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第二十九話 錬金術

第二十九話 錬金術


サイド クロノ



 二人を鍛え始めてすぐの頃、このまま成長しても二人に先はないと思った。


 ならどうするか。自分を考える。中身は平凡な人間。肉体は少女と間違えられる子供の肉体。そんな自分が何故中位悪霊やら魔人やらと戦えたか。


 そう、チートがあったからである。つまり、外付けで力を与えればいいのだ。


 ここまであの二人に入れ込むのも理由がある。一つは、単純に見た目の問題。誰かに言えば猿と馬鹿にされるかもしれないが、フリーの美少女とはかなり希少なのだ。しかもこの世界だと、十代で結婚しているのも珍しくない。むしろ二十歳で結婚していないのは行き遅れ扱いだ。


 二つ目の理由。一応こちらが本命だ。それは、二人には悪いが実験である。というのも、万一チートが使えない時が来た時。そうでなくともスキルポイントを稼げない、足りない状態になった時に、自分を強化する必要があった時のテストケースとする。


 スキルポイントは貴重なのだ。悪霊達と魔人を倒した事で、今まで見たことないぐらいポイントは溜まっている。特に魔人のポイントがでかいのだろう。だが、無限ではない。


 今回の事で自分の力不足を痛感した。自分にギリギリの戦いを楽しむ趣味はない。出来るなら圧倒したい。絶対的な実力差で圧殺したい。何よりも安全に、確実にだ。


 だがスキルポイントは金で買えないし、足りない時は本当に足りない。では、スキルに寄らない強くなる方法を考えるべきだ。


 無論、筋トレも素振りも極力やっている。流石に街の外で野営している時などは出来ないが。


 それでも、常人の出来る戦力強化で人外を相手に出来るほど強くなるのは、マリックさんの様な一握りの天才だけだ。


 ではどうするか。スキルに頼るしかない。一見矛盾しているかもしれないが、それしか自分には手段がないのだ。


 つまり、これは先行投資。その為に、現在自分は街の中央区に紛れ込んでいる。


 時間は夜だ。人目を避け『気配遮断』と『軽業』を併用して音もなく移動する。目的地は、街が管理する『魔導区画』だ。


 魔導区画では、魔法の研究や魔道具、魔法薬の研究がされている。このうち、魔道具と魔法薬の学問は『錬金術』に分類される。なんでも、石ころを金に換える途中で発明された技術を使っているとか。最近はむしろそっちがメインと噂されている。


 なんにせよ、大きな街には子飼いの錬金術師が色々な実験や製造を行っている。そこで作られた魔道具などは、大変貴重なのでまず市場には出回らない。


 だが魔道具は欲しい。ならどうするか。自分で作ればいい。その為に『錬金術』をしている際の魔力を感じ取る必要があるのだ。


 魔導区画に到着し、『魔力感知』の範囲を広げる。様々な魔力の流れを把握していき、一気に魔法系のスキルが解放されていくのがわかる。


 そうして十分ほどで目当てのスキルがロック解除されたのを確認し、警備兵に見つかる前に魔導区画から立ち去った。


 宿に戻り、スキルツリーを確認する。『錬金術』にポイントを割り振って獲得し、そのまま熟練度も上げる。結果、魔人戦で手に入った半分のポイントが消費された。ショックで吐きそうになったが、気合で堪えて『錬金術』の出来る事を確認する。


 そこで、ゴーレムの作成に注目する。ゴーレムは便利だし戦闘用ならかなり強力なものが作れる。ただし、高い。凄まじくコストがかかる。専用の場所と機材。入手難易度の高い材料。要求される魔力量と熟練度。どれをとっても高い。


 だが、ゴーレムが高い原因はロボットでいうところの『AI』の部分。それ以外は意外とリーズナブルな値段で作れる。まあ、頭脳のないゴーレムとかでくの坊だけども。


 だが、そのゴーレムを人に装着させれば変わるのではないか?最低限のAIで装着した人間の動きをサポートするように出来れば、パワードスーツが出来上がる。


 その時、灰色の脳みそに電流が走った。それは、前世の記憶。女体を浮き上がらせるピッチリとした薄い生地のパイロットスーツを着たヒロインがロボットに乗って戦うSFアニメ。


 機体が動くたびに揺れる胸。ピンチの際に強調される尻。ロボットの操縦席はバイク型が理想だと感じた瞬間である。


 そうだ、ピッチリエッチなパワードスーツを作ろう。


 そう決めてからの行動は我ながら早かった。『訓練に必要だから』という理由でアイリとライカにお互いの体を測定するように言った。本当は自分が手ずから調べたかったが、流石に自重した。


 教えてもらったデータをもとに防具屋に向かった。『鍛冶』のスキルを持たない自分が、突然人が着て動く防具を作れるとは思っていない。なら、いっそ既存の鎧をメインフレーム兼装甲にすればいいのだ。


 中古のぼろい鎧だったが、それでも二つで金貨四枚の大きな買い物だった。それでも、ピッチリエッチパワードスーツの為。必要な出費だった。


 二人には秘密で小さな作業場をギルド経由で借り、そこで作業した。作業場と言っても道具なんて何もない。だが、『錬金術』を使える自分には不要だ。


 チョークで床に錬成陣を書き込み、魔力を籠めれば上に乗せた物の形状を変えることが出来る。一回につきかなりの魔力を消費するし、十分ほどかかるが、自分の魔力量と作業ペースなら問題ない。


 金貨一枚を使って必要な材料を買い集め、それぞれの材料を加工したり、起動するための魔法陣や錬成陣を彫り込んでいく。


 一番難航したのが肝心のピッチリスーツだ。


「あれ、これだと強度が足りない」


「あ、こうすると関節に挟まる」


「うわ、ダメだ作り直さないと」


「これだと『流体魔力装甲』に影響が……」


 ちなみに、流体魔力装甲とは『白魔法』の『魔力装甲』を簡易的に展開させるため考えた物だ。まあ、ほとんどの魔法理論は流用だけども。


 ぶっちゃけ、『魔力装甲」の劣化版ともいえる。魔力を流し込めば誰でも展開できる代わりに、出力が大したことない。自分やマリックさんならもろとも斬れる。それでも、たぶん熊が全力でひっかいたり噛みついてもそう簡単には突破されないだろう。


 そんなこんなで一カ月。二人を鍛えながらも作り上げたパワードスーツ。それを遂に二人が装着した。


「わー、凄いよアイリちゃん。私騎士様みたい!」


「本当だねライカ!凄く強そう!」


「アイリちゃんも強そうだよ!けど……」


「うん……」


「「重い」」


 そこには、空自のパイロットが着るみたいな分厚い衣服を纏い、その上から兜や各部の装甲を身にまとった二人がいた。



ど お し て こ う な っ た !



 いや、理由は分かっている。自分の技量不足と材料が揃わなかったからだ。


 エッチなパワードスーツは作りたいが、実戦に耐えられる物でなければいけない。二人を殺したいわけではないのだ。


 ゆえに、必要とされる強度、可動性、着心地を考えた結果がこれだ。胸は装甲で隠れ、尻や股間回りもスカート型の装甲に覆われ、太ももは分厚いズボンでよくわからない。兜もあってぱっと見性別すらもわからない。


 これではピッチリエッチとは程遠い。むしろゴッツリガッチリだ。大変遺憾である。


「魔力を流し込めば軽くなります。正確にはパワーアシストが効いて軽く感じる、と言った方がいいかもしれません」


「えっと、こうかな……?」


「わ、本当だ。動きやすくなった」


「では、それを着たまま街の外に行きましょう。流石に外で装着するのは大変なので」


「「はい」」


 そんなこんなで街の外へ。途中かなりの注目を集めた。そりゃあ街中をフルアーマーの人間が二人も歩いていたら目立つ。


 二人にはパワードスーツを着たまま走ったり素振りをしたり、軽く組手もしてもらって、理論上ではない生の性能がわかった。


 パワー。ゴブリンと同等かちょい下。


 耐久性。バフなしなら殴っても壊れない。


 スピード。百メートル約九秒。


 結論。


「雑魚では……?」


 思わずつぶやいてしまう。いや、これ着た奴が百人ぐらいいてもバフ込みなら十分で切り捨てる自信あるわ。まあ装着者がマリックさんなみのデタラメなら話は別だけど。


 更に、性能以外にも問題がある。今の出力でも並みの兵士相手なら無双できるだろう。ただし、このパワードスーツ。地味に魔力を食う。


 まともに動かそうと思ったら平均的な魔法使いと同等の魔力が必要だ。その上で、装着者の身体能力も兵士レベルが要求される。


 つまり、魔法使いに魔法を使わずパワードスーツを着て戦うのを強要し、肉体も鍛えて兵士なみにしろと。……普通に欠陥兵器では?


 あと、自分が着て戦う場合も想定したのだが……内側からのパワーで関節が壊れた。バフなしでも今の自分の身体能力のパワードスーツがついていけない。『魔力循環』だけの方が強い。これではバフも考えると、デッドウエイトになるぐらいなら着ない方がいい。


 だが、そんな自分の呟きは聞こえていないらしい。二人は元気にはしゃぎまわっている。流石エルフの血。二人には魔法使いなみの魔力と、『魔力循環』で得た身体能力がある。ある意味このパワードスーツはぴったりだ。……本当は肌にピッタリさせたかった。


「凄いよライカ!サーガの英雄みたい!」


「ありがとう、クロノ君!これ凄いよ!」


 今はとりあえず、喜ぶ二人を眺めていよう。ちょっと泣きそう。これがピッチリエッチパワードスーツなら、乳や尻が揺れていたのに……。




読んでいただきありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強い人が更に強くなるのではなく、弱くてもそこそこ強くなる装備何でしょうかね。これはこれで有用でしょう。主人公氏の望むものではないだけで
[一言] 楽しく読ませていただいています 続きも楽しみです♪
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