第二十話 センブル
第二十話 センブル
サイド クロノ
街の近くに到着したので、二人を地面にゆっくりとおろす。
「はあ、はあ、はあ……」
「ひぃ……ひぃ……」
二人とも息も絶え絶えと言った感じだ。……もしかして、やり過ぎた?
「えっと、すみません。初めて人を乗せて走ったので、加減が分からず」
とりあえず謝っておく。今回は欲望を最優先した自分が悪い。
「い、いや、クロノちゃんは悪くないよ。おかげで日が沈む前に街につけたし」
「そ、そうだね。獣にも野盗にも会わなかったし」
二人そろって力ない笑顔を浮かべる。
「「けど少し休ませて……」」
「本当にすみませんでした」
流石に罪悪感が凄い。
* * *
それから十分後、二人も落ち着いたので、街に入る列にならんだ。
アズバルクほどではないが、ここも人が多い。商人の馬車も結構ある。
それにしても、ちょっと列の進みが遅い。どうやら馬車は全て入念に調べているようだ。まるで特定の何かを探しているようにも思える。
三十分ほどして、自分達の番になった。
「ん?お前たち三人だけか?」
「はい、そうです」
「ふーん……」
門番の視線がいやらしくなる。さもありなん。これだけの巨乳美少女が二人もいるのだ。そういう視線にもなるだろう。……何故か自分まで嘗め回すように見られているが。
だが、二人を門番の魔の手におとすわけにはいかない。そんな羨ましい事させるものか。
カバンから書状を出す。卒業の際、スルネイス先生から貰ったものだ。
『質の悪そうな兵士にあったら見せなさい』
そう言われたので、早速使ってみるとしよう。
「通行証ではありませんが、これを見ていただけますか?」
「なんだ。言っとくがボディチェックは念入りに……」
書状に目を通した兵士が固まる。
数秒後、震える手で書状を返した後、ビシッと姿勢を正す。
「どうぞお通り下さい」
「え、通行証とか通行料とかいいんですか?」
「構いません。それが通行証です」
冷や汗が凄い。いったいスルネイス先生何を書いたんだ。
まあ、いいと言うなら通させてもらおう。怪訝そうな二人をつれて門番の脇を通って街に入る。
「おお……」
「すごぉい……」
後ろの二人が街並みを見て感嘆の声を上げるが、自分からしたらアルパスの街以上、アズバルク以下といった感想だ。
十分凄いが、これ以上の賑わいを知っているので特に驚かない。
「わ、わ……」
「あ、す、すみません」
二人が人の波に混乱しているので、袖を引いて道の脇に移動する。
「お二人とも大丈夫ですか?」
「う、うん」
「実は街って来たの初めてで」
「なるほど」
どうりで慣れていない様子なはずだ。街の住民が歩く速度についていけていない。
「逆に、クロノちゃんは凄い慣れている感じだけど、なんで?」
「うん。それにあの門番の人に見せたのっていったい」
「ああ、僕は少し前までアズバルクの剣術道場に通っていましたので。あの書状はスルネイス先生という方から頂いた物です」
「アズバルクの剣術道場?」
「え、もしかしてクロノちゃんって凄い所の出?」
「いえ、孤児です。ただ、運が良かったので」
そう、運が良かった。生まれついてチート能力がなければ。ここまで来る事なんてできなかっただろう。
「その、ごめん。変な事聞いて」
孤児という発言に二人とも気まずそうだ。正直、この世界で孤児とかそう珍しいものでもないと思うのだが。
やはり、二人とも村の重要人物の血縁だけあってちょっと世間知らずな所があるのだろうか。まあ、自分もこの世界の常識を把握しきれていないが。
「どうぞ気にしない下さい。それで、お二人はこの後どうするのですか?」
確か冒険者以外にも薬師や狩人のギルドが存在するらしいので、そっちに行くのだろうか。
まあ、この街を拠点にする予定なので、ここで分かれてもまた会えるだろう。むしろ理由をつけて探して会いに行くつもりだが。
「あ、私たちは冒険者ギルドに行こうと思って」
「え?」
「うん。クロノちゃんはやっぱり兵士になりに来たの?……あれ、けどそれだったらアズバルクでいいはずだし……」
「いや、何故に二人とも冒険者に?」
意味が分からない。二人とも手に職もって食っていける技能があるはずだ。言っては何だが、冒険者は食うに困った奴がなるもので、二人の様な人物がなりたがるものじゃない。
「じ、実はね、笑わないで欲しいんだけど」
「はい」
「小さい頃村に来た吟遊詩人がさ、色々な冒険の歌を聞かせてくれたんだ」
おっと、これはもしや?
「古代の遺跡を調査して謎を解き明かしたり!」
「魔獣を倒して名を上げたり!」
「王女様を助けてラブラブになったり!」
「ライカ?」
「すみません」
「と、とにかく!そういう伝説に、私達もなってみたいんだ」
どうやら、吟遊詩人の歌を真に受けてしまった口らしい。そういえばアルパスの街で店主がそういう人もいると言っていた気がする。
「や、やっぱ変かな」
「夢みすぎって、思わなくもないんだけど……」
「いいえ、笑いませんよ」
はっきり言うと、孤児の身分からすればなめてんのか?と言いたくもなる。
だが、自分だって安定した道より冒険者活動による成り上がりを目指しているのだ。他人を笑う資格はない。
しかし困った。この二人、放っておくとあっさり死ぬか、ただ死ぬより酷い目に合いそうな気がする。
「え、笑わないんだ?」
「この夢を話すと、皆笑うか怒るんだけど……」
「いえ、僕も冒険者稼業で成り上がろうと思っていますので」
「それって、やっぱり森に潜むドラゴンを倒して伝説の秘宝を手に入れるとか!?」
ライカが目をキラキラさせながら顔を近づけてくる。つい目をそらしてしまうと、アイリも期待に満ちた目で見ていた。
困った。ドラゴンに挑もうとは考えていなかったのだが。
「そ、そのうち……?」
「「おおっ!」」
咄嗟にそう答えてしまった。
ドラゴンかぁ……。たしかこの世界では実在するらしいのだが、名前からしてドラゴニュートの上位互換みたいな存在な気がする。
正直タイマンではまだ勝てる気がしない。
「と、とにかく、僕も冒険者ギルドに用があるので、一緒に行きましょう」
「そうだね!私たちは同志だよ!」
「うんうん!」
二人のテンションが滅茶苦茶高い。実際に冒険者ギルドに行って驚かなければいいが。
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