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たまには魔女同士の交流会なんかをする。
特にここ数年、いくつもの工房が代替わりをしたので小魔女を卒業していない同年代の工房主が何人かいて、彼女たちと情報交換とか素材を融通し合ったりしている。
私の場合は素材の融通よりもゲームで覚えられないけど生活で役に立つ魔法やレシピを教えてもらっている。
サンドラに教えてもらうのはお金がかかるけど、彼女たちとの交渉材料は薬草温室からわさわさと生えてくるのだから、換金の手間がないだけ楽だ。
「サリアって、最近変じゃない?」
定例会的な小魔女子会にサリアが参加しなかったのでそう水を向けてみると、みんなノリノリで頷いた。
「知ってる知ってる! 一番の地味子だったくせに、なんか最近、化粧っ気が出てきたよね!」
そう言ったのはここで一番化粧が濃いラナだ。
彼女はその化粧でわかるように美容系の薬に強い。最近は私が貴族の間で流行らせているシャンプーなんかのレシピを狙っている。教えてやらないよ。
「やっぱり原因はあの上客を捕まえたことでしょ」
もう一人はちょっとあざといツインテールのケルコ。
薬よりも縫物がうまくて、服に魔法の守りを刺繍したりしている。彼女の作った服も結構人気で、工房には若い娘がよく通っている。
「……よく知らないけど、最近、うちのお茶をよく買ってくれているよ」
最後はちょっとふくよかなポルル。
お菓子とお茶をこよなく愛し、彼女の工房はいつも甘い匂いで満ちている。
……ていうか、普通に薬を並べている工房ってうちとサリアだけじゃないかな?
どうしてこうなったサンドラストリート。
そんなわけで、今回の小魔女子会はポルルの工房で行っている。うん、空気が砂糖とバターでできているみたいに甘い。
「あの上客が王子って本当かな?」
「どうかな? 偽物じゃない?」
「偽者、なんているの?」
「ここで自分の正体を名乗る貴族はバカでしょ」
ごめんなさい。うちの上客二人は名乗ってます。
外には漏らさないけどね。
「あ、でもうちにナルナラ公爵の息子さんがお茶を買いに来てくれるよ?」
「ああ、あの坊ちゃんならうちでもよく刺繍を依頼してくる」
「うちにも石鹸を買いに来るわね」
「「「まぁ、あの魔女オタクは例外よね」」」
マルよ。
かける言葉がなにも見つからないよ。
知ってたけど。
「あの王子が本物かどうかはともかく、サリアの変化……ちょっとむかつくわよね」
「わかる。なんかわたしらのこと下に見てる感じがする」
「……うん」
陰口大好きラナとケルコと違い、ポルルは少し悲しそうに俯いている。
「ポルル?」
「サリアはどんくさいわたしのことをよく助けてくれていたの」
「そっかぁ」
サリアも含めた小魔女たちはやはり年代が近いだけに工房が違っても交流がある。私も一応は付き合いがあったけど、来た時から工房主になってしまったからか、弟子時代はけっこう疎遠だった。
サリアはサンドラ工房にいたこともあって弟子時代は他の三人よりも優れていて、よく三人の修業の手伝いをしていたみたいだ。
だけど、三人はサリアよりも早く工房主になり、そしてそれぞれに得意分野を見つけて繁盛している。
一方のサリアも遅れてだがブロウズ工房を継いだものの、他の店に勝る特色は見つけ出せていない。お客の入りもそこまでではなかったはずだ。
ごめん、普通の品ぞろえならミラー工房の方が上だって自負してます。
言い方は悪いけど学生時代は成績優秀だったのに社会人になったらいまいちだった……というのがサリアだ。
自身もサンドラ工房からブロウズ工房に移されるときにそのことに気付いていたはずで、考え方を変えるように努力していたはず。
その結果がいまのサリアなのだとしたら、それはそれで受け入れるべきだとも思うのだけど。
「でも、変わったの最近よね?」
「そうよ。だからやっぱりあの王子よね」
「で、でも、本物なのかな?」
「問題はやっぱりそこになるよね?」
「むしろ、本物かどうかなんて大きな問題じゃないんじゃない?」
「つまり?」
「男ができたのが大きいってことよ」
「ああ……まぁ、それよね」
「そ、そうなんだ」
「ところで、三人は彼氏いるの?」
「いないわよ!」
「……なにか文句ある?」
「…………」
顔が真っ赤なポルルの反応が一番かわいい。
うん? いや……もしかしているってことだったりして?
え? 私? 私はアンリシアがいればそれで問題なしです。男なんていりません。
「ていうか、最近あいつが調子に乗ってるのってあんたのせいでもあるからね、レイン」
「へ? なんで?」
「あんた最近、あんまり店を開けてないでしょ? だから、普通の薬目当ての客がサリアの所に流れてるんだからね!」
「おお!」
アンリシアが心配で留守にしていたらいつのまにかそんなことに!?
これが主人公補正というものだろうかと慄く私であったとさ。
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