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第三十五話 鉄砲

今回は少しだけ短いです。申し訳ございません。

第三十五話 鉄砲


サイド クロノ



 代官の屋敷から宿へと戻ってきたのだが、二人に聞きたい事があった。


「お二人は、僕に言いたい事があるのではないですか?」


「え?そりゃあるよ。異世界の話を聞かせてほしいよ?出来ればそっちの世界のサーガとか」


「そうそう。あとさ、あの鉄砲ってやつ?あれがどんなのかも知りたいな。代官様との話はよくわからなかったし」


「え、それだけですか?」


 正直、チート野郎と言われてもおかしくないと思っていた。だが、二人の目にこちらを非難する色はない。


「といわれても……もしかして、クロノ君の力について『そんなのズルだー』って言うと思っていた?」


「まあ、はい」


「んー……羨ましいとは思うけど、クロノ君はその……孤児って言っていたし、苦労しているんだってわかるし。それに、ようは才能みたいなものでしょ?」


「そうそう。その力を使って私達を助けてくれたのはクロノ君だし、強くしてくれたのもクロノ君だもの。あと、剣術道場で剣を学んでいるのも知っているし、努力せずに強くなったわけじゃないんでしょ?・」


「二人とも……」


 ちょっと感動した。まさかこうもあっさり受け入れられるとは。前世持ちとか気持ち悪がられると思っていた。それに、チートも嫌悪されるとばかり。


「まあ、私としては能力よりクロノ君自身の方が興味あるかなって」


 ライカが露骨にこちらを嘗め回すように見てくる。


「ライカ?」


「はい、なんでもないです!」


 アイリが『今真面目な話してんだけど?』という目で睨むと、ライカは直立不動になった。この二人の力関係が最近よくわかるようになった。


「まあ、それは置いておいて、銃って結局なんなの?」


「えっと、僕もそれほど詳しいわけではないのですが……」


 大雑把にだが、自分の知っている範囲で火薬と銃についてを教える。ライカは所々分かっていない感じだが、アイリはだいたい分かったようだ。


「なるほど……その黒色火薬なら作れるかも……けど硝石って作るのが大変なんだね」


「ええ。既にある所から持ってくるなら多少は楽が出来ますが、一から作るとなると年単位でかかるので」


 それに、硫黄も地味に面倒だ。この世界だと、火山があるあたりまで行かないと手に入らないだろう。


 というか、代官には硝石の作り方教えなかったけな。まあ、帝国の技師がこっちに逃げてきたらしいし、知っているだろう。


「よくわからないけど、私たちは使えないのかな?」


「まあ使えなくなないでしょうけど……」


 ぶっちゃけ、魔獣相手に今らさ火縄銃だのマスケット銃だの言われても。たぶん殺しきれないし、大した命中精度もなければ、個人や少人数で運用するのも微妙だ。


 これがせめて現代の猟銃レベルあれば、ラプトルぐらいならギリギリといったところか。ゴブリン相手だとそれこそ自衛隊が持ってレベルの銃が必要になるのではないだろうか。


 それにしても鉄砲か……魔力で何かいい感じのが代用できないだろうか………。



*    *      *



二年後 帝国近海



サイド とある船長



 ああ、風が気持ち悪い。こういう日は絶対碌な事にならないのだ。船に揺られながら、ぼんやりと空を見上げる。


 本来、自分はこんな要所を任される立場ではない。少なくとも、帝国最大の港を守るために防衛線をはる仕事なんて回ってこないはずだ。まあ、そもそもこの港が攻め込まれた事なんて、帝国建国から一度もなかったらしいのだが。


 今回戦うのは『日本』と呼ばれる国らしい。その国の海軍と今日戦うのだ。


 昔から、『流れ人』の噂はよく聞く話だ。たしか、うちでも使っている大砲や銃も、流れ人からの知識でできた物らしい。だが、まさか国ごと異世界から現れるとは。


 最初、また鉄の船が流れてきたと港のお偉いさんは思ったらしい。すぐに船を出して確保しようとした。だが、末端まで話が回っていなかったらしい。確保に向かった船は、鉄の船を強引に捕縛しようとした。


 だが、結果は殺し合いがあったそうだ。公式には日本の船から攻撃があったとされているが、この辺の海軍はガラが悪いからなぁ……。


 で、その日本の船が来た方向からおおよその逃亡ルートを予測。船をはじめ色々な手段で確保を考えたのだが。まさか国ごと来ていたとは。


 とりあえずどの程度の技術を持っているのか知る必要があると、帝都のお偉方は考えた。そして、数隻の軍艦を夜の闇に紛れさせ、複数のルートで向かわせたのだ。だが、結果は予想外の成果なし。どういう手段を使ったのか、よほど優秀な船乗りを乗せているのか、偵察部隊は全て見つかり、撃沈、または捕縛されたらしい。


 それから約一カ月。たったそれだけの期間で、帝国は三百隻もの艦隊を用意した。全てが大砲を積んだ最新鋭の船だ。指揮するのはかつて王国との海戦で多くの戦果を挙げた『テレゾット海の悪魔』カーツオ・フォン・マックロイだ。


 だが、現在もその艦隊は日本軍と交戦中らしい。おかしな話だ。あれからもう二週間も経つのに、なんの続報も流れてこない。これは、もしかしたらもしかするかもしれない。


 ただでさえ、今の帝国は痛手を負っている。王国との戦に『辛勝』……いや、負けたからだ。


 一年前、親戚が参加した王国侵攻作戦を思い出す。あくまで伝聞だが、とても頭に残る話だった。


 帝国はその頃既にボルトアクション式と呼ばれるライフルを開発し、特殊歩兵団も作っていた。さらに、鉄の船と共に流れ着いた男の知識も活用して、魔力仕掛けの戦車とやらも作り出していたのだ。


 その強さは圧倒的。王国軍を一方的に薙ぎ払っていった。あの国が『魔王』とやらと戦った後だったという噂もあるから、それも関係するかもしれない。


 だが、その戦況をたった数人でひっくり返した奴らがいた。


『ラック』


 そう名乗る冒険者の集団は、まるで薪を割るように帝国の戦車隊を潰して回ったのだ。それだけじゃない。帝国が今最も忌み嫌う存在。ラックのリーダー、『魔獣狩り』と呼ばれる少女だ。


 魔女、黒の妖精、呼び名はいくつもあるが、王国内でも呼ばれている二つ名は『魔獣狩り』だ。


 その少女は、たった一人で三万を超える軍勢を釘づけにしてみせた。これが帝国の敗因だと軍では言われている。まあ、お偉方は負けたのではなく辛勝だったと言っているが。


 そのさい、ラックは『火薬を使わない銃』を用いていたと噂されているのだが……。


「ああ、こりゃあ荒れるなぁ……」


 空を眺めながら、静かに呟いた。





読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


少しだけ二年後のは話が出ましたが、まだクロノの冒険話は続きます。

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