第三十八話 糞
第三十八話 糞
サイド クロノ
自分が木片でいじっていたのは、ハーピーの『糞』である。
何故かと言えば、わずかにだが魔力が残存していたからだ。といっても、残り香レベルですぐに霧散してしまうが。
鳥は空を飛ぶために体を軽くするため頻繁に糞をすると聞いた事がある。それがハーピーにも適応されるかわからないが、少なくとも村のあっちこっちに糞がされていた。
すぐに村長にその事を伝えると、念の為アイリを村に残し自分と狩人の娘だったライカで森に入る。
ハーピーの飛んで行った方角には所々糞が落ちており、それを『魔力感知』で追跡する。すぐに魔力が霧散してしまうので、とにかく急がなければ。
それにしても、まさか排泄物にも魔力が微かとは言え存在するとは。まあ、血や精液の類には大量に魔力が含まれていると、魔法の知識として頭に入っているが、まさかそこまでとは……。
「クロノ君、この糞を追ってるの!?」
「はい。さきほど村長に伝えた時話しましたが、微かにだが魔力が残っています」
「わかった。私も探すよ」
「お願いします」
よその森とはいえ、狩人の娘。こういう時は頼りになる。自分だけでは魔力の痕跡を見失う可能性もある。だが、ライカが目視で見つけてくれるなら頼もしい。
森に入ってから一時間近く。ようやく『魔力感知』がハーピー本体の魔力を捉えた。反応からして数は二十と少し。おそらくこいつらが村を襲った奴らだろう。
魔力を抑え『気配遮断』も使って巣に近づく。ライカは後方で待機してもらっている。
木々の隙間からハーピーの巣を観察する。下からだとよくわからないが、木に登って見ていては気づかれる。できれば奇襲したい。ざっと見た感じ、背の高い木の上に巣を作っているようだ。
これでは切り込みづらい。最悪、巣を放棄して逃げられかねない。ラプトルの時感じた卵に似た反応もある。いっそ卵、あるいは雛を人質ならぬ魔獣質にして逃げるのを抑えるか?いや、鳥が卵を温めるのは単純に卵の上が気持ちいいからという説も……。
困った。とりあえず一度ライカの所まで戻る。
「あ、クロノ君。どうだった。なんかこっちまでハーピーの鳴き声が聞こえてくるんだけど」
「はい。あっちに巣がありました。ただ、巣が高い所にありまして。ちょっと切り込むのは難しいですね」
「うーん……いっそ次にハーピーが襲撃して来たら無味無臭の毒を塗った餌でも食べさせるとか?」
「いや、いつになるか分かりませんし、そう都合よく必要量の毒を集めるのは大変かと……」
「だよねぇ……」
中々いい考えが浮かばない。やはり軍を呼ぶしかないのか。また村が襲撃されるだろうが、それはどうにか自分が持たせるしかない。二人にはハーピーの死体の一部でも持って行ってもらえば、魔獣がいた証拠になるし軍を送る話も早くなるだろうか。
考えながら、スキルツリーに何か使えそうな物がないか探してみる。飛んでいて、逃げるかもしれないハーピーを皆殺しにする方法……。
「あっ」
「どうしたの?」
「この前代官様の所で話した異能で、使えそうなのがありました」
スキル『魔力誘引』。効果は、放出する魔力を調整して魔獣に自分を美味しそうに見せる。威嚇だったり自分を強く見せるためだったりで魔力を放出していたらロックが解除されたようだ。
スキルの詳細を話すと、兜越しでもライカが眉を八の字にするのがわかった。
「え、それクロノ君危なくない?」
「危なくはありますが、ハーピーの身体能力相手なら何とかなるはずです。まあ、それでも石や火を落とされるのは怖いので、場所は選びたいですね」
別れて周囲を捜索していくと、巣から十分ほどの所に洞窟を発見した。そこそこ大きい。一人なら剣を振り回せそうだ。ライカには洞窟の脇で隠れていてもらい、自分は洞窟の外でスキルを発動する。
すると、『魔力感知』でハーピーたちが一斉に飛び立つのがわかった。ついでに、何故かライカの息づかいが荒くなる。
「あの、ライカ?どうしたんですか?」
「クロノ君」
「はい」
「後でお尻撫でさせて。あと乳首吸わせて」
「なんて?」
「なんでか分からないけど、元々セクハラしたいと思ってはいたけど、今のクロノ君はいつも以上に美味しそうで……!」
え、なんで魔獣を引き寄せるスキルに反応してるんだこの人。……もしかして、エルフって亜人というより魔獣の一種だったりするのか?
いや、今はそんな事はどうでもいい。
「ライカ。後でいくらでもセクハラしていいですからその辺に隠れていてください。援護が必要になったら呼びます」
「ほ、本当!?約束だからね!?」
森にライカが隠れてすぐ、ハーピー達がやってきた。それを目視すると、洞窟内に入り剣を抜く。
普段のハーピーなら、村での襲撃を見た限り洞窟内の相手はどうにかしておびき出そうとするだろう。だが、スキルのおかげで不利を一目で分かりそうな洞窟に次々突入してくる。中にはハーピー同士でぶつかって地面に落ちる奴までいる。
飛んで洞窟内に入ってくるもの。地面に足をつけて走り込んでくるもの。とにかく切り捨てていく。洞窟の入口がハーピーの死体でつまりそうになると、蹴り飛ばして強引にスペースを作る。
戦闘開始から十五分。たったそれだけの時間でハーピーは切り伏せた。
さて、木の影からこちらをハアハアと見つめてくる鎧は、どうしたものか……。
* * *
もぬけの殻となったハーピーの巣を見に行く。ライカはスキルを止めたら落ち着いたようだ。……視線が自分の乳首で固定されている気がするが。
木を登って巣を覗くと、案の定卵があった。ラプトルの時は高く売れたが、ハーピーの場合どうなるのだろうか。
とりあえずライカに村へとこの事を伝え、手の空いている人がいたら運ぶのを手伝ってほしいとお願いしにいってもらった。
その間自分はハーピーの死体を一か所に集めていった。
それにしても、ハーピーの死体を見ていて思ったのだが、一応メスとオスが存在するのか。まあ、ゴブリンも分かりづらいだけでメスがいたから、当然とも言える。やはり、前世のイメージで考えてしまうのは色々問題があるかもしれない。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
次回の投稿は月曜になるかもしれません。




