第三十話 実戦投入
第三十話 実戦投入
サイド クロノ
デザインに不満はあれど、製作費が金貨五枚以上した大作である。データをしぼるだけしぼりたい。
「とりあえず、パワーアシストなしで走り回れるようになりましょう」
「「えっ」」
実戦を考えると、ダメージや魔力切れでアシストが切れる事も想定した方がいい。出来るだけホローするが、生還率を高めるにはパワードスーツを着た状態で走り回れる体力が必要だろう。
「ま、待ってクロノ君。これ普通に重いんだけど」
「まあ、全身に重さが分散されているとはいえ二十キロぐらいありますからね」
「そうそう、重いの」
「だからこそ鍛えないとですね。僕も後ろを走りますから、追いついたらそれを着たまま腕立てです」
「マジ……?」
「え、え……」
「はい、一、二、三」
「は、走るよアイリちゃん!」
「う、うん!」
それから一週間、二人は走り込みと腕立てを繰り返し、どうにかアシストなしで走れるようになった。まあ、本当に最低限だけども。
* * *
今日はギルドの依頼を受けて、熊狩りに来ている。本来ヒグマ相手の仕事となると人数がもっと必要だし、新人には受注できない。だが、グラーイル教団の件があったからだろう。あっさりと受注できた。
「ま、マジで私達で熊と戦うの?」
「大丈夫です。危なくなったら割って入りますから」
「ほ、本当だよね?信じてるからね?」
二人を引き連れて森の中を進む。こういう時ライカの技能はありがたい。自分では魔獣以外だとある程度場所に見当をつけなければ見つけられないので。
「あの巣穴ですね」
森に入って三十分ほど。熊が巣穴にしている洞窟を見つける。
「では、今から適当に刺激して熊を二人の前に追い立てるので、戦ってください」
「「は、はい!」」
緊張した様子の二人を置いて、巣穴に入る。中には体長三メートルと少しぐらいの熊が眠っていた。魔力を放出して威嚇してみると、慌てて目を覚ました。放出する量を小さくし、ついでに不安定にする。
すると熊は最初怯えていたのに、まるで自分が有利になったかのように襲い掛かってきた。バックステップで巣穴から出て、そのまま二人の背後に跳ぶ。
「じゃ、やってみてください」
「おっす!」
返事をしたライカが前に出る。右手に反りのある片手剣、左手に楕円形の盾という組み合わせだ。これらにも細工して、微弱だが流体魔力装甲と同じにしている。ちょっとやそっとの衝撃では壊れないだろう。
「やあああああ!」
自分を鼓舞するようにライカが叫びながら剣を振るう。だが、目測が甘い。熊が立ち止まったらあっさり空ぶってしまった。
「あ、わぁ!?」
「ライカ!?」
空ぶったライカに、熊が襲い掛かる。とっさに噛みつきは盾で防いだが、抱き着かれるように両前脚で肩を引っかかれる。ガリガリと音が生るが、魔力の層に阻まれて傷一つついていない。
だが、それでも怖いのだろう。ライカはパニックになっている。
「わ、わわわ!?」
傷つけられないとみるや、熊はライカを上に放り投げたのだ。そうか、パワードスーツを着た分体重が重くなっているが、素の体重が軽いから熊からしたら十分投げられるぐらいか。
「みぎゃぁ!?」
投げられたライカが木に引っかかり、枝を折りながら落ちてくる。
「よ、よくも!」
固まっていたアイリがようやく動き出す。盾を前に押し出すようにして突撃し、熊に肉薄する。
今度は近すぎるが、それでもパワーアシストと剣の魔力で深々と熊を切り裂く。背中を斬りつけられた熊が悲鳴を上げ、渾身の力で暴れる。
「わっっとぉ!?」
盾で防いだが、アイリが後ろに数歩よろめく。熊がその隙に逃げようとするが、その前にライカが立ちふさがった。
「おおおおおお!」
熊の頭をライカが斬りつける。斜めに頭を切り裂かれた熊だが、まだ動く。熊は見た目に反して脳が小さい。あの角度では致命傷ではあるが、即死ではない。
最後の力を振り絞るように熊が暴れるが、今度は盾で弾いてみせた。前足を弾かれた熊に、ライカが剣を突き刺す。猟師の娘だけあって熊の心臓の位置が分かっているらしい。
ライカは剣を引き抜きながら跳び退る。熊はそのまま数歩進んだ後、力なく倒れた。
「た、倒した……?」
「や、やったの?」
「死亡確認まで油断しないでください」
気を抜きそうになる二人に注意をとばす。実際、あの熊はまだ生きている。不用意に近づけば首筋に噛みついてきただろう。
それから一分ほどし、熊が息絶えたのを確認する。
「二人ともお疲れさまでした」
「はぁ……」
「お、終わった……」
脱力する二人をよそに、熊の状態を確認する。これは、毛皮とかの価値はだいぶ下がっていそうだな。まあ、熊は内臓だけでも高く売れるが。
その後、アイリに周囲を警戒してもらいながらライカと最低限処理を行い。自分が背負って街まで移動した。
速度は制限されるが、それでも三人とも走ればこの距離でも日帰りできるのはありがたい。
* * *
「本当にクロノ君はいいの?」
「はい。今回戦ったのはお二人ですので」
熊を討伐した報酬と売れた素材の代金は二人にわたした。その時、思い出したようにアイリが部屋の隅に置いてあるパワードスーツを見る。
「そういえば、あの鎧っていくらしたの?凄い今更だったけど」
「あ、確かに。あれって噂にきく魔道具じゃないの?」
「ああ、あれは二つで金貨五枚ですね」
「「金貨五枚!?」」
「まあ自作なのでコストは多少抑えられましたが」
「「自作!?」」
予想した通りのリアクションをしてくれる二人に内心ほくそ笑む。その質問を待っていたのだ。作るのに苦労した分、驚いてほしかった。
「え、待って……私達、月謝は金貨一枚しかわたしてない……」
「はい」
「じゃあ、残りの費用は……」
「僕の自腹ですね」
「「………」」
二人が青い顔で再度パワードスーツを見る。軽く洗ってはあるが、熊と戦った時なんて返り血と泥で汚れている所を思い出しているのだろう。
「な、なんて言えばいいのか……」
「え、えっと……え、どうしよう、あれ使っちゃったんだけど」
「私なんて投げ飛ばされちゃったよ……?」
がくがく震える二人に満足したので、安心させるように笑いかける。
「心配しなくても、後から請求なんてしませんよ」
「け、けど、それは悪いし」
「なら、出世払いです。仲間なんですから、これぐらい助け合いましょう」
「クロノ君……!」
二人が感動した様子でこちらを見てくる。それに頷きながら、市場で買った紙の束を取り出す。そこにはパワードスーツを作る時に書いた設計図のまとめが書いてある。
「では、今日からそのパワードスーツが壊れた場合の簡易的な修理方法を教えますので、覚えてください」
「い、いいの?そういうのって秘伝とかじゃない?」
「そうそう。というか、どうやってこんなの作ったの」
「経緯は秘密です。直し方を教えるのは、万一はぐれた時お二人の生存率を高めるためです。気にしないでください」
「……!うん」
「私達、がんばるよ!」
感極まった様子で頷く二人に、内心でガッツポーズを決める。
簡易的な直し方は教えるが、完全な修理方法は教えるつもりはない。……まあ、全て教えるとなると年単位必要というのもあるが。
これからこの二人にパワードスーツを使わせていけば、だんだんと『あって当たり前の力』となる。実力以上にあげられる戦果。温まる懐。はたして、それを経験した二人はこのパワードスーツを手放せるだろうか。
これで二人は自分とパーティーを組まざるえなくなる。今のところそんなもの必要とせずパーティーを組めるだろうが、そのうち『足手纏いになりたくない』とか言われて解散となられては困る。
このまま好感度を上げていき、いずれは告白までもっていく。なんと悪辣で完璧なプランか。絶対にどちらか、出来るなら二人ともフラグを建ててみせる……!
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
諸事情により今まで通りの投稿は出来ないかもしれません。




