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第三十九話 魔石

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第三十九話 魔石


サイド クロノ



 あの後、切り取ったハーピーの首を持って街へと村人に報告へ向かってもらった。ライカとアイリは村の復興を兵士の到着まで手伝うそうだ。


 そして自分は、ハーピーの解体をひたすらしていた。まあ、正確には解剖なのだが、村人にそう伝えるわけにはいかないので、解体という事にしている。


 この世界、あまり解剖と言うといい顔をされない。人間の解剖は教会で禁止されており、それが何故とかどうしてとか知らない村人達は『解剖』という単語自体を忌み嫌っている。なんでも、邪教がよくやっているやつ。という認識らしい。


 前世で解剖なんてした事もなければ、これといった知識もない自分には解体と解剖の違いがよくわからない。あれだろうか。調べるために死体を切り開いて色々実験したり調査したりするのが解剖という解釈でいいのだろうか?


 とにかく、自分は魔力をためておく方法や器官がどうなっているのか知りたいのだ。村人に解体小屋を借りて作業を始める。今は村の復興で忙しいし、狩人も先の襲撃で怪我をしているという。そうそう見られる事はないだろう。


 まずハーピーの死体に指をあて、魔力を流し込む。そのまま体の中を循環させていく。その中で、とっかかりとなる部分があった。おそらく心臓だろう。血液には多くの魔力が馴染んでいる。その血液に対してポンプの機能をもつ心臓は魔力の循環にも大きく関わる。


 ここまでは知っている。では、その血液に馴染ませる魔力はどこから持ってきている?


 体を循環させていた魔力を心臓へと流し込む。こんな事生きている人間には出来ない。血液を逆流させるようなものだ。普通に死ぬ。そうでなくても何かしらの異常をきたす。


 流し込んでいった魔力が、どこかで止まる。いや、溜まっている?ある程度流したら溢れてきた感じがする。もしや、これが魔力をためておく場所か?


 魔力を流すのをやめ、ナイフでハーピーの死体を切り開いていく。思いのほかやりづらい。普通の鳥を捌いて食べた事はある。だがハーピーの胴体は羽毛や筋肉の付き具合以外は人に近い。当然ながら、人の体を捌いた経験なんてない。


 勝手が全然違う。ある程度血抜きを済ませてから解剖をしているのだが、もしも血を抜かずにやっていたらあたり一面血まみれになっていた。


 ようやく心臓あたりに到着し中を見てみたのだが、一見普通の心臓に違いはない。今までも食べられないかと思って魔獣の心臓を抉りだしたりしていたが、普通の生き物の心臓と違いが分からない。


 だが、確かに心臓へと魔力を流し込んだら魔力が溜まる感覚があった。早速心臓を切り開いていく。


「ん……?」


 心臓の中に、小指の先ぐらいの石が見つかった。なんだこれは?


 今まで結局魔獣の心臓は食べた事がない。ラプトルのを食べようとしたが、臭いし硬いしで一口噛んだ段階で無理だった。


 まさか魔獣の心臓にこんな物があるとは……。『錬金術』の知識で、魔道具の作成に魔獣の心臓を使われるというのはなかった。どちらかといえば骨が一番使われている。


 基本的に魔獣の心臓は捨てる場所だ。大半の内臓がそうだが。


 その灰色をした石を『魔力感知』で探ってみると、確かに魔力を感じる。先ほど流し込んだ自分の魔力だ。


「これが、魔力を貯める器官……?」


 見つけられた感動より、なんで『錬金術』のスキルから得られる知識にこれについてがないのが気になる。熟練度が足りないからか?それとも、錬金術師はこの石の存在を知らない……?


 しばらく眺めていたら、突然石にひびがはいった。


「えっ」


 みるみるヒビは広がり、あっという間に砕けたかと思うと、塵になってしまった。いったいどういう事だ。


 死んだら一定時間で消えてしまう?それとも心臓から抉りだしたから?わからない。謎を解こうとしたらまた謎に直面した。勘弁してほしい。


 もし死んである程度時間が経ったら塵になってしまう器官なら、他の死体はどうなっているんだ?ある程度先ほど切り開いた死体を片付けたら、次の死体に移る。こちらも魔力を流し込むと、同じ個所で魔力が溜まった感触がある。


 切り開いて心臓をバラシてみると、やはりあの石があった。だがm取り出して時間がたつと崩れてしまう。だいたい二十秒といったところか。


 また次の死体に。今度は魔力を流さず、最初っから心臓を切り開いて石を取り出してみた。今度は三十秒ほどで塵になった。


 ひたすらそれを繰り返す。検体用に持ってきた十体。そのうち五体の心臓を調べたが、どれも塵になった。


 で、残りの切り開かなかった五体の心臓。魔力を流し込んだ時、未だに溜まっている感触がある。死んでからの時間はそれほど先の五体とも変わらないはず。


 さらに、塵になる際の状況を、スキルを使って調べていたら『魔力感知』で空気中の魔力と石が何か反応したのがわかった。だが、どういう反応をした結果塵になるのかはわからない。


 ただ、あらかじめ魔力を流し込んでいた物と、流さずにそのまま出した物で塵になるまでの時間が違った。あと、空気中の魔力との反応も微妙に違う気がする。


 そして、残りの五体のうち、とりあえず一体心臓を抉りだして三十秒ほど放置して観察してみた。まだ魔力が溜まっている器官が残っている。それから一分、五分、十分と観察を続けているのだが、未だにあの石に該当する器官は残っている。


 もしやと思って切り開いた心臓、その石があった個所を調べたら、微妙に魔力の残り香を感じる膜のような物があった。バフを盛って自身の器用を底上げし、どうにかその膜を傷つけずに取り出してみると、石は塵にならずに残っているのがわかった。


 うん。色々わかった。けど色々わからない事もわかった。どうしよう、頭痛い。そもそも自分はこういうの得意ではないのだ。誰か頭のいい人に助けてほしい。


 いっそこれらの情報を持っていって代官に投げるか?いいや、それはダメだ。それでは魔力を電池みたいにする技術が代官の物になってしまうかもしれない。手柄は欲しい。


 ため息をつく。アイリやライカにも知恵を借りながら調べていくしかないか。


 その時、解体小屋の扉がノックされたので、慌てて石を隠す。


「はい、どうしました?」


「あの、解体に手間取っているようなら手伝わせてもらおうかと……」


 扉を開けてみると、そこにいたのは村人達だ。


「外に置いてあったハーピーは解体して、羽毛と爪をとり終わりました。肉は頂いてしまっても本当にいいんでしょうか?」


「ええ、大丈夫です」


 笑顔で返すが、内心舌打ちをする。向こうは善意で解体を手伝ったつもりなのだろうが、こっちからしたら検体を潰されたも同義だ。だが、ここでそれを言うわけにはいかない。自分が解剖に試みていたと知られれば、『ラック』全員がここら一帯の村人から後ろ指挿されかねない。


 というか、村人に聞いて驚いたのはハーピーが食べられる事だ。まあ、他の魔獣に比べて体が脆いとは思っていたが。あと、ちょっと臭いだけで耐えられるレベルというのも理由になるかもしれない。


「こちらのハーピーの解体はもうすぐ終わりますので、どうぞ皆さんは宴の準備や壊れた家の片付けの方を手伝ってあげてください」


「はあ、わかりました」


 去っていく村人達を見送り、扉をしめてハーピーの解体に移る。これ以上時間をかけては怪しまれる。しかたないので、解剖はここまでだ。


 だが、こっそり心臓と膜にくるまれた石、石だった塵を集めてそれぞれ袋に入れる。これだけでも持って帰って調べなければ。


 それにしても、どうしたものだろうか。心臓もこの膜も、たぶんすぐに腐ってしまうだろう。そうなったら中の石も塵になってしまうのではないだろうか。


 乾燥させてみるか?試してはみるが、あまり期待はできないだろう。


 ホルマリン漬けにしてみようか……どうやってホルマリン手に入れるんだ……。


 どうにかこの膜を再現できないか……いやこの膜結局なんなんだよ。まずそれを調べないとどうにもならねえよ。


 そもそも、検体というには十体は少なすぎた気もする。かといってどれぐらいの数を調べればいいのか分からない。わからないだらけだ。


 とりあえず、この石は『魔石』とでも呼んでおこう。前世でやったゲームでは、モンスターから出てくる石は魔石と呼ばれていたし。


 ああ、いったい魔力のバッテリーみたいなのは、いつになったら出来るのやら……。



*     *      *



 あの後、副ギルド長に『お前らマジか』という顔をされたり、代官からお褒めの手紙を貰った。だが、それ以上に驚いた事がある。報酬だ。


 魔獣の調査と討伐。これらの報酬でまず金貨が八枚。そして、ハーピーの羽根と爪、卵の代金が、なんと金貨七枚。なんだよ七枚って。


 合計で金貨が十五枚。一人頭金貨五枚だ。なんだこれ。しばらく遊んで暮らせる。いやまあ、ハーピー退治に軍隊を動かすとなったらもっとかかるのだろうが、それでもこの額はそうそう見ない。というか、ダンブルグで活動していた時は、数カ月かけてようやくこれよりちょっと多いぐらい稼いだのだが……やはりあの店主、ちょろまかしていたな。


 まあダンブルグなんぞどうでもいい。とりあえず固まっている二人を起こさなければ。


「ライカ、アイリさん。起きてください」


「はっ!?夢!?」


「なんか金貨がたくさんあった夢を見た気がする……」


「向き合いましょう、現実と」


 その後、『こんなに貰えない』『私達はそこまで働いてない』と受け取りを拒否する二人に、強引に金貨を握らせた。こういうのは『誰々が活躍したから~』とか言い出して、実際それで実例つくると後で色々面倒なのだ。てっとり早く三人で割れるなら割ってしまった方がいい。


 それにしても金貨五枚。間違いなく大金だ。さて、このお金。いっそ魔石の研究にでも費やしてみるか。


 まあ、おそらくこの金貨五枚でも足りないだろう。それこそ、数年、数十年とかかるかもしれない。研究を続けていくだけの予算を手に入れなければ。今後も積極的に魔獣を狩っていこう。



*      *       *



 一カ月後。なんか、出来た。




読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


次の更新は水曜日になると思います。

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[良い点] 展開が早くていい まあ後一年でアレだし仕方ないね
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