第四十二話 Mバッテリー 3
第四十二話 Mバッテリー 3
サイド クロノ
砕けた魔力結晶を使う事で、Mバッテリーは小型化に成功した。代わりに、貯蔵できる魔力量は当然少なくなる。
試しにMバッテリー内の魔力だけでライカに動かしてもらったが、普通に歩いたり物を運んだりするだけだと一時間ほど。自分と模擬線をしてもらうと、四十分ほどが限界の様だ。
「こひゅー……こひゅー……」
「すみませんライカさん」
結果、ライカに膝枕する事になった。出来るならする側じゃなくってされる側になりたかった。
「これって、もう完成でいいんじゃないかな!」
アイリがウキウキとした顔で笑いかけてくる。
「そうですね。ちょっと稼働時間は短いですけど、よく考えたら四十分も全力戦闘するって魔力の前に体力が尽きますしね」
「それを……もっと……はやく……」
「本当にすみませんライカさん」
ライカの額を布で拭く。……この拭いた汗匂い嗅いでもセーフだろうか。いやアウトだな。
「後は生産体制を整えて、ある程度数を揃えてから代官様にでも売り込みにいきましょう」
「え?今すぐじゃないんだ?」
「はい。最低でも十機は揃えたいですね」
あと、あっちこっちに宣伝もしてから持ち込みたい。無名のまま持ち込んだら、最悪技術だけ横取りされかねない。
「けどあれだね。これクロノ君大金持ちじゃん!凄いよ!」
「ん?言っときますけど、ライカさんとアイリさんも共同研究者だからこれの儲けは三等分ですよ?」
「え?」
アイリがキョトンとした後、慌てて手を左右にふる。振動で胸が揺れている。凄い。
「ちょ、私たちまで!?そ、そりゃあ少しぐらい手伝った分欲しいなとは思ったけど!三等分なんて」
「いやいや。お二人がいなかったらどれだけ時間がかかっていたかわかりませんから」
半分本音で、半分下心だ。
正直、この発明……発明と呼んでいいのかわからないが、このパワードスーツは各分野に革命を起こす代物だ。
農業に使えばかなりの効率化が見込める。数人がかりで抜いていた木もこれ一機で引き倒せるし、収穫した作物や捨てる枝の運搬もかなり楽になる。
工業だと、重機の代わりになるだろう。運ぼうと思えば大きな木の柱も担いでいけるし、邪魔な岩もどかすなり壊すなりできる。
そして、戦いに使うのならこれ一機で魔獣とタイマンができる。それこそ、剣士としては三流以下のライカが手負いとはいえゴブリンと正面から戦えるのだ。訓練した兵士なら単騎で三体相手に出来るかもしれない。
戦争に使うのなら、数を揃えれば騎兵の立場を奪う事になりかねない。恐らく、流体魔力装甲なら現代のライフル弾でも多少は防げるはずだ。少なくとも防弾チョッキよりは頑丈だろう。……まあ、ミリタリー関係の知識はほとんどないので、あくまで予想だが。
ようは、人型の装甲車みたいなものなのだ。このパワードスーツは。
そして、これだけの物となるとあっちこっちの勢力から目を付けられるのは確実だ。貴族、軍人、商人、傭兵、グラーイル教団。その他もろもろ。
そんなのに自分一人だけ狙われるとかごめん被る。というかそうなると今後近づいてくる女性はどこかしらの勢力の息がかかった人になるわけで、たとえハニトラでもモテるのは嬉しいが、恐くて手が出せない。
そこでライカとアイリがいれば各勢力の視線もある程度分散されるし、自分の、お、お嫁さん候補的にもグッドだ。いや、付き合ってもいないのだが。
「クロノ君?」
「いえ、ちょっと考え事を」
不思議そうにするアイリに微笑みかける。なんにせよこの二人を逃がす気はない。フリーの美少女に出会えるのはレアなのだ。絶対にこのチャンスを活かさなければ。
それはそうと、いつの間にかライカが眠っている。寝顔も可愛いと思うのだが、それはそれとして自分はいつになったら動けるのだろうか。
* * *
こうして、Mバッテリーはひとまず完成した。今後も改良は必要だろうが、今のところはこれでいいにして、次の課題にはいる。
「銃?」
「はい。飛び道具は大事ですから」
この前のハーピーで飛び道具の必要性を改めて感じだ。
今までは投石でどうにかしていたが、いい加減それでは限界がある。それに、ライカとアイリにも飛び道具は欲しい。
といっても、Mバッテリーが出来上がった今なら、作るだけならどうとでもなる。だが、問題がある。
魔石が足りねえ……。
結局この問題にぶちあたる。いや本当にどうしよう。
魔力結晶がなければMバッテリーは作れない。魔石がないと魔力結晶は作れない。そして魔石は人工的に作れない。よって、魔獣からはぎ取るしかない。
かといって、魔獣の発見報告を待っていてはいつになったら必要数の魔石を手に入れられるのか。
いっそ、自分から採りに行くか?国境の山脈辺りに出稼ぎ感覚で魔石狩りに。
だが、そうなるとギルドで魔獣の発見報告があった時対応できない。それは困る。なんせ代官が『君らに任せたぞい』しちゃったのだ。これを無視するとかなりやりづらくなる。
なんか面倒くさくなってきたし、この国も出てしまおうかという考えが一瞬浮かんだが、すぐに振り払う。
そういう『面倒だから』という理由だけで各地を転々とするのはよくない。それは下手すると敵を増やして終わる。今後にもよくない。
「ああ~、いっそ魔獣の群れでもセンブルに攻め込んでこないかなぁ……」
「それは不謹慎すぎだよクロノ君……」
作業台に突っ伏してうめくように呟くと、アイリに小さくチョップされた。
その時、そこそこの速さでこの作業所に向かってくる魔力を感じ取る。念の為立ち上がり、立てかけてあった剣を腰に提げる。
乱暴なノックがされた後、返事も待たずに扉が開かれた。
「クロノってのはいるか!?」
「自分がそうですが」
入ってきたのは、いつぞやのギルドにいた用心棒だ。受付嬢に怒鳴っていた冒険者を捻っていたのを覚えている。
「お前か。至急ギルドに来てくれって副ギルド長からの伝言だ」
はて。何があったというのだろうか。とりあえずアイリとライカは『お前マジでやったんちゃうやろな』みたいな目で見るのをやめて欲しい。
* * *
「よく来てくれた。そこに座ってくれ」
副ギルド長の部屋に案内されると、珍しく椅子を勧められた。今までは立ったまま話していたはずだが、何があったというのだ。
「失礼します」
とりあえずお言葉に甘えて三人ともソファーに腰かける。おお、この世界でソファーに初めて座ったが、意外と柔らかい。それでいて沈み過ぎない。いいソファーだ。
「さて……クロノ君。君を呼んだのは他でもない」
正面に座った副ギルド長がこちらをジッと見つめてくる。まるで品定めでもしているかのようだ。
「君は凄まじい戦闘能力を持っている。まるでサーガに出てくる英雄のようだ」
「恐れ入ります」
「そして礼儀も正しい。平民の出とは思えないぐらいだ」
なにが言いたいのだろうか。副ギルド長が紅茶を一口飲んでから、こちらを真剣な目で見つめてくる。
どんな依頼かは知らないが、こちらに断るという選択肢はない。この世界で権力が上の人が言った事は基本的に絶対だ。
どんな無茶ぶりをされても動揺しないように心がける。幸い、自分にばかり話が振られるので、ライカとアイリに無茶な注文がされる事はないだろう。
さあ、いったいどんな依頼なのやら。できうる限り答えてみせよう。それが自分の成り上がりにつながると信じて。
「君にはメイドになってもらいた」
「嫌です」
ちょっとそれは想定外すぎる。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
次の更新は水曜日になると思います。




