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プロローグ

よろしくお願いします。

プロローグ


サイド クロノ


 拝啓、お父さん、お母さん。お元気ですか。


 私は死んだと思ったら知らないうちに異世界チート転生していました。突然先に死んでしまった事を、誠に申し訳ないと思っています。


 転生先で孤児スタートしたり、開拓村がひどいところだったり、そもそも育て親と呼んでいいのかもわからない神父がろくでなしだったり、最初はとにかく大変でした。


 それでも懸命に生きてきた結果、冒険者としてはそこそこ名も売れ、武功もたてたので、騎士爵ぐらいなら狙えるぐらい成り上がりました。これは、勝ち組にはいったと言っても過言ではないと思います。


 そんな私は、どこか聞いたことがある音を聞いて、空を見上げています。


 なんか、どう見ても戦闘機にしか見えない奴が飛んでいますが、きっと見間違いでしょう。家の近くに空自の基地があって、たまにブルーインパルスが飛んでいるのを一緒に見ていたことが懐かしいです。


「お、おい!なんだあれは!?」


「龍だ!新種の龍が現れたんだ!」


「ああ、神よ!どうか我らに御慈悲を!」


 なんか周りが騒がしいですが、きっと気のせいです。もしくは本当に龍が飛んでいて、自分の脳みそが幻覚を見せているのでしょう。


「まるで空飛ぶ剣だ。いったいなんなんだ、あの龍は!」


 本当になんなんでしょうねぇ。


 まさか、異世界にチート転生して成りあがったら日本がやってくるとか想像もしていませんでした。


 いや、帰りたいとは思っていましたけど、ほら、これは、違うじゃん。



*    *     *



 雨が降る中、僕は歩道橋を駆けあがっていた。


 大学の帰り道、好きな漫画の新刊がでるとネットしてって本屋に寄ろうとしたのだ。そしたら、もうすぐ店につくというところでこの雨だ。ついていない。


 通り雨なのだろうが、けっこう強い。これは帰ったら着替えなければ。というか、ここまで来て入店拒否とかされないだろうか。


 そんな事を考えていたからだろうか、足元をよく見てなかった。


 風が吹いたかと思うと、ちょうど足を踏み出したところに捨てられたのだろうコンビニのビニール袋が滑り込んでいた。


 やばいと思った時にはもう遅い。雨でぬれた歩道橋と靴、そしてビニール袋。当然の様に足は滑って、体が後方に放り出される。


 浮遊感の直後、後頭部と背中に強い衝撃を感じて、そこで意識は途絶えた。


 福田 考太朗、享年二十一歳



*    *     *



 気が付くと、なにか布にくるまれて暗い所にいた。


 ここはどこだ、何があった。


 記憶をたどると、どうやら自分は歩道橋から転がり落ちたらしい。上の方まで登ってから落ちたから、その分ダメージも大きかったのかもしれない。


 というか、体がまともに動かない。視界も極端に悪い。もしかして脳に重度の障害でもでてしまっているのか。


 血の気がさぁとひく。冗談じゃない。なんで自分がそんな目に合わなきゃいけないのだ。


 ここは病院なのか、それとも搬送中なのか。布にくるまれているということは地面に放置されているという事はないだろう。


 というか、なんだ、体が本当に変だ。まるでサイズ自体が変わってしまったみたいだ。


 不安になって、涙が出そうになる。いや、感情を抑えられない。


「あああああっ、あああああああっ」


 情けなくも声にならない絶叫をあげて泣いてしまう。だが、しょうがないとも思う。本当に状況は考えれば考えるほど最悪なのだ。


 どこかから声が聞こえる。いや、本当に声か?


「あいえtなんtじゅあえんhちあのtないmにgtjぬgくぁい」


 なにを言っているのかさっぱりわからに。明かりと一緒に人影がうっすらと見えるのだが、詳しい事はわからない。どうやら、本当に自分の脳はどうかしてしまったらしい。


「あああああああああああああっ!」


 聞こえる声も、どこか赤ん坊の様に甲高い。



*    *     *



 死んで転生したばかりの頃は本当に悲惨だった。自分は歩道橋で転んだ衝撃で重度の障害を負ってしまったと思ったのだ。心が折れるかと思った。


 何がなんだかわからないなか、何かを口にくわえさせられたかと思うと、それが何かのミルクだと、やけに鈍い舌で感じ取ってまともに食事すらできなくなったのだと考えて余計にへこんだ。


 だが、それでも死にたくないとは思ったのだ。もしかしたら日常生活ぐらいなら送れるぐらい回復する可能性もあるかもしれないと、自分を鼓舞した。


 ミルクを飲み、排せつの世話もされ、感情を抑えられず泣きわめき、気づいたら意識が落ちている。そんな日々が続くうち、段々と目と耳が機能し始めた。


 回復してきている。もしかしたら今まで通りの生活ができるかもしれない。そう希望を抱いたのだが、目に映る景色、聞こえてくる言葉に呆然とした。


 まず目に入ってきたのは、木造の屋根と壁。お世辞にも清潔とは言えない床に薄い布をひいて、そこに自分は寝かされているらしい。おかしい、どう考えても病院じゃない。


 耳に聞こえてきたのは、どう考えても日本語じゃない言語。聞いたこともない言葉を、外国人と思しき人たちが話している。どう考えても日本じゃない。


 そして、見えるようになって分かったのだが、ときおり感じていた浮遊感は老婆に自分が抱えあげられていたからだとわかった。


 いやどう考えてもおかしい。病院じゃないし日本じゃないし、何故か老婆に抱えあげられて、ミルクをしみこませた布をしゃぶらされている。


 この段階で、ようやく『転生』という単語が頭に浮かんだ。ちなみにパニックのあまり大泣きした。


 老婆に降ろされて、一人になったあたりで、どうにか状況を整理しようと考えを巡らせた。


 状況はどう考えてもネット小説などで見る転生である。この建物や住民の服からして、近代とも思えない。


 もしかして、異世界転生?


 そんな馬鹿なと思い、頭の中でステータスと投げやりに念じてみた。


 なにも出ないだろうと考えていたのだが、結果はなんか曖昧なイメージのようなものが頭に浮かんできた。


 これは、もしかして本当に異世界転生なのか?だが、ステータスぽいものはかなり曖昧だ。ゲームみたいに力、頑丈、速さとかではなく、なんか色々書いていてよくわからない。


 いや、わかるものもあった。魔力やスキルという単語だ。


 まさにゲームみたいな単語だが、なんとなく言いたいことはわかる。本当になんとなくだけど。


 魔力とは何ぞやと体の内側に意識を集中してみる。すると、心臓のあたりに妙に温かみを感じる。


 それをどうにかよく感じようと集中すると、急速に眠くなり気づいたら意識を失っていた。


 それから少しして目を覚まし、魔力について考えてみた。


 なんとなく魔力なる存在が自分の中に存在するのはわかった。わかったのだが、これをどうしろというのだ。


 昔読んだ漫画だと、幼少期から魔力を独学で操って膨大な魔力をとか書いてあったのだが、指導者もなしに独学で、というのは何か後で問題が出てこないか怖い。


 なので、一旦魔力については置いておいて、スキルについて考えてみよう。


 スキルと念じるが、なにも浮かんでこない。自分はスキルを持っていないのだろうか。むしろスキルってどうやったら習得できるのだ。


 そう考えたら、頭の中で何かが切り替わった。驚いて「ふぎゃ!?」と声をだしてしまった。ちょっともらした。


 なんというか、ゲームで出てくるスキルツリーみたいなのが頭に浮かんでいる。なんだこれ。


 明確に表示されているわけではないが、スキルポイント的なものが存在し、スキルツリーの下の方に現在習得できるスキルぽいのがある。


 というか、現在習得できるスキルが『早寝』と『魔力循環』、『魔力感知』、『時空耐性』しかない。スキルツリー自体は数えきれないぐらいあるのだが、なにか条件があるのか習得できないのがほとんどだ。


 効果はとくに説明されておらず、字面から推察するしかない。とりあえず『早寝』はわかる。言葉どおりだろう。


 だが残り三つがなんだこれは。まるで意味が分からん。


 とりあえず、ポイントはあるのだし習得してみるか?いや、それはあまりに軽率だ。このスキルポイントとやらが後から増えるのかも不明だし、習得できるスキルには限りがある可能性もある。ここは慎重になるべきだ。


 信徒湯になるべきなのだろうが………だめだ、好奇心を抑えられない。よく考えたら、体が赤ん坊になっているということは、感情を制御する前頭葉も小さくなっているという事。理性でおさえつけるとか無理ゲーである。


 というわけで、『魔力循環』『魔力感知』『時空耐性』を習得した。スキルポイントが減った感覚がする。特に『時空耐性』。


 だが、変化は劇的だった。先ほどまで集中しないと感じられなかった自分の魔力がはっきりと近くできる。そして、心臓でたまっていた魔力がまるで血液の様に全身を循環し、力が漲ってくるような気がする。


 これが『魔力循環』と『魔力感知』の効果か。『時空耐性』の効果はわからないが、まあ字面からして時間や空間に関して何らかの干渉をする類のなにかに耐性があるのだろう。


 アニメとかである時間停止とかだろうか。いや、そんなラスボスが使うような力の持ち主遭遇したくないが。


 だが、これで確信した。自分は異世界転生した。しかもチート付きで。


 まるで小説の主人公だ。きっとこれから自分は華やかな冒険譚をつむぎ、信頼できる仲間、愛するヒロインに囲まれて、驚天動地、空前絶後の伝説を築くのだろう。


 いやあ、胸が躍るなぁ!…………なんて、現実逃避もここまでが限界だ。


 ここが異世界だというのなら、自分が転生したというのなら、いったい、どうすれば家族の下に帰れるというのだ。


 自分は人並みに家族仲が良かったと思う。喧嘩もするし、意見が合わない時もある。だが、もう会いたくないとは思っていない。


 これでは死別同然。いや、自分が死んでいるのだから、文字通り死別なのだろう。

 色々な感情がごちゃ混ぜになる。


「かあちゃ、とおちゃ……!」


 ろくに動かない舌が、家族を呼ぼうとする。しかし、たとえこの口が十全に動いても、望む人物には会う事ができない。


 自分は泣いた。ひたすら泣いた。老婆がやってきて心配そうにこちらをあやしてくれるが、抑えきれない。ただひたすら泣いて、泣き続けて、糸が切れるように意識を失った。



*   *     *



 転生したばかりの頃は、とにかく泣いていた。家族や友人と死に別れてしまった悲しみ、見知らぬ世界に放り出された不安。色々な感情がごちゃ混ぜになって、赤ん坊にあっていることもあって感情のまま涙をながしていたものだ。


 一歳まで育ててくれた老婆は、とてもいい人だった。なんでも現村長の姉で、昔子供と夫を亡くしていたらしい。もしかしたら、自分を亡くなってしまった子供に重ねていたのかもしれない。


 そんな彼女も、気づいたら亡くなっていた。もともと体が丈夫な方ではなかったらしいが、それでも突然の死だった。


 その事にまた涙を流していると、この村の神父に引き取られた。


 月日は流れて転生してから九年がたった今、こう言わせてほしい。


「日本に帰りたい………」






読んでくださりありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] かなり異世界での生活に成功をおさめた?状態で戦闘機が見えるのは面白い発想ですねw 2話目からは異世界転生時からストーリーが進んでいくのでしょうが、大体何話位目で戦闘機が登場するのかとても気…
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