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第三十三話 代官

第三十三話 代官


サイド クロノ



 あの後ゴブリンの死体を一か所に集め、村長と村人数に死体を確認してもらった。皆さん愕然としていたが、とりあえず油をかき集めた件は納得してくれたようだ。ちょっと怖がられたけど。


 あと、そのまま村人達に手伝ってもらってゴブリンの死体から右耳を切り取っていった。ギルドへの証明するためだ。村人達は難色を示したが、今後ゴブリンをはじめとした魔獣への対策をしてもらうには必要だといったら、快く引き受けてくれた。ちょっと顔が引きつっていたけど。


 アイリとライカに周囲の警戒をしてもらいながら作業を終えると、村で一晩休ませてもらってからセンブルへと向かった。最初に依頼で出した害獣については、見なくなったらしいのでゴブリンが食料にでもしたのだろう。ただ、それでも一応割符はもらえた。


 そうして街に戻ると、三人でそのままギルドに向かった。二人は宿屋で休ませてやろうかと考えたが、どうせ事情を聞かれるだろうなと連れていく事にした。


 案の定、受付嬢が大慌てで奥に引っ込んだ後、すぐに副ギルド長に通された。


「また、君たちか……」


 副ギルド長があまりふさふさとは言えない前髪を両手で抑える。


「今度はゴブリン八十体以上を殲滅したと聞いたが……証拠はあるんだね?」


「はい」


 受付嬢にも見せた、ゴブリンの右耳を紐に通した物をわたす。今回は数が数なので、二つに分けておいた。


 机に置いていいものか迷ったので、副ギルド長に手渡しする。すごく嫌な顔をされた。


「これは……確かに、ゴブリンの耳だ。間違いない。……出来るなら、作り話であってほしかったよ……」


 力なくため息をつく副ギルド長からは、もの凄い哀愁が漂っていた。なんだろう、こういうのを中間管理職の悲しき実態というのだろうか。


「これは、私だけでは判断できん。代官に相談させてもらう。君たちも後日呼び出されるだろう」


「わかりました」


 正直面倒だから行きたくない。だが、この世界は権力のある人が絶対だ。拒否権はない。……めっちゃ行きたくないけど。


「泊っている宿屋を教えてくれ。日程が決まったら連絡しよう」


「ありがとうございます」


 その後色々質問され、お腹を痛そうに押さえる副ギルド長に見送りながらギルドを後にした。


「いやぁ、まさかこんな短期間に副ギルド長と話すことになるなんてねぇ」


「ほんとほんと」


 アイリとライカがちょっとテンション高めにはしゃいでいる。前回はそれほどでもなかったはずだが……そうか、今回は『自分達も戦った』という事実が大事なのか。


「まあ、会わないに越した事はないんですけどね……」


「え、なんで?」


「サーガではよく偉い人に認められて騎士にしてもらったりしてたよ?」


「いや……どう考えてもそう上手く事は運ばないだろうなと……」


 たぶん、面倒くさい事になる。副ギルド長じゃないが、ちょっとだけお腹が痛くなりそうだ。


 だが、これも成り上がるチャンスだと思おう。偉い人に会う機会というのは普通に少ないのだ。名前だけでも覚えてもらうとしよう。



*     *       *



「猥談を、しませんか?」


「なんて?」


 その夜、パワードスーツの点検をしていたら突然ライカがそう切り出してきた。いや、なんで猥談?


「私思ったんだよ、クロノ君とまだ距離があるなって」


「まあ、否定はしませんけど」


「じゃあ猥談するしかないかなって」


「何でそうなったんですか?」


 発想が飛躍し過ぎている。なんでそうなった。


「いやね、村の男の子達ってよく誰々の胸が大きいとか、どこの奥さんがエロいって話ばっかしていたんですよ。仲良さそうに」


「はあ」


「ぶっちゃけ私も美女や美少女の乳尻太ももの話で盛り上がりたいんですよ!」


「そうなんですか」


「けどほら、女が女に興奮するってダメじゃないですか」


「別にダメではないと思いますが……」


 前世の価値観からすると、男同士がいいなら女同士もいいじゃんと思うのだ。自分に害がないなら人の性癖とかどうでもいい。


「そう!クロノ君ってその辺すごい寛容じゃん!だからさ、クロノ君なら猥談に付き合ってくれると思ったんだよ!」


「……まあ、いいですけど」


「よっし!」


 正直、巨乳美少女と夜に猥談。恥ずかしくはあるが、心惹かれるものがある。あわよくば卑猥な空気になれればとも思う。ライカは男女どちらでも興奮出来るらしいし、自分は性癖に合致するとも言っていた。


「じゃあ、とりあえずアイリちゃんのおっぱいの話をしましょう」


 アクセル踏み過ぎじゃない?最初っから共通の知り合いって……。



*     *      *



「いやあ、一緒に水浴びした時のアイリちゃんのおっぱい!揉ませてもらったんだけどマジで柔らかっくってさぁ」


「うわー羨ましい。というか妬ましい」


「はっはっは。これは私だけの特権だよ。しかも感度ってやつ?それがいいみたいでさ。乳首をくりくりってするといい声でね」


「かーっ!僕も揉みたい!めっちゃ揉みたい!」


「訓練の時どさぐさに紛れて揉んじゃえばよかったのにぃ」


「いや、訓練は真面目にやらないと。命に関わるんだから」


「真面目だねぇ。けど私たちの胸めっちゃガン見してたじゃん。あとお尻」


「げ、いや、それはその」


「あー、気にしてない気にしてない。よく視線を感じるし、いちいち目くじらたててたらキリがないって」


 気が付けば、ため口で喋っていた。猥談は人と人との心の距離を縮める物なのだと実感する。


 まあ、自分が友達に飢えていたのもあるかもしれない。転生してからずっと、対等に喋れる友達という奴がいなかった。道場ではできるかもと思ったが、あそこでの関係はどちらかというと、皆人脈を作る為といった感じだったのだ。本当の意味で友人を作る場所ではない。


「あとさ、アイリちゃんはおっぱいだけじゃなくてその下半身もエッチなんだよ」


「あ、それは僕も思った。顔埋めたいって」


「だよね!あのお尻は枕にしたいよ。まあ、私は頬ずりした事あるんだけどね」


「裏山死刑」


「どうどう。その後私も流石に怒られたから」


「僕がやったら怒られるじゃすまないんだよなぁ」


「うーん……そんなにお尻触りたいなら私の触る?」


「えっ、マジで!?」


「え、うん。アイリちゃんほど可愛くないけど、まあ私もスタイルはいいし」


「いや、ライカもめっちゃ可愛いって。すごい美人だし。黙ってたらクール系美少女」


「いやぁそれほどでも……黙ってたらっていった?」


「あ、やべ」


「言ったなぁこのぉ」


「わっちょ」


 ライカがわざとらしく怒った顔で近づいてくる。これは、もしやあれか?美少女とキャッキャウフフ出来る感じか?……ん?


「ふっふっふ。どれ、アイリちゃんを鳴かせまくった私のテクを受けるがいい」


「あ、ちょっと待ったライカ」


「待ったなしだよぉ……覚悟を決めなさいクロノ君!」


「いや、今魔力が」


「問答無用!」


「ただいまぁ。いやあお店混んでて」


「アイリちゃんみたいにヒイヒイ言わせてやるぜ!乳首弄りの刑だ!」


 ちょうど、軽食を買いに行っていたアイリが戻ってきた。階下に魔力反応があったので注意しようと思ったのだが……間に合わなかったらしい。


「えっと……アイリ、ちゃん……?」


 油の切れたロボットの様にライカが振り返ると、ちょうどアイリが扉にカギをしめるところだった。すごいいい笑顔だ。目が笑ってないけど。


「く、クロノ君!助けっていねぇ!?」


 いや、正確にはいる。ただし、部屋の隅で全力の『気配遮断』をしているだけで。


「私、言ったよね。私へのセクハラは報復するって……」


「ま、待ってアイリちゃん!話し合おう。話せばわかる」


「うーん……」


 アイリが頬に指をあてて考える。その姿に希望を見出したのか、ライカが笑みを浮かべた。だが、彼女は気づいているだろうか。アイリの目が笑っていないままだという事に。


「やっぱダメ♪」


「んなんですとぉ!?」


「はいお仕置きでーす」


「ちょ、待って、や、ダメ」


 なんとアイリがいつになく滑らかな動きでライカの後ろに回りっこんだかと思うと、服の中に手を突っ込んだ。その次の瞬間、元々大きかったライカの胸が更に大きくなったのだ。


 これは……あの一瞬でさらしを解いた!?なんという手際……。


「はーい、大人しくしてねぇ」


「やん!だめ、待って、ここ宿……あっ」


「大丈夫。隣の部屋から魔力の反応しないから」


 なんと、いつの間に魔力感知まで覚えたのか。確かに、隣の部屋からはなんの反応もない。おそらく今は外出中か、空き部屋となっているのだろう。とりあえず自分も『気配遮断』をしつつ魔力の流れを調整して更に本気で隠れる。


「ひゃ、だからって、だめ、やっ」


「ここかなぁ?それともここかな?」


「あ、ああ、ああああ……!」


 服の上から撫でるようにライカの胸をもてあそぶアイリ。その表情はとてもいい笑顔だった。じゃっかん頬が上気している。まあ、ライカの方は耳まで真っ赤だけど。


 とりあえずこっそり部屋から出た。扉越しでも必死に声を出すのを堪えているけど、抑えきれてないライカの喘ぎ声が聞こえる。


 外からカギをしめて、一階へと向かう。目指すは、共用トイレだ。



*    *     *



 後日、日程が決まり代官と会う事になった。正装する必要はないとの事なので、ナイフ以外武器を部屋に置いていく以外いつも通りの恰好で行く事になった。副ギルド長が乗る馬車に同伴させてもらい、代官の屋敷に向かう。何気に馬車って初めて乗った。


 まあ、当然ながら道は日本ほど整備されていないし、サスペンションもなければクッションも薄い。車輪も木製なので乗り心地はあまりよくはなかった。


 しばらくして、代官の屋敷に到着する。屋敷と言っても、普段は街の近くにある砦に住んでいて、普段こちらには来ないそうだが。


 部屋で五分ほど待たされた後、ようやく代官と対面だ。


「やあ、よく来てくれた。私がこの地の代官をやっているマクフファリド・フォン・ギリングだ」


 金髪碧眼の美丈夫が豪華な作りの椅子に座り、こちらを出迎えてきた。……あれ、思ったより若くね?




読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二人出てきたヒロインのうち片方だけかと思ったら、ほとんど両方ガチレズっぽいのは残念。 [一言] まともな子出てくるとイイナーと期待。
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