第三十六話 魔力の貯蔵
第三十六話 魔力の貯蔵
サイド クロノ
この前の代官との話で考えた。『あれ、わりと自重とかしなくてもいいんじゃね?』と。
だってこの世界、普通に転移者やら転生者が存在するらしいのだ。じゃあ多少はっちゃけてもいのではないか?具体的に言うと、パワードスーツの量産、ちょっと考えてもいいんじゃない?
だってあれ、軍事的にも一石投じる物なのに、農業や土木にも転用できるんじゃね?やっぱ純粋にパワーがあって頑丈な物は正義だって。
そもそも、自分の目的は成り上がる事。それを考えると、ひたすら冒険者として名を上げるだけ、というのは芸がない。そもそも、そこまで冒険者が活躍できる環境という段階で国として危険ではないだろうか。
というか、冒険者の現実はダンブルグでもう知っている。
なら、あくまで冒険者稼業は資金集めとコネづくりと割り切り、パワードスーツの量産性を上げる方向にシフトするのもありでは?
かつてパワードスーツを広めたら自分がひたすら馬車馬のように働かされるだけと考えていたが……量産型とは、当たり前だけど量産できるから量産型なのだ。何が言いたいかと言えば、たとえ大人数で作る事になったとして、ラインを作って制作するべきだ。
生産性の向上により、一般の職人を複数投入して、そして部品の組み立てぐらいならその辺の農夫でも練習すれば出来るようになるのが望ましい。そこまで持っていければ、自分が必死こいて働く必要もなくなるのでは?
だが、それには金が必要だ。そして、場所や人を集めるためのコネも必要だ。現代日本と違ってネットで募集とか出来ないし。
なら、そのために冒険者として活動するのもありかもしれない。魔法が使えたり計算ぐらい出来たとしても、この世界では学のない孤児であることは変わりない。
という考えをライカとアイリに話してみた。
「え、えっと……クロノ君、色々考えているんだね」
「私達、ただサーガになるぐらい有名になって、村の人達を見返したいぐらいしか考えてなかったし……」
なんか二人ともへこんでいるが、自分もそこまで深く考えているわけではない。捕らぬ狸の皮算用と言われても反論できない。そんなホイホイ量産化が出来るわけがないのだ。
「いや、僕はこれでも前世は二十歳超えてましたし……何より、量産化には問題が多すぎるんですよねぇ……」
現状、パワードスーツ装着に求められるスペックは現役軍人並みの身体能力と、平均的な魔法使いレベルの魔力量。他にも色々あるが、とりあえずこの二つが大きい。
前者はまだいい。たぶん最初は戦闘用に作られるだろう。それからダウングレードさせて行って民間の作業に使っていく事になるだろうし。
ただ、魔力量の方が問題だ。これは個人の資質が大きく関わってくる。これでは量産型など夢のまた夢。そして、普通魔力があるのなら魔法使いを目指す。まあ、魔力をたくさん持つ人ってそもそも魔法使いの家の出で、たいてい貴族の家か貴族と関係のある家だ。
そして、魔法使いや貴族が最前線でパワードスーツを着て戦うなんてありえない。そんなのほぼ負け戦だ。
魔法使いはどちらかと言えば研究者であり、貴重な魔法薬の作り手でもあるのだ。ドラゴニュートの時は、ああしなければ街が滅ぶから壁の上まで強引に連れてきたのだろう。
ではどうするか。必要魔力量を減らすか、いっそ電池みたいに魔力を貯めておける物を作り出すか。……前者は難しい。普通の人間がもつ魔力量に合わせるとなると、とてもじゃないがまともに動かない。
後者も難しいが、前者よりはまだ希望がある気がする。何より、もし実現できればかなりの恩恵があるだろう。
ならどうやってそれを作るか。それはまず魔獣や魔法使いがどうやって体内で作り出した魔力を貯蔵しているかという話になる。
「よし、決めました」
「え、なにが?」
「魔獣を狩って解剖しまくりましょう」
「「はっ?」」
思い立ったが吉日。早速ギルドに相談しようかと思ったが、今はパーティーで活動しているのだ。二人の意見も聞かなければ。
「いや、お二人が着ているパワードスーツあるじゃないですか」
「あの鎧の事だよね」
「私、あれにはカッコイイ名前が必要だと思うんだけど」
「……まあ、名前はとりあえずおいておきましょう。あれを魔力が少ない人でも使えるようにしたいんですよね」
「う、うん……」
「まあ、たくさんの人に使えた方が便利だよね……」
二人とも露骨に目をそらした。わかる。二人の気持ちは痛いほどわかる。自分だけが使える物が、誰でも使える物になる。それは特別感がなくなってしまうのではないかと。
だが、こちらにも考えがある。
「専用機」
「「っ!?」」
「特殊仕様。カスタム機」
「な、なにそれ」
「よくわからないけど胸が熱くなる……そんな気がする……!」
食いついた。
「もし量産する事になったら、お二人のはプロトタイプであり特別仕様になるでしょうね。なんせ魔力を貯蔵出来るようになれば、お二人の場合自前の魔力も合わさって出力も上がるでしょうし」
「プロトタイプ……!」
「特別仕様……!」
「いやあ、通常の量産機を使う人達には羨まれるでしょうね。それだけ『特別』で『高性能』なパワードスーツになるわけですし。ただ、その分選ばれた人にしか使えない『ピーキーな機体になってしまう』でしょうけど」
二人がお互いに顔を見合わせて、力強く頷く。
「今も魔獣の被害に怯えている人がいる。そんな人達のためにも、あの鎧は必要だよね!」
「そうだね。一人でも多くの人を守るために、あの鎧は普及させる必要があるね!」
うわあ、煽っておいてなんだけど、清々しいほど我欲が目に出てる。まあ、こちらとしてはテストパイロットになる二人にはヤル気であってほしい。
「では、さっそくギルドに行ってみましょう。魔獣の目撃情報があるかもしれません」
「うん!」
「了解!」
* * *
「えっと……そんな……ええ……?」
受付嬢が凄まじく困った顔をしていた。ゴブリンの耳を見せた受付嬢なので、こちらの実力を疑って反対されることはないと踏んだのだ。
「あの、チーム『ラック』の戦闘力は、我々センブルのギルド職員の間でも話題になっています。お三方なら、魔獣の群れ相手でも戦えると」
「では、目撃情報など入ってきていませんか?」
「えっと、ですね。そもそも、冒険者ギルドは魔獣と戦うところじゃないんですよ」
「えっ?」
ちょっと何言っているかわからない。
「本来、冒険者が魔獣を相手にやるのは、軍への報告です。そんな冒険者が魔獣を相手に大立ち回りする事なんて想定してませんし……」
「ああ……」
よく考えたら、ラプトル相手でも一匹に対して三人は必要そうだもんな、冒険者。そりゃあ基本的に軍へ投げるのが仕事になる。むしろ、偵察兵のかわりなのか?
「え、あの、よくサーガでは冒険者が魔獣から村を守ったりする話が……」
アイリが引きつった顔で受付嬢に問いかけるが、そっと目をそらされた。
「……か、過去には、そういう冒険者もいた……かも?しれませんし……」
ライカとアイリが凄いショックを受けた顔している。サンタさんが実はお父さんだったのを知った子供のようだ。
「逆に考えましょう。お二人は今サーガに出てくる登場人物に近いのだと」
「「っ!?」」
だんだんこの二人の操縦方法がわかってきた気がする。
「とにかく、それでは魔獣の目撃情報はこちらに回してくれないという事でしょうか?」
「えっとですね……すみません、一度上の者に相談してきます」
ちょっと涙目になっている受付嬢が奥へと引っ込んでいった。なんかこっちが虐めているみたいで居心地が悪い。用心棒の人達が凄い目でこっち見てるし。
数分程して、受付嬢が引きつった顔で戻ってきた。
「すみません、副ギルド長がお話ししたいとかで、奥に来てくれと……」
* * *
部屋にはいるなり、大きなため息をつかれた。
「失礼。だが、あまり受付嬢を困らせないでくれ」
「申し訳ありません」
とりあえず頭を下げておく。だが、副ギルド長がわざわざ奥に通したという事は、それだけではないのだろう。
「まず、結論から言うと君達の望み通り魔獣の目撃情報はまわす」
「ありがとうございます」
本来軍に行く情報をこちらに回してくれるという事は……。
「察しているかもしれないが、代官様のお達しだ。昨日の夜手紙が届いた。魔獣関係の報告が上がってきたら、軍を派遣する前に君達を派遣して調査して貰うとな。調査のたびに金貨三枚が支払われる。そして、可能なら魔獣を討伐せよとも。その場合素材は代官様が買い取るし、追加報酬として金貨五枚を出すとの事だ」
「そ、そんなにですか!?」
ライカが思わず声を出すが、副ギルド長は動じない。眉間に皺をよせたまま紅茶を一口飲む。
「軍を動かすよりは安上がりという事だろう。君達はそれだけ期待されているという事だ。だが、くれぐれも調子にのらないように。冒険者の死因に多いんだよ。勢いで無茶な依頼を受けたり、ずさんな計画で行動したりと」
「はい」
副ギルド長の言う通りだ。油断してうっかり死亡なんてごめん被る。
「では、そういう事で。なにか質問は?」
「いえ、ありません」
本当は値段の交渉とかしたいのだが、この世界、権力のある人に対してやるにはかなりの度胸と知識、そして話術が必要になる。あいにくどれも持ち合わせいない。
下手な事は言わず、相手の意見を飲んでおこう。今の条件でも、こちらに損はないのだから。
こうして、冒険者パーティー『ラック』は、対魔獣専門のチームとして名を上げていく事になる。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




