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第二話 街への道のり

第二話 街への道のり


サイド クロノ


 村を出て秘密基地によった。捨てられていたのをウサギの毛皮で補修したリュックみたいな袋を背負い、その中に石鹸や炭のはいった樹皮の籠、タオルもどき、水筒を入れていく。

 荷物は少ない。村を離れるのなら物は少ない方がいい。それに、ここに作って置いておいたものの大半は『工作』スキルの練習の為だ。

 そう、スキルには熟練度的なものがある。そこまで詳しく頭の中に浮かぶわけではないのだが、なんとなく今どのぐらいかわかる。

 熟練度はスキルポイントを消費してもあげられるが、『魔力循環』や『軽業』のスキルから繰り返し使う事でも上昇することが分かっている。なのでポイントの節約の為極力熟練度には振っていない。まあ、『白魔法」にはそこそこ振ったので千切れた手足をつなげたり内臓への深刻なダメージぐらいなら治せる。そうしないとあの村では生きていけなかった。


 マジであの村クソだな。


 とにかく夜の闇にまぎれて村から距離を取らなければ。まあ、村人も森の中まではおってこれまい。誰だって熊が出る夜の森とか好き好んで入りたくはないだろう。

 自分もうっかり森の奥に行きすぎないよう注意しなければ。通るのはあくまで森の浅いところだ。

 熊が二頭も短い期間でやってきた。それはつまり、奥の方では熊を縄張りから追い出せるなにかがいるという事だ。

 それが大きく育った熊かもしれないし、商人が話していた魔力を使う獣、『魔獣』かもしれない。なんにせよ戦うのはごめんだ。


 一晩かけて村から離れた。日が昇る頃には森を出てみたが、なにもない平原だった。草が膝近くまであるが、ジャンプしてみると少し行った先に踏み固められた街道のようなものがある。

 左右を見ても村らしきものは見えないので、ここまでくれば大丈夫だろう。

 とりあえず一晩森の中を走って眠いので、休まなければ。できれば森からは距離を取りたいが、そうも言っていられない。街道で寝ていては馬車に踏まれるかもしれないし、人さらいにあう可能性もある。この世界、なんと奴隷が存在するのだ。

 奴隷と言ってもローマ時代のそれではなく、完全に創作物にでてくる方の奴隷だ。

 基本的に奴隷を買うのは大きな商人や貴族だ。一般人が買ってもたいてい逃げられるらしい。ただし、奴隷は焼き印がされるから逃げた後の生活は悲惨だそうだが。

 ちなみに高級奴隷というのも存在し、そういうのには魔法の首輪がはめられてガッチガチに管理されるから絶対に逃げられない。

 とにかく、あまり人目につくところで寝ていたら攫ってくださいと言っているようなものだ。

 森の手前で今日は休むことにしよう。荷物を置いて街道から見えないように隠す。幸い、周囲の草で見つけづらいはずだ。

 ついでにテント代わりになる葉っぱのついた木の枝も集めておいた。あとで錐になるように縛るのだ。


 森にはいって、手ごろな石を三つほど拾う。この辺の動物がどういうのがいるか知らないが、距離的にそこまで変わってはいないだろう。

 野草を取りたいので今回は木の上をいかずに歩いて進む。野草については、ほぼ『薬草学』のスキルによってえた知識だ。

 知らないはずの事が当たり前のようにわかる。便利ではあるが、勝手に脳をいじられているみたいで気味が悪くもある。

 見つけた野草をポケットに入れながら進んでいくと、遠くに小さな魔力を感じる。

 姿勢を低くしながら風下から近づく。ウサギだ。二羽いる。


「『筋力増強』『精密稼働』『鷹のホークアイ』」


 バフをかけてから片方に狙いを定め、石を投擲する。『強化魔法』と『魔力循環』のおかげで速さもコントロールも十分。ウサギの小さな頭に直撃し、血が飛び散る。

 もう一匹は慌てて逃げだすが、追うつもりはない。取り過ぎても保存する手段がないのだ。


 血抜きもせずに荷物を置いた場所まで戻り、枝を縛ってテントにする。その辺の石で軽く穴を掘り、そこに持ってきた炭と拾った小枝を並べて火を用意する。

 ウサギの血抜きはしない。血も今の自分には貴重な栄養だ。石包丁で皮をはいで腹を軽く裂いてから火であぶる。

 ある程度焼けたら内臓をかきだしてまた焼く。前世で見た漫画の知識しか頼りにならないので、内臓には手を出さない。『状態異常耐性』も『白魔法』も寄生虫は怖い。

 焼き終わったら、代わりに水をいれた樹皮鍋を火にかけ、そこに野草をいれて煮る。

 野草にも寄生虫がいる可能性がある。と、前世のテレビ番組で言っていた気がする。カタツムリが通った後の粘液とかに。

 煮るのを待ちながらウサギのかば焼き(かば焼きと呼んでいいのかは知らん)。固まった血の影響でえぐいレバーみたいな味がする。まずくはないが、美味しくもない。それでも食えるだけかなりありがたい。

 食べ終わる頃には野草も煮えたので、そちらも食べる。野草はくたくただし、汁も苦い。だが、大事なビタミンだ。

 これらは村にいた頃夜森で食べていたメニューと変わらない。しいていうならウサギじゃなくて小鳥の場合、羽をむしってから頭と内臓をとってから骨ごと石で潰して肉団子にした後、野草と一緒に煮込む。これだけだ。

 料理と言っても二種類しかない。調味料は自分には手が届かない。

 だが、それもこれまでの話。

 予定は前倒しになったが、村をでたのだ。雌伏の時は終わり、これからは成り上がりを目指す。

 この世界には冒険者という職業があると商人の話やクソガキどもの話を盗み聞きして知っている。大半はただのごろつきだが、運と実力のある者は昔貴族になりあがった事があるらしい。現在でも大物商人の娘と結婚した場合もあるとか。

 運があるかはしらないが、チートならある。これを使えば成り上がることも可能だろう。そうすればうまい飯に温かい寝床が手に入る。あと、美人な嫁さんもゲットできるかもしれない。

 それに、冒険者をしていれば自然とスキルポイントもたまるだろう。

 スキルポイントは普通に暮らしていても一日に一ポイントは貰える。だが、生き物を殺した時も得られるのだ。というか、一日一ポイントというのも人間生きているだけで微生物やらなんやら殺すからだろう。

 ちなみにポイントは殺した生物が大きかったり強かったりすると増える。熊を殺した時は凄かった。

 腹ごなしは終わったし、今後の予定、というか目的を考える。

 まず街にでる。そこで冒険者ギルドで登録を行い、クエストをこなしていく。最初のうちはまず間違いなく雑用ばかりだろうが、自分にはチートがある。頭角を現すことは可能なはずだ。


 なんか捕らぬ狸の皮算用とうかんだが、いけるはず。たぶん。


 スキルの『薬草学』を使って薬師に弟子入りするというのも考えたが、たぶんダメだろう。基本的にそういう技術や知識は親から子にのみ受け継がれるのがこの国では普通らしいからだ。弟子なんてそうそうとってもらえないし、自分の身分は孤児だ。信用がない。

 まあ、まず街まで行かなくては。ウサギの骨や内臓を掘った穴に捨てて、火種用のを除いた炭で歯を磨いた後、縮こまるようにして仮眠をとった。


 体感で三時間ほど眠った後、出来る範囲野営した痕跡を消してから街道にでる。踏み固められているし草も生えていないので歩きやすい。

 街道をしばらく進んでいると、『危機察知』のスキルが反応する。周囲を警戒しながら『魔力感知』を使うと、こちらに森側から接近する三つの反応を感じ取る。これは、人間か?

 まさか、村からの追手が?いや、それはないはずだが。

 とりあえず草むらに飛び込んで街道から距離を取りながら隠れる。

 現れたのは、見覚えのない三人組だった。自分ほどではないがボロをきて、剣や棍棒を持っている。

 仲間内で何かを話しながら、何かを探している。ひとりが地面を指さして何かを仲間に伝えたかと思うと、剣をもった男が声をはりあげる。


「ガキィ!そこに隠れているのはわかってんだ、でてこい!」


 どうやら探しているのは自分らしい。はて、彼らに追われる筋合いはないはずだ。

 もしかして自分が狩りをしたのは彼らの狩場だったのか?一応、理由を聞いた方がいいのだろうか。だが、みるからにガラが悪そうだしなぁ………。


「なにか用でしょうか」


 とりあえず、距離を取ったまま立ち上がって訪ねる。

 すると、彼らは黄色い歯をむき出しにしてけたけたと笑い出した。


「本当に出てきやがったぞこのガキ!」

「へへ、馬鹿なガキだ。ま、こんなところを一人で歩いている段階で馬鹿だがよ」


 三人は広がって囲むようにじりじりと距離をつめてくる。


「……もしかして、人さらいの人達ですか?」

「はっ!どうだかなぁ」

「ひひ、捕まってみればわかるぜぇ」

「その綺麗な顔を傷つけたくないんだ、売値がさがるからな。おとなしくしろよ」


 確定、こいつら人さらいの山賊だ。

 ならばやることは一つ。


「『筋力増強』『精密稼働』」

「あ?なんだって?」


 小声で詠唱をおこない、走り出す。予想外の速さだったのだろう。あっさりと男たちの隙間を通り抜ける。


「え、あ、待て!」

「このクソガキ!」

「追え!追え!」


 当然ながら男たちは追いかけてくるが、今の自分は馬より早い。途中街道をでて森に入れば、簡単にまくことができた。

 だが、まさかこんな早く盗賊と遭遇するとは。冒険のお約束とはいえ、大丈夫かこの国の治安。


「へへ、馬鹿なガキだぜ」

「こいつは高く売れるぞ」


 別の盗賊に遭遇した。今度も同じように逃げた。


「こいつは上物だ!」

「はっはっ、なあ、売る前に味見しようぜ」


 また別の盗賊にあった。今回も逃げた。


「はっはっはっ!ガキぃ、おとなしく」

「多い!」

「ぐはぁ!?」

「「兄貴ぃ!?」」


 盗賊のリーダーぽいのにレバーブローをいれる。

 いくらなんでも盗賊が多すぎる。どうなっているんだこの国の治安。


「こ、このクソガキ」

「あっ」

「に、逃げやがった!」


 盗賊が悶えている隙に走って距離をとる。


「待ちやがれ!」


 追いかけてくる盗賊たち。ここまでは何度もやったが、いい加減こちらもキレた。逃げっぱなしは村の事を思い出して腹が立つ。


「『筋力増強』『精密稼働』『鷹の目』」


 バフをもりながら視線だけ振り返ると、盗賊たちとの距離は十分にある。

 ポケットから石を取り出しながら振り返り、そのまま投擲。


「ぎゃあああ!」


 ゴキャリという異音を発しながら、石は盗賊のリーダー、その膝に直撃する。


「え!?」

「な、なんだ!」


 他二人は何が起きたかわかっていないらしい。その隙に新しく石を拾って投げつける。


「ぎゃあ!」


 二人目は肩に当てた。こちらも痛みと衝撃で転倒する。それを見て慌てた三人目が逃げだした。


「ま、待ってくれ!」


 肩を抑えた二人目がその後を走ってついていく。


「え、お、お前ら!?戻ってこい!俺を助けろ!」


 哀れ、足を怪我したリーダーだけが取り残された。まあ狙ってやったのだが。

 周囲を警戒しながら倒れた盗賊に近づく。


「ち、ちくしょう、来るな!」


 盗賊は持っている剣を振り回して牽制するが、ある程度近づいたらその手に向かって石を投げる。


「がああああ!お、俺の手ぇ!」


 へし折れた手を押さえて震える盗賊の姿にちょっとだけ罪悪感がでるが、ここは心を鬼にする。そもそも襲ってきたのはむこうだし、哀れに思っていては『狩り』はできない。

 盗賊が取り落とした剣を拾い、切っ先をむける。


「動くな。騒ぐな。じゃなきゃ刺す」

「ひっ……!」


 やけに怯えられているが、まあこんな子供が一撃で骨を砕く剛速球投げてきたらそりゃ怖いだろう。


「みぐるみ全部おいていけ。反論は認めない」

「そ、そんな、そんなことしたら俺はこの先」

「反論するな」

「いてぇ!」


 盗賊の頬を刺す。痛みでのけぞったところを、更に胸を蹴る。


「いいから脱げ。全部おいてけ」

「わ、わかった、わかったから」


 盗賊はまともに動かない片手足で、痛みに悶えながら服と所持品をその場に置いていく。


「よし、そこから離れろ」

「あ、ああ」


 下着一枚になった盗賊を下がらせ、剣を向けたまま衣服と所持品を抱える。


「………」


 盗賊が、憎しみのこもった目でこちらを見てくる。雰囲気は、手負いの獣に近い。

 次の瞬間、盗賊は跳びかかってきた。だが、遅い。伸ばされた手を避けて刺した方の頬を蹴り飛ばす。


「あがぁ!?」


 横たわって動かなくなった盗賊に、殺してしまったかと少し焦る。だが、よく見たら呼吸しているし、気絶しただけだろう。いや、まあ後遺症とかまでは知らないが。

 そこで、頭にここでこの盗賊を殺すべきではないかと考えが浮かぶ。

 おそらく、この盗賊は自分の事を恨むだろう。それに、きっとまた犯罪を繰り返す。だったら、この場で殺すべきかもしれない。

 そんな考えが浮かんで、すぐに振り払う。だめだ、人はそう簡単に殺していいものではない。一度死んだ自分だから、余計に人命を重く感じてしまう。

 こんな三下のために十字架を背負うのはまっぴらごめんだ。

 逃げた手下二人が戻ってくるかもしれないので、さっさとこの場を離れることにした。





読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 序盤から盗賊見つけるたびにボコって武器や道具や金をカッパすればいいのに。 盗賊だからまた誰かを襲うし、全滅させた方が周辺の平和のためにも、経験値的にもいいと思ったけど、そこまで非情にはなれな…
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