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第二十二話 この世界

第二十二話 この世界


サイド クロノ


 本当に三人で一部屋になってしまった……。


「あの、何故三人で一部屋に?」


 恐る恐る聞いてみる。もしかしてあれか?ついに大人の階段上っちゃうのか?

 落ち着け自分。素数を数えるんだ。二、四、六、八……偶数だこれ。


「あのね、私たちチームを組んだじゃない?」

「はい。そうですね」


 アイリが優しく語り掛けてくる。


「だから、クロノちゃんの秘密も教えて欲しいなって」

「っ……」


 自分の秘密。それは前世の記憶とチート能力。確かに隠し続けるのは背中を預ける相手に不誠実かもしれない。

 だが、これは道場の皆にも隠していた事。昨日今日会った相手に教えるのも……。


「先に、私の秘密を明かすね」


 ライカが緊張した様子で口を開く。


「実は私、女の子みたいな男の子か、女の子が好きなんだ」

「いやそれは秘密でもなんでもないのでは?」


 何を改まって言うのかと思えば、初対面の段階で女性を恋愛対象にしているのは察していた。

 まあ、男の好みは知らなかったが。……あれ、もしかしてこれ、自分あてはまっているのでは?


「し、知ってたの!?」

「いや、最初の段階で口を滑らせてましたよね?」


 ライカは驚いたように、アイリは頭痛を堪えるように頭を押さえている。


「その、うん。やっぱりバレていたかぁ」

「え、アイリちゃんもバレていると思っていたの!?」

「そりゃあ、うん。普通に言っちゃていたし」


 まあ、あれで隠せていると思っていた方が驚きだ。よく言えば噓をつけない正直者なのだろう。悪く言うとただの馬鹿だが。


「それと、私とライカ共通の秘密があるの」

「お待ちください」


 話を遮る。ここは言わせてもらわなければ。


「人間、言いたくない秘密の一つや二つあります。それを仲間になったからと言って、おいそれと話すのは違うでしょう」

「それは、そうだけど」

「それに、勝手に秘密を打ち明けてこちらにも開示しろというのは、押し売りに等しい。正直、困ります」


 言ってしまった。だが、こういうのは今後も付き合っていく上で曖昧にするのもいけない。悩ましいものだ。

 できるならこの二人から好かれたい。更に言うとお付き合いしたい。だが、譲れない一線はある。


「でも、クロノちゃんは辛くない?秘密を隠し続けるの」

「辛くとも、隠すのが秘密というものです」

「……けど、やっぱりクロノちゃんが男の子っていうのは無理があるよ?」

「なんて?」


 今なんて言った?自分が男と言うには無理がある?

 はて、昼間もこんな会話をした気がするのだが、忘れてしまったのだろうか。


「あの、何故自分が女と思われているのでしょうか?」

「昼間は男の子って信じちゃいそうだったけど、近くにいればやっぱりわかっちゃうよ」

「うん。クロノちゃんが性別を偽る理由は聞かない。守りたい秘密なんだね?けど、私たちの前ぐらい女の子でいていいんだよ?」

「いや、だから僕は男です」


 なんだその『大丈夫、わかっているよ』っていう顔は。

 いっそこのまま女の振りでもしてみるか?それになんのメリットが……着替えとか覗けるかな……。

 いやダメだ。一時はよくとも、男と判明した時嫌われてはいけない。ここはしっかりと証明しなければ。


「わかりました。どうぞ僕の体をお調べください」

「え?」

「流石に触って確かめればわかるでしょう。脱がせても構いません。それで信じていただけるなら安いものです」


 仁王立ちになって手を広げる。

 アイリは困惑した様子だったが、ライカは露骨に鼻息を荒くする。


「い、いんんだね?」

「ライカ、顔、顔」


 ちょっと変態おやじみたいな顔でライカが近づいてくる。いいだろう、そちらがこちらを性的な目で見るのならこちらも存分にその立派な胸を見させてもらう。


「ていっ!」


 ライカが両手をこちらの胸にかぶせた後、撫でまわしてくる。


「……小さいけど可愛いからよし!」

「いや、男なので胸を触られてもどうとも……」


 強いて言うなら手付きがいやらしいので、少しくすぐったい。

 だらしない顔で撫でまわすライカの後頭部をアイリがはたく。


「あいて」

「真面目にやりなさい。クロノちゃんも本気なんだから」


 そう言って二人でこちらの全身を服の上から撫でまわしてくる。

 正直に言おう。ちょっと興奮している。

 だって美少女だぞ?それが二人だぞ?吐息がかかるし、時々巨乳がかすめていくのだ。息子は反応するのを抑えているが、童貞には少々酷な事だ。


「薬師としての意見を言わせてもらうと、幼いけど男の人の骨格に近い……」

「な、なんだと……!?」


 真剣に考えるアイリの横で、ライカが慄いている。だからなんでそこまで驚くのか。


「私の美少女センサーが誤作動を……?」

「あっ」


 そうだ、昼間気になっていたのはその単語だ。彼女は『センサー』と言っている。

 その単語が出てくるという事は、もしかしてこの世界にもセンサーが存在するのか?言っては何だが、この蒸気機関すらなさそうな世界に?


「あの、センサーって」

「まだだ、まだ私は負けを認めない!ここを確かめれば白黒はっきりするはずだぁ!」

「えっ」

「ちょっ」


 ライカがこちらのズボンに手をかける。振り払おうと思えば簡単に出来る。だが、下手に迎撃すれば怪我をさせかねない。くしくも昼間抱き着かれたのと似た状況だ。

 咄嗟に動けないまま、下着もろともズボンが引きずり降ろされた。


「「あっ」」


*    *     *


「ほんっとうにごめん!」

「ごめんなさい!」


 ライカとアイリが深く頭を下げてくる。


「いいえ、気にしないでください。元より、服を脱がせてもいいと言ったのは自分です」


 あの後パニックになる二人をなだめるのは少々大変だった。最終的に別の部屋からの苦情で鎮静化した。

 それから二人ともこの様子だ。


「まさかクロノちゃ……クロノ君が男の子だったとは……」

「このライカの美少女センサーでも見抜けなんだ」

「あ、それです」

「はい?」

「取り合えず頭を上げてください」


 二人に顔を上げさせた後、ライカに尋ねる。


「そのセンサーってなんですか?聞きなれない単語ですが」


 ライカが口にした以外、この世界では初めて聞いた。いったいどういう事なのか。


「ああ、それは吟遊詩人の物語に出てくるんだよ」

「吟遊詩人の?」

「そうそう」


 二人ともちょっと興奮したように早口になる。


「たしかね、何十年か前に帝国に大きな鉄の船が流れてきたんだって。乗っている人はほとんど亡くなっていたんだけど、一人だけ生き残りがいたの」

「その人の言葉は全然わからなくて、別の大陸から来たのかって話だったんだけど、最近はもうよその大陸と王国がやり取りしているらしいけど、どうもその国の言語とは違うらしいんだ」

「じゃあその鉄の船はいったい何なのか、未知の大陸がまだ存在するのか?それとももっと別の何かなのか?更に言えばその船には馬を必要としない馬車も存在したとか」


 この二人、吟遊詩人についての事だと早口になるんだな……。

 だが、まさかその鉄の船とは、自分の知る世界の物では?


「あの、その未知の言語ってどんなものか分かりますか?」

「え?えっとたしか……」


『へりっぷみー』


「だった気がするけど……」


 へりっぷみー……ヘルプミー?英語?やはり自分のいた世界から?

 自分という転生者以外にも、この世界に来ている存在がいたというのか。


「その人はどうなったか分かりますか?」

「お、クロノ君もサーガに興味出てきた?」

「いいよぉ、サーガはいいよぉ」

「え、ええ、そうですね」


 いいからその人がどうなったのかが気になるのだが。


「けどちょっとその人がどうなったかまではわからないなぁ」

「うん。帝国にいけば何かわかるかもだけど……」

「けど?」

「最近、この国と帝国って仲悪いらしいからさ、行くのは難しいかも」

「未知の船とかめちゃくちゃ気になるんだけどねぇ」


 現在マルヴォルンと帝国は仲が悪いのか……。

 出来るならその船について今すぐ調べたいが、無策で国境を超えるのはまずい。ダンブルグ王国からの国境越えはそれほどでもなかったが、敵対している国家なら下手に国境を越えようとしただけで敵認定されるだろう。

 それから帝国に関しての話や、色々なサーガの話を二人とした。

 二人にとって好きな話題だったからか、意外なほど三人部屋というのを気にしなくて済んだ。

 まあ、流石に眠りづらくはあったが。




読んでいただきありがとうございます。

気に入って頂けたらブックマーク、評価、感想、よろしくお願いいたします。

今後ともよろしくお願いいたします。

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