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第四十八話 戦うメイドさん(偽)

第四十八話 戦うメイドさん(偽)


サイド クロノ



「こ、こいつどこからっ!?」


「くそが!女一人だ!さっさと」


 奴らが何かをする前に、一番近い奴の腹を蹴り飛ばす。そのまま滑り込むように男達の足元を低い姿勢で駆け回り、脹脛を切り裂いていく。


「え、が、あああああああ!?」


「い、いってえええ!」


「ちくしょう!このガキっ!ぶっ殺してやる!」


 倒れ伏す男達から、一番状態のよさそうな剣を回収すると、アルフレッド様を抱きかかえる。


「え、ええ?」


「アルフレッド様。少々揺れますが、どうかご容赦を」


 混乱するアルフレッド様を抱えたまま、部屋を出て廊下を走る。目指すは窓のある場所だ。下手に屋内で戦うよりいっその事麓の街まで走った方が安全だろう。自分一人ならともかく、アルフレッド様もいるのだ。最悪小部屋で籠城戦させられたり城ごと燃やされたら彼は死ぬだろう。


 廊下を走りながら、足元に倒れている人たちを避け続ける。


「の、ノワール!む、胸に押し付けられると、その」


「周囲を見てはいけません」


 ここにいい思い出はない。だが、こうも無残に殺されている様を見せられるのはきつい。。彼らとて、こうも一方的に殺される理由などないだろうに。


 まだ子供であるアルフレッド様に見せるには早い。そう思い強く抱きしめる。彼だけでも助け出さねば。足元に倒れているのは男性と老齢の女性ばかり。つまりそういう奴らなのだ。あの賊は。


 窓が見えた。そのまま突き進もうとして、急速にこちら目掛けて近づいてくる魔力を感知する。


「ちっ!」


 慌てて立ち止まると、進行方向上の壁が砕かれた。そこから、大柄な男が出てくる。


 この城の壁はかなり頑丈に出来ている。自分も体当たりで壊せるが、それはバフを盛ったうえでの話し。つまり、眼前の男は少なくとも身体能力だけなら自分に匹敵する可能性がある。


 二メートル近い身長。鎧の上からでもわかる筋肉質な肉体。屋内では扱いづらそうな槍を手に持ち、唯一露出している顔には下卑た笑みを浮かべている。


「よお嬢ちゃん。またあったなぁ」


 誰だったか……そうだ。夜の相手をしろだとかほざいていた奴だ。やはりモーボン様の護衛達が襲撃犯で間違いない。


「今日こそは俺の槍で鳴かせてやるよ。それともこっちの槍がお好みかぁ?」


 そう言って手に持っている槍を構えてくる。見るからに業物。いや、槍自体から魔力を感じる。男自身から大した魔力を感じないあたり、身体能力のからくりはそれか?


「だんまりかい。じゃあ、とりあえず足の一本でも潰しちまうかぁ!?」


 男は無造作に見えて、こちらの瞬きに合わせて槍を放ってくる。言動に反して立ち姿やその踏み込みは凄まじい練度を感じる。単純な技量や経験なら向こうが上か。


 足元に放たれた一撃を横にかわし、そのまま槍を踏みつけながら剣を右腕目掛け振るう。


「ぷうっ!」


「なっ」


 男の口から何か飛んできた。唾ではない。針だ。しかもアルフレッド様目掛けて。


「ちいっ」


 咄嗟に剣を引き戻して柄で針をはじく。その隙に男は槍を引き戻しながら後ろにさがって構えなおす。


「今の動き、ただのガキじゃねえな?腕の立つ護衛とはきいちゃいたが、想像以上だな」


 男は相変わらずニヤニヤと笑っているが、明らかに先ほどと構えが変わっている。重心は深く。されど力み過ぎてはいない。まるで獲物を前にした大型の肉食獣だ。


 お互い武器を構えたまま数秒。背後から複数の魔力が近付いているのがわかる。味方ならいいが、敵の可能性がある。というか『危機察知』的に味方ではなさそうだ。このまま睨み合いを続けるのはまずい。


 左右は壁。体当たりで砕こうものなら衝撃でアルフレッド様が無事では済まない。背後には複数の敵。戦力的には相手にもならないが、それでもこの男に背中を見せるのは愚策。ならば。


「はっはぁ!」


 正面から斬りかかる自分に男は笑いながら槍を突き出す。それを剣でいなすが、右手一本ではさばききれず左肩をかすめていく。


 槍を逸らした反動を利用して壁に跳び、そのまま走る。男の真横を走り抜け、窓に。


「かわいいお尻だねお嬢ちゃん!」


 振りぬかれた槍が背中をかすめる。浅くだが斬られた。そのまま窓を突き破って外に。


「う、うわあああああああ!」


 抱きかかえたアルフレッド様が悲鳴を上げる。四階より上の高さだ。怖いのはわかるが、目立つのでやめてほしい。敵が増えるのは勘弁だ。


 普通に着地したらアルフレッド様には負担が強すぎるので、着地時に転がるように衝撃を逃して、すぐにその場から飛びのく。


 直後に、自分が着地した所にあの男が大きな音と共に落下してきた。


「どこに逃げるんだい、お嬢ちゃん!」


「このっ」


 振るわれた槍をはじくが、体重差と態勢のせいで体が後ろに流される。そこに、男の蹴りが迫る。またもや狙いはアルフレッド様だ。


「ぐっ」


 身を捻って蹴りを体に受ける。数メートル飛ばされるが、どうにか持ちこたえた。


「やっぱりなぁ……」


 男がにんまりと笑う。


「嬢ちゃんは強い。俺が見た中で最強だ。狭い廊下で戦ってたら、確実に負けてたな。この開けた場所でも、下手したら勝てねえかもしれねえ」


 油断なくお互い武器を構えながら、男は笑う。


「だが、それはその『お荷物』がなければ話だなぁ」


 びくりと、腕の中でアルフレッド様がはねる。


「どういう気分だい、坊ちゃん。普段は最強の騎士になるとか言ってるくせに、今は女の子ん抱えられてびくびく震えているだけだ。いいや、ちゃんんと足を引っ張ってるから、『だけ』ってのは違ったなか!」


「アルフレッド様。あれの言っている事を真に受けてはなりません」


 やめろよマジで。ここで『俺も戦う』とか言って降りようとされると本格的に邪魔だ。まあ奴としてはアルフレッド様が余計な事をした方が好都合だから言っているのだろうが。


「ああ、そうそう。あそこ見てみろよ」


 そう男が顎を動かした先。見なくてもわかる。こちらを見ている奴が三人ほどいる。どうせ、弓でも構えているのだろう。


「その坊ちゃんがお前から離れた瞬間な、毒塗りの矢が飛んでくるぜ」


 男はベロリと舌を出してくる。


「お前さんは魔法か何かの道具でやたら頑丈みてえだが、坊ちゃんは違うよなぁ」


 さて、やたら話をしてくるが、もしかして時間稼ぎか?精神攻撃にしては遠回しに過ぎる。となると、このままでは四方八方から飛んでくる矢からアルフレッド様を守りながら、目の前の男と戦う事になるのか。……嫌すぎる。


「さて、提案だ嬢ちゃん。その坊ちゃんを差し出すってんなら」


 男の話を無視して斬りかかる。当然のように槍で受けられたが、そのまま流れるように男を揺さぶるように右に左に切りつけ続ける。


「こ、のっ」


 男の顔に焦りが浮かぶ。このまま押し切れるか?


「うぅ」


 アルフレッド様がうめき声をあげる。申し訳ないが我慢してほしい。これでもだいぶ速度を制限しているのだ。


 次第に男の鎧に傷が入り始める。この鎧も随分と硬い。普通の鉄ならとうにバラバラだというのに。


「くっそぉ!」


 しびれを切らした男が横薙ぎに槍を振るう。随分と大ぶりだ。跳んで躱しながら剣を振るう。切っ先が奴の頬をかすめた。惜しい。あと数センチずれていれば目を潰せたのに。


 強引に距離を取りながら、男は肩で息をしつつも槍を構える。


「くそ……!ミスリルの鎧だぞ!どうなってんだ!?」


 男の視線が一瞬傷だらけの鎧に向く。その隙に足元の土を男目掛けて蹴り飛ばした。


「がっ」


 一瞬の目くらまし。その隙に切りかかるが、辛うじて防がれる。だが、今度は兜が斬り飛ばされた。男の額に血が流れる。


「化け物かよ!」


 このまま押し切る。そう思ったところで、新手が来た。


「動くな!このババアがどうなってもいいのか!」


 そう言って現れたのは、メイド長を拘束した敵の姿だった。


「ばあや!」


 アルフレッド様が悲鳴をあげる。


「でかした!ガキ!大人しく」


「せい」


「があっ!?」


 男の右手。その親指を切り落とす。咄嗟に槍は左手で保持したようだが、これで右手は使い物にならないだろう。


「ま、待て!脅しじゃねえぞ!」


「の、ノワール!」


 敵もアルフレッド様も驚いているが、自分には知った事ではない。


「その人なら別にどうとでも。私の知った事ではありません」


 剣を構えたまま、メイド長に片目だけ視線を送る。


「『仲間割れ』でしたらどうぞご自由に」


 メイド長の顔が、恐怖に引きつっていたものから無へと変わった。





読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


次回は水曜日になると思います。

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