第二十七話 報告
第二十七話 報告
サイド クロノ
「なんだこれは……」
追いかけて合流した後、ビショップに杯を見せた反応がこれである。
「凄まじい魔力を感じる。……本当に、君が戦った者は魔人を名乗っていたんだな?」
「はい」
「……これも、街に戻ったら報告する必要があるな。私には判断できん」
ビショップが疲れた顔でため息をついた。
「ま、魔人って言ったクロノ君……?」
「え、はい」
なにやらワナワナとした様子でアイリとライカが近づいてくる。
「凄いよ!まさにサーガにでてくるやつだよ!」
「そうだねアイリちゃん!私達、サーガの登場人物になっちゃったよ!」
二人だ手を取り合って喜んでいる。もしかしなくても、魔人を倒すというのはかなり凄い事なのだろうか。
「お聞きしたいのですが、魔人って結局なんですか?」
「知らないのクロノ君!?」
「え、ええ」
一気に二人が顔を近づけてくる。顔がいいなこいつらほんと。
「魔人って言うのはね?大昔魔王が作り出した怪物って言われているの。魔王が女神様の宝物庫から盗み出した宝物に自分の魔力を込めて、疑似的な命を与えて使役しているんだって」
「一体一体が単独で街を滅ぼせる存在で、ピンからキリが激しいらしいけど、一番弱いのでも騎士団が一つ壊滅したって伝説もあるんだよ。しかも黒魔法を人間に教えて回って、配下を増やしているんだ。グラーイル教団がまさにそれだね」
「な、なるほど」
早口でまくしたてられたが、なんとなくはわかった。要は伝説上の存在で、非常に危険な生物のようだ。
正直自分も正面からなんの策もなしに勝つことは出来なかった。運よくあの村に油がたくさんあった事と、メルクリスが露骨に油断していた事が勝因だ。
さて、ではそんな存在を自分が倒したと、ギルドは信じてくれるだろうか。
* * *
街について早々、ギルドの奥の部屋に全員連れてこられた。
「私はセンブルの冒険者ギルドで副ギルド長をやっているキンブルだ。疲れている所を呼び出してすまないね」
初老の男、キンブルがそう言って話しかけてくる。
「だが、今回の一件は街の今後に関わってくる重要な案件だ。詳しく話してくれ」
そう言われて、自分達の知っている範囲であの村での出来事を話した。
最初は自分の魔法についてはぼかしたかったのだが、街につく前バークレイに相談したところ拒否された。
『たとえ恩人の頼みでもそれは無理だ。今回の事は全部正直に話す。そうしないと街が滅びかねねぇ』
ごもっとも過ぎて反論できなかった。けどなぁ、どうやって説明したもんかなぁ。
「……正直、前半について魔導士ギルドから中位悪霊の骨だと保証されていなければ信じられない内容だ。本当に、君が『白魔法』で倒したのだね?」
「……はい」
「それほどの『白魔法』、いったいどこで身に着けたんだ?」
ほらきた。やっぱり皆そう思うよなぁ……。正直に『転生チートです!』と言うわけにはいかない。狂人扱いはごめんだ。
「それについては、独学としか言えません」
「独学……?」
キンブル含めて部屋にいた全員が訝しげな顔をする。
「……そういえば君はスルネイス殿の道場に……なるほど、言えない事情があるのだね?」
「お察し頂ければ、幸いです」
なんか勘違いされている気がするが、誤魔化せるならそれでいい。真面目な顔で頭を下げておく。
「わかった。とにかく、グラーイル教団の件。本当にありがとう。本来なら君達の功績を喧伝したいところだが、代官から今回の件は緘口令が出された」
「な!何故ですか!?」
ビショップが声を荒げる。それに対し、キンブルは申し訳なさそうに目をそらす。
「すまないが、君達に教えられる事はない。報酬は用意してある。今回の件でランクを上げるなどは出来ないが、今後成果や実績を上げた時昇級しやすいようにしておこう」
「そういう事ではありません。もしや、また教会が何か」
「話は以上だ。下がり給え」
「お待ちを、先ほど『前半について』とおっしゃいましたが、魔人についてはどうなさるのですか?」
バークレイが問いかけると、キンブルは首をふる。
「そちらの話は流石に信じられない。その杯も魔導士ギルドから判断のしようがないほどの逸品だと聞いている。だが、それだけで魔人の存在を信じる事はできない」
「……そうですか」
まあ、自分の肉体はまだ子供。ここで魔力を放出させて強く見せたところで、判断は変わらないだろう。街につくまでどれだけ魔人という存在が伝説的なものかライカとアイリに聞かされた。
話は終わりという事だろう。杯を返され、職員に退室させられる。その時報酬を受け取った。
「っ!?」
思わず目をむいてしまう。なんと金貨五枚だ。口止め料も入っているのだろうが、かなりの額だ。
「あん?坊主が金貨五枚とはしけてんな……お前さんの手柄なら大金貨は硬いだろうに」
「いえ、そこまで貰うわけには」
横から見ていたバークレイが呆れた顔をする。
「いや、中位悪霊だぞ?それの討伐にかかる予算と被害を考えりゃあ、もっとあっていいはずだろう。まあ、今後も冒険者やっていくなら表立って抗議はできねえがな」
「ですね」
自分としては、中位悪霊には苦労したと思っていないからその件で大金を受け取りづらい。その辺、他の人達と価値観がずれている自覚はある。
あの悪霊もかなり危険な存在だったのだろうが、ドラゴニュートやマリックさんと比べるとそこまで脅威に感じないのだ。
まあ、貰えるだけ良しとしよう。そう思ってギルドを後にしようとしたところ、ライカとアイリに止められた。
「クロノ君、ちょっといい……?」
「はい?構いませんけども」
そう言って二人に連れてこられたのは、人気のない路地裏だった。
え、なんで路地裏?あれか?カツアゲか?いや二人に限ってそれはないだろう。というか実力差的に無理だろうし。
緊張した様子の二人に、こちらはひたすら困惑する。
もしや……これは愛の告白では……?
いやいや、そんな都合がいい話はないだろう。だが、もしかして悪霊に襲われた時の事が吊り橋効果で……?
来てしまったのか。ついに春が来てしまったのか。
ど、どうしよう。これはどっちかが付き添いだったりするのか?それとも同時に?その場合どちらを選べばいいのだ?
というか二人の事全然知らない。え、本当にどうすればいいの?とりあえずスキルツリーに恋愛関係系のがないか探してみる。見つからない、現実は非常である。
「あの!」
「はい!」
ライカの声に上ずった声で返してしまう。いけない、ここは年上の余裕というやつを見せなければ。……肉体年齢はむしろ年下だった。
「私たちを!」
「強くしてください!」
………なんて?
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