第九話 ウィルソン村
第九話 ウィルソン村
サイド クロノ
翌朝、村長の家で目を覚ます。どこに泊まるかとなった時、ここ以外に泊まれそうなところがなかったのだ。
それから朝食を頂いた後、村の復興作業を手伝う。
「え、そんな、冒険者様に手伝わせるなんて」
「いえ、気にしないでください。あと冒険者様じゃなくてクロノです」
「し、しかし」
「じゃあ趣味という事で」
「趣味?」
木材を運びながら村人に話す。
「木工とか、モノ作りとか、それが趣味なんですよ」
「さっき『じゃあ』って言ってましたけど」
「これももてなしだと思って趣味をやらせてください」
そういって柵を補強し始める。『工作』スキルのおかげで本職の大工さんレベルではないが、それでもDIY好きなおっさんよりはうまいはずだ。
手早く木を削り、あらかじめ掘って置いた穴に挿し、土をかぶせて補強していく。
「冒険、クロノさんがそれでいいなら、へえ」
「それでいいんですよ」
別に、村の為だけにやっているわけではない。モノ作りは嫌いじゃないし、『工作』スキルの熟練度を上げるのにもつながる。
だから決して村の為だけにやっているわけではないのだ。
* * *
また別の日、村周辺の森の様子を見ておく。
その後、いくつか薬草をつんでいって村長や神父を中心とした大人たちに『薬草学』のスキルを頼りに講義していく。
「この薬草は乾燥させた後すりつぶして、お湯でとろみがつくくらい煮込んでください。その後冷ませば傷を癒す軟膏になります。ただし、せいぜい気休め程度なので、そこは注意してください」
「なるほど、助かります」
「十年前に薬師のばあさんがぽっくり逝ってしまって、その辺の知識がありませんからな」
「患部に塗る時はあらかじめ傷口をできるだけ綺麗な水で洗ってからにしてください。むしろ軟膏よりもそっちを注意して下さいね」
その後狩りに使えそうな麻痺毒の薬草や、それを誤って自分に使ってしまった時の対処法や解毒薬の作り方を教えていく。
それにしても、この村、ウィルソン村の神父はだいぶいい人だ。
村人にも慕われているし、こうしてどう見ても子供にしか見えないよそ者の話を真剣に聞いてくれている。
「ん?どうしましたか?」
「ああ、いえ、こんな子供の話を、まじめに聞いてくださるんだなと」
「いえいえ、子供とかどうとか以前に、貴方は村の恩人です。それを信用しないで、いったい誰を信用しろというのですか」
おべっかでもなんでもなく、本気で言っているのが伝わってくる。こういうまともな、というか善人な神父もいるのだなと、心のなかで感心した。
* * *
このウィルソン村には狩人がいない。いや、正確にはいたのだが、ゴブリンに殺されてしまったのだ。
これでは今後村が食糧難になったり獣に襲われる可能性が上がる。だが、さすがにそればかりはどうしようもない。
とりあえず、村長に許可をえて森で鹿を二頭仕留めてくる。『強化魔法』も使って村まで運び、解体は任せて考え事に移る。
さて、害獣対策をどうしたものか。
一応、獣よけになりそうな刺激臭のする薬草は近場でとれる。だが、数が少ない。
そこで、前世でどういう対策をしていたかを思い出す。
電気柵は、そもそも電気がない。ストレートに柵は、もうやっているが効果は微妙。有刺鉄線は、この国で作ろうと思ったら高そう。唐辛子とかを村の周りで育てるは、これも金がかかりそうだ。それに効果も微妙。
色々考えた結果、いい考えは浮かばなかった。
なので、仕方ないから『薬草学』の熟練度を少しだけ上げて、知識量を増やした。こういう勝手に知っている事が増える感覚は慣れない。
「村長、この前お教えした獣よけの薬草についてなんですが、村で栽培してみませんか?」
「え、あの薬草を村で?あれは育てられるものなんですか?」
「はい。できるだけジメジメしたところで、明かりにあまり照らされない所だったら意外と育つんですよ」
「そ、そうなんですか。それは知らなかった」
自分も知ったのはついさっきである。チート様様だ。
「ただ、あんまり獣を遠ざけると狩りが大変になるから、前にいた薬師の人もやらなかったんでしょう」
「なるほど、そういうデメリットもあるのですね」
「それに、獣はそういう匂いに慣れてしまうものです。数年は効果があっても、それ以降は無視してやってくるでしょう」
「数年もてばそれだけでもありがたい。それまでに何か対策を考えましょう」
「ただ、数が揃えるのは今年中には無理でしょう。その間は警備を厳重にしていてくださいね」
「ええ、勿論です」
こうして薬草を育てるための環境づくりを手伝って、気づいたら一週間も村に滞在していた。
* * *
「本当に行ってしまわれるのですか?」
村人たちに引き留められる。まさかここまで信頼してもらえるとは。
「むしろ長居しすぎました。色々お世話になって申し訳ありません」
「いえいえ!むしろクロノさんのおかげでこの村は本当に救われました。貴方がいなければどうなっていたことか」
そう言われるとちょっと嬉しい。自尊心を満たしてくれる。
だが、慢心してはならない。この村を救ったのは自分自身というよりチートだ。自分はむしろそのチートの付属品でしかない。
「僕はこれからも冒険者として活動していくつもりです。なので、もし感謝してくれているなら冒険者クロノという名前を広めてくれると嬉しいです」
「はい、何代も語り継がせていただきます!」
「いやそこまではしなくていいです」
そこでふと、聞いてなかったことがある事に気づく。
「そういえば、皆さんの前で魔法を使いましたが、魔法は一般的なものなのでしょうか」
「え?いえそんなことは決して。きっとやんごとなき身分の方なのだろうと思っていたのですが……」
「………もしかして、魔法って貴族とか大きな商人じゃないと使えなかったりします?」
「そ、それは勿論。学ぶにも大変お金がかかると聞いておりますが」
小声で村長と話す。これはちょっとまずいかもしれない。
魔法が使えるとバレれば、どこでどうやってという話になる。その説明がかなりめんどくさいというのもある。
だが、それ以上に希少な人材だと思われる方がめんどくさい。
というのも、回復役が貴重なら当然仲間に引き入れておきたいだろう。そうなればここでの話しを知った冒険者が自分を勧誘に来る。
だが、ザックの実力を見た感じ、その辺の冒険者だとただの足手まといにしかならない。そんなのと組むのはごめんだ。
冒険者としての経験はきっと他の人の方が上だろうが、僕は成り上がりたいのだ。上手く利用されて手柄を持ってかれるのは頑固拒否する。
「村長さん、お願いがあります」
「なんでしょうか」
「僕が魔法を使った事はできるだけ内密にお願いします」
「な、何故ですか?その齢で魔法を収めているなど、誇りにこそなれど恥になる事はありますまい」
「いや、今後の冒険者活動に支障をきたしそうなので」
「そ、そうですか」
そこで、村長が押し黙る。
「もしよろしければ、この村に住んでいただくことはいただけませんか?薬師としてでも、狩人としてでも」
「………申し訳ありませんが、お断りいたします」
「そう、ですか」
「はい」
そうなれば安定した暮らしができるかもしれないが、自分が求めている生活水準は成り上がらないと手に入らない。
だから、この村に永住するという選択肢はなかった。
「引き留めてしまい申し訳ありませんでした」
「いいえ、お気持ちだけ受け取っておきます」
「こちら、少ないですがどうかお納めください」
「え?」
そういって村長が差し出した袋には、大銅貨が三枚入っていた。
「いいんですか?今後村にお金が必要なはずですが」
「勿論です。ここまでしていただいた方に、手ぶらで返すなどできるはずがありません。むしろ、この程度しか用意できず……」
村長と少年、他の村人たちが一斉に頭をさげる。
「本当にありがとうございました。この御恩、一生忘れません」
「……僕としても、得る物のある依頼でした。それでは失礼します」
まあ実際お金は手に入ったし、スキルポイントも収支で言えばプラスだ。熟練度ももろもろ上がったし、総合的に言えば得た物の方が大きい。
なにより、自分が自慢できる存在になった気がして、とても気分がよかった。小さくだが、鼻歌交じりに歩き出す。
アルパスの街にはのんびり向かうとしよう。どうせ一週間も長居してしまったのだ。たいして変わらないだろう。
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