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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたに伝えたくて...

作者: レーヴェ

 ハッピーエンドは、存在しない。

 そんなものは、物語の中だけで現在にあるのは全てバットエンドだけだ。


 ありすぎた才能により、人を死に追いやり、親戚から他人から人殺しとして恐れられる。


 僕は、幼くして罪人(つみびと)となってしまった。


 なりたくもない罪人(つみびと)に、きっと僕は、ろくな死に方をしないだろう。


 冷たい雨が降る中、一人雨に打たれながらも号泣する。


 身体が冷えるとか風邪を引くとかそんなことは気にせず、僕は、ただただ泣いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねぇ、ねぇ君?部活に興味ない?」

 図書館で一人、本を読んでいた僕に対し、明るめの性格の少女から声をかけられる。


「興味ない」

 僕は、彼女に対し冷たくあしらう。


「即答!?、お願いそんなこと言わずに、このとーり」

 即答されるのが予想外的な反応を示しながら彼女は、頭を下げて懇願してくる。


「だから...」

「入ってあげたら?どうせ今()()してないんだし」

 揉めているところにそんな声が聞こえてくる。


 図書館にやって来たのは、担任兼保護者である日下部(くさかべ) 彩花(あやか)だった。


「この学校で唯一、部活動をやっていないやつはお前だけだよ」

 それがこの学校・才開学園のルールである。


 この学園の規則は基本的にゆるい、髪型は自由、化粧をしていいし、休み時間にはスマホを弄ってもいい、制服だって着崩して構わないし、なんならピアスをしてる者もいるくらいだ。


 そんな学園であるが、部活動だけは少し厳しい。

 何しろ生徒である者は、部活に入らないといけないという校則があるのだ。

 そのため、部活は多種多様あり、一年以内には部活を選び二年の時にどこにも所属していない場合には、退学になってしまう。


「このままだったら退学になるぞ」

「はぁ〜、一体何部なの?」

「お?興味が出てきた?」

「何部かによる。運動系ならパスだから」

「それは、大丈夫。文芸部だから」

 ない胸を張りながら彼女は答える。


「文芸...人多そうだなぁ」

「大丈夫、君が入っても4人しかいないから」

「4人って、廃部寸前じゃないか」

「あはは、最近、本を見る人も少ないからね」

 図書館にいる現在、たしかに周りを見ても人がいない。


「はぁ〜」

 大きなため息をつきながらも重い腰を持ち上げる。


「一年の日下部(くさかべ) 憲希(かずき)だ。よろしく」

「ふふ、一年の結城(ゆうき) 桜愛(さくら)よろしくね。憲希(かずき)くん」

 お互いに握手を交わし、そのまま僕は、桜愛に手を繋ぎ引っ張られ強制的に部室へと案内される。



「痛い痛い...」

「着いたよ」

 無理やりに手を引っ張られ、とある場所まで辿り着いた。


 そこは、旧校舎の中にある図書室の前だった。


「ここが部室なのか?」

「そう、ここが部室の旧校舎の図書室だよ。古ーい歴史書ぐらいしかないけどね。木でできている校舎だしなかなか雰囲気はあるよね。少し埃くさいけど、まぁ、入って入って」

 背中を押され、図書室に無理やり入らされる。


 古木でできた本棚、先ほどまでいた図書室とは明らかに雰囲気が違う。


 未だに、本が沢山置かれており、紙芝居や辞典まで置かれていた。


「思ったより多いな」

「何が?」

「本の数だよ、この本も面白そうなものばかりなのにな」

 読まれずして、残り続けている本に憲希は目を向ける。


「ん?あれ、桜愛今日は遅いじゃん」

「ごめん、新入部員見つけて来たよー」

「え、この時期にまだ入ってない人が居たんだ」

 男性がいるのにも関わらず両足を大きくあげ椅子を反対にしながら座っていた。


「って男じゃん。何々?桜愛(さくら)の彼氏?」

 凄い食い気味に彼女は、質問してくる。


「ち、違いますよ。菟月(うづき)先輩」

「一年の日下部(くさかべ) 憲希(かずき)と申します」

 何事もなかったことのように憲希は、紹介をすませる。


「はぁ~全く面白くないな。少しは戸惑って欲しいけど」

 桜愛は、反応したが憲希は何も反応しなかった彼女は、少し不満そうだった。


「悪いけど感情が死んでるから特にリアクションもできないな。ご期待に答えられなくてすみません」

桜愛(さくら)、男を見る目がなさすぎるわよ」

「だから違うって」

 桜愛(さくら)をからかうように菟月は笑いながら言ってくる。


「変な反応するな。余計にからかわれるだけだぞ」

「はっ!」

「君は、えらく淡泊な人間だね。まぁ、いいや。私は(みなみ) 菟月(うづき)君たちの一つ上の先輩だな」

 からかうことに満足したのか菟月(うづき)は、そのまま自己紹介をさらりと済ませた。


「まぁ、この文芸部のやることは主に本を書くぐらいでそれといった活動は特にしていない。まぁ、学園祭には一応出店してるけど、あまり来る人はいないかな。まぁ、個人で出版社に応募してくれても構わないけど、この学園では部を通して応募して賞を取ると個人の成績点数が貰えるから応募するなら部を通した方がいいよ。説明はこんな所かな。何か質問とかある?」

「この部に顔を出さなくてもいいですか?」

「ぶっちゃけありだよ」

 憲希(かずき)の質問に菟月(うづき)は、即答で返答する。


「駄目です!必ずきて来てください」

「既にもう一人来てないんだから別にいいんじゃないか?」

「え?」

「この部は4人しかいないんだろ?」

「それなら、そこにいますよ」

 桜愛(さくら)は、とある方向を指さした。


 椅子を四つ綺麗に並べ、そこに仰向けに寝転び持参であろう毛布まで羽織って熟睡していた。

「あれは、禰猫(ねねこ)先輩です。現在部長で3年生でここに来ては、よくあんな感じで寝てます...」

「・・・あれは活動してないんじゃないか」

「まぁ、来てるだけましなんじゃない」

 呆れている憲希(かずき)にツッコミをいれるかのように菟月(うづき)はニヤニヤしながら言ってくる。

「はぁ、できるだけ努力するよ」

 これが始まりであり、いつもの日常が壊れていった日でもあった。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 いつもの長い授業、半分以上寝て過ごしていた。


 白い髪に白い肌、男にしては低い身長、黙っていればルックス的に美少女と思われておかしくない。

 『先天性白皮症』別名アルビノと言われる遺伝子が起こした奇跡まで言われる珍しいものだ。

 その症状になったものは、肌や目、髪の毛まで白くなってしまうものだ。

 憲希(かずき)の場合、髪は真っ白だが肌も白すぎるまでいかず、目の色は黒いままだった。

 原因は、分かっていても症状が様々なので解明されていること少ない病気だ。 


「ほら、起きて、もう放課後だよ」

 聞き覚えある声が憲希(かずき)の耳に聞こえてくる。


「もう、放課後か...帰るか...」

「駄目!!」

 桜愛(さくら)起きたばかりの憲希(かずき)の首元を強引に掴み、引き釣りながらも文芸部に連行されていく。


「歩くから離してくれない?」

「逃げませんか?」

「逃げない、逃げないから離して、首が締まって苦しいから」

 半ば強制的に旧校舎前までやって来たので憲希(かずき)は逃げることを諦め、仕方なく部室へと向かって行く。


「はぁ、めんどくさいな」

「そういうこと言わない」

 そんな、他愛のない会話を交わしながらも旧図書室までやって来た。


「お、来たね。桜愛(さくら)と、えぇ、まさか来るとは...」

「これは拉致されたという方が正しいよ」

「帰ろうとするからでしょ」

 そんな会話をしていると憲希(かずき)は、寝ている禰猫(ねねこ)の方に目を向ける。


「ここで寝てるんだったら、教室で寝てても一緒じゃないか?」

「まぁ、そうだね」

「はぁ、適当に本でも読んどくか...」

 憲希(かずき)は、旧図書室においてあった、埃が積もっている本を見に行った。


「有名な名作までここに置いているのか...」

 乱雑に置かれた本の中、見覚えがある名作達の数々が埃を被っていた。

 そんな、埃だらけの本棚の中つい最近だろう、誰かが触った後が残っていた。


「これは...」

 名前もタイトルも存在していない小説がそこに置かれていた。


「あぁぁ!!」

 突然、桜愛(さくら)騒ぎ出し、憲希(かずき)の持っていた本をすかさず奪い取った。


「なんで取るんだ?」

「は、恥ずかしいから...」

「えっと、何々?、円環の理、真実を知ろうとする人間...」

「や、やめて~」

 桜愛(さくら)が恥ずかしがりながら本を取り上げようとしてくが、菟月(うづき)は、笑いながらも本を読み上げる。

 

 よっぽど、騒がしかったのか禰猫(ねねこ)が起き上がった。


「うるさい」

 ただその一言で、場は一気に静まりかえる。


その一瞬、憲希(かずき)は、菟月(うづき)が奪った本を更に奪い返した。


「あっ」

 菟月(うづき)は、思わず声を上げたが憲希(かずき)は、その本をペラペラと流し読む。


「はい、どうぞ」

 桜愛(さくら)は、思わずきょとんとするが、憲希(かずき)が渡してきた本を受け取った。


「全く、読んで欲しくないならこんな所に置いておくなよ」

「あ、ありがとう」

 桜愛(さくら)は、受け取った本を強く抱きしめる。


「まぁ、良かったんじゃない?」

「え、何が?」

「何でもない」

 憲希(かずき)は、再び読む本を探しに行こうとしたが桜愛(さくら)に服の袖を掴まれる。


「また、変に見つけられたら困るから、一緒に見る」

 何故だが恥ずかしながら奥の本棚に本を見に行った。


「どういったジャンルが好きなの?」

「暗いバットエンドで泣けるやつみたいな本かな」

「注文が難しいなぁ、ちなみに私は、ハッピーエンドかな~やっぱり、幸せで終わるのが一番だよ。あ、これなんてどうかな?」

 桜愛(さくら)は、とある一冊の本を手に取る。


「これ、少し前に賞取った作品だけど、なんでこんな所にあるんだろう?」

 桜愛(さくら)が手に取った本を見て憲希(かずき)は、思わず手で口を押える。


「なぁ、桜愛(さくら)トイレってどこにある?」

「ここを出て右奥に行ったところだよ」

「ありがとうちょっと行ってくる」

 憲希(かずき)は、そういった後急いで図書室から出ていった。

 暫くして戻ってきた憲希(かずき)の顔は、明らかにやつれていた。

 

「ごめん、今日はもう帰る」

 憲希(かずき)は、そう告げたあと鞄を持って教室から逃げるようにして出て行った。


 そして、入れ違いになるように彩花(あやか)先生がやって来た。


「調子を見に来たら、一体何があったんだ?」

「私は、分かりませんよ」

「えっと、本を選んでいたら、急に顔色を変えてトイレに...」

「はぁ、なるほど予想はついた。心配ない、明日にはちゃんと登校できるさ」

 彩花(あやか)は、桜愛(さくら)の持っていた本の表紙をチラッと見た。


「まぁ、流石にまだ無理か...」

「どうしたの?」

「いや、こっちの話だ。気分を悪くしたらすまなかったな」

 二人(桜愛と菟月)は、思わず首を傾け、何だったんだろうと思うのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「大丈夫か?」

「今は、薬を飲んだから大丈夫。まぁ、少し貧血気味だけど...」

 リビングのソファーに寝転がり、顔色が悪いまま憲希(かずき)は、答えた。


「また、吐血したか...」

 彩花(あやか)は、机に置かれていた、薬を目にする。


「あまり、その薬に頼らない方がいいんじゃないか?」

 机の上には、貧血用の薬以外にも2、3個の薬が置かれていた。


「それは、無理かな。これがないと僕が僕でなくなる」

「それは、そうだが...」

 辛そうな憲希(かずき)の顔を見て彩花(あやか)は、それ以上何も言えなかった。


「晩御飯は、後で作るよ」

「あぁ、美味しいの頼むよ」

 辛そうながらも笑顔を向ける憲希(かずき)を見て彩花(あやか)は、特に何も言わず返答した。


「じゃ、私は、着替えて来るよ」

 そう言って彩花(あやか)は、自分の部屋に着替えにいった。


「はぁ、あれから結構経ったのに、まだ無理か...」

 彩花(あやか)は、クローゼットの内側にある鏡を見ながらポツリと呟いた。


 憲希(かずき)が旧図書室で見てしまった本、とある、有名な賞を取り、一人の人間を死と絶望にまで追い込んだ最高にして最悪の小説。

 いや、正確に言えば死を招いた本と言えるかもしれない。


 この本を読んだ者は、皆泣いてしまうほどの感動できるものだ、そして、その小説が年端も子供によって書かれたものだった。


 出版社は、ただこれらの情報しか公表せず、読者達はその本の著者の名前だけは今も片隅に残っているだろう。

 著者名・夜白(やはく) (つき)、なんと作品はたった一つしかないという異例なものだった。


「ギフテッド...神が与えた奇跡か、あいつには与え過ぎのようなきがするがな」

 彩花(あやか)は、そんなことを考えると思わず暗い表情になってしまった。


 ギフテッド、知的ギフテッドとも言われるもので先天的に、平均よりも遥かに知性を持ってしまった人のことである。


 そのIQは、平均でも130以上、普通の人がIQテストを受けた所でほとんどの人は100を前後する。

 このギフテッドも遺伝子によって起こってしまうものだ。

 そんなギフテッドは、彼は小説の才能がずば抜けていたのだった。


 つまり、(憲希)は、アルビノとギフテッド二つの奇跡的な遺伝子の組み合わせによった子供となる。


 そんな異様な子供が学校で上手く馴染める訳がなく察しのいい人は何があったか言わずしてわかるだろう。

 そのため、彼は家に閉じこもるようになり、日の光を浴びてない彼は成長も暫く止まっていたのだった。



「今日はカレーか」

 いい匂いが着替えている部屋まで漂って来た。


「できたよ~」

 カレーが入った鍋をぐるぐる掻き混ぜる。


 長く伸びた白い髪を後ろで束ね、エプロン姿の彼は、思わず女性と勘違いしてもおかしくないほど似合っていた。


「相変わらず、エプロンが似合うな」

「それは、男として致命的な気がするけど...お皿にご飯いれて」

「はいはい」

 彩花(あやか)は、カレー用の大きな皿にご飯をいれて、それを憲希(かずき)に渡し憲希(かずき)はその更にカレーを注いでいく。


 周囲の人がこの光景を見たら夫婦の様にしか見えなかった。


「さて、それでは、頂きます」

「頂きます」

 二人とも席に着き両手を合わせながらお馴染みの台詞をいった。


「今日も美味しいな」

「疲れたから、手短に作ったんだけどね。もっと手の込んだ料理の方がよかった?」

「いや、これでいいよ、充分美味しいからな」

 彩花(あやか)は、そのままカレーを口へと運ぶ。


 ピリッとした辛みとその後や野菜の甘みがやってくる。

 家庭で出そうと思うと少し難しいのではないかと思えるほど、そのカレーは美味しかった。


「今日は、早めに寝ろよ、皿洗いとかはやっておくよ」

「なら、そうさせて貰おうかな」

 貧血気味状態ではお風呂に入るのは少し危険なので薬を飲んでから憲希(かずき)は、自室に戻り眠りに就いた。


 これが日常であり、理想とも言えるものだろう、(憲希)は、本来は両親とこういった日常を過ごしていたのだろう。


 真っ暗な部屋な中こっそりと彩花(あやか)は、(憲希)の寝顔を伺っていた。


「全く、まだお前の本当の日常は戻って来そうにないかもな」

 寝ているはずの憲希(かずき)の目から涙が零れ落ち、彩花(あやか)はその涙を手で拭う。


「大丈夫だ、お前だって幸せになる権利はあるんだからな」

 眠っている憲希(かずき)彩花(あやか)は優しく頭を撫でたあと自室に戻り眠りに就くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ、体が重い、それに暑い」

 立ち眩みが起こりそうなほど快晴の空、太陽の日差しがカーテン越しに届いてくる。

 季節はもう夏に近づいていた。


 昨日、お風呂に入れてなかった憲希(かずき)は、朝早く起きてシャワーだけを浴びていた。


 早めに用意した朝食を彩花(あやか)も同じように起き、先に朝食を食べて会議の為に早く出てしまった。


「早めに電車に乗るか...」

 ドライヤーで白い髪を乾かし、いつもと違う夏服の制服に着替える。


 半袖のYシャツ、薄い生地でできたズボンを履き、急ぎめに準備を済ませ家から出る。


「うぅ、眩しい」

 思わず手で目を隠してしまうほど強い日差し、遠くを見ていると陽炎が見えてしまほどゆらゆらと地面が揺れている。


「日傘くらい持ってきたら良かったな」

 憲希(かずき)は、涼しい電車内に早く入りたい為か少し早歩きをしながらも駅に向かって行く。


 周りの音が聞きたくないのでイヤホンで音楽をかけながら電車内に入る。

 

 音楽に耳を傾け降りる駅に来るまで目を瞑る。


「ねぇ、ねってば」

 肩を揺さぶれらたので思わず憲希(かずき)は、目を開け誰なのかを確かめる。


桜愛(さくら)か?」

「おはよう憲希(かずき)君、もうすぐ着くよ」

「おはよう、大丈夫ちゃんと起きてるよ」

 イヤホンを片方外し、手早く降りる為、定期を右手に握る。


「いつもこの時間なの?」

「まぁ、人が()いてるからね」

「ふーん、そうなんだ。てか今日はいい匂いするね」

 朝に浴びたシャワーのせいかシャンプーの香りがほのかに香ってくる。


「それじゃ、いつも臭いみたいじゃないか」

「え、いや、いつもいい匂いだけど...って何言わせるの?」

「勝手に自爆しただけだろ」

 何故か不本意に桜愛(さくら)に怒られる。


「もうすぐテストかぁ~、嫌だな」

「そうだな」

憲希(かずき)くんは、テスト取れる?」

「何だ、中間の時に掲載された合計点数を見てないのか?」

「見てない...」

「まぁ、そこそこできるよ。たぶん...」

 少し意味深気味に憲希(かずき)は言った。


「え、なにその言い方、できるの?」

「授業中、寝てるやつが取れるわけないだろ」

「だ、だよね」

 成り行きに出会ってしまったがそのまま一緒に登校することになってしまった。 


 他人から見たら付き合ってると勘違いされても可笑しくないかもしれないが憲希(かずき)の見た目のせいで仲のいい女性同士と思われても可笑しくはなかった。


「涼しい...」

「やっぱり、教室についたら涼しいね」

 憲希(かずき)は、自分の席に着くと両腕を机の上へ置き寝る体制になった。


「てっ、早速寝るの!?」

 

 椅子を四つ綺麗に並べ、そこに仰向けに寝転び持参であろう毛布まで羽織って熟睡していた。

「あれは、禰猫(ねねこ)先輩です。現在部長で3年生でここに来ては、よくあんな感じで寝てます...」

「・・・あれは活動してないんじゃないか」

「まぁ、来てるだけましなんじゃない」

 呆れている憲希(かずき)にツッコミをいれるかのように菟月(うづき)はニヤニヤしながら言ってくる。

「はぁ、できるだけ努力するよ」

 これが始まりであり、いつもの日常が壊れていった日でもあった。 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 いつもの長い授業、半分以上寝て過ごしていた。


 白い髪に白い肌、男にしては低い身長、黙っていればルックス的に美少女と思われておかしくない。

 『先天性白皮症』別名アルビノと言われる遺伝子が起こした奇跡まで言われる珍しいものだ。

 その症状になったものは、肌や目、髪の毛まで白くなってしまうものだ。

 憲希(かずき)の場合、髪は真っ白だが肌も白すぎるまでいかず、目の色は黒いままだった。

 原因は、分かっていても症状が様々なので解明されていること少ない病気だ。 


「ほら、起きて、もう放課後だよ」

 聞き覚えある声が憲希(かずき)の耳に聞こえてくる。


「もう、放課後か...帰るか...」

「駄目!!」

 桜愛(さくら)起きたばかりの憲希(かずき)の首元を強引に掴み、引き釣りながらも文芸部に連行されていく。


「歩くから離してくれない?」

「逃げませんか?」

「逃げない、逃げないから離して、首が締まって苦しいから」

 半ば強制的に旧校舎前までやって来たので憲希(かずき)は逃げることを諦め、仕方なく部室へと向かって行く。


「はぁ、めんどくさいな」

「そういうこと言わない」

 そんな、他愛のない会話を交わしながらも旧図書室までやって来た。


「お、来たね。桜愛(さくら)と、えぇ、まさか来るとは...」

「これは拉致されたという方が正しいよ」

「帰ろうとするからでしょ」

 そんな会話をしていると憲希(かずき)は、寝ている禰猫(ねねこ)の方に目を向ける。


「ここで寝てるんだったら、教室で寝てても一緒じゃないか?」

「まぁ、そうだね」

「はぁ、適当に本でも読んどくか...」

 憲希(かずき)は、旧図書室においてあった、埃が積もっている本を見に行った。


「有名な名作までここに置いているのか...」

 乱雑に置かれた本の中、見覚えがある名作達の数々が埃を被っていた。

 そんな、埃だらけの本棚の中つい最近だろう、誰かが触った後が残っていた。


「これは...」

 名前もタイトルも存在していない小説がそこに置かれていた。


「あぁぁ!!」

 突然、桜愛(さくら)騒ぎ出し、憲希(かずき)の持っていた本をすかさず奪い取った。


「なんで取るんだ?」

「は、恥ずかしいから...」

「えっと、何々?、円環の理、真実を知ろうとする人間...」

「や、やめて~」

 桜愛(さくら)が恥ずかしがりながら本を取り上げようとしてくが、菟月(うづき)は、笑いながらも本を読み上げる。

 

 よっぽど、騒がしかったのか禰猫(ねねこ)が起き上がった。


「うるさい」

 ただその一言で、場は一気に静まりかえる。


その一瞬、憲希(かずき)は、菟月(うづき)が奪った本を更に奪い返した。


「あっ」

 菟月(うづき)は、思わず声を上げたが憲希(かずき)は、その本をペラペラと流し読む。


「はい、どうぞ」

 桜愛(さくら)は、思わずきょとんとするが、憲希(かずき)が渡してきた本を受け取った。


「全く、読んで欲しくないならこんな所に置いておくなよ」

「あ、ありがとう」

 桜愛(さくら)は、受け取った本を強く抱きしめる。


「まぁ、良かったんじゃない?」

「え、何が?」

「何でもない」

 憲希(かずき)は、再び読む本を探しに行こうとしたが桜愛(さくら)に服の袖を掴まれる。


「また、変に見つけられたら困るから、一緒に見る」

 何故だが恥ずかしながら奥の本棚に本を見に行った。


「どういったジャンルが好きなの?」

「暗いバットエンドで泣けるやつみたいな本かな」

「注文が難しいなぁ、ちなみに私は、ハッピーエンドかな~やっぱり、幸せで終わるのが一番だよ。あ、これなんてどうかな?」

 桜愛(さくら)は、とある一冊の本を手に取る。


「これ、少し前に賞取った作品だけど、なんでこんな所にあるんだろう?」

 桜愛(さくら)が手に取った本を見て憲希(かずき)は、思わず手で口を押える。


「なぁ、桜愛(さくら)トイレってどこにある?」

「ここを出て右奥に行ったところだよ」

「ありがとうちょっと行ってくる」

 憲希(かずき)は、そういった後急いで図書室から出ていった。

 暫くして戻ってきた憲希(かずき)の顔は、明らかにやつれていた。

 

「ごめん、今日はもう帰る」

 憲希(かずき)は、そう告げたあと鞄を持って教室から逃げるようにして出て行った。


 そして、入れ違いになるように彩花(あやか)先生がやって来た。


「調子を見に来たら、一体何があったんだ?」

「私は、分かりませんよ」

「えっと、本を選んでいたら、急に顔色を変えてトイレに...」

「はぁ、なるほど予想はついた。心配ない、明日にはちゃんと登校できるさ」

 彩花(あやか)は、桜愛(さくら)の持っていた本の表紙をチラッと見た。


「まぁ、流石にまだ無理か...」

「どうしたの?」

「いや、こっちの話だ。気分を悪くしたらすまなかったな」

 二人(桜愛と菟月)は、思わず首を傾け、何だったんだろうと思うのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「大丈夫か?」

「今は、薬を飲んだから大丈夫。まぁ、少し貧血気味だけど...」

 リビングのソファーに寝転がり、顔色が悪いまま憲希(かずき)は、答えた。


「また、吐血したか...」

 彩花(あやか)は、机に置かれていた、薬を目にする。


「あまり、その薬に頼らない方がいいんじゃないか?」

 机の上には、貧血用の薬以外にも2、3個の薬が置かれていた。


「それは、無理かな。これがないと僕が僕でなくなる」

「それは、そうだが...」

 辛そうな憲希(かずき)の顔を見て彩花(あやか)は、それ以上何も言えなかった。


「晩御飯は、後で作るよ」

「あぁ、美味しいの頼むよ」

 辛そうながらも笑顔を向ける憲希(かずき)を見て彩花(あやか)は、特に何も言わず返答した。


「じゃ、私は、着替えて来るよ」

 そう言って彩花(あやか)は、自分の部屋に着替えにいった。


「はぁ、あれから結構経ったのに、まだ無理か...」

 彩花(あやか)は、クローゼットの内側にある鏡を見ながらポツリと呟いた。


 憲希(かずき)が旧図書室で見てしまった本、とある、有名な賞を取り、一人の人間を死と絶望にまで追い込んだ最高にして最悪の小説。

 いや、正確に言えば死を招いた本と言えるかもしれない。


 この本を読んだ者は、皆泣いてしまうほどの感動できるものだ、そして、その小説が年端も子供によって書かれたものだった。


 出版社は、ただこれらの情報しか公表せず、読者達はその本の著者の名前だけは今も片隅に残っているだろう。

 著者名・夜白(やはく) (つき)、なんと作品はたった一つしかないという異例なものだった。


「ギフテッド...神が与えた奇跡か、あいつには与え過ぎのようなきがするがな」

 彩花(あやか)は、そんなことを考えると思わず暗い表情になってしまった。


 ギフテッド、知的ギフテッドとも言われるもので先天的に、平均よりも遥かに知性を持ってしまった人のことである。


 そのIQは、平均でも130以上、普通の人がIQテストを受けた所でほとんどの人は100を前後する。

 このギフテッドも遺伝子によって起こってしまうものだ。

 そんなギフテッドは、彼は小説の才能がずば抜けていたのだった。


 つまり、(憲希)は、アルビノとギフテッド二つの奇跡的な遺伝子の組み合わせによった子供となる。


 そんな異様な子供が学校で上手く馴染める訳がなく察しのいい人は何があったか言わずしてわかるだろう。

 そのため、彼は家に閉じこもるようになり、日の光を浴びてない彼は成長も暫く止まっていたのだった。



「今日はカレーか」

 いい匂いが着替えている部屋まで漂って来た。


「できたよ~」

 カレーが入った鍋をぐるぐる掻き混ぜる。


 長く伸びた白い髪を後ろで束ね、エプロン姿の彼は、思わず女性と勘違いしてもおかしくないほど似合っていた。


「相変わらず、エプロンが似合うな」

「それは、男として致命的な気がするけど...お皿にご飯いれて」

「はいはい」

 彩花(あやか)は、カレー用の大きな皿にご飯をいれて、それを憲希(かずき)に渡し憲希(かずき)はその更にカレーを注いでいく。


 周囲の人がこの光景を見たら夫婦の様にしか見えなかった。


「さて、それでは、頂きます」

「頂きます」

 二人とも席に着き両手を合わせながらお馴染みの台詞をいった。


「今日も美味しいな」

「疲れたから、手短に作ったんだけどね。もっと手の込んだ料理の方がよかった?」

「いや、これでいいよ、充分美味しいからな」

 彩花(あやか)は、そのままカレーを口へと運ぶ。


 ピリッとした辛みとその後や野菜の甘みがやってくる。

 家庭で出そうと思うと少し難しいのではないかと思えるほど、そのカレーは美味しかった。


「今日は、早めに寝ろよ、皿洗いとかはやっておくよ」

「なら、そうさせて貰おうかな」

 貧血気味状態ではお風呂に入るのは少し危険なので薬を飲んでから憲希(かずき)は、自室に戻り眠りに就いた。


 これが日常であり、理想とも言えるものだろう、(憲希)は、本来は両親とこういった日常を過ごしていたのだろう。


 真っ暗な部屋な中こっそりと彩花(あやか)は、(憲希)の寝顔を伺っていた。


「全く、まだお前の本当の日常は戻って来そうにないかもな」

 寝ているはずの憲希(かずき)の目から涙が零れ落ち、彩花(あやか)はその涙を手で拭う。


「大丈夫だ、お前だって幸せになる権利はあるんだからな」

 眠っている憲希(かずき)彩花(あやか)は優しく頭を撫でたあと自室に戻り眠りに就くのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ、体が重い、それに暑い」

 立ち眩みが起こりそうなほど快晴の空、太陽の日差しがカーテン越しに届いてくる。

 季節はもう夏に近づいていた。


 昨日、お風呂に入れてなかった憲希(かずき)は、朝早く起きてシャワーだけを浴びていた。


 早めに用意した朝食を彩花(あやか)も同じように起き、先に朝食を食べて会議の為に早く出てしまった。


「早めに電車に乗るか...」

 ドライヤーで白い髪を乾かし、いつもと違う夏服の制服に着替える。


 半袖のYシャツ、薄い生地でできたズボンを履き、急ぎめに準備を済ませ家から出る。


「うぅ、眩しい」

 思わず手で目を隠してしまうほど強い日差し、遠くを見ていると陽炎が見えてしまほどゆらゆらと地面が揺れている。



「日傘くらい持ってきたら良かったな」

 憲希(かずき)は、涼しい電車内に早く入りたい為か少し早歩きをしながらも駅に向かって行く。


 周りの音が聞きたくないのでイヤホンで音楽をかけながら電車内に入る。

 

 音楽に耳を傾け降りる駅に来るまで目を瞑る。


「ねぇ、ねってば」

 肩を揺さぶれらたので思わず憲希(かずき)は、目を開け誰なのかを確かめる。


桜愛(さくら)か?」

「おはよう憲希(かずき)君、もうすぐ着くよ」

「おはよう、大丈夫ちゃんと起きてるよ」

 イヤホンを片方外し、手早く降りる為、定期を右手に握る。


「いつもこの時間なの?」

「まぁ、人が()いてるからね」

「ふーん、そうなんだ。てか今日はいい匂いするね」

 朝に浴びたシャワーのせいかシャンプーの香りがほのかに香ってくる。


「それじゃ、いつも臭いみたいじゃないか」

「え、いや、いつもいい匂いだけど...って何言わせるの?」

「勝手に自爆しただけだろ」

 何故か不本意に桜愛(さくら)に怒られる。


「もうすぐテストかぁ~、嫌だな」

「そうだな」

憲希(かずき)くんは、テスト取れる?」

「何だ、中間の時に掲載された合計点数を見てないのか?」

「見てない...」

この学園では、クラスの競争心を生み出すために合計点数のベスト30位まで公開するようにしている。


もちろん、先生に言えば名前を伏せてくれるようになっているので、変に恨まれないようにもなっている。


「まぁ、そこそこできるよ。たぶん...」

 少し意味深気味に憲希(かずき)は言った。


「え、なにその言い方、できるの?」

「授業中、寝てるやつが取れるわけないだろ」

「だ、だよね」

 成り行きに出会ってしまったがそのまま一緒に登校することになってしまった。 


 他人から見たら付き合ってると勘違いされても可笑しくないかもしれないが憲希(かずき)の見た目のせいで仲のいい女性同士と思われても可笑しくはなかった。


「涼しい...」

「やっぱり、教室についたら涼しいね」

 憲希(かずき)は、自分の席に着くと両腕を机の上へ置き寝る体制になった。


「て、早速寝るの!?」

 憲希(かずき)の行動に思わず、桜愛(さくら)はツッコミを入れてしまった。


「別に、構わないだろ?」

「いや、普通ホームルーム前に寝ちゃダメでしょ」

「これは僕にとって()()だから。問題ない..よ..」

 憲希(かずき)は、そういうと桜愛(さくら)の言葉を無視し眠りについてしまった。


「全く...」

「あなた、(憲希)の知り合い?」

 突然、桜愛(さくら)の背後から声が聞こえ、思わず桜愛(さくら)は振り返った。

 振り返るとそこに立っていたのは、このクラスの委員長・花咲(はなさき) 未那(みな)だった。

 成績は常に上位、クラスでの決め事も率先していき、教師からも評判がよく人当たりもよい彼女(未那)、まさに才色兼備と言えるだろう彼女が何故か憲希(かずき)に対し、何故か敵対視してるようだった。


「なら(憲希)が起きたら伝えておいて、次は負けないって」

「う、うん。わかった」

 桜愛(さくら)は、咄嗟のことに思わず返事をしてしまった。


「よし、お前ら席に着け」

 先生の掛け声と共に生徒は、各々の席に急いで着席する。


 いつものような退屈になるような授業、憲希(かずき)は結局昼休みまで寝て過ごしてしまった。


「ん~」

「おはようってもう昼ご飯だけどね...」

「もう、お昼か...」

 まだ眠いのか憲希(かずき)は、大きな欠伸をしながら目を擦る。


「あ、そういえば 未那(みな)さんが次は負けないっていってたけど、一体何のこと?」

「誰?あと何のこと?」

「え?」

 憲希(かずき)の何も身に覚えがないという顔を見て桜愛(さくら)も思わず混乱してしまう。

 

「ま、どうでもいいや」

 憲希(かずき)は、そのまま朝に作っておいたお弁当を食べた。

 夕方の授業、寝すぎたのか頬を片手に当てながら退屈な授業聞き流す。


「さてと...」

 退屈の授業が終わり、鞄を持ち上げ帰ろうとするが毎度同じく桜愛(さくら)が現れ笑顔で腕を掴みながら強制連行される。


「テスト二週間後なのに活動あるの?」

「この学校は1週間から活動停止だよ」

「はぁ~」

 憲希(かずき)は、桜愛(さくら)の返答に重い溜め息を吐いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ガラガラと古びた扉を開け、そのまま旧図書室へと入る。


 静かな図書館の中、パソコンのタイピングの音がカタカタと聞こえてくる。


「よう、いらっしゃい」

「こんにちは。今日は、起きているんですね禰猫(ねねこ)先輩」

「ん、いらっしゃい、桜愛(さくら)と誰?」

 パソコンを片手間挨拶を交わすと憲希(かずき)の方を見て思わず手を止める。


「凄い今更ですね。一年の日下部(くさかべ) 憲希(かずき)です」

「そう、よろしく」

 淡泊な挨拶をし、禰猫(ねねこ)は、再びパソコンに集中し、カタカタとタイピングしていく。


 いつも通り、本を読み漁り時間を浪費していた矢先に誰かが扉を開ける音が聞こえてくる。


「生徒会の者だ。今日を持って文芸部は活動中止となる」

 突然入ってきた女生徒からそう告げられる。

「どういうこと?生徒会長」

「急になんで?ちゃんと4人いるじゃん」

「こんなやる気のない奴が入ったところで一緒だ」

 そういって、一枚のとある紙を取り出す。


「えっと、才能やる気、共に判定F...何これ?」

「こんな判定になる人初めて見た」

 先輩二人は思わず、憲希(かずき)の方を見る。


「なに?」

「この学校の診断結果だこんな結果になることなんて普通ないはずなんだけど...」

 桜愛(さくら)も思わず驚くほどの結果になってしまった。


 簡単なアンケートに近い質問が書かれた紙にマークを記すだけの簡単なもの、夢は何か?これから何をしていくか?などの簡単な質問ぐらいしかなかった。

 その為、F判定をくらうものなんていないのでほとんどいないのだ。


「あぁ~、そういえばそんな紙もらったな...」

「別にこれ以外にも、中間の時に数学が最低を取った者や桜愛(さくら)さんや」

「うぐっ」

 何かが突き刺さるように反応する桜愛(さくら)

「成績は、常に中の下、活動という活動も一度きりの2年生の菟月(うづき)さん」

「あはは、否定できないね」

「文芸の活動としては、問題ないですがこちらも成績は理系の教科の点数が絶望的な3年の禰猫(ねねこ)さん」

「取れてるだけまし」

 二人(禰猫と菟月)は、寧ろ開き直っていた。 


「はぁ、兎も角この部は...」

「ちょっと待ってはくれないか?」

 話と途中、彩花(あやか)が言葉を遮るように現れた。


「ようはやる気を見せたらいいんだよな?」

「えぇ、賞を取れるぐらい優秀な作品を残せたら廃部にはしません。後は成績次第ですが」

「なら問題ない。こいつ(憲希)なら賞を取れる作品を出すよ」

「お、おい。僕はまだ書け...」

「はぁ、まぁいいでしょう。今年、正確には冬まで待ちましょう。できるとは思いませんが...それから成績の方もどうにかしないと活動停止もありますからね」

 そういうと生徒会長は出て行った。


「どういうつもり?」

「どうもこうも、お前が賞を取ればいい話だ」

「できるわけないだろ!」

「いいや、できるよお前ならな」

 憲希(かずき)は、少し怒り気味に話すが彩花(あやか)は、憲希(かずき)の前に原稿用紙とペンを取り出す。


「無理だ。書けない...」

 憲希(かずき)は、ペンを持ったが手が震え上手く書けなかった。


「書けないってどういうこと?」

「そのままの意味だよ。ペンを握ると吐きが襲ってくるんだよ。テストとかは、直ぐに解いているからまだしも、長時間書き続けると吐いちゃうんだよ」

 悲しい表情を見せながらも憲希(かずき)は、思わずペンから手を放した。


「こっちは理由も話したくないし、思い出したくもない」

「それじゃ、この部は潰れる、あなたのせいで」

「はぁ、わかった。どうにかするよ、その前に成績をどうにかした方がいいんじゃないか?」

「「「うっ」」」

「悪いが私は、見れないからな。学生同士で頑張るんだな。じゃ、私は、仕事があるから」

 そういって面倒事だけを増やし、彩花(あやか)は、職員室へと戻っていった。


「そ、そうだ、先輩に教えてもらえば」

「理系はできない...」

「あはは、私も理系の成績は悪いよ」

 先輩二人から教えてもらおうと思った桜愛(さくら)だったが、先ほどの生徒会の話を思い出し落ち込んだ。


「はぁ、今から少し勉強する?」

「数学とかできるの?」

「・・・少なくとも平均ぐらいは取れるよ」

 少し間を開けながらも憲希(かずき)は、答えた。


「「ホント?」」

「はぁ、教えれるか分からないけど、教科書見してくれたらできると思う」

 先輩二人は、そういうと無言で理系の教科書を渡して来た。


 こうして夏休み前の活動は、主にテスト勉強をすることとなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 期末試験が終わりテスト返却日になった。


結城(ゆうき)、どうしたお前?正直予想外だ...」

 数学担当の教師に驚きながら返された桜愛(さくら)の答案、点数には96点という高得点の文字があった。


「えへへ、今回は自信があったので」

 先生にも褒めてもらい桜愛(さくら)は、えらく上機嫌になった。


「おい、菟月(うづき)一体何をやったんだ?」

 二年の教室では、ある意味大きな騒ぎになっていた。


「ん?いつもどうり適当にやっただけだよ。何かあったの?」

 菟月(うづき)は、いつものようにへらへらとした態度のまま答案を受け取る。


「いやなに、採点ミスをしてるかと思って...いや何補修から外れてよかったな」

「いや~全くです!」

 そんな会話をしたあと菟月(うづき)は、自分の席で返ってきた答案を眺める。


「おぉ!我ながらよく取れたなぁ」

 菟月(うづき)は、93点と書かれたテストの答案を高らかに掲げる。



禰猫(ねねこ)...正直驚いたけど、今回はよく頑張ったね」

「ん、ありがと」

 禰猫(ねねこ)は、あまり気にせず紙を受け取ったが席に戻ると思わずニヤニヤしてしまうほどの高得点だった。


「初めて90点なんか取れた...」

 禰猫(ねねこ)は、思わず答案用紙を握りしめた。


 そんな点数を取った三人が部室に集まっており、機嫌がいいのかずっとニコニコしていた。


「テストが良かったのか」

「まぁね」

「いや~、珍しく夏の補修組から抜けれた~」

「ん、それは一番大きい」

 三人は、数学以外にも科学での点数も高かったようだ。


「それはよかったな」

「ん、後輩よくやった」

「いい働きだったぞ」

「ありがとね」

 三人は、何故か囲むようにして憲希(かずき)に近づいてくる。


 思わず憲希(かずき)は、逃げようとするがそのタイミングで彩花(あやか)にぶつかり取り押さえられた。


「なんの拷問?」

「美人に囲まれてむしろ役得だろ」

 強制的に椅子に座らされ原稿用紙を目の前に置かれる。


「・・・どうしろと?」

「とりあいず、400字×5枚書き終わるまでかな」

「だからペンは...」

「それは大丈夫だ。そんな奴の為にノートパソコンを持ってきた。これならまともに書けるよな?」

 彩花(あやか)は、持っていた鞄からノートパソコンを取り出す。


「朝から無くなっていたと思ったらなんで持って来てるの...」

 それは、普段からよく使っていた憲希(かずき)のノートパソコンだった。


「はぁ、ならパソコンの方が楽だ」

 憲希(かずき)のパソコンのデスクトップには、たくさんのフォルダーが作られていた。


「ファイルが多い」

「あまり見ないで欲しいんだけど...」

「だって、やっているかどうか見ないとわからないじゃない?」

「はぁ~」

 重い溜め息を吐きながらパソコンでカタカタと文字を打っていく。


「言っておくけど、パソコンだからって後に薬飲まないといけないほど今も気持ち悪いからな。その時は解放してくれよ」

「わ、わかった」

 憲希(かずき)は、気分を悪くしながらも作成を始めた。


「ジャンルとか何にするの?」

「気分、適当に打ってる」

「賞取る気ある?」

「・・・」

 禰猫(ねねこ)にそう言われ思わず黙り込んでしまう憲希(かずき)


 憲希(かずき)自身は、まだ小説を書くことを恐れており、今ある日常を壊してしまうことが怖がっていた。


「はぁ、少しトイレに行かせてくれ」

「わかった」

 数分後憲希(かずき)は、特に逃げもせず戻ってきて鞄にしまってあった薬を飲む。


「人のパソコンあまり見ないでほしんだけど」

「いつの間に...」

「別にこっそり入ってきたわけじゃないんだけどな」

「ねぇ、このフォルダー...」

「全部、子供の時に書いた小説だ。まだ、残っていたのか...」

 すかさず憲希(かずき)は、そのフォルダーをごみ箱に捨てようとしたが桜愛(さくら)に止められる。


「読ませてもらってもいいかな」

 キラキラと目を見せられ憲希(かずき)は、ダメとは答えずらかった。


「はぁ~、少しだけだ」

 合理的に休めるので憲希(かずき)は、そのまま椅子を並べてその上で寝転んだ。


 どれくらい眠ったのだろう、肩を揺さぶれる感覚があり思わず目を覚ます。

 起きたすぐ周りを見渡すが外は暗く、菟月(うづき)の姿は、もうなかった。


「ねぇ、これ続きある?」

「ん...続き?、そのフォルダーに無かったらないんじゃないか?ってどうしたんだ?泣いてたのか?」

「え、いや」

 桜愛(さくら)は、まるで泣いていたかのように目が潤っており、頬が流し拭ったの痕で赤くなっていた。


「何でだろ、何故が読んでいると泣けてきちゃって、えへへ」

「これ、充分に賞取れる作品だと思うけど」

 禰猫(ねねこ)も同様に読んでいたのだろう、桜愛(さくら)と同じように泣いた痕が顔に残っていた。


「残念だけど、読んだのならそれを消してくれ、ってもうこんな時間か」

 憲希(かずき)は、スマホで時間を確認すると既に8時近くになっていた。


「えぇ!い、急いで帰らないと...絶対消さないでのそれ、まだちゃんと読めてないから。じゃ、また明日」

 桜愛(さくら)は、そう言い残したあと鞄を持ち慌て帰っていった。


「さてと、帰るか...」

 鞄を持ち、憲希(かずき)は、靴に履き替えるため下駄箱ロッカーへと向かっていく。


「なんだこれ?手紙?」

 下駄箱を開け、靴を手に取る。

 そして中に入っていたのであろう手紙が落ちてきた。


「名前は無し、場所と時間の指定だけか...めんどくさ」

「ちょ、ちょっと待った!!」

 憲希(かずき)は、その手紙をなかったことにしようと思わず破こうとするが途中で恐らく差出人であろう人が止めに入ってきた。

 

「えっと、誰?」

「・・・」

 破るのを止めに入ってきたのは、憲希(かずき)と同じクラスの委員長花咲(はなさき) 未那(みな)だ。

 初対面ということでもなく、クラスメイトに名前すら憶えられていなかったことに思ず黙ってしまった。


「で、一体何の様でしょうか?」

「一体どんなイカサマをしてるの!!」

「イカサマ?あぁ、テストのことか?」

 憲希(かずき)は、即座にテストとこととわかった。


 何しろ今回はテストの結果が貼られる掲示板に自分の名前を堂々と記載したのだ。

 全教科満点、掲示板には、主な5つの教科の点数しか載せないがそれが異例なことは言うまでもない。


「やっぱり、何か裏が、日下部先生...」

 その言葉を言った途端、憲希(かずき)は思わず手が出たがになるがギリギリのところで手を止めた。


「いいかそれ以上イライラさせないでくれ。自分は、何言われようが構わない。だけど、周りの人は巻き込むな」

「・・・ごめんなさい」

 突然なことで腰を抜かした未那(みな)憲希(かずき)は、手を差し伸べる。


「はぁ~、生徒会には立候補するきはない」

「え?」

「そこまで点数にこだわるんだ。誰にでも分かる」

 この学園での生徒会に入る条件、それはテストで上位を取ることだが、そこから入るかどうかは自由だ。

 ここまで点数にこだわるか、そんなものは考えたらすぐに分かるものだった。


「じゃ、なぜ今頃名前を公開したの?」

 未那(みな)にとっての一番の疑問は、そこだった。


 いきなり名前を公開したことで彼女にとっては、生徒会に入ると思ってしまったのだろう。


「やる気をないと判断された自分のせいで、廃部寸前となっていた文芸部が強制的に潰されるらしい。そしてその責任が俺のせいだからと理由でとれあえず、名前を公表してみただけだ。まぁ、ただで譲るのもなんだし、君が生徒会になったら文芸部を潰すのを取り消してくれないかな?ちなみにイカサマなんて何もしていない。嘘だと思ってもらっても構わない。その時は証明の為に適当に用意したテストでも解いてやる」

「ま、待って」

 憲希(かずき)は、そう言い残し未那(みな)の呼び止めにも答えずそのまま帰ってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 忌々しい記憶、小説を書くのを縛られた憲希(かずき)に対しての呪いといってもいいだろう。


「先生、彼はなんで小説が書けなくなったんですか?」

 桜愛(さくら)は、わざわざ職員室まで訪ねてきて彩花(あやか)へ問い詰めていく。


「はぁ~、あまりあいつの過去について聴くな。知った所であいつの過去は消えることはない」

 コーヒーを入れたコップを片手に呑みながら深刻な顔を桜愛(さくら)に見せる。


「それでも、私は(憲希)に書いて欲しいんです!!」

「はぁ~」

 桜愛(さくら)の真剣な表示を向けられ彩花(あやか)は、重い溜め息を吐いた。


「わかった、ここでは話せない。一緒に来てくれ」

「わかりました」

 二人は、そのまま職員室を出て保健室までやって来た。


「なんで保健室?」

「まぁ、いいから入るぞ」

 ドアを開けた瞬間、彩花(あやか)に向けマキ〇ンが投げつけられそのまま華麗にキャッチする。


「おい、いきなり何するんだ?」

「あら、怪我じゃないの?」

「怪我だとしてもいきなり投げつけるのはおかしいだろ!」

「あらあら、ごめんなさいね。ドア越しに声が聞こえたものだからつい、後ろにいるのは憲希(かずき)くん?」

「関係はあるが少し違うな」

「すみません、桜愛(さくら)申します...」

 散々期待させたみたいで、申し訳なく思いながら桜愛(さくら)は、自己紹介する。


「でもなんで保健室の先生に?」

「あぁ、こいつは...」

「私は、竹内 雫(たけうち しずく)。教養教諭だけど心理的なカウンセリングもしているのよ」

「初めて知った」

「だって、私、憲希(かずき)くん専属だから」

 桜愛(さくら)は、思わずこれが残念な美人というものだなと思ってしまった。


 スタイル抜群、髪も後ろで束ねられクールな印象だった(しずく)のイメージが一気に崩れた。

「はぁ~、そういうことだ。あいつに対しての経緯は、語れるが心理状況はこいつ()の方が知っているからな」

 彩花(あやか)は、重い溜め息を吐き、こいつを憲希(かずき)と合わせたのが失敗だったなといろんな意味で後悔していた。


「それで一体何のよう?」

こいつ(桜愛)憲希(かずき)のことを教えてやってくれ」

「それ本気で言ってる?あまり他人を巻き込まない方が(憲希)の為じゃない?」

「それも覚悟の上らしい」

「あらあら」

 (しずく)は、思わず桜愛(さくら)の顔を見る。


「はぁ~、なんでそこまで知りたがるのかわからないけど、今から話すことは誰にも言ってはいけない。そして、聞いてしまってからは(憲希)に対しての印象が変わると思うけど、それを態度には出さないでね」

「わかりました」

「それと彩花(あやか)

「はぁ~」

 彩花(あやか)は、ゆっくりと保健室の扉の方に近づき一気に扉を開ける。


「あ!」

「見つかった」

「バレバレだ。盗み聞きといい度胸だな」

 扉の先にいたのは禰猫(ねねこ)菟月(うづき)だった。


「い、いや~たまたま、職員室で聞いちゃって」

「私も知りたい」

「とりあえず中に入れ」

 彩花(あやか)は、そのまま二人(禰猫と菟月)を保健室へと入れる。


「はぁ、(しずく)こいつらも追加だ」

「仕方ないわね」

 (しずく)は、椅子を用意するとそのまま憲希(かずき)の過去について語り始めた。


「まぁ、始めに憲希(かずき)くんの見た目、あれはただの遺伝でよって起こるものだけど、幼い頃からあの姿では小学生ではどうなるかは予想は着くでしょ?」

「いじめ問題」

「そう、憲希(かずき)は、いじめにより小学生で、家で過ごすこととなった」

 生まれて来ただけで他人と違うだけで異物扱いを受けるそれが子供の世界の最も酷な所だろう。


「そうして彼は幼い頃から引きこもってしまったが両親は特に何も言うこともなく、仕方ないことだと家で教育をすることとなった。恐らく両親も大方こうなることは分かっていたんだろう。その引きこもっている中で、彼が最も影響を受けたのが彼の父親が書いていた小説だった」

憲希(かずき)のお父さん小説家だったの?」

「あぁ、そこそこ有名な小説家だったよ。ちなみに母親の方は、専業主婦だ。憲希(かずき)に小説の書き方を教え、小説を書くためにもあらゆる分野の学問を教えていたりしていた。そして、(憲希)が、まだ小学生の時に小説を書きあげその小説がとある賞を取った」

「題名 『無題』」

 禰猫(ねねこ)の言葉を聞き思わず彩花(あやか)は、驚いた。


「知っていたのか?」

(憲希)のパソコンの小説を少し見せてもらった時に表現が似てると思った」

「え、てことは憲希(かずき)くんが夜白(やはく) (つき)なの!?」

 あまりのカミングアウトに桜愛(さくら)は、驚いてしまう。


「寧ろなんで気づいてないの?」

菟月(うづき)先輩まで!?」

「そりゃ誰だって気づくでしょ、普通」

 普段ヘラヘラしている菟月(うづき)でさえ憲希(かずき)の正体が薄々気づいていた。


「まぁ、あれはタイトルを決めずに応募したからな仮タイトルで『無題』をつけただけだな」

「そんな裏事情が...」

「まぁ、とりあえず。その小説のせいであいつの家庭は崩壊した」

「え・・・」

「どういうこと?」

 当然疑問に思うだろう、何しろ幸せそうな家庭環境だと思われる中で本一冊でそれが崩れてしまうなんて思いもしないからだ。


「才能の差、あの小説が賞を取ったことに憲希(かずき)くん自身の才能が世間に知られてしまったからだ。幸いペンネームのおかげであいつの本名まではでなかったがテレビで賞を受け取った時に別の人物がでるという異例ともいえることが起きた」

「確か関係者が受け取ったんだよね」

「受け取ったのは、憲希(かずき)の父親だ」

 三人は、思わず驚いてしまった。


「それって賞を盗んだみたいで...」

「その通り、憲希(かずき)の父親は自らペンネームを変えたと言い、本来憲希(かずき)の貰うはずだった賞を横取りしたんだ。だが、それが自身を苦しめるとは思いもしなかったんだろう」

「世間からの期待によるプレッシャー」

「流石現役は分かっているな」

 読書家からの期待、賞を取り、他の小説よりも圧倒的な表現力を書いた小説そんなものが憲希(かずき)の父親には書くことができなかったのだ。


「そして、その矛先は憲希(かずき)に向けられた。父親は小説家での名誉、母親は小説での資金によって二人とも憲希(かずき)に小説を書くことを強要し、しまいには暴力を振るっていた」

 三人は、納得してしまった、憲希(かずき)書けなくなってしまった理由を...


「そんな中憲希(かずき)くんは、ペンすらまともに持てなくなってしまった。両親の恐怖(暴力)によってね。もちろん両親からしたら反発しているようになったのだろう。だが、時が経つにつれ憲希(かずき)の父親が先走ってしまい」

「失敗に終わった。当然といえば当然...普通あの作品の真似は出来ない」

 禰猫(ねねこ)は、同情するように言った。

 

「そうね、そこから世間は、彼は偽物じゃないかと疑い始めた。そして出版社が白状してしまったんだ偽物だとね。理由は、一つ夜白(やはく) (つき)の評判低下をなくすためだった。だからその為、そこまで情報を出すことはなかった。世間から悪者扱いを受けてしまった父親、小説家での資格も取られ絶望に陥り、最後は無理心中してしまった。憲希(かずき)くんを残してね」

「嘘...」

 あまりにもかけ離れた日常、通常ならあり得ない日常だが憲希(かずき)にとってそれが、()()で、忘れることができない永遠の記憶となってしまったのだ。

 血が滴るリビング、倒れている両親、呼んだとしても声すら返ってこない憲希(かずき)は、そのまま気を失った。


「両親を失った子供(憲希)、髪色などを気味悪がり誰も引き取らなかったところ引き取ったのが私だ」

「うん、よくやったわ」

 (しずく)は、ムードをぶち壊すように、親指を立てよくやったと言わんばかりの顔を見せる。


「ごほん、まぁ、そんなわけで引き取ったわけだが、そりゃ酷い有様だったよ。怯えるような顔を向けられお風呂に入れようと服を脱がせるとあざや切り傷の跡が残っていたからな」

「それに憲希(かずき)くんは、精神的にも非常に危険だったのよ。血や書いた小説を見るだけで吐くようになってしまったせいで栄養もほとんど取れなかった。心身共にボロボロの状態、今はマシになった方だけど今尚、それは呪いのように憲希(かずき)くんの心の中では残ってるのよ。自分は、両親を(あや)めてしまったという呪いがね」

「それは...」

 あまりにも不条理で理不尽な世界、不幸としか思えない憲希(かずき)だったが彩花(あやか)(しずく)のお陰でこうして学校に通うまで回復したのだった。


「これが憲希(かずき)の過去だ。簡単には消さないのは言うまでもないだろう」

 三人は、思わず黙り込んでしまう。


 三人もここまで酷い過去を持っているとは思いもしなかったのだろう。


「これを聞いてどうするかはわからんが、これから夏休みだ。あいつ仲良くしてあげてくれ」

「それは、駄目よ。これ以上私の」

「お前は少し空気を読め」

「あふん...」

 興奮する(しずく)彩花(あやか)は、思わず拳骨を与える。


「話し、こんなところだ。さっさと部活に行って来い」

 そのまま三人は、揃って部室の方へと向かっていった。


「これで少しは変えられるか...」

「変わると思うよ。少なくとも3人も支えてくれる人ができたんだから」

 彩花(あやか)(しずく)は、部室に向かっていく三人の背中を見送った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今日は、三人とも遅いんだね」

 そこには、本を読んでいたであろう憲希(かずき)だった。

 机の上にはこれでもかと思うほどの本が積み上げられていた。


「一体どれだけ読んでるんだよ...」

「まだ、30冊ぐらいかな。気分転換に読んでるだけだよ」

「気分転換ねぇ」

 菟月(うづき)は、呆れてこれ以上は何も言わなかった。


「パソコン...」

「あぁ、今日はまだ体調は大丈夫だからね。最初は、そこそこ書いていたけど。アイデア不足で本を読み漁ってた?」

「なんで疑問形なの、まぁ私も何か書こうかな」

 桜愛(さくら)は、ツッコミをした後、鞄の中に入っていたノートパソコンを取り出し小説を書き始める。


 ちらりと憲希(かずき)の顔を見た後、桜愛(さくら)は、文字を打ち始める。

 秘めた思いを胸に桜愛(さくら)は、文字を打っていく。


 小説作りに必死になっているとあっという間に時間が過ぎてしまっていた。


桜愛(さくら)が珍しく集中して書いてる」

「せ、先輩それはひどいです」

「だって、いつもニヤニヤしながら書いてるもんね」

「そんな顔してません!!」

 先輩二人は、桜愛(さくら)をからかっているが憲希(かずき)は、一切反応を示さない。


憲希(かずき)?」

 憲希(かずき)は、何も聞こえていないのか無言でパソコンにタイピングし続ける。


憲希(かずき)?」

 よっぽど集中しているのか、呼びかけには応じなかった。


 桜愛(さくら)は、邪魔しては悪いと思いそれ以上声をかけるのを止めた。



「おう、憲希(かずき)迎えに来たぜ!」

 彩花(あやか)は、ご機嫌なまま旧図書室に入ってくる。


 周りを見るともう日が暮れており、時間を確認すると既に下校時間となっていた。


「って、おい憲希(かずき)!?」

 彩花(あやか)が、憲希(かずき)体に触れるとぐっしょりと濡れた感触があった。


「あれ彩花(あやか)?もうそんな...あれ?」

 憲希(かずき)の存在にようやく気が付いたが憲希(かずき)の視界がぐにゃりと歪む。


「はぁ、お前、水分補給してなかっただろう?」

 真夏の中、クーラーがあるといえど知らずに知らずに水分が抜けてしまい、脱水症状になってしまったのだ。


桜愛(さくら)、悪いけどスポーツ飲料買ってきてくれないか?ついでにお前たちも好きな飲み物も買ってきていいから」

「わ、わかりました」

「私も、運ぶの手伝うよ」

「私も」

 三人は、彩花(あやか)がくれたお金を持って自動販売機まで急いで行った。


「とりあえず、お前は一旦横になれ。まともに歩けないだろ」

 憲希(かずき)は、立ち上がろうするがふらついてしまい彩花(あやか)が、思わずレオンを受け止める。


「ん、ありがと」

「お、おう」

 弱々しい憲希(かずき)の姿に思わず彩花(あやか)は、ドキッとしてしまった。


 柔らかいといった表現が正しいのか、思わず抱きしめたくなるくらいの女の子にしか見えなかった。


「あらあら、生徒に手を出すのは犯罪じゃないかしら」

 ニヤニヤとしながら(しずく)は、スマホを用意しパシャリという音がする。


「お、おま何撮ってるんだ。それに何でここに...」

「帰ろうとした時にあの子たちにあったのよ」

「そ、そんなことより早く見てやってくれ」

「はいはい」

 (しずく)は、脈や顔色を伺いながら憲希(かずき)を伺いながら診察していく。


「症状としては、まだ軽い方かな。気づいて水筒の飲み物を飲ませたようだからすぐに回復すると思うわ」

「ありがと」

「ええ、いいのよ。お姉ちゃんに何でも頼んで!」

「おい!」

 彩花(あやか)が、すかさず(しずく)にツッコミをいれる。


「あはは」

 憲希(かずき)は、そんな二人のやり取りが面白く思わず笑ってしまった。


「買って来たよ」

「ほら、これ飲んでさっさと帰るぞ」

「うん、わかった。もう大丈夫だよ。ありがと」

 暫く横になって治まってきたのか、憲希(かずき)は、立ち上がり、飲み物を受け取る。


 そのまま、部活は解散になりそのまま夏休みへと突入した。



「夏休みだからって家で過ごし過ぎじゃないか?」

 夏休みが始まって一週間憲希(かずき)は、家に引き籠りごろごろしていた。


 少なくとも出かけに行くのは、ご飯の材料を行くスーパーぐらいでそれ以外は基本的に家で過ごしていた。


「夏休みなんて宿題が終われば暇なものじゃない?」

「それもそうだけどな」

 クーラーが効いたリビングでくつろいでいるとボコッという変な音がエアコンからなりだし、そのまま止まってしまった。


「え、止まった...」

「あれ、どうなってるんだ?」

 彩花(あやか)は、リモコンで電源ボタンを押すがエアコンは、全然動かない。


「これは、壊れたのかな?」

「まぁ、各自の部屋にエアコンがあるけど、一応確認しておこうか」

 そういって各部屋を確認するが彩花(あやか)の部屋のクーラーも壊れており、憲希(かずき)の部屋のクーラーは無事動いていた。


「私の部屋が...これじゃ昼まで寝れない...」

「寝るのは僕の部屋でいいとしてもリビングを優先的に直して貰わないとね」

「わ、私のところを優先は...」

「と言われても今、夏で修理も多いと思うだけどな。とりあえず、電話して見ないと分からないけどね」

 彩花(あやか)は、そう言われ電気屋へと電話する。


 電話で話していると段々表情が重くなって弱々しい「はい」という返事が聞こえてくる。


「どうだったの?」

「依頼が多くて1週間ぐらいかかるらしい」

「まぁ、その間僕の部屋で過ごすしかないね」

「同時期に買ったエアコンだろ。壊れる可能性がそっちもあるだろ」

「まぁ、壊れるまで耐えてくれるのを願うしかないかな」

「それにしても暑い...」

「さっき電源入れてきたから今は涼しいと思うけど...」

「暫くは、憲希(かずき)の部屋で過ごすか」

 彩花(あやか)は、スマホを確認すると思わずニヤッと笑った。


「よし、憲希(かずき)買い物に行くぞ!」

 突然の彩花(あやか)の発言に驚いたが強制的に買い物に行くこととなった。


 普段からそこまで買い物に興味がなかった彩花(あやか)から突然の発言で憲希(かずき)は、驚いた。


「で、なんでショッピングモール」

「ん?あぁ水着を買いに来たんだよ。最近使ってなかったからな」

「水着?プールでも行くのか?」

憲希(かずき)明日プールにいくぞ」

 彩花(あやか)がニヤニヤしていたがプールに行きたいだけの浅い理由だけじゃないと憲希(かずき)は確信した。


「水着なんてもってないから適当に選んでおくかこれでいっか」

 憲希(かずき)は特に意識もせずよくあるラフな水着を選び上に羽織るラッシュガードも選んだ。


「なんだもう決めたのか?」

「別に拘りなんてないからな。本屋に行ってくるから、終わったら電話でもしてくれ」

「まぁ、それはいいけど。あまり目立つなよ」

「分かってるよ」

 憲希(かずき)は、フードをかぶりあまり髪を見せないようにしてそのまま店を出ようとする。


「まぁ別に見てくれてもいいんだぜ」

「いいの?」

「うっ、や、やっぱりだめだ」

「どうせ見ることになるのに?」

「そ、それは...もういいからさっさと行って来い」

 彩花(あやか)は、憲希(かずき)の反応に思わず戸惑ってしまい顔を赤くし、水着を取るとそのまま試着室に入っていった。


「さて、本屋でも行くか」

 普段、あまり遠出もしないので普段着に近い少し大きめな服を着ているので鎖骨の辺りが見えてしまっていた。


 フードをかぶったとしても長く白い髪と白い肌が見えてしまい、外国人の美少女と思われて可笑しくない。

 憲希(かずき)は歩いているだけで変に注目を浴びていた。

 憲希(かずき)は、そんなことお構いなしにイヤホンで周りの音を遮断し、そのまま本屋へと向かって行く。


「おい、あの子すげぇ可愛いな」

「声かけて来いよ」

「女優かなんか?」

「あれが本当にリアル?」

 あちらこちらから変に盛り上がっていた。


「これも読んだな、新刊で探すか...」

 憲希(かずき)は、旅行雑誌や化学飼料など様々の本を立ち読みしていく。


 憲希(かずき)は、凄い速さで本を開いては読み終えの連続で詳しく読みたいものだけ本を持っていく。


「まぁ、こんな所かな」

 結局買い物かごの中に10冊ほどのジャンルがばらばらの本を購入し、彩花(あやか)は買い物を済ませてそのまま本屋で合流した。


「また、そんなに買ったのか...」

「まぁ、書くための参考資料かな」

「書く時の体調の方は大丈夫なのか?」

「書けといったのは彩花(あやか)でしょ。少し気持ち悪くなるけど書けてはいるよ」

「そうか」

 彩花(あやか)憲希(かずき)は、そのままショッピングモール内にあるアイスを食べながらそんな会話を広げていた。


「ねぇ、その味、少し食べさせて。こっちも上げるから」

「あぁ、いいぞ」

 まるで恋人同士に見えるその光景だが別視点では、仲のいい姉妹か女友達と思われていた。


 彩花(あやか)が少し、男勝りのおかげか変に絡んでくる男性もいなかった。

 二人は、そのまま服など少し見て今晩の献立を考えながらそのまま食材を買い足し、家へと帰った。


 夏の夜、外は少しばかり涼しいと感じるこの時間、部屋ではクーラーを点け、彩花(あやか)憲希(かずき)の部屋で共に寝ることとなった。


「相変わらず、本が多いなぁ」

「まぁ、これでも結構片づけたんだけどね」

 憲希(かずき)の部屋、窓の付近以外びっしりと本が入った大きな棚が置かれており、憲希(かずき)自身のベットと小さな机ぐらいしか家具といったものはなかった。


「まぁ、今日はここで寝るしかないんだけどね」

「流石に真夏でクーラ-なしは少し厳しい所があるからな」

 そういって慣れた手つきで布団を引いていく。


「それじゃ、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 リモコンで、クーラーに4時間ほどのタイマーで切れるように設定しそのまま眠りについた。



 夜真夜中、彩花(あやか)は、トイレに行くため起きそのまま寝ているであろう憲希(かずき)の顔を覗き込む。


「泣いているのか...」

 憲希(かずき)の顔を覗き込むと頬に涙の跡がついていた。


 彩花(あやか)は、憲希(かずき)のベットに入りそのまま抱きしめる。


「大丈夫だ。お前は、一人じゃないよ」

 そのまま彩花(あやか)は、憲希(かずき)と同じベットで一夜を明かした。


「で、なんで彩花(あやか)が同じベットで寝ているの?」

「・・・そ、そのなんというか...すみません...」

 彩花(あやか)は、綺麗な土下座を反射的にしてしまった。


「はぁ、もういいから。朝食作るから着替えてきてね」

「わ、わかった」

 彩花(あやか)は、慌てて部屋からでて着替えてくる。


「今日プールに行くの?」

「そうだ。朝食を食べて早く準備しろよ」

「はいはい」

 軽い食事を済ませ、そのまま車に荷物を詰め込み地元のプールに向かっていくはずだが別方向の方に車を走らせていく。


「プールじゃないの?」

「まぁ、寄り道だ」

 そのまま住宅街に入っていくと見たことのある名字の家の前に辿り着く。


「結城...」

「あ、来てくれた」

 桜愛(さくら)がこの暑い中、玄関先で帽子をかぶり立っていた。


「この真夏の中待ってたのか?まぁ、いいや早く乗れ」

「あ、はい」

 そのまま桜愛(さくら)は、車に乗車してくる。


「まぁ、こんなことだろうとは思ったけど。あ、桜愛(さくら)クーラーボックスに飲み物あるから好きに飲んでいいよ」

「二人だけじゃつまらなかっただろう。いいじゃないか別によ」

「はぁ、別にいいけど」

「元々は、お前が連絡先を伝えてなかったのが原因なんだからな」

「それは、そうだけど」

 憲希(かずき)は、特に否定もできないまま黙り込んでしまった。


「あとは、禰猫(ねねこ)だけかな」

「現地に行ってるやつもいるのか...」

「まぁ、そういうことだな」

 彩花(あやか)は、そのまま車を走らせ禰猫(ねねこ)の自宅へと車を走らせる。


「ここら辺だと思うけど」

「ここら辺って周り豪邸しかみないけど」

 ナビ通りの道を走っていると目的地はとある豪邸の前に辿り着く。


『目的地に着きました』

 ナビで設定した場所で間違いないようだった。


「一応着いたと連絡してみたけど、あぁ、返事が来た。今から来るって」

 玄関らしき大きな門、その後ろには広い庭が広がっていた。


「こっち」

 車の窓を開け声の聞こえた方を見るとそこには白いワンピースを来た禰猫(ねねこ)が立っていた。

 大きな門が開くと思ったが、普段の出入りは隣の扉から出てきたようだった。


「ね、禰猫(ねねこ)先輩ってお金持ちだったんだね」

「ん、親が稼いでるだけで自慢なんてする気もないんだけど。親どれだけ優れていても私には関係のない」

 禰猫(ねねこ)は、あまりいい顔をしなかった。


「さて、切り替えてさっさとプールへと向かいますか」

「ん、いこう」

 暗い話になりかけたところ彩花(あやか)の機転により話題を変えれた。



 10分ほど運転したのち地元で有名なプール施設に辿り着く。


「ふぅ、やっと着いた」

「うん、(しずく)が運転してなくてよかった」

「それってどういうこと?」

「よ、ようやっと来たんだね...」

 顔が青くなってしまっている菟月(うづき)の姿がそこにあった。


「ど、どうしたんですか?」

「あぁ、犠牲者1名だな」

「うぅ、聞いてない(しずく)先生が運転が荒いなんて...」

「えっと、お疲れ様?」

 実は(しずく)の運転は、昔から荒く、見た目からは想像をつかないほどそれは酷い運転をする。

 菟月(うづき)は、何も知らず乗ってしまいそれはもう酷い目にあったようだった。


「見た目的に彩花(あやか)先生の方が運転が荒そうなのに...」

「悪かったな。どうせなら帰りも乗せて貰っとけ」

「そ、それは許して下さい」

「あらあら、全く酷いわ。一体、どこが荒いのかしら?」

 後ろから(しずく)がニコニコしながら現れるがその笑顔は、少しばかり怖かった。


「まぁ、車に荷物もあるし、誰か一人は(しずく)の車に乗ってもらうんだけどな」

 全員車から降り、彩花(あやか)は、中に入っていた荷物を取り出す。


「「うっ!」」

 憲希(かずき)以外の二人が思わず反応してしまう。

 禰猫(ねねこ)憲希(かずき)は、特に反応しなかったが、菟月(うづき)はもう御免だと顔を下に向ける。



「さてと、そんなことよりさっさと行くぞ」

 受付の為に自動ドアを開けた先、何故か大所帯で出迎えをしていた。


「「「「いらっしゃいませ、禰猫(ねねこ)様とご友人の皆々様そして、教員の皆々様」」」」

「「「「・・・」」」」」

 禰猫(ねねこ)以外思わず全員固まってしまった。


「ん、今日はよろしく」

「かしこまりました。着替え室は、あちらの角を右の方です」

「いや、よろしくじゃなくて。一体どうなってるんだ?」

「ここ、両親の会社が関係している施設だから」

「あぁ、そう...」

 相当な親バカなのか?娘の肌を他人に見せたくなかったのか、何にしろこの施設は完全貸し切り状態となってしまったようだった。


「と、とりあえず、着替えに行こうか」

「先に着替えて待っとくよ...」

 そのまま二手に分かれていく。


「なるほど、あの方が禰猫(ねねこ)様が気になるお相手か」

「男は一人しか入らなかったから多分そうだろう」

「あの子可愛い」

 従業員たちは、密かに盛り上がっていたのだった。


「広いなこの施設」

 憲希(かずき)は、すぐさま着替え一番乗りでその光景を見ていた。

 絵柄が多い青色の水着のズボン、上にラッシュガードを着ていた。


「本当に、貸し切り状態だな...」

 普通ならワイワイと賑わった声が聞こえてきそうな空間だがそんな声も超えてこず愉悦感とはまた少し寂しいと思ってしまう。


「うわっ、広!!」

「本当に誰もいない~」

 騒ぎ声が聞こえ憲希(かずき)は、咄嗟に振り返ってしまう。


 先に菟月(うづき)桜愛(さくら)が着替えて出てきたようだった。


「あ、一番乗りじゃなかったか」

「悪かったな」

 不満そうな顔を向ける菟月(うづき)に思わず憲希(かずき)そういった。


 菟月(うづき)はオレンジの色のビキニ、いつもテンションが高い菟月(うづき)によく似あっていた。以外にも着痩せしていたのか胸が大きかった。

 桜愛(さくら)は、ふりるの白色のビキニを着ていた。ふりふりのおかげかいつもより胸が大きく見えるがこれが目の錯覚というものだろう。


「こんな美少女の水着姿をみて感想はないの?」

「え、あぁ、似合ってる?」

「なんで、疑問形なのってこのノリは、前にやったでしょうが!」

 珍しく菟月(うづき)がツッコミを入れてくる。


「浮き輪でも膨らませておくか」

 憲希(かずき)は、そのまま鞄に入っていた浮き輪やビーチボールなど膨らませ準備をしていた。



「何か色々持って来たね」

「適当に彩花(あやか)が詰めていたからね。何が入っているかはわかってない。そもそもプールが初めてだから」

「泳ぐのも初めて?」

「初めてだ。泳いだことは一度もないかな」

「そうなんだ...」

 普段何でもできる憲希(かずき)にとって泳ぐのは初めてのことだった。


 高校になってからプールの授業はなく、小中引きこもっていた憲希(かずき)のとって経験がないのは当然だった。


「おう、もう来てたか」

「はぁ、はぁ憲希(かずき)くんの水着姿レアだわ」

「ん、お待たせ」

 一気に三人現れ、持ってきた荷物を下ろす。


「どうした?憲希(かずき)顔が赤いぞちゃんと水を飲んどけよ」

「わ、わかってるよ」

 憲希(かずき)は、彩花(あやか)の水着姿をみて動揺した。


 彩花(あやか)は、黒いビキニ姿、健康的な体がより目立っていた。

 (しずく)は、大人らしくあまり肌を見せないようにビキニの上にビーチカーディガンを着ていた。

 禰猫(ねねこ)に関しては何故かスクール水着を着ており、ビッチリとした水着のため胸のラインが協調されていた。


「なんで、禰猫(ねねこ)先輩スク水なの?、しかもなんで旧式...」

「知らない、持ってきた水着が何故かこれになっていた」

 禰猫(ねねこ)は、恥ずかしいのか少しもじもじしている。


「そういえば、憲希(かずき)は、水泳は初めてだったな」

「初めてだな。泳ぎ方も一切わからないけど」

「あぁ、了解だ。見本を見せたらいいんだよな」

「お願い」

 そのまま彩花(あやか)は水に浸かっていく。


「とりあえず、お前も水に浸かれ」

 半ば強引に、プールに引き釣り水に浸からせる。


「冷たい...」

「まぁ、水は怖くないようだな。とりあえず、見本を見せるか」

 そういって彩花(あやか)は、クロールや背泳ぎなど綺麗に泳いで見せてくれる。


「よし、こんな感じでいけるか?」

「あとは慣れかな...」

 憲希(かずき)は、早速浮かぶ練習からし始めるとそのまま先ほどの彩花(あやか)のように綺麗に泳ぎ始めた。


「ん、これ泳げてる?」

「おう、ばっちりだ!」

「まぁ、浮き輪で浮かんでる方が楽かな」

 憲希(かずき)は、浮き輪を手に持つとぷかぷかと浮かんで気持ちよさそうに目を閉じていた。


「「「で、でたらめだ...」」」

 見せたものをそのままコピーするかのように憲希(かずき)の姿を見て桜愛(さくら)禰猫(ねねこ)菟月(うづき)の三人揃ってオーバーなリアクションをとる。


「まぁ、憲希(かずき)くんは、天才だからね。いや~、それにしてもやっぱいいわ」

 (しずく)は、カメラを持ちずっと憲希(かずき)の姿を撮影していた。

 

 天才という言葉だけで簡単に片付くものではないかと思わず思考を停止してしまうくらい驚いてしまう。


「てか憲希(かずき)は、上のそれ脱がないの?」

「脱ぎたくない。肌を見せるのはあまり好きじゃないから」

 憲希(かずき)は、体をよく見ると脛の方にはあざが残っていた。


 痛々しい姿が服の上からでも分かると思うとそれ以上何もいわなかった。


「ま、そんなことよりあれ滑ろうぜ」

 菟月(うづき)は、そう言ってこの施設の目玉であるウオータースライダーに指をさす。


「こちら三人乗りです、こちらのボードに乗っていただきます」

 女性従業員の案内にしたがいとりあえず、三人に分かれる。


 流石に、彩花(あやか)(しずく)は、一緒に乗るのは駄目ということなので4人でくじをすることとなった。


 結果的に憲希(かずき)禰猫(ねねこ)菟月(うづき)桜愛(さくら)の組み合わせとなった。


 女性従業員を「よし」と小言で呟いた。


「よし、じゃ私が憲希(かずき)くんと乗ろうかな」

「そんなことさせるわけないだろ」

 と口論が発生し何故か二人もくじを引き、結局彩花(あやか)と乗ることとなった。


「それじゃあ、禰猫(ねねこ)先輩失礼します」

「ん...」

 柔らかい体に少し戸惑うが落ちない為にしっかり抱き着いた憲希(かずき)であったが、禰猫(ねねこ)は、段々と顔を赤らめる。


 そして彩花(あやか)も同じようにして憲希(かずき)の体に抱き着く。

 後ろから柔らかいものが背中に当たる。

 彩花(あやか)の体温が高いのかそれとも自分が低いのかその温かさが憲希(かずき)は、気持ちよかった。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」

 勢いよくボートが動き出し、ぐるぐるの目が回るような遠心力と水しぶきが飛んでくる。


 最後にザバァァンと大きな水音が消えると緊張感から一気に解放された気分でいっぱいになり、思わず笑ってしまった。


「さ、さっさと上がるぞ」

 彩花(あやか)の言葉で急いでプールから上がると再びザバァァンと音と共に陸へと上がった三人に一気に水が降りかかる。


「あはは」

 ずぶ濡れになりながらも憲希(かずき)は、思わず笑ってしまう。

 その何気ない笑い声につられて二人も思わず笑ってしまった。



「やば、めちゃ早かった」

「体重のせいでしょうね」

「なんでこっちを見るのよ!!」

 何故か桜愛(さくら)の方を見て言ってくる。


「いや~やっぱ桜愛(さくら)でいじるの楽しいな~」

「全く、私は、おもちゃじゃありませんよ!」

「悪い悪い」

 そのまま、6人は、お昼が過ぎまで遊び尽くした。


「あ~体が重い...」

「プール出た後の疲労感確かにヤバいな」

 遅めのお昼を食べる為に着替えプールを出たが、憲希(かずき)桜愛(さくら)が先に着替え終わり、ベンチで他愛のない話をしていた。


 まだ濡れている紙から首筋へと水が伝っていき、少し艶めかしい。


「はぁ、ちゃんと髪の毛乾かした方がよかったんじゃないか?」

「そっちこそちゃんと乾かして...乾いている」

「そりゃ、できるだけタオルで水を吸ったからだよ。とりあえず、よっと」

 憲希(かずき)は、桜愛(さくら)にタオルを渡す。


「汗拭きタオルだから水をよく吸うよ。新品だから大丈夫だよ」

「あ、ありがとう」

 桜愛(さくら)は、憲希(かずき)からタオルを受け取ると思わず顔をうずくめる。


「いい匂い...」

「早く頭を拭け」

「わあぁ」

 飲み物を取り出しては、それを飲み干していく。


「はぁ~、少し肩借りるな」

 憲希(かずき)は、そのままうとうとしてしまい桜愛(さくら)の肩に寄り掛かる。


「あらあら、疲れて寝ちゃったのね。正直羨ましいわね」

 (しずく)は、怖い顔を浮かべながら桜愛(さくら)に近づいてきていた。


「まぁ、半日以上寝ている子だし流石に疲れちゃったか...」

「それって大丈夫なんですか?」

「正直体には、良くはないけど、何しろ数年引き籠っていた体だからね。何かと燃費が悪いのよ。飲み物を多く飲むのもね」

「なるほど」

 桜愛(さくら)は、スヤスヤと眠っている寝顔を眺める。


「襲っちゃだめよ」

「そんなことしませんよ!?」

 顔を赤らめ桜愛(さくら)は、慌てて否定する。


「すまない、片づけていたら遅くなった...」

「寝てる」

「まぁ、プールの後は眠くなるしね。まさかこんな堂々と寝れるね」

 三人揃ってようやく着替え終わったのか、慌てて憲希(かずき)たちに近づいてきた。


桜愛(さくら)禰猫(ねねこ)荷物を持ってくれるか?」

「「うん(ん)」」

 彩花(あやか)は、二人に荷物を持たせると寝ている憲希(かずき)を負んぶした。


「重くないの?」

「重くはない、寧ろ男にしては軽すぎるくらいだからな」

「そうね、憲希(かずき)体重は、40㎏あるかないかぐらいだからね。もう少し食べないといけないわね」

「「よ、40...」」

 何故か桜愛(さくら)菟月(うづき)は、衝撃を受けていた。


「私より軽い...」

「甘いもの控えよ...」

「いや、そんな問題じゃないと思うんだが...」

 実際、憲希(かずき)は、大食いというほど食べてはいない、そもそもそこまで動くこともないからお腹があまり減らないのであろう。

 

 何しろ憲希(かずき)に取って食欲より、睡欲のほうがはるかに優先度が高い。

 起こさなかったら朝も昼も抜いても可笑しくはないのだ。


 そんな日常が続くことを心の底から願っていた...

 だが、現実は、泡のようにはじけて消えてしまった。


 夏が終わりの祭り、帰り道での交通事故


「居眠り運転ではねられたって」

「助けた女性は、即死ってまだお若いのにね...」

 目が眩むような衝撃が憲希(かずき)の脳裏に焼き付いた。


 現在の保護者であった、彩花(あやか)が交通事故にあった。


 原因は、女の子を庇ってでの交通事故、運転手は、居眠り運転をしていたそうだ。

 体は、見る影もなくぐちゃぐちゃで酷い有様だった。

 そこから、どうなったかの記憶は覚えていない。


 気が付くと病院で、その出来事は夢で済ませたかった。

 彩花(あやか)は、死んでしまったのだ。

 目の前にいて止めることすらできなかった。

 呼び止めていればもっと近くいたら彼女は死なずに済んだんだろうか...

 死んでしまったという結果は変わりはしない。


 健康的に何も影響がなかった僕は、そのまま家へと帰る。

 彩花(あやか)がいない家へと


 玄関を開け靴脱ぎリビングへと向かう。

 そこにあるべき姿は、あるはずもなく僕は、立ちすくむ。


 病院では、決して流さなかった涙が零れ落ちた。


 憲希(かずき)は、再び家族を失った。

 今度はちゃんと愛してくれた最愛の家族を失った。


「なんで...なんで、いなくなったんだよ!!ふざけんな!!」

 誰もいない家で声を上げたところで誰の返事も返っては来ない。


 リビングで寝転び日々の光景を思い出す。

 彩花(あやか)からたくさんのものを貰った。

 今こうして泣いている感情や、友人と言える人たち彼女がいたから今の自分はここにいたんだ。


「一体どうしたらいいんだよ。教えてくれよ...彩花(あやか)

 リビングに大の字で寝転がり涙を流す。

 

 何故僕だけが、こんな目に合わないといけないのだろうか、他の人と違うたったそれだけで...


「世界は、僕を()()したのか...」

 大袈裟表現そう言われても構わない、世界は、まるで僕に死ねと言っているかのような仕打ちをしてくる。


 この世に本当に輪廻転生と概念があるならば、僕は死ねば彼女(彩花)に再び会えるのだろうか、それとも天国や地獄と呼ばれる場所に行ってしまうのだろうか?


「そんなこと、()()()()()()()

 キッチンに行き、いつも使っていた包丁を首元にあてる。


 これでやっと終われる、刺したら出血で死ぬことができる、この苦しみからこの世界から解放される。


「なのに...なんで...」

 手が動かない、刺せば終わるそんなことは、頭で理解できているのにも関わらず死ぬことが出来なかった。


『お前もう1人じゃない』

 誰かにそう言われてるような声が聞こえてくる。


『私がお前を救ってやる。お前ここで終わるような存在じゃない。私がお前の生きる意味を教えてやる』

 昔、抱きしめられた暖かい記憶がふと思い出し、手に持っていた、包丁を落としてしまった。


 僕は、そのまま死んだように眠りについた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 後期の授業の始業式開始の筈だったがそこには憲希(かずき)の姿は、なかった。


「今日は、休みなのかな?」

「あの桜愛(さくら)さん、あいつ(憲希)は?」

「連絡がなくて、体の調子が悪いのかもしれない」

「そうなの、もしかしてあの噂...」

 未那(みな)は、少し不安そうな顔つきになる。


「お前ら席に着け」

 突然別の男性教員が現れ、教室内がざわめき出す。


「先生、彩花(あやか)先生はどうしたんですか?」

「あぁ、そのことだが、非常に残念であるが、日下部(くさかべ)先生は、先日交通事故でお亡くなりになりました」

 その言葉を聞き教室内が騒ぎ始める。


「そんな...」

 桜愛(さくら)は、思わず立ち上がり、鞄を持つと急いで教室を出た。


結城(ゆうき)!、どこに行くんだ?」

 男性教員の問いかけに答えず、桜愛(さくら)は、保健室に向かう。



「はぁ、はぁ、もっと体鍛えるべきだった」

 自分の体力のなさを呟きながらも保健室の前までやってきた。


(しずく)先生、今すぐ憲希(かずき)くんのところに連れて行って!」

 扉を勢いよく開け、桜愛(さくら)は、そう言った。


「まぁ、来ると思っていたけど、会ってどうするの?私としてはしばらくそっとした方がいいと思うけど」

 (しずく)も泣いていたのか、目の辺りが赤くなっていた。


「それでも行かないといけない、結末はどうあれ可能性があるなら行かないといけないんですよ!!」

 (しずく)に訴えかけるように桜愛(さくら)はそういった。


「怖いのよ!、私は」

 憲希(かずき)が死んでいるかもしれないという可能性、(しずく)の中にそんな恐怖は、やってくる。


「それでも、私はいきます。住所だけでもいいから教えてください」

「どうしてそこまでするの?あなたは怖くないの?」

「怖いに決まってます。だけど、私は、伝えないといけないことがあるからです」

 桜愛(さくら)の目に迷いというものはなかった。

 真っ直ぐと(しずく)の顔を向け、昔の彩花(あやか)と重なる面影がそこにはあった。


「わかったわ。連れて行ってあげるわよ」

 その時、再び保健室の扉が開く。


「もちろん。私達も連れて行ってくれよ」

 菟月(うづき)禰猫(ねねこ)は、タイミングよく現れる。


「早くいこ」

「はぁ~、わかったわ。私の運転は荒いわよ。覚悟してね」

「「「はい」」」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「で、飛ばしてきたけど...」

 いつも通りめちゃくちゃ運転でやって来たため、(しずく)以外、車酔いでへばっていた。


「てか、2人で住んでいるには大きくないか?」

「一軒家だと思わなかった」

「まぁ、アパートじゃ色々と収まらないからな」

「先生そんなことより鍵は?」

「あ、はいはい。少し待ってね。確かここら辺に...」

 (しずく)は、近くの鉢植えを動かし、その下のパネルを外す。


「どんな所に隠してるんだよ」

「まぁ、それは私も思ってる」

 鍵は、外したパネルの裏側に貼り付けていた。


「とりあえず、開けるね」

 物音すら聞こえない家、本当に住んでいるのか疑わしくなるくらい静かだった。


「リビングか自室にいると思うけど」

「やっぱりもう...」

 その時、ドタッという物音がし、靴を脱ぎ捨て急いでその音がした部屋に向かう。


「天使?」

 思わずそう呟いてしまう光景、太陽の光が差し込み髪の毛の色が輝いたいる姿、地面には紙がぎっしりと広がっていた。

 紙がまるで羽のようにひらひらと落ちていく。

「これ、全部小説?」

 一枚一枚、手書きされた紙を思わず拾い上げる。

 書き終えては、次のページを書くためにめくり飛ばしていく。


 桜愛(さくら)は、近づこうとするがそれを禰猫(ねねこ)に止められた。

「邪魔をしては、駄目」

「でも、このままじゃ」

禰猫(ねねこ)さんの言う通りね。憲希(かずき)くんは、文字通り死ぬ気で書いているけど、あれは、止めてしまってはいけない気がする。あれだけ必死な姿を見るのは、初めてだから」

 まるで何かに取り憑かれような書き続ける憲希(かずき)、血で赤く滲んだ紙涙で濡れたのか濡れた紙が所々見えてしまい思わず止めようと思ったが必死で書き続ける姿を見て声をかけることすらできなかった。


 禰猫(ねねこ)は、少し悔しそうに握り拳を作る。

 これが真に才能を持った者の姿、どんだけ苦しくても書き終えるまで書き続ける姿、その世界に溶け込むように書き続ける姿は、到底真似は出来ないと感じたのだ。


「届けぇ!」

 まるで最後に勢いをつけるように書き綴る。


 誰に対してかは、言うまでもないだろう。

 自分の思いや、出来事、生き様と言ったものを全て書き上げた小説。

 それをフィクション()と取るかノンフィクション(真実)と取るかは読者の自由だが、そんなことは今の憲希(かずき)にとっては、どうでもよかった。


 ただ一言、この思いを書くだけの(にえ)に過ぎなかった。


()()()()()

 最後のページ、大きくその文字を書くと憲希(かずき)は、疲れたのか眠ってしまった。


 この言葉届くのかはわからない。

 だが、彼女(彩花)が言った生きる意味というのが少しばかり分かった気がしたのだった。


憲希(かずき)!!」

 桜愛(さくら)は、倒れてしまったように見えた憲希(かずき)に近づく。


「顔色は、悪いようだけど。ただ眠っただけみたいね」

「はぁ、それならよかった」

 (しずく)の言葉で桜愛(さくら)は、安心し、そっと寝かしたままにした。


「はぁ、とりあえず。この紙まとめるか幸い、ページ数も書いてくれているわけだし」

「ん、手伝う」

「そうね。片づけましょうか」

 憲希(かずき)のことは、桜愛(さくら)に任せ、そのまま散らかった紙を片付けていく。

 紙を拾いあげているとその下に手紙のようなものが数百枚とあった。


「これは?」

「駄目!!」

 いきなり声を上げたのは、菟月(うづき)だった。


 拾いあげようとした手紙を奪い、そのまま大事そうに握りしめる。

 珍しく取り乱した菟月(うづき)、思わず涙目になっていた。


「なんでこんなものが...」

「ラブレター?」

「違うわ!!」

「じゃあ何?」

「うぐっ、ふぁ、ファンレターだよ。まぁ、作品に惚れていたの確かだけど」

 そんなことは気にせず(しずく)は、片づけを続けていると地祇にピンク色の手紙を拾い上げる。


「ん?また手紙があったわよ」

 次にすかさず禰猫(ねねこ)が、その手紙を奪う。


「やっぱ禰猫(ねねこ)先輩も書いてるんじゃないですか」

「・・・」

 思わず禰猫(ねねこ)も黙り込んでしまった。


「ま、小説が好きな子たちなら当然か...えっと、他にはと、あっ!」

 (しずく)は、とある物を見つけた。


「何?またファンレターですか?」

「それよりも重要なものよ。おそらく、これが原因だと思うんだけど」

 手に持っていたは、日記だった。


 漢気勝りの彩花(あやか)が書いていたもので、あまりに彩花(あやか)性格と似合わない印象だったのでよく覚えていた。


 その日記には、憲希(かずき)と住んでから書かれたものだった。

 雫は、適当にページをめくっていると何か封筒が挟まっていた。


「これって...」

 その封筒には、遺書と大きく書かれていた。

 

「なんでこんなもの」

「まぁ、見たらわかるでしょ」

 封筒を開け中には手紙と、USBメモリが入っていた。


『拝啓

 とりあえず、USBの中身を見ろ!!

 以上』


「「雑!!」」

 (しずく)菟月(うづき)は、思わずツッコミをいれてしまった。


「とりあえず、見よ。桜愛(さくら)も」

「え、うん」

 憲希(かずき)のパソコンを借り、そのままUSBの中身を見る。


「動画?」

「とりあえず、再生してみよう」

 ファイルの中の、動画を開き再生させる。


『さて、これで撮れてるのかな?

 まぁ、これを撮ったわけだが人なんていつ死ぬかわからないからな。元、生徒の助言をいただいてこんなものを撮ってる。無責任にほったらかしにしたくなかったからな。こうして何かを遺書を残してみた。まぁ、私的にはこれは再生されず、そのまま墓場まで持っていきたいけどな。あはは

 さて、これを見つけたってことは、勝手に日記を見たんだな。

 誰がこの動画を最初に見るかは分からないがこの動画を後に憲希(かずき)に見せてやってくれ。支えとなる者が死んだと分かったらあいつは死んでしまうかもしれないからな。

 あ、最初にお前が見るかも可能性もあるのか、難しいな。

 とりあえず、私が言えることは、生きろ!

 生きる理由を見つけろ!それが達成されるまで絶対に死ぬことは許さない!

 勝手に死んどいて何言ってんだと思うがこれが私の願いだ。』

 めちゃくちゃな彩花(あやか)な言葉、理不尽ともいえるものだが、それほどまでに憲希(かずき)のことを一番に思っていたことは確かだった。


『まぁ、勝手なこと言って生きる理由が分からないと考えても可笑しくないか、最後にそれだけを提示してやろう。私の部屋の棚その奥にある箱を開けろそれがお前の力だということわかってくれ。私は、お前の小説のファンだ。そして、お前に救われた一人だ。『彩花(あやか)ご飯できたよー』あ、わかった、今行くー』

 大事な話なのに突如憲希(かずき)の声が入ってきた。

 撮り直しをしないのが彩花(あやか)らしく、思わず笑ってしまう。


『さて、兎に角だ。憲希(かずき)()()()()、さてと、飯にするか』

 そのまま動画は、その動画は終わってしまった。


「まぁ、なんていうか大雑把だね」

「先生らしいといえばらしいか」

「そうね」

 彩花(あやか)の姿が見れて涙ぐみながら笑っていた。


「箱ってどれのことなんだろう?」

「原稿用紙の下にあるでしょ」

「探してみましょうか」

 そのまま一同は、原稿用紙を片付け彩花(あやか)の言っていた箱を見つける。


『ありがとう、この作品を書いてくれて』

『ありがとう、自身がつきました』

『ありがとう、頑張っていこうと思いました』

 その箱に入っていたのは、手紙、はがきなど、多くの感謝が述べられたもの多く届いていた。


「これってファンレター?」

「だから、ファンレターがこんなところにあった訳ね」

「でも、なんでこれが」

 彩花(あやか)の言った生きる意味になるのだろうと考えてしまう。

 

 それはきっと憲希(かずき)しか分からないものだろう。

 憲希(かずき)にとってあの作品は、人生を壊したものに過ぎない。

 そう認識してしまっていたのだ。

 だが、その小説によって人生を救われた者が多くいたのだ。

 救われたもの達、人生を変えたもの達が少なくともここに三人いる。

 

「全く、次はどんな小説を書いたんでしょうね」

 (しずく)は、優しく憲希(かずき)の頭を撫でた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おはよう」

「ん、おはよう桜愛(さくら)

 いつもの電車内の登校でパタリと二人は、出会った。


「もう大丈夫なの?」

「当たり前だ。なんなら自信作が書けたな」

「あ!そうだ、私もそろそろ書かないといけないんだった」

「図書館のあれ提出したら?」

「絶対いや!!あれは息抜きようなの」

「あはは。まぁ、心配してくれてありがとな」

 いつもの日常、いや少なくとも憲希(かずき)は、あの時から大きく変わった。


 ライバルと言える者、友人と言える者、青春というものが少なくともわかった気がした。

 日常というものが変わった瞬間ともいえるかもしれない。

 灰色と言ってもいい憲希(かずき)の日常だったが、それが段々と色づいていった。

 

「あの小説は、どうなったの?」

「全部、(しずく)先生に渡したよ。なんか知り合いの白鷺(しらさき)ていう小説家にも見せるって言っていたな。まぁ賞の結果は、また3ヵ月後ぐらいかな」

「そうなんだ。取れているといいね」

「正直、それは文芸部の生存の為だけどな」

「そういえば、そうだった」

「ほら、降りるぞ」

「あ、ちょっと待ってよ」

 憲希(かずき)は、相変わらず学校に着くとすぐに寝てしまった。


「全く相変わらずね」

「あはは、まぁ仕方ないかな」

「けど、その才能は本物のようだったね」

「どういうこと?」

「委員会でも教師内でも今は、その話でいっぱいだったよ」

 未那(みな)は、無事委員会に入れたらしく、部活での活動報告の時に色々と見ているらしい。


「間違いなく本人だった」

 朝から泣いたであろう跡が未那(みな)の顔に残っていた。


「読んだんだね」

「うん、少しだけだったけど。彼がどんだけ辛い出来事があったか分かった気がした。あんな作品よっぽどのことがないと書けないと思う。謝りたかったけど」

「正直、気にしてないと思うんだけど」

「まぁ、その謝罪は素直に受け止めるよ」

 その声を聞いて、思わず振り返る。


「起きてたの?」

「そんな一瞬で寝れるわけないだろ。まぁ、正直謝罪はいらない。今度も自分が持てる力を使ってテストを受けたらそれでいい。次も僕とテストで張り合ってくれたらそれでいいよ。負ける気はしないけど」

「わかったわ、その勝負受けて立つ」

 まるで、火花を散らしているかのように二人は、終始笑顔で言い合った。


「私は、さすがについてはいけないかな。あはは、次も取らないと親に叱られる」

「まぁ、それは自分次第だろ」

「うぐっ、また助けてください」

「暇があったらな」

「そんな~」

「お前ら席に着けホームルームを始めるぞ」

 男性担任の声が聞こえ急いで生徒たちは席に着いていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 彩花(あやか)が亡くなってから6ヵ月


「それじゃ、彩花(あやか)行ってくるよ」

『おう、いって来い』

 まるで、笑顔でそう言い返したように感じ、憲希(かずき)は、勢いよく玄関を開けた。


『復帰した天才小説家、再び賞を受賞!?』

 そんな見出しで、世間から注目を集め顔を仮面で隠しながらもテレビで受賞の姿を撮られていた。


「皆さんこんにちは、私は、正真正銘夜白(やはく) (つき)本人だ」

「何故仮面をつけているのでしょうか?」

 リポーターの当然な疑問を投げかけてくる。


「それは単純に私は、君たちメディアが嫌いだからだ。君たちのせいで私の両親は、死んだ。君たちのせいで幼かった私の人生は、狂わされた。今私は、幸せといえるのかは分からないがこれ以上邪魔をされたくないのでこうして仮面をつけているだけだ」

「・・・」

 メディア達は、思わず黙りこんでしまう。

 下手なこと聞いてしまうと読者達の反感を買ってしまうかもしれないからだ。


「言っておくが、今見てるであろう読書達にも同じことが言える。君たちの言葉が私の両親を死に追いやったといっても間違いではない。正直賞の感想なんてどうでもいい。私が欲しいのは謝罪の言葉だけだ。だけど、『すみません』や『ごめんなさい』なんて言葉必要としない。SNS、手紙、なんなら紙飛行機に書いても構わない『ありがとう』という感謝を誰かに伝えてくれたらいい。会見は以上だ」

「もう少し話を...」

 一方的に話し、そのまま無理やり会見を終わらせ、席を退場していく。

 退席時にカメラのフラッシュが眩しいくらい撮られていく。


「はぁ~、無理して会見に出るなんて。大丈夫?」

「吐きそう...少し肩を貸してくれ」

 仮面の隙から見えるその笑顔がとても満足そうな顔だった。

「う、うん」

 桜愛(さくら)の肩を借り、重い足取りを支えてもらった。


 この会見後、SNSなどで『ありがとう』という言葉で埋め尽くされサーバーは、一時的にダウンしてしまったことは言うまでもなかった。


彩花(あやか)、生きる意味ってやつが少しだけわかった気がするよ」

 憲希(かずき)は、小さくつぶやいた。


 

20万pvの記念ですけど、ほぼ勢いで書きました。

よかったらコメントお願いします。

Twitter ID @Loewe0126

投稿日など報告しています。

DMで好きなキャラなど言ってくれたらそれを閑話で書こうかと思っています。

質問箱も用意しますので気軽に絡んでくれて結構です。


よかったら、ブクマ、感想をお願いします。

誤字報告ありがとうございます。

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