第三十七話 ハーピー
第三十七話 ハーピー
サイド クロノ
ギルドから受け取った情報をもとに自分達は行動した。今回向かったのはセンブルから東側にあるヨトス村だ。まあ、この国で魔獣被害と言ったらダンブルグ王国の方向なので基本的に東側だが。
目撃情報があったのはハーピーである。ハーピーと言えば顔と胴体が美少女な鳥人間だが、この世界では魔獣の一種らしい。よくエッチなゲームに出ていたが、ゴブリンの件もある。想像通りとはいかないかもしれない。
「え?ハーピー?」
ギルドで聞いても良かったのだが、依頼を受ける際の様子からある程度ライカ達も知っているようだったので移動中に聞くことにした。魔獣との戦いは時間がカギになる。なんせ、下手に時間をかけていたら村が消えているかもしれないし、魔獣も移動しているかもしれないのだ。
「はい。戦った事がないので」
「まあ私達も直接見た事はないけど、たまにサーガに出てくるね。凄く嫌な魔獣として」
「嫌な?」
強力や狂暴ではなく、『嫌な』という表現にひっかかる。
「そう。力は弱いし、頑丈さもそれほどじゃない。普通の弓矢でも射殺せるぐらい。ただし、あいつらは空を飛ぶんだよ。しかも群れで」
「うん。その上ある程度知能があるから石や火のついた枝を落としてくるし、子供を集中的に狙うんだ。サーガでもとにかくいやらしい戦い方をしてくる卑怯なやつだよ」
「なるほど……ちなみに、見た目はどんな感じなんですか?」
「え?なんというか、鳥人間?」
「吟遊詩人の人によって変わるんだけど、共通しているのは胴体と太ももあたりの骨格が人間に近いって言われているね。まれに人面のもいるらしいけど」
ライカの様子からして、少なくとも少女の姿をしているという事はなさそうだ。もし美少女みたいな姿だったら、絶対反応している。
いつもの様に三人でひたすら走って向かう。やはりなにか移動手段が欲しい。人目を考えたら馬がいいのだが、馬では遅い。しかもライカ達にいたってはパワードスーツの分重いのだ。
そのうちどうにかしないとなぁ……。
* * *
センブルから走って三日。おおよそ裸の馬が走ったのと同じぐらいの時間で到着したのだが、少し遅かったらしい。
「村が!?」
ライカが悲鳴を上げる。村のあっちこっちに火がついている。それを何とかしようとしているのか、それとも逃げようとしているのか、村人達が外に出ている。
そして、その村人達に上空から襲い掛かる生物がいる。おそらくあれがハーピーだろう。何かを上から落としたり、自身が急降下して人に爪を突き立てている。
「先行します。二人は到着次第火のついてる場所の消火を」
「わ、わかった!」
荷物をアイリに投げわたし、足に魔力を集中させて加速しながら自身にバフを盛っていく。
近くに行けば行くほど人の悲鳴が良く聞こえる。というか、なんで村人は教会に逃げ込まない。あそこなら石造りだしそうそう燃えないだろうに。
「くそ、食糧庫の火を消せ!」
「ちくしょう!ちくしょう!」
「あそこがなくなったら、俺たちは!」
「女子供は教会に行け!男は弓でも石でもいい、あのクソ鳥共を落とせ!」
聞こえてくる声でだいたい察した。たしかに、食糧庫が燃やされたら逃げるどころではない。飢えて死ぬ。
あいにく青魔法は習得していないし、火の制御は魔法陣を使わないと無理だし、その暇はない。比較的無事そうな家の屋根に飛び乗り、村の状態を確認する。
村の中央で石や弓矢で対抗している男たちがいる。ハーピーは一部がそちらに対応しているだけで、ほとんどが逃げる子供や老人を狙っているようだ。
一匹がこちらに向かってくる。ライカ達の言っていた通り、胴体と太もも周りの骨格のみが人に近く、それ以外は猛禽類をそのまま人間大まで大きくしただけだ。
よかった。躊躇なく殺せる姿で。
近づいてきたハーピーを即座に切り捨てる。強度は人間並みかちょっと上ぐらいか。投石だけで十分殺せる。
村の中央に一足で跳んでいき、着地してすぐ集められた石を手に取る。
「おい、どこの子だ!教会に逃げてろ!」
周囲の村人を無視して、ハーピーに狙いをつける。
「『鷹の目』」
バフを切り替えて投げつければ、一撃で撃墜できた。そのまま続けざまに石を投げていく。狙うのは村の中央ではなく教会の前で待ち構えている個体だ。近づいてくる奴は他の村人の攻撃に逃げていくし、かいくぐって来たのなら素手で縊り殺すまでだ。
「す、すげえ……」
「手を止めないでください!可能なら数人で石を集めてきてください。絶対一人は上を警戒しながらです」
「なんだと、子供が偉そうに」
「よせ、村の子じゃない。それに今は正しい。行くぞ」
何人か石の補充に行ってくれた。その間に自分はひたすら投げ続ける。ハーピー達も狙いを自分に変えてきたが、むしろ好都合。狙いやすくなったので石を簡単に当てられる。
バフによる視力の強化だけではなく『空間把握』もある。村の中ならどの個体がどういう動きをするかおおよそ把握できる。
分が悪いとみたのだろう。最初に来た時から半分以上数を減らすと、ハーピー達は森へと逃げていった。
石を投げていた男たちは歓声をあげるが、体格のいい男の一声ですぐに消火活動と怪我人の様子を見に行った。あの男性は石の補充に率先して動いてくれた人だ。この村の有力者なのだろうか。いや、今は考えている時ではない。
必死に消そうとしていた食糧庫の火は、どうやらライカとアイリが水瓶をひたすら運んで消したらしい。自分は教会の前に行き、怪我人を診る。
頭から大量の血を流す子供。肩を抑えて泣いている少女。顔を覆っている手の隙間から血を流す老人。教会の前はギリギリ死んでいないだけの怪我人だらけだった。神父らしき老人が包帯や薬で治療をしているが、とても間に合っていない。
「失礼します。『中位回復』」
とりあえずピクリとも動かない頭から血を流す子供に『白魔法』を使う。出し惜しみしている場合ではない。どうせ代官にはバレているのだ。まあ、バレていなくとも人として使う場面だが。
「お、おいあんたなにしたんだ?」
「嬢ちゃん!今のをうちの母親にも頼む!」
「魔法か!?た、助けてくれ、血が止まらないんだ!」
それを見ていた村人が近付いてくるが、無視して魔力を放出する事で黙らせる。
「落ち着いてください。怪我の重い人から治療します。大丈夫です、全員治します」
トリアージの知識なんてない。なので、とにかく頭に怪我をしている人と、出血がひどい人を中心に治療していくしかない。
「クロノ君!」
アイリがこちらに走ってきた。ちょうどいい。彼女はパチモンの自分とは違いちゃんとした薬師の孫だ。
「アイリさん。この中から怪我が重い人。すぐに治療が必要な人を教えてください」
「わかった」
一刻を争う。彼女もそのつもりで来ていたのか、すぐに行動してくれた。
* * *
どうにか、教会の前に集められた怪我人の治療は終わった。その場にいた人に死人はいない。だが、自分が到着する前にハーピーに空から落とされたり、石で亡くなった人たちもいた。
消火の方も終わったようだ。ライカはそちらを手伝っていたらしい。
自分達は合流した後、村長の家に来ていた。あっちこっち燃えていたようだが、村長の家にはそこまでの被害はなかったらしい。
「遅れてしまいましたが、村を助けていただき本当にありがとうございます」
頭を深く下げた村長が、恐る恐るこちらを見てくる。
「それで、貴方達はいったい……?」
「我々はセンブルのギルドからやってきた冒険者です。魔獣の目撃情報があったとの事なので、調査に伺いました」
「な、なるほど……ハーピーは今回あなた方のおかげで撃退できたわけですが……また来る可能性は……」
「あるかも、しれません」
村長も薄々そう思っていたのだろう。小さく「そうですか……」とうなだれている。
厄介なのは、ハーピーが空を飛んでいる事だ。地面を動いているのなら、魔力を追って巣を見つける事も出来る。だが、空を飛んで森に巣を作られてはどう探していいかわからない。
「ハーピーは小賢しい魔獣です。自分達から仕掛けておいて、報復も考えるかもしれません。急ぎ街に戻って軍を派遣してもらうしか……」
こうなったら人海戦術で巣を見つけ出すしかない。
「お、お待ちを。あなた方に行かれたら、この村は……」
村長の心配ももっともだ。正直、先の襲撃時自分達がいなければハーピー側の勝利だっただろう。そして、今回で数を減らせたとはいえ襲撃するタイミングを決められるのは向こうだ。こちらが不利すぎる。
「お気持ちはお察しします。しかし、襲撃を待つだけではまた被害がでます。次は何人死ぬかわかりません」
「……はい」
「ライカさん、アイリさん。お二人で急いで街に向かってください。自分はこの村の防衛につきます」
「わかった」
「うん」
本当は自分が走っていくのが速いのだが、パワードスーツの構造上石を投げたりするのは適していない。ついでに二人のコントロールも未知数だ。
村長の家を出て、村の入口に向かおうとする。その途中、ある物を見つけた。最初は無視して通ろうとしたが、『魔力感知』が反応したのだ。
すぐに使づいて、消火の時に出たのだろう。長めの木片でいじってみる。
「え、クロノ君?」
「あの、今遊んでいる暇はないんじゃ……」
二人ともドン引きしているのがわかるが、これはかなり重要は気づきだ。
「二人とも、街に向かうのはなしです」
木片を放り捨て、森の方を見る。その間にいくつも先ほどいじっていた物がある。
「ハーピーの巣を潰します」
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
諸事情により今まで通りの投稿は出来ないかもしれません。申し訳ありません。




