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第十話 資金集め

第十話 資金集め


サイド クロノ


 アルパスの街に帰ると、いつもの門番とは違う門番に遭遇して荷物とか調べられた、まあ、特にこれといって何かあるわけでもないのだが。

 そうこうして、冒険者ギルドに向かう。報酬が入った袋の中に割符も入っていたので、これをわたせば依頼は終わりだ。

 冒険者ギルドに到着し、ドアをあけて中に入る。


「あん?あいつは」

「は?生きてたのか?」

「おい!?じゃあこの前の賭けは無効じゃねえか!?」


 そんな声を聞きながら、カウンターへ向かう。


「依頼を達成したので戻ってきました。これが割符です」

「……生きていやがったのか」


 店主が訝し気にこちらを見てくるので、軽く肩をすくめる。


「ええ、おかげさまで」

「ゴブリンは本当にいやがったのか?」

「いましたよ。素材は売れそうな物がなかったのでとっていません………あっ」


 そういえば討伐した証になるものがあった。時間がたってだいぶ痛んでいるが、捨てるのを忘れていた。


「ちょっと痛んでいますけど、これが証拠です」

「あ?げっ」


 ゴブリンの右耳を通した紐をカウンターに置くと、店主が顔をしかめる。置いてから思ったが、さすがに食べ物も出すところにこれを置くのはまずかったか。


「すみません、机に置くのはまずかったですね」

「………お前、なにもんだ」


 見れば店主が額に汗を垂らしながらこちらを睨んでいる。何者、と言われてもチート転生した日本人ですとは答えられない。


「ただの孤児で冒険者としか」

「どうだか………」


 ふと視線を感じて振り返ると、ザックがこちらを見ていた。

 店主との話を盗み聞きしていたのか、化け物でも見たかのような目でこちらを見ている。軽く会釈しておくと、びくりと震えて目をそらした。

 ゴブリンの依頼を押し付けられたのは腹が立ったが、今それほどでもない。特に報復とか考えていないのでそこまで怯えなくてもいいと思うのだが。


「それで、何か依頼を受けるのか」


 カウンターの前に突っ立っていたからだろう。店主が訪ねてくる。


「いえ、今日は受けないつもりです。では、失礼しました」


 軽く頭を下げてギルドを出る。

 さて、帰り道色々考えていたことがある。というのも、現在の戦闘力についてだ。

 ゴブリンとの戦い。あれは本当に得る物が多かった。集団の恐怖というものを深く味わったものだ。

 できることなら攻撃魔法とか覚えて一気に吹き飛ばしたりしたい。だが、魔法を学べそうな心当たりなどないのだ。

 となると地道に基礎的な戦闘能力を上げていく必要がある。

 もう一つ感じたのが、自分の技量の低さだ。村にいた頃は基本石を投擲するか、不意打ちで木の枝を突き刺すしかなかった。

 これといった戦闘技術を磨く機会などなかったのだ。

 ラプトルとゴブリンは力任せに魔法で強化した肉体と剣を振り回すだけで倒すことができた。だが、そこにちゃんとした剣術を組み込めばもっと安定するのではないだろうか。

 というわけで、魔法の心当たりがない今、剣術道場を探す必要がある。

 腹もすいてきたので、そこらの店で昼食をとることにする。どうにもこの国は朝夕の二食しか食べないらしいが、体を大きくしたいので自分は昼もできる範囲で食べることにしている。


「すみませーん、このチキンセットをお願いします」

「はーい」


 夫婦経営なのだろう、ウェイターをしている奥さんに注文すると、十分ほどで食事がでる。

 パンと鶏肉の入ったスープが机に置かれる。


「大鉄貨五枚と鉄貨三枚だよ」

「はい」


 肉が入っている分少し高い。代金ちょうどを奥さんに手渡す。そうか、食べた後にレジでとかじゃなくて食事を持ってきたのと支払いは同時なのか。


「ぴったりだね。毎度!」

「あ、すみません、ちょっとお聞きしたいんですがいいですか?」


 昼を食べる文化がないから今の時間はすいているので、このまま質問してもいいだろう。


「なんだい?」

「この街で剣術を学べるところはありますか?そうでなくても武術の類ならんでも」

「お客さん、珍しい事きくね」


 奥さんはこちらをつま先から頭までながめる。


「ん?どっかいいとこの出かい?」

「いえそういうわけではありませんが」

「まあ、そうだったらこんな事きかないか……この街で剣術を学べるってなったら、たしか中央区に一つあったはずだよ」

「そうなんですか。ちなみに、月謝とかはどれぐらいとかわかりますか?」

「さすがにそこまでは知らないけど、あそこは儲かっている商人の次男や三男が通うとこだからね。結構高いんじゃないかい」

「なるほど、ありがとうございます」

「いやいや、今後もごひいきに」


 奥さんが去って行った後、冷める前に食事を頂くことにする。


「いただきます」


 食事をいただきながら、道場について考える。月謝は高そうか……。一応まだラプトルの卵で儲けた金が残っているが、剣術は一朝一夕で身に着けられるものでもない。いや、スキルとして習得できればあるいはといったところか。

 だが、できればスキルポイントで剣術を覚えるのは避けたい。ポイントがもったいないし、なによりチートにおんぶに抱っこすぎると元々立派でもない人間性が更にダメになる。

 となると、一年は最低でも学ぶ期間が欲しい。その間の月謝代は稼いでおかないと。

 その方法を考える。高額で割のいい依頼は他の冒険者に十中八九取られるだろう。というかそういう依頼自体少ないと思う。

 なら、依頼がでるのを待つのではなく自分から売り込みに行くか?いや、それも難しいだろう。高い金を払ってくれる依頼主の心当たりがないし、コネもない。

 さて、どうしたものか………。

 そこまで考えて、ふと気づく。よく考えたら今懐が潤っている理由は依頼の報酬ではなく、魔獣の卵。というか魔獣からの戦利品だ。

 だが、魔獣を求めて森の奥に入るのはまだ危うい。それに森の中で解体してというのはリスクが跳ね上がる。

 比較的安全に倒した魔獣を解体できる場所があり、森の奥に行かなくても魔獣が来てくれる場所。

 それならば心当たりがある。ちょうど食べ終わったので、手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


 席をたち、奥さんに一声かけてから店をでる。

 さて、心当たりはあるものの、都合よく、いや依頼主にとっては運の悪い依頼はあるだろうか。


*    *     *


 翌日、装備を整えてギルドに行く。

 入ってすぐ、カウンターへと向かう。


「すみません、依頼についてお伺いしたいんですが」

「自分で探しな」

「魔獣に襲われている村からの依頼ってありますか?」


 店主の手がぴたりと止まる。


「なんだ、正義の心にでも目覚めたか」

「いえ、そういうわけではなく、目的は魔獣からの戦利品です」

「ほう……」


 興味をもったようで店主が話を聞く体制になる。


「レッサードラゴニュートの依頼の時、他の冒険者の様子からああいう依頼は他にもあることが察せられました」

「それをお前に回せと?」

「どうせ誰も受けないんだったら、僕に回してはくれませんか?戦利品を売るのは『今のところ』ここだけですし」

「ふむ……」


 魔獣の素材が希少というという事は、それを取り扱えるこの店主にも利益があるはずだ。まあ、こちらも魔獣の素材を売れる場所を知らないのだが。


「まあ、こちらとしても剣術道場に通うための資金が集まるまでですけども」

「………いいだろう」


 どうやら店主も受けてくれたらしい。まあ、これは一応魔獣に困っている村人が助かり、店主は依頼がはけるし素材も扱えて助かる。そして自分は魔獣の素材で儲けられるしスキルポイントもたまる。

 三方良しのWin―Win―Winだ。


「今ちょうどあっちに書き込んである。それを受けてこい。これからはお前にまず一声かけてからにしてやるよ」

「ありがとうございます」


 そう言って、掲示板に向かう。


『村を襲う害獣の討伐 報酬:銅貨五枚 依頼主:ザメル村』


 これか。なんとなくガメル村の時の依頼と似ている。

 早速依頼のところに名前を書き込んで、店主に村の場所を聞いて出発した。


*    *     *


魔法も使って走ってきたので、半日もかからずザメル村に到着した。


「止まれ、なんだお前」


 見張りをしている村人に止められたので、背筋を伸ばして浅く礼をする。


「初めまして、アルパスの冒険者ギルドから来ました。冒険者のクロノです」






読んでいただきありがとうございます。

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