7 一寸先も闇
ベルと話しをしている男の人はヒョロッとしたお兄ちゃんで変に既視感があったが、この世界に男の知り合いは当然いないし(元の世界でもいないけど)、それはないだろう。
話し合いしている2人はどちらも険しい顔をしていて、話しは中々難航しているらしかった。
男の人がベルに何か言い残して去ると、男の人がこちらへ向かって来たのでそれを目で追っていたベルと目が合った。
すぐにベルはこっちへ歩いてきて私の前に立つ。
「進捗はどうだ、ヨモギ?」
「今、お金を稼ぐためギルドの依頼で人を探してます。」
「人を探すためのお金を稼ぐために人を探しているのか?」
絶対つっこまれると思った。
「まあいい。やり方は自由だし、任せる。」
「そっちはどうでしたか?」
「こっちも特にないな。あったとしたら、剣士の仕事で一悶着あったな。」
そんなことは別に聞いてない。
「そういえば、ヨモギのそのヘアピン、いや、その……凄い個性的だよな。」
私の経験則から、個性的=変。変=個性的。
従ってこのヘアピン変なのか。割りと気に入っていたのだが。まぁ、外すつもりはないが。
とりあえず
「ありがとうございます」
と、答える。
これ以上いるともっとギクシャクしてきそうなので、
「じゃあ、地道にがんばりましょうか。」
そう言い残し夜になるのを待つため宿へ戻る。
探してる人は夜型らしいのだ。召喚者探しは今日は中断。
気が乗らないから。← 生涯終わらないやつ
宿へ戻るとちょうどお腹が空いていたのちょっと遅めの昼食を取り部屋のベッドで寝転ぶ。
すると隣の部屋から、同じようにベッドに飛び込んだのか「ドサッ」と音がする。隣の人とシンクロしているようでなんだか気分がいい。
寝落ちてた。何時間寝たのだろう?窓の外はもうすっかり暗く、人通りも少ない。
とりあえずロビーに向かうと、壁にかかった振り子時計は10時過ぎを指していた。
時間も時間だし、ゆっくり休んだので外へ出る決心をする。決心はした。
しかしこの椅子、お尻から離れないのである。
おかしいな。決心してるんだけどな。
そのままもう一度丸い机に突っ伏して寝ようかとも考えた。
しかし、このままでは拉致が明かないどころか夜が明けるのでここいらで探偵ごっこを始めることとする。こととする。
大事なことなので2回言いました。
しかしこの椅子私のことが好きみたいなのである。
元の世界で非モテな私は折角持たれた好意を無下にはできず、結局机に頭を乗せて寝るのだった。
どの世界でも頼りになるのは体内時計だ。改めて実感した。このままだと日が差すまで気づかなかっただろう。目の前には火が点いた蝋燭があり、かろうじて見えるロビーの時計は12時前を指していた。
とりあえず外へと出て人通りの少ない暗い通りを歩き始める。
昼間とは打って変わりしんと静まり返った大通りを歩くと、なんとなく音を出してはいけない感じがして意識も敏感になる。
元々住んでいた所は、ある程度都会だから24時間営業のコンビニがあったり街頭があったりして夜中でも割りと明るかったのだが、それを経験している私からすればこの時代の人達は不便に生活しているのだなと感じざるを得ない。
しかし、ここは剣と魔法の世界っぽいので火魔法なんかあれば元の世界かそれ以上は便利なのだろう。
真っ暗でどこに進んでいるかも見えないので、宿へ戻りたい。しかしこの街、一寸先どころか全てが闇なのである。
火魔法なんかあればなんてさっき言ったが仮にも私は召喚者なので万一強い力を持ってて、
「メ○ミ」
なんて叫んで、万一爆発して家に燃え移ったら「やれやれ。私何かやっちゃいました?」
では済まないどころかあわや無差別大量殺人なので万一を危惧して止めておく。
てか、さっき出なかっ((
何故これ程までに火魔法を求めたかというと、これには深い訳があり、訳を話すと長くなるのだが、道に迷った。
自分の方向音痴さは前から薄々気づいていたが、まさかこれ程までとは。。
そして、ロビーの蝋燭は持ってくのは気が引けて置いといたままだから結果としてこの闇。
どーすればええねん。
そんな中
頼りになるのは
月明かり
蓬。
どの時代も頼りになるのは偉大で偉大な月明かり様である。もう足を向けて眠れない。
月明かりを頼りに宿へ向かう。
ことが晴れだったら出来たのになぁ。
道に迷った私とそれを助けようとする月明かり様を隔てるのは分厚い雲。曇天に笑われている。なんならちょっと雨降り始めてるんですけど(怒)
嬉しいことに雨はすぐに止み、絶好の人探し日和(笑)である。帰ろ。
そんな決心と反抗するごとく昼ドラでも最近聞かない単純な、
「助けてー」
の声が耳に届いてしまう。
帰ろ。
テンマルの出番少なっ!
って書いてて私も思いました。
大丈夫です。名前付いているんだから、活躍あるはずです。
多分。