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山を下った先に砦があった。
その砦に入った私たちだけど、すぐに問題が起きた。
起こしたのは私たちじゃないけどね。
「連れてきた。任せた。では探しに行くぞ!」
「まぁまぁお待ちください」
「そうですぞ。山歩きを侮ってはなりません」
「しかし!」
再び山に入ろうとする馬鹿赤毛をスペンサーと隊長の二人で止めている。
「誰かを探していたのかしら?」
「みたいだねぇ」
「あの様子ではかなりの重要人物のようね」
事情を知らないアンリシアにまで察せられてしまっている。
取り乱しすぎだよね。
自分の奥さんが魔女になったことを有力貴族にさえも秘密にしていたマウレフィト王国の王様はすごいのかもしれない。
すごいから人望があるかどうかはまた別の話だろうけどね。
「ねぇ、アンリはこの国のこと、どれくらい知ってる?」
上が揉めているせいで私たちの扱いまで宙ぶらりんだ。
しかたないのでこんな話でもして時間を潰そう。
「え? そうね……疫病が流行っていて国境を閉じていて……そして魔女を聖女と呼んでいる?」
「だね。それが一番大きいよね」
「聖女と魔女の違いは……なにかあるのかしら?」
「ないよ。呼び方だけ」
「そうなのね」
「当たり前じゃない。国が違うからって物の本質が変わるわけじゃない。ただ、見方が変わるってだけ」
「なんだと!?」
私の言葉を馬鹿赤毛が聞きつけていた。
「貴様! 我が国の聖女と魔女を一緒にするつもりか?」
「なに言ってんの?」
「聖女と魔女は違う! そんなことも知らないのか?」
「あんたさっき、私のことを聖女呼ばわりしてたじゃない」
「だ、黙れ!」
「都合が悪いことをすぐに忘れようとすんな! そもそも、マウレフィト王国の魔女がこの国に流れてるのも事実でしょうが。どうせ彼女たちのことは都合よく聖女って呼んでちやほやしてんでしょ?」
「彼女たちは自らの使命感でこの国に来た! まさしく聖女の素質ある者の行動だ! 確かにお前のことを聖女と呼んだ! だが、それは間違いだったようだな。お前には聖女の素質はない!」
「はん! いいことしてくれているから聖女! 悪いことするから魔女! そんな都合のいいことばっかり言っているから!」
「なにを騒いでいらっしゃるのですか?」
よく通る声が砦の中に響いて、空気が止まってしまった。
「おお!」
瞬間、爆発寸前のやかんみたいな顔をしていた馬鹿赤毛が喜色を浮かべてそちらを見た。
怒る馬鹿赤毛に息を潜めていた周りの連中も嬉しそうに声を上げる。
「ミーム! 無事だったか!?」
ミームと呼ばれた女性が砦の入り口、私たちの背後に立っていた。
黒色の髪……魔女だ。
いや、聖女だっけ?
どこかおっとりとした雰囲気の母性の強そうな女性だ。胸部装甲的にもな! へんっ!
そんなミームはことりと首を傾げて私たちを見ている。
「もちろんです。陛下。……どうしてそのような格好を?」
「こ、これは……お前を探すために」
「まぁ……大丈夫だと言いましたのに」
「しかし……」
「それで、そちらの方々はどうされたのですか?」
「この二人はだな……」
「こんにちは! この変な赤毛のせいでサンガルシア王国に来ることになったマウレフィト王国の魔女と公爵令嬢だよ! よろしくね!」
「まあっ!」
「お前っ!」
「陛下! どうしてそのようなことをなさったのですか⁉」
「い、いや……ミームこれはだな」
「どうして他国の方を巻き込むのですか!」
「う、うう……」
ミームは私たちの横を通り抜けて、馬鹿赤毛への説教を始めた。
「おおう……この振り上げた拳をどうすればいいのか」
「ひっこめなさい」
「しょぼん」
アンリシアからの冷静なツッコミに落ち込む。
「なんだかレイン、イライラしてないかしら? どうしたの?」
「それは……アンリを守らないといけないから」
「ありがとう。でも、レインがトゲトゲしている方が問題が大きくなりそうだから落ち着いて」
「うう……ごめん」
「ううん、ありがとう」
落ち込む私を、アンリシアが後ろから抱きしめてくれた。
「あなたが頼りなのは本当。でも、交渉ならわたしでもできるから、もっと落ち着いてくれていいのよ」
「うん。そうだよね」
「まずは、あの方をちゃんと名前で呼ぶことから始めましょうか」
むむっ! 内心で馬鹿赤毛って呼んでいることがばれたか!
アンリシアは私の心を読むことができる!?
まいったなぁ。愛の力かなぁ。
「赤毛とかいう呼び方は失礼だから、ね」
「はーい」
どうやら違うらしい。
うん、知ってた。
「……なにか変なことを考えてない?」
「ううん。なにも。背中が幸せなだけです」
「もうっ!」
ぽこんと叩かれた。
幸せ。
まぁ、それはともかく。
ここまではゲームでのイベントの通りだ。
「あ、自己紹介が遅れましたね。わたしはミーム・ハニラマ。この国では第一聖女と呼ばれています」
ゆるーい喋り方でミームが私たちに挨拶する。
この国で最初に聖女と呼ばれることとなった女性。
そして第二部における悪役令嬢。
それがこの、ミーム・ハニラマだ。
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