持ちは一切ないのだが、相手は貴族の子供。謝りたくなくても頭を下げざるをえないのだ。


「そういうわけですので、アルフレッド様のご提案を受ける事は出来ません。さ、お疲れでしょう。どうぞ今夜はゆっくりとお休みください。すぐにこの屋敷に仕えるメイドが来て世話をしてくれるでしょう」


 アルフレッド様を部屋に誘導すると、呆然としたままはいっていった。


「では、おやすみなさいませ」


 そう言ってドアを閉め、用意された自室に行く。ドアを閉めてすぐに、メイド服を脱ぎ捨てる。


「ふぅぅぅぅぅぅぅううううう!」


 パンツ一枚になって、ベッドにダイブする。やっと。やっっっっっとメイド服を脱ぐことが出来た。なんという爽快感。これほど嬉しい事がこの世界に転生してあっただろうか。いいや、ライカとアイリに密着された時以外にはない。


 やっとスカート姿とはおさらばだ。ベッドの上で手足を動かしてシーツの感触を楽しむ。まあ、このままパンイチというわけにはいかない。さっさといつもの服に。


「あっ」


 今、気づいた。城に着ていった服は当然、城に置きっぱなしだ。他の荷物もそこにある。つまり、自分は現在無一文にして、まともな服など持っていない。いやぁ、村にいた頃と同じだなぁ。違うのは、ここが貴族の屋敷というゴリゴリに礼儀正しい服装と言動が要求される場所だという事だ。


 脱ぎ捨てたメイド服を見る。多分、今自分は死んだ魚の様な目をしているだろう。


 もしかして……もうしばらくあの恰好でいなければいけない……?



*     *      *



あれから、三日が過ぎた。ようやく伯爵の方から返信が到着した。アルフレッド様にも確認してもらったので、本物だろう。


 これで、ようやく護衛任務から解放される。手紙には自分の任を解く事と、報酬を街長に建て替えておいて欲しいとあった。ありがたい。向こうとしても自分がいつまでも出しゃばっていたら街長に失礼となったのだろう。


 ちなみに、服の方は街長の好意で普通の男物を用意して貰えたので、メイド服ではない。よかった。


 街長から報酬を貰い、さっそくセンブルに戻る事にする。街長からはもう行くのかと驚かれたが、このままここにいればモーボン派との争いに巻き込まれそうだ。それはごめん被る。


 というわけで、一応の義理としてアルフレッド様に挨拶をしてから屋敷を出た。なにやら幽鬼のように虚ろだったが、まだメイド長の裏切りとモーボン派による襲撃からそう日が経っていない。そっとしておいてあげよう。


 というか、もう自分とは関係ないし。これ以上メイドとして働いていたという黒歴史から離れなければ。


 街で装備一式を整え、センブルに向かい走り出す。一人で行くので、馬車のペースやら抱えた護衛対象を気にしなくていい。ああ、なんと清々しい気分か。


 そうして一週間ほどでセンブルが見えてきたのだが……。


「なんか、多くね……?」


 センブルの壁には大量の魔獣が押し寄せていた。


 ゴブリン達により射かけられる火矢。ラプトル達による壁への突進。見覚えのない……なんだ、あれ。ミノタウロスか?見た目的に。あの牛人間。


 それらがセンブルに押し寄せてきている。なんだ、これ……。




読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


次の投稿は日曜日になると思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルフレッド様のアレな理由って… [一言] 経験値かせぎできるよ やったね
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