第十一話 ブラックスネーク
第十一話 ブラックスネーク
サイド クロノ
ザメル村の村長にあったのだが、露骨にいやそうな顔をされた。
「弱そう……いっそ……」
「餌……その間に……逃げ……」
村長の息子らしい中年の男と話している声が聞こえる。というか、これ自分が食われている間に逃げるとかそういう話をしていないか?
たしかに大抵の獣は人一人食べれば満腹になるだろう。だが、魔獣がどうかは知らない。それに、人の味を覚えた獣は怖いのは、きっとこの人達も知っているだろうに。
だが、これは自分にも責任がないとは言い切れない。見た目が弱そう過ぎるのだ。これでは吉報を期待してくれというのも無理な話だ。
そこで、前に狼やゴブリンにやった魔力の放出をしてみることにした。あれなら多少は強そうに見えるだろう。
「あの、ちょっといいですか?」
「あん?」
胡乱気に二人が振り返ったので、笑みを浮かべながら魔力を放出する。
「お気持ちは察しますが、どうかご安心ください。私にはレッサードラゴニュート、ゴブリンを倒した経験があります。『害獣』とやらも必ずや倒してみせましょう」
できるだけ丁寧にしゃべったのだが、さて………。
どうやら自分はやり過ぎたらしい。
「は、はひ……!」
「も、申し訳ありません!申し訳ありません!」
村長は青い顔で必死に頷くだけだし、息子さんにいたっては泣きながら頭を下げている。これは、借りにも依頼主相手にやり過ぎてしまった。
とりあえず息子さんをなだめながら、今度やる時はもう少し調整しようと誓った。
夜、村長に言われた場所に向かう。村から少し離れた森の中だ。膝ほどまで草が生えており、地面の凹凸が分かりづらい。
それと、混乱していた息子さんから聞き出したのだが、今回の魔獣は『ブラックスネーク』と言うらしい。
一言でいうとでかい蛇とのこと。名前の通り黒い鱗は頑丈で、牙の力は村の柵を噛み砕くほどだとか。
とりあえずいつものバフを自分にかけて待つ。『危機察知』と『魔力感知』、『夜目』、『空間把握』で周囲を警戒する。
十分ほどたったあたりで、スキルが反応した。
視線だけ動かすと、黒い何かが木の枝から枝へと移動している。茂みに隠れてくるかと思っていたが、上からだったか。
剣をぬくと同時に、斜め上からブラックスネークが降ってきた。
でかい。全長は三メートルを超えるだろうし、太さは成人男性も丸のみにできそうだ。それが大口をあけて食い殺しに来ている。
だが、ゴブリンよりも直接戦闘は弱そうだ。
噛みつきを躱しながら剣を開けられた口に滑り込ませ、そのまま横薙ぎに振るう。イメージ通り、顎の関節から体を剣が裂いていく。
剣を振り切ると、ブラックスネークが茂みに落ちて激しくのたうつ。それを少し離れたところか見守る。最後っ屁に噛まれたり尻尾で打たれるのを警戒したのだ。
しばらくするとのたうつ音がやんだ。スキルを使って確認した後、ゆっくり近づいて剣でつつく。どうやら死んだらしい。
死体をその辺の枝につるしてから、別の個体が襲いに来ないか待機する。このまま解体を初めてその隙に、では目も当てられない。
ブラックスネークの血が地面に落ちる音を聞きながら、夜を明かした。
* * *
「こ、これは……!」
翌朝、結局あの後何もなかったので村長の家にブラックスネークの死体を担いでいった。いや、身長の関係で結局引きずることになったのだが。
「こちらが依頼にあった『害獣』でよろしいでしょうか」
「は、はい。あ、いや、その決してだますつもりは」
「落ち着いてください」
目に見えて動揺する村長をなだめる。
「では、依頼達成ということで割符と報酬を頂いてもいいでしょうか」
「も、申し訳ありません!うちにはブラックスネークを討伐していただいた分の報酬を用意できず!どうか命だけは!」
「いや、報酬は依頼にあった銅貨五枚で大丈夫です」
「え?」
鼻水まで垂らしながら頭を下げていた村長が気の抜けた声を上げる。
「かわりに、これを解体する場所をお借りしても?」
「え、ええ。はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。それでは解体してくるので報酬を用意しておいてください」
ブラックスネークを引きずって村長の家をあとにし、開けた場所に向かう。本当は川の近くがよかったが、勝手に川を汚すのは下手すると殺し合いになるからやめておいた。
魔法で強化した腕力とナイフで解体していると、村の御婦人と目が合った。
「あっ」
「えっ、ひ、ひやああああああ!?」
ブラックスネークの死体を見て悲鳴をあげるご婦人。その声に反応して出てくる村人。ブラックスネークの死体を見て悲鳴をあげる村人。その声に反応して出てくる村人。そんな感じでループした結果、村中の人間が見守る中解体する羽目になった。
まあ、ポジティブに考えたら村人たちに脅威は去ったと知らしめることができたという事にしよう。
それはそうと、肉はどうしよう。触った感じかなり堅そうだ。村にいた頃食べた蛇も硬かったが、ここまででなかった。
食べれるなら食べた方がいいのだが、量も多いし困った。いっそ刻んで家畜の餌にするなり時間をかけて肥料にするなりした方がいいのか。
人ごみに村長の息子さんがいたので聞きにいってみた。怖がられているのか一気に周りから人が逃げたが。
「すみません。皮と牙はとったんですが、肉はそちらで処理にしてもらってもいいでしょうか。報酬の件もありますし、ね」
あんに破格の報酬で討伐してやったんだからそれくらいサービスしろと伝えると、凄い勢いで頷いてくれた。
息子さんの善意に喜びながら、革と牙をまとめる。皮はなめしたいが、知識がない。村にいた頃はとりあえず煙でいぶすのと棒で叩くのを繰り返すだけという、職人がみたらキレソウなやり方しかできなかった。
袋に入れて背負い、村長の家に向かう。
「こ、こちらが報酬になります。ほ、本当によろしいので?」
「ありがとうございます。もちろんです。この金額で依頼をお受けしたわけですから。ただ、その分ブラックスネークの肉の処理は息子さんにお任せさせていただきました」
「そ、それは、はい。もちろんです」
「では、私はこれで」
そういって村長の家を出ると、まだ遠巻きに村人たちがこちらを見ている。
振り返って一礼し、大き目の声で告げる。
「ブラックスネークは討伐しました!もう大丈夫です。今後も冒険者クロノをよろしくお願いします!」
最後に名前を売って、胸をはって村を出た。
だが、村をでて少ししてから、森に入って昨日ブラックスネークを仕留めた場所に戻る。そこから、魔力を追ってブラックスネークの来た方向に向かった。
もしかしたら巣があるかもしれない。先ほどまで失念していたが、もし卵や番がいて村を襲ったら寝覚めが悪い。
それを心配して確認にきたのだが、特にこれといってなかった。あの魔獣が住処にしていたのはただの小さな洞窟だったようだ。
それはそれで疑問が残る。では、あのブラックスネークはどこから流れてきたのか。もしかして、この奥にはあの個体が追い出されるような環境が出来上がっている?
あの個体は正直大した強さはなかった。だが、あれが逃げざるえないような生物が森の奥には跋扈しているのか。
ラプトルにしろゴブリンにしろ、人里に来る理由が気になる。開拓村とはいえ、現代の地球のような開拓速度は無理だ。獣の生活圏を冒し過ぎているとも考えづらい。
獣が下りてくる時はきっと理由がある時だ。その理由が気になるが、自分には確かめる術はない。
* * *
「これが今回倒したブラックスネークの牙と皮です。あとこちらが割符です」
「ああ。ご苦労さん」
店主に割符と戦利品をわたした後、帰りに思った事を打ち明ける。
「魔獣が森の浅いところに来る理由?」
「はい。もしかしたら森の奥で何かが起きているのでは?」
「開拓村に魔獣が下りてくるなんて俺が小さいころからあったことだ。いちいち気にしてられるかよ」
「それは、頻度も今と同じなんですか?」
「知るか。だが、開拓村が消えるのなんてしょっちゅうだ。理由は色々だけどな」
店主はそれで話を打ち切ると、金の入った袋をわたしてくる。
「大銅貨八枚だ。今後とも御贔屓に」
そう言って店主はブラックスネークの戦利品を持って奥に行ってしまった。
昔からそうなら、既に開拓村は獣の領域に踏み込んでしまっているという事だろうか。だから魔獣も現れる?
どこか言いようのない違和感を抱えるが、眠気が襲ってくる。
欠伸しそうになるのを堪えながら、宿に向かう。結局ブラックバイパーを倒した後徹夜になってしまい、そのまま走ってこの街まで帰ってきてもう夜だ。眠い。
まあ、ここを収めている貴族も税金とか人の流れと彼の問題で開拓村の数ぐらい把握しているだろうし、異常があれば気づくだろう。
今日の宿を探して、さっさと眠ることにしよう。
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