第三十一話 対魔獣戦
第三十一話 対魔獣戦
サイド クロノ
パワードスーツが完成してからもうすぐ一カ月。なんと自分達『ラック』は鉄の二級に昇格した。
ラックとは自分達のパーティー名である。アイリが『聖天三本柱』、ライカが『漆黒鉄騎兵隊』と二人そろって意味の分からないパーティー名を出してきたので、一晩中話し合った結果『もう運に任せよう』というこれまたとち狂った理由でつけられた名前である。これほんとわっかんねぇ。
まあ、二人が出した案が採用されなくて本当に良かった。中二病にもほどがある。
なんにせよ、昇格しやすくしてくれるという副ギルド長の話は本当だったらしい。害獣の討伐三回で昇格なのだからだいぶ早いのだろう。
そして、今日も害獣討伐の依頼があった。
「いやあ、害獣討伐依頼は魔獣との戦闘と=だってクロノ君に聞いていた時はどうなるかと思ったよ」
「最初の頃いつ魔獣が出るかってびくびくしてたもんねぇ」
「本当なんですよ。この国がおかしいだけで、普通害獣と書いて魔獣が出てくるものなんですよ」
二人して苦笑いしてくる。ダンブルグだったらマジでそうなのだが、この辺だと違うらしい。おかげで変な恥をかいたし、魔獣の素材という稼ぎもないという二重の意味で想定外だ。
「魔獣とかは普通、軍隊が倒したり人里に近づかないよう追い散らしたりしてるんだよ」
「そうそう。もしも人里まで魔獣が来ていたらそこの代官は四方八方から怒られちゃうよ」
「……いや、二人とも初対面の時魔獣に襲われていましたよね?」
「あ、あれは例外だから……」
「その節は本当にありがとうございました……」
そう話しながら街を出て依頼のあった村へと向かう。今回は猪によく畑が荒らされて困っているらしい。狩人も高齢なうえに後継者が事故で亡くなってしまったという。……あれ、その村普通にヤバくね?
自分はいつもの恰好で、二人は少しだけ調整を加えたパワードスーツである。まあ見た目は変わっていないが。
三人そろって徒歩である。そのうち移動手段も考えた方がいいだろうか。長距離を移動する時は水や食料を運ぶのが大変だし、パワードスーツを最低限メンテ出来る場所も欲しい。ただ、そんなもん街の中に置くのは色々面倒そうなんだよなぁ……。
というか、自分が想定しているのはキャンピングカーとトラックを足したような物だ。錬金術と自分の魔力があればどうとでもなる。ただ、場所と予算がなぁ……。
「どうしたのクロノ君」
考え事をしながら走っていると、ライカが話しかけてくる。今はもうパワーアシストありなら息を切らさずバフなしの自分についてこれるようになった。
「いえ、移動用の拠点について必要かどうかを」
「移動要塞!?」
「要塞ではありません」
「今移動要塞の話した!?」
「違うつってんでしょうが」
なんかアイリまで反応し始めた。この反応、さてはまたサーガ関係か。
「大昔、かの高名な錬金術師ホーセンブル・ヴァンシュタインが作り出した移動要塞『ヴァルシオン』!難攻不落にして絶対無敵を誇った要塞!千の魔獣による侵攻すら防ぎ切った最強の番人!」
「作り手も乗り手も全てを失った今も稼働し続けていて、魔獣の森を動いているとか。近づく者は誰であれ滅ぼす破壊の象徴とも成り果てていて、五百年前に存在した大国、バラキア滅亡の原因とも言われているね!」
「……難攻不落なら、なんで中の人全員いなくなっているんですか?」
正直、あまり興味はないが、ここで『知らんがな』の一言で切り捨てるのも憚られる。一応聞く姿勢を見せておこう。
「それが、よくわからなくて……」
「一説では内部で仲間割れが起きたからってされているけど……」
「そうなんですか」
まあ、無敵の要塞も内側で敵ではなく味方により滅びたのならしょうがない話か。
「そろそろ休憩をいれましょうか。魔力量も半分ぐらいでしょう」
「え、まだいけるけど……」
「野営中に攻撃を受ける可能性もありますから。戦える余力は残しておいた方がいいですよ」
「確かに」
街道から少し外れたところに野営の準備を始める。それにしても、パワードスーツの稼働時間をもう少し伸ばせないものか。必要魔力量が減らして一般人でも使えるようになれば、これを使って財を気づくことが出来るだろう。まあ、そんなホイホイ効率化出来ていたら、誰かがすでにやっているが。
いっそ錬金術のスキルにポイントを振り込むか?そうすればもしかしたら……。いや、売り込み先ややり方を間違えたら監禁されてパワードスーツを作るロボットにされる。それは普通にいやだ。
この件はおいおい考えよう。それほど焦る必要もないだろうし。
* * *
街を出て二日。馬で三日と言われた距離だが、やはりこの世界の馬はあまり速くないのかもしれない。いや、それでも常人の徒歩よりは速いのだろうが。
村につき、門番に挨拶をする。
「初めまして。依頼を受けてセンブルの冒険者ギルドから来ました。ラックというパーティーです」
「おお、あんたらが。強そうで安心したよ」
そういって門番の村人が目を向けるのはパワードスーツを着ている二人だ。まあ、見た目フルアーマーだからな。
「いやぁ、照れますねぇ」
「え、女?」
兜をしているのに頭をかくライカの声に村人が驚く。まあ、一見性別分からないぐらい着こんでいるからな。
「とりあえず、村長の所に案内してもらってもいいでしょうか?」
「あ、ああ」
戸惑った様子の村人についていき、村の中央あたりにある村長宅に向かう。
「村長。例の件で呼んでいた冒険者が来てくれたって」
村人が呼びかけると、一人の老人が出てきた。
「おお、これは冒険者の方々。この度は依頼を受けて頂きありがとうございます」
そう言って村長がライカとアイリに頭を下げる。
「いえいえ!害獣の相手だったら任せてください!」
ライカが元気よく返事をすると、村長が少し驚いた顔をする。
「そ、そうですか。害獣は夜に」
村長が説明しようとした瞬間、『魔力感知』に反応がある」
「失礼します」
「え、ちょ」
「クロノ君!?」
制止の声を無視して村の端へと走る。柵を一足で跳び越え、森の中へ。すぐさま剣を抜いて斬りかかるが、辛うじて身を捻ったらしく即死とはいかなかった。
「しっ」
だが、それでも相手が何かする前に二の太刀で喉を切り裂く。血を飛び散らせながら倒れる相手に、小さく呟く。
「やっぱり、魔獣いましたね」
ゴブリンが一体、倒れ伏していた。
* * *
「こ、これは……!」
ゴブリンの死体に村長が驚きの声を上げる。なんとなく、ダンブルグで見てきたリアクションとは違う気がする。あっちでは『バレた』『こんな子供が』という感じだったが、この人のは本当に予想外といった感じだ。
「な、なんでこんな所にゴブリンが……!」
「あの山脈から流れてきた。と思うのが妥当かと」
ダンブルグとの国境にある山脈。あそこには数多くのゴブリンが生息していた。あの山脈からここまでなら、『魔力循環』を使える者からすればそれほどの距離でもない。
「し、しかし、このゴブリンが何かするより先に冒険者殿が倒してくれて助かりました。これで、この村は大丈夫ですよね」
冷や汗を流しながら聞いてくる村長だが、彼も内心気づいているのだろう。これで終わるはずがないと。
「いいえ、ゴブリンは単独で行動しているのを見た事がありません。せいぜい群れから少し離れて偵察を行っている時です。なので……」
この村の近くに、ゴブリン達が潜んでいる。その可能性が高い。このゴブリンが都合よくただの『はぐれ』だと考えるのは無理がある。
「そ、そんな……!」
村長がその場に膝をつく。
「……ゴブリンが攻めてくるとしたら、どれぐらいだと思いますか」
「……僕も詳しくありませんが、一週間以内には攻めてくるかと」
村長の問いに答える。あくまでダンブルグで魔獣狩りをしていた頃の感覚なのでどこまであてになるか分からないが、完全に的外れにはならないだろう。
「街に連絡を送って救援が来るまでとても間に合わない。村を捨てるしか……だが……」
こちらの存在を忘れてうずくまり、頭を抱える村長にライカとアイリが憐みの目を向ける。
「その、クロノ君」
「はい」
「ゴブリンを追い払うって出来ないかな……?」
「できません」
「そ、そうだよね。いくらクロノ君でも」
「いいえ、殲滅です」
「え?」
「クロノ君?」
「ゴブリンは報復をしてくるらしいので、殲滅します。追い払うのではなく、皆殺しです」
正直、ゴブリンは売れるところがないので美味しい敵ではない。だが、ポイントは結構もらえるのだ。あと、小指の甘皮分ぐらい、ここの村を守らなければという感情もある。
「ライカさん、アイリさん。バックアップを頼みます」
「うん!」
「任せて!」
「村長」
「……貴方達は、まさか本気でゴブリン達に勝てると……」
困惑した様子の村長に膝をついて視線を合わせる。体から、少しだけ魔力を放出する。
「念のため、村人たちを教会の中に避難させてください。ご安心を。ゴブリン狩りは慣れていますので」
そう言って、安心させるために微笑んであげた。
読んでいただきありがとうございます。
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諸事情により、今まで通りの更新が出来なくなりそうです。誠に申し訳ございません。




