二十三話 初依頼
第二十三話 初依頼
サイド クロノ
翌日、冒険者ギルドに向かうと受付が騒がしかった。
「だから、なんで俺がそんな扱い受けなくちゃならないんだよ!」
受付嬢に怒鳴り散らしている冒険者がいる。
「ですから、依頼主から割符を受け取っていないなら依頼の成功とは認められません。今からでももう一度依頼主のところに行っていただいて」
「あの辺鄙な村までどれだけかかると思っているんだ!いいだろそれぐらい」
「例外を作るわけにはいきませんので」
「なめとんのかこのアマぁ!」
「おい」
「ああっ!?」
その騒いでいる冒険者の後ろに、気づけば三人ほどの大柄な男達が立っていた。
そのうちの一人がおもむろに冒険者の頭を掴み、そのまま力を込めていく。
「いたたたたた!な、なにしやがる!」
当然冒険者もその腕を外そうとするが、逃れることも出来ず膝をつく。
「坊主、あまり困らせるなや。大人しく割符貰いに行っとけ。な?」
「わかった!わかったから離せ!」
男が手を離すと、冒険者は一睨みした後逃げるようにギルドを出て行った。
「あ、昨日登録した冒険者の方ですね?」
昨日登録をしたカウンターから声がかかる。そちらに向かうと、一枚の紙が差し出された。
「よろしければ、こちらの依頼を受けてみませんか?」
「この依頼は?」
「はい。バルゴ村から怪しい影が村の周囲で目撃情報があったので調査してほしいという依頼が入っています。先達の冒険者パーティーが既に村へ向かっていますので、現地で合流して一緒に依頼を達成してください。報酬は少ないですが、今回預り金は発生しません」
なるほど、要は簡単そうな依頼を先輩冒険者達と一緒にやって、ついでに色々教えてもらえと。
これがアルパスのギルドだったら何か裏を感じるところだが、ここのギルドなら大丈夫だろう。たぶん。
「僕は受けてみてもいいと思いますが」
「うーん……そうだね」
「伝説への道も一歩ずつだよね」
依頼を受ける意を示すと、受付嬢がホッとした顔をする。
「よかった。いやぁ、冒険者の中には『自分達にそんなの必要ない』と言って先輩からの忠告とか無視する方もいますので……」
「ああ……」
まあ、冒険者になる奴なんて我が強いかガラの悪いかのどちらかだろう。受付嬢も大変な職業だな。
とにかく、バルゴ村の場所を聞いてギルドを出る。どうやら歩きで一日ほどらしい。今から出れば明日の午前中にはつくだろう。
減っていた塩や食料、飲み水などを購入して街を出る。流石に今回は二人を乗せて走るのはしなかった。
* * *
「それにしても、本当にクロノ君っていい匂いするよね」
街道を歩いていると、ライカが疑問符を浮かべながら尋ねてきた。アイリも頷いている。
「特にこれと言っては……ああ、石鹸は出来るだけ使っていますね」
昨日も二人が宿の一階にある食堂を使っている時に桶を借りて体を洗ったのだ。
余裕があるなら毎日体を洗うようにしている。精神的な問題もあるが、身だしなみは大事だ。人は見た目が九割。不衛生より清潔な方が信用を得やすい。
「石鹸使ってるの!?」
「けどあれって高いんじゃ」
「まあ、自作の品なので品質は保証しません」
「え、作れるの?」
おや、何やら二人の視線が鋭くなった。
「……材料を教えてもらったりって、出来たりは」
「ちょっと無理ですね。下手に広めると命を狙われそうなので」
これは誇張でもなんでもない。石鹸の製法は一部貴族の大事な収入源だ。その作り方を簡易版とはいえ広めようものなら、本当に命を狙われかねない。というか指名手配される。
「だよねぇ……」
露骨にしょんぼりする二人。まあ、女性にとって清潔にすることは男以上に大事だろう。どこの世界でも女性の美の探求は深いものだ。
「僕の作った物でよければ、分けましょうか?」
「「いいの!?」」
「おおう……」
勢いよく顔を近づけてくるので、ちょっとドキッとした。
「あ、使用料とかどうしよう」
「いえ、お金は取りませんよ。金銭のやり取りとかあると、本当に犯罪になってしまうので」
「クロノ君は真面目だねぇ」
「けどただで貰うのはちょっと……」
申し訳なさそうにしているが、こちらにもメリットがある。
「こちらにもメリットがあります。パーティーを組んでいる今、メンバーは清潔を保っている方が依頼主やギルドの受けもいいはずです」
「な、なるほど」
まあ、ぶっちゃけ美少女には綺麗でいてもらった方が目の保養になる。というのが半分以上の理由だが。
「そういうお二人もかなり清潔な感じですが、何かやっているのですか?」
特に興味はないけどこちらからも話題をふる。言ってから『あれ、これセクハラにならない?』と心配になったが、二人とも気にしていないようだ。
「えへへ、綺麗かぁ。それはね、うちの村で採れていた薬草なんだけど」
そんな話をしながら、一日かけて翌日の朝にはバルゴ村に到着した。途中野宿をしたのだが、こちらはこれでもサバイバル経験は転生して散々積んだし、ライカは狩人の娘だ。特に問題なく終わった。
むしろ鳴子などの道具について教わったくらいだ。
* * *
「ようこそ、バルゴ村へ」
なんだ……この、なに?
村に近づくにつれ、『危機察知』が反応し始めたので二人に注意を促しながら進んでいた。やがて『魔力感知』も違和感を覚えていたので警戒心を上げていたのだが、特に何もなく村に到着した。
だが、出迎えたのはこれである。
「あ、この村の方ですか?」
固まる自分をよそに、ライカが応対する。
「はい。貴女方は依頼を受けてくださった冒険者の方々ですか?」
「はい!ギルドからは既にこの村へ別の冒険者が向かっているとの事だったのですが」
「ああ、その方々なら村長の家にいますよ。ご案内します」
普通に会話が進んでいく。おかしい。明らかにおかしい。
だが、ライカもアイリも何も違和感を覚えていないようだ。なんら警戒せずに『あれ』の後をついていこうとする。
「お姉ちゃん、私、トイレ行きたくなっちゃったぁ」
苦悩の末、出した結論がこれだ。我ながらもっといい案はなかったのか。
「ぶふぉ!?」
「く、クロノ君!?」
ライカは吹き出し、アイリは困惑した顔をする。そりゃそうだ。だが、『あれ』に気づかれず二人に危険を伝えるのはこれぐらいしか思いつかなかった。
「トイレですか?それでしたらあっちの小屋が共用になっています」
「一人じゃ怖いから、お姉ちゃん達も来て欲しいなぁ」
「い、いいのかな?」
「本当にどうしたのクロノ君?」
心配そうなアイリはいいとして、ちょっと興奮しているライカはどういう感情なんだいったい。
「漏れちゃうから早くぅ」
「そうだね!お姉ちゃんに任せなさい!」
「ライカ!?」
これは、ライカの方は察してくれているのか?だとしたら助かる。『あれ』に怪しまれると面倒なので、アイリとライカの手を取って強引にトイレへ向かう。
「お二人には先ほどの……人物?がどう見えましたか?」
強引に小屋の中に連れ込む。臭いがきついが、今は我慢だ。
「え、さっきのおじさん?特に変な所はなかったと思うけど」
「はあ、はあ、クロノきゅん。お姉さんがしーしーさせてあげるからね……!」
出来ればライカと詳しく話したいのだが、どうやらそれどころではないらしい。
現在、『魔力感知』と『危機察知』、『空間把握』でこの小屋が包囲されている事がわかった。
「単刀直入に言います」
二人が平然と接していた『あれ』は、どう見ても人間ではない。いや、まともな生物ですらない。
「僕は、山羊頭の死体が動いているようにしか見えませんでした」
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