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09


「よし」


 覚悟を決める。

 掃除妖精に全てを任せると、私は荷物の中からそれを取り出した。

 小魔女としての衣装、カボチャパンツだ。

 ただのパンツというよりは半ズボンに寄せた感じで作ってあるので見られても恥ずかしくはない。

 わかっていたけどゴスロリな感じになってしまった。

 何度も言うがこのカボチャパンツは最終戦も余裕でこなせるカボチャパンツだ。それに合わせた他の部分ももちろんそうなので、つまりはこれで武器を持てば魔女最強装備の完成である。

 隠しダンジョンではゲームと違って一人でクリアしないといけなかったから、色々と工夫していたせいもあってこの装備は着ていなかったから、試着を除けば初めて袖を通すことになる。

 気持ちを集中……よし、ゴスロリな自分を受け入れた!


「さて、あなたたち後は任せたわよ」


 掃除はまだまだかかりそうなので、夕食を求めて外に出ることにする。

 なぜかイエッサーな感じで敬礼する掃除妖精に見送られて工房の外へ。王都についた時には昼をちょっとすぎたくらいだったけど、色々している間にそれなりに時間が過ぎていた。


「ううん、やっぱり生で見るこれはいいな」


 階段を上がって目にしたのはサンドラストリートの夜を舞う光の群れだ。

 魔法の明かりが蛍のように夜を泳いで視界を広げてくれている。

 誰がやっているというわけでもない。ストリートを歩く魔女たちが光球を生み出して夜の通りに解き放つのだ。

 私もそれを真似して光球を飛ばす。

 むっ、ちょっと白味が強くなったな。やや緑がかった蛍の光っぽさがいいのに。

 風情のない光になってしまったことを後悔しつつ、通りを歩く。

 ここは魔女の工房ばかりが並んでいるので食べ物屋はない。

 そういうのがあるとしたらどっちだろうと考えて、たぶん城側に歩いた方がいいはずと思い定める。

 記憶が確かなら王都アルタンスールは城壁に近い周辺は居住区、それから中央に向かって商業区、貴族区、城という感じになっていたはずだ。サンドラストリートは居住区と商業区の合間に存在する。なので城の方に向かえば商業区となり、仕事帰りの人たちを迎え入れる食べ物屋がたくさんあるはずだと読んだ。

 読みは正解。

 すぐに美味しそうな匂いがあちこちでしてくるようになる。

 やはりストリートの近くには魔女の姿もあちこちあって、立ち並んでいる屋台を覗いても邪険にされることはなかった。

 あちこちに簡単なベンチが置かれているのでその一つに座って、屋台で買ったものを食べ、飲む。

 そうしながらぼんやりと行きかう大人たちの会話を盗み聞く。

 だいたいは身内のどうしようもないノリ話ばかりだ。

 でも、中には少しばかり面白そうな話もあった。


「なぁ聞いたか? 西の国で聖女が現れたってよ」

「ああ、疫病を治して回ってるって話だろ? すげぇな」

「でも、西の国の疫病ってひどいんだろ? 大丈夫か?」

「国境は閉じてるって話だからこっちには流れてこないだろ」


 ああ、あのクエストの話だ。そうか、もうこの時期にはそんなことになっているのか。知らない会話を収集できた気分になって楽しい。内容的には不謹慎だけど。

 でも、興味深い話はそれだけだ。サンドラストリートの近くはお酒を扱う店が多いようで、小魔女がいつまでも居座るのはなんだか居心地が悪い感じになって来た。

 と、思ってると見たことのある小魔女が目の前を走っていく。

 サンドラの所にいた小魔女だ。

 なんだかただならぬ雰囲気を横顔に張り付けていたので追いかけてみることにする。

 彼女が駆け込んだのはとある酒場だった。

 西部劇みたいなスイングドアに体当たりするようにして入る。すでに何か騒動が起きているようで、周辺で酔いとは違うざわめきが起きていた。


「お姉ちゃん!」


 何となく気を使ってスイングドアをすり抜けていると彼女の悲鳴が店内に響く。

 騒動の中心地は店の端、二階に上がる階段の側だった。給仕らしい服を着た女性が倒れている。

 彼女の側には血だまりができていた。


「お姉ちゃん、待って、すぐに」


 言いながら、彼女は自分のポケットからガラス管を取り出し、コルクの封を解く。

 回復薬だろう。

 意識が怪しい女性の口に当てて、むりやりに飲ませようとする。だが、嚥下がうまくいかないのか、咽て吐き出した。


「そんな! お姉ちゃん! 飲まなきゃ!」

「口にこだわらなくてもいいのよ」


 見ていられなくて割り込んでしまった。

 自分の回復薬を出すと、給仕の服をめくって傷口を探す。わき腹のところに縦に裂けた穴があった。

 誰かに刺されたのだろう。その誰かは?

 見回す暇もない。すぐに傷口に回復薬をかける。

 私も隠しダンジョンでモンスターの角がお腹を貫通したことがある。飲み込もうにも全身が震えてうまくいかなかったので、なんとか傷口の上でガラス管を割って振りかけた。

 いやぁ、まさかあの経験がここで活かせるなんて。

 私の回復薬を吸い込んだ傷口の周辺が泡立つ。消毒と再生が開始される。薬には肉体の機能を目的の作用に導かせる効果がある。その効果をどれだけ強く発揮させ、持続させるか、そしてその効果を発生させるための栄養を薬液にどれだけ保持させることができるか……それが薬のランクを現わすし、またそれを作る魔女の実力も示す。


「そんな……あの傷が一度の薬で」


 慌てていた小魔女が傷の治り具合に驚いている。すぐにそういうことを考える辺り、彼女はけっこう魔女の技にのめり込んでいるのだろう。


「たぶん、もう大丈夫、心配なら様子見ながら自分の薬をあげて」

「……な、なんであんたがここに?」

「うーん、野次馬?」

「なっ」

「じゃあ」


 子供がいてよさそうな場所でもないし、赤の他人の長居は禁物……と思ってるとケバイ化粧のおばさんが近づいて来て「ありがとね」ってなにかを握らせてくれた。

 店を出てから見てみるとお金だった。薬代だろうか? 別にいいのに。

 でも、サンドラストリートで魔女をするなら薬代はちゃんともらった方がいいのだろうし、あのおばさんもそれを考えて行動してくれたのだろう。

 戻ってくると動き回れるぐらいにはきれいになっていた。けどまだ、工房を動かせるほどじゃない。

 妖精たちは私の魔力がある限り元気に働き続ける。この様子なら朝には工房を動かせるようになっているかな。


「色々と買わないといけないものがあるなぁ」


 そう思いつつ、部屋の端で旅の間使っていたマントに包まって寝た。





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