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第三話 都市『アルパス』

第三話 都市『アルパス』


サイド クロノ


 盗賊を放置した場所からしばらく離れたところで森に入り、戦利品を確認する。

 あまり整備されているとは言い難い片手剣とナイフ。だが、鉄製の道具はそれだけで本当にありがたい。ここまで基本的に石器ばかりだから大変だったのだ。石包丁なんてすぐ壊れるから実質使い捨てだ。

 次に財布。大鉄貨が二枚に鉄貨五枚、しけている。まあ金があったら盗賊なんてしないか。

 この国の貨幣は商人と村人の会話で覚えた。『鉄貨』『大鉄貨』『銅貨』『大銅貨』『金貨』『大金貨』とある。幸いここも十進法らしく、鉄貨十枚で大鉄貨、大鉄貨十枚で銅貨となっている。銀貨はない。

 リンゴ一個が鉄貨七枚だったが、村人は高いと愚痴を言っていたので本来の相場はよくわからない。だが、なんとなく最近相場が上がっている雰囲気だった。

 後は衣服と靴だ。当然サイズが合わないが、今のボロよりはマシだし大きさは調整すればいい。

 周囲を警戒しながら早速服を盗賊の物に着替える。袖はまくって元々着ていた服をほどいて用意した糸を針(ウサギの骨製)で縫い留めて調整し、裾は腰布を縛って調整する。肩幅は……不格好になるが縫ってどうにかするしかないだろう。

 靴の方だが、何かの革で出来ているようだ。革靴と聞くと高そうだが、この世界だと靴は布か革の二択で一般で売られているのはそこまで高くない。

 というのも、日本で売られている物と違って作りはよくないし内側にほとんど何もされていないのだ。布が一枚貼ってあるぐらいだ。

 まあ、それでもはだしよりはいい。最初の頃は石や木片を踏んで痛がっていたが、いつの間にか皮が厚くなって気にならなくなった。

 靴の方はひもをほどいた後、履いてから調整する。それでも少し大きい。一度脱いで、ボロを詰めてからはいた。少し歩きづらいが、だいぶよくなった。後でこの布を使って靴下を作ってもいいかもしれない。

 臭いし不格好だがそれでも服らしい服だ。ついに(この国基準で)まともな格好ができた。これは嬉しい。

 体温の保護や怪我の防止にもつながるだけでなく、服というのは社会的信用にもダイレクトに関わる。いやぁ、元の格好だとそもそも街に入れるだろうかと不安だったのだ。

 腰に剣とナイフを挿し、荷物を背負って街道を進む。さて、街はいったいどんなところなのだろうか。


 街道を二日ほど進むと、街が見えてきた。『魔力循環』と『強化魔法』を併用して走って時間を短縮したのだが、それでも少し遠かった。

 あの後も盗賊に二度襲われたが、どちらも石を投げて撃退した。ついでに財布も頂いたので、現在所持金は鉄貨十七枚に大鉄貨六枚だ。最後の盗賊が一番持っていた。

 街は六、七メートルほどの壁に囲まれており、中の様子はわからない。壁の周りにはあまり深くないが堀があり、門には門番らしき人影がある。

 門の前には人の列があるから、検問だろうか。


「よし、通っていいぞ」

「荷物を改めさせろ………よし、通れ」


 列に並んでみるとそう聞こえたので、やはり検問のようだ。


「通行証を見せろ」


 そんな声が前の方から聞こえてくる。しまった通行証が必要なのか。目を凝らすと、割符みたいなのをわたしている。ああいうのがあるのか。

 だが、どうやら全員が持っているわけではなさそうだ。


「通行証はありやせん」

「なら通行料だ。大鉄貨三枚」

「た、高くないですか?」

「払えないなら通るな」

「わ、わかりやしたよ……」


 そんな会話も聞こえてくる。よかった、夜中に壁を越えなきゃいけないという事態は避けられた。


「次、こい」

「あ、はい」


 そうこうしているうちに自分の番になる。


「ガキ?なんで一人でいる?」

「親がいないもので、働き先を求めてここに来ました」


 考えていた理由を告げる。まあ嘘ではない。

 九歳で、とも思うが、この国ではもっと下の年齢で働き始めるのも珍しくない。前に村に来た商人のところで自分より年下の子が働いているのを見た。


「ふーん……体でも売りに来たのか?」


 門番が下ひた顔で嘗め回すように見てくる。正直不快だ。

 というか、性別を間違えられているのだろうか。まあ髪を切るのが面倒で後ろ髪は紐でくくるだけにしているが。


「僕は男です。冒険者になりに来ました」

「へえ、男だったのか。冒険者になるより体売った方が儲かると思うぜ」


 門番の下ひた顔は変わらない。

 そうだった、この国は男同士のそういうのにやたら寛容だったのだ。村でもそういう話をきいたし、盗賊も不穏な事を言っていた気がする。

 ちなみに、男同士は嗜みみたいな扱いなのに女同士は宗教的にNGらしい。よくわからない。


「どうだ、なんなら俺の部屋に泊めてやっても」

「おい、後ろがつっかえてるぞ」

「ちっ」


 他の門番に言われて、ようやくこの門番も仕事をはじめた。


「通行証をだせ。ないなら大鉄貨三枚だ」

「はい。大鉄貨でお願いします」

「……よし、通れ」


 荷物を調べられるかと思ったが、そんなことはなかった。というか全員を調べているわけではないらしい。

 もしも調べられた時用に石鹸を袋の底にしまって上から布を縫い付けておいたのだが、無駄になったようだ。

 壁の内側に入ると、よく異世界物で見るような街並みが広がっていた。


「おおっ……!」


 まさに異世界って感じだ。というか文明を感じる。

 ついあたりを見回しながら歩いていたから、人にぶつかりそうになる。


「あ、すみません」


 相手はかまわず歩いて行った。というか村の人間に比べて皆歩く速度がちょっとだけ早い。

 いつまでも門の近くにいるわけには行かないので、街の中を進む。


「らっしゃい、らっしゃい!今日は魚が安いよ!」

「見てくださいこの剣!かの有名なアレクサンドロスの弟子が鍛えたという」

「お姉さん、ちょっと見てってよ!この布いい色だよ!」


 村と比べて随分活気がある。だが、現代日本を知る者からするとかなりスカスカだ。まあ、技術レベルを考えたら物流も物の消費量も全然違うから当然か。


「すいません、リンゴを一つください」

「あいよ、鉄貨五枚だ」


 思っていたよりは安い。だが、通行料もあって今後は考えて買わねば。


「ところでおじさん、冒険者の組合?みたいなのってどこにあるか知りませんか?」

「あん?それならここをまっすぐ行った後、右に曲がったらすぐだな」

「ありがとうございます」


 店の店主に礼を言って道を進む。歩きながらリンゴをかじる。

 固い。酸っぱい。甘くない。だが、果物の味だ。日本のものをイメージして食べたからまずく感じただけで、今までの生活を考えればおいしい。

 言われた通り進んでいくと、それっぽいところについた。文字では書いていないが、剣が交差する看板はそれっぽい。


「おじゃましまーす……」


 緊張して小声で中に入る。なかはテーブルがいくつも並び、革鎧を身に着け武器をおびたガラの悪そうな人たちが話し合ったり酒を飲んだりしている。

 目立たないようにこそこそとカウンターまで進んでいく。視線は感じるがとくに止められたりはしない。


「すいません、冒険者になりたいんですが」

「………名前は」


 不愛想な店主らしき人物がコップを磨きながらきいてくる。


「クロノです」

「歳は」

「九歳です」

「そうか。登録料は鉄貨二枚だ」

「はい」


 金を受け取ると店主は奥に引っ込んだ。手持無沙汰に待つこと五分ほど。店主が戻ってきた。


「ほらよ」

「おっと」


 投げわたされた物を咄嗟に受け取る。鉄のプレートに『クロノ』と彫られ、裏側には三本の線が引かれている。なんとなくドッグタグっぽい。


「鉄の三級からだ。なくすなよ」

「え、あの、鉄の三級ってなんですか?」

「注文は?」

「………ミルクってあります?」

「大鉄貨三枚と鉄貨二枚」

「はい……」


 高い。すぐにミルクを出される。一口飲んでみるが、やはり日本のものに比べるとえぐみがある。


「冒険者のランクは下から鉄の三級、二級、一級。次に銅の三級から一級。その次に銀の三級から一級。最後に金だ。普通の冒険者が生れるのは銅までだ。銀からは商人やギルドマスター、貴族なんかが便宜上もつ場合があるだけだ」


 それだけ言い終わると、店主はまた仕事にもどってしまった。

 だが、なるほど。だいたいわかった。ランクを上げるにはやはり信用と実績をつんでいく必要がありそうだ。定番的に。


「あの、仕事ってありますか?今お金がないので」

「ん」


 店主は顎で指す先には壁に直接チョークのようなもので色々書き込まれていた。あれが依頼なのだろうか。


「文字は読めるか」

「え、はい、一応」

「なら説明はいいな」


 いや説明しろよ。ミルク買ったんだからもう少しぐらい喋ろうよ。


「あれを受ける場合は貴方に言えばいいんですか?」

「いちいちやってられるか。直接依頼人と話せ。あと、依頼の下に名前を書いていけ」


 それだけ言ってまただんまりだ。説明は終わりという意味だろう。これ以上聞くとなるとまた何か注文させられる。


「ありがとうございました」


 一応例だけいってミルクを一気飲みする。少しもったいないが、味わって飲むのも微妙だ。

 コップを置いて壁に向かう。近づくと掲示板と言われれば掲示板っぽい。


「えっと……」


『下水処理 *定員十名 報酬:一日大鉄貨五枚 依頼主:アルパス役場』

『納屋の解体 報酬:大鉄貨三枚 依頼主:モールズ』

『薬草採取 報酬:鉄貨七枚 依頼主:メルヌス』


「うーん………」


 依頼の相場がわからない。というか今のところ一番高いのが下水処理だ。依頼主も役場とあるから、異世界物である報酬の未払いもないかもしれない。

 ただ、下水処理はマジで辛いのだ。

 村にいた頃、共用のトイレは自分が処理していた。現代日本の様に水洗ではなく、ぼっとんトイレだ。汲み取り作業が臭いし重いしで大変だった。正直二度とやりたくない。

 だが、今後の生活を考えるとやりたくない仕事もやるしかない。そう思って名前を書き込もうとして、気づく。


『畑にくる害獣の撃退三日間 報酬:銅貨二枚 食事つき 依頼主:ガメル村』


「これは………!」


 三日で銅貨二枚。しかも食事つき。正直怪しい。だが、目が離せない。

 害獣の撃退。どんな害獣なんだ?報酬はちゃんと払われるのか?難癖付けられて減額されないか?誰もこの依頼を受けていないのも気になる。

 だが、自分なら熊までならどうとでもなる。いざとなったら緊急用にためておいたスキルポイントを使って新しいスキルを取るなり熟練度を上げることもできる。


「あっ」


 そうこう迷っているうちに下水処理に別の人が名前を書いてしまった。これで定員の十人だ。

 これはもう、この依頼を受けるしかない。

 依頼の下に名前を書いて、先ほどの店主のところに行く。


「すみません、ガメル村ってどこですか?」

「注文……いや、お前あの依頼をうけたのか」


 店主は少し考えた後、にやりと意地の悪い顔を浮かべる。


「街道に出てすぐ十字路がある。そこで西に向かえば徒歩で一日の場所にある。すぐに向かえ」

「え、ありがとうございます」


 いやにあっさり教えてくれた。新人へのサービスか?それとも何か裏があるのか?

 疑いの視線を向けるが、店主はさっさと仕事に戻ってしまう。こちらは完全に無視だ。いや、ちらりとこっちを見たかと思うと、笑いをこらえるように肩を震わせる。

 絶対なんかあるわ。

 だが、教えてくれる雰囲気でもないので言われた通りすぐに向かう事にした。街についたのだから一泊ぐらいしたかったが、仕事が優先だ。

 冒険者ギルドから出る際、入った時より視線が増えていた気がする。


 門に向かい、門番の人にガメル村のことを聞くことにした。もちろん、入るとき話した門番とは別の人だ。

 街を出る方の列に並び、順番を待つ。今気づいたのだが、冒険者っぽい人が出る時あのドッグタグを見せている。

 視線を入る側の列に向けると、よく見たら通行証の代わりにドッグタグを見せて通してもらっていた。これって、通行証にもなるのか。

 大事にドッグタグを首にかけていると、自分の順番が来た。


「次」

「はい」


 前に出ながらドッグタグを見せる。


「……よし」

「あの、お忙しい中すみません。ガメル村についてきいてもいいですか?」

「あん?」


 門番は顎をなでながらこちらの顔を見てくる。


「なんだお前、あの村に行くのか」

「はい。街道に出て十字路で西に向かうときいたのですが」

「ああ、それであっているぞ」

「……ちなみに、どういう村とかってあります?」

「いや、特にこれといって聞いたことないが……」

「そうですか、ありがとうございました」


 門番に礼を言って街を出る。

 さて、あの様子だとガメル村はいい噂も悪い噂もなさそうだ。道もあっているぽい。なら、あの店主の含みはなんだ?もしかして本当に初心者サービスなのか?

 考えを巡らせながら十字路で西に向かう。しばらく歩いて人の目がなくなってきたところで、ゆっくりとペースを上げていく。

 歩いて一日らしいが、早速なので流す程度の速度で走ってみよう。それに野宿より村の中の方がいい。


「『筋力増強』『精密稼働』」


 バフをかけて走る。さて、これで馬なみになったと思うが、どれぐらいでつくだろうか。


*    *     *


 道中、あの時の盗賊ラッシュが嘘のように何もなかった。おかげで、日が落ちる前に村に到着した。

 村の見張りに依頼を受けた冒険者だというと、露骨にがっかりされた。


「子供かよ……」


 というか口にも出していた。

 まあ気持ちはわかる。誰だってこんな子供よりいかにも強そうな冒険者に来て欲しいだろう。

 見張りの人に案内されて村長の家に向かう。出迎えてくれた村長は人のよさそうな老人だった。


「おお、君が依頼を受けてくれた冒険者かい」

「はい。クロノと申します。よろしくお願いします」

「はは、礼儀正しい子だ。早速で悪いが、今晩から頼めるかい?」

「……わかりました。ですが、少し仮眠を取らせてもらってからでいいでしょうか?」

「構わないとも。うちの客間を使ってくれ」

「ありがとうございます」


 そう言って村長が中に迎え入れてくれた。よかったいい人そうだ。


「村長……まだ……弱そう……」

「いい……餌……になれば……」


 村長と見張りの人が何か話している。よく聞き取れないが、なんか不穏なこと言わなかった?餌?もしかして邪教の生贄にされる感じ?

 その後、客間とやらに通されてひとまず椅子に座って息を吐く。

 この依頼、大丈夫だろうか。


読んでいただきありがとうございます。

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