人混みの中のわたし
令和の時代。街は慌ただしい。
人々は毎日忙しく働き、そして生きている。
はずなのに、私は今日も1人、部屋の中で暇を持て余すのだった。
「今日の最高気温は39度。連日猛暑日が続いています。外に出る際は水分補給をしっかりと…」
テレビの天気予報士が外に出ればわかる当たり前のことを話している。
今日も暇だ、何をしよう、そんなことを思いながらわたしは1人、6畳一間の狭い部屋の中でうなだれていた。
前の家が老朽化が進み、引越しを強要され、あれよあれよという間に今のアパートに引っ越してきて早1ヶ月。
部屋の中にはまだ開けてすらいない段ボール箱が多数積まれている。狭い部屋がさらに狭く感じられる。
暑い。今は7月、記録的な猛暑日が続いている。
外に出ればわたし自身溶けて無くなってしまうだろう。
エアコンはなぜか引っ越してきた時から壊れていた。起動しないエアコンなんて、ただのガラクタだ。
直せばいいのに?そんなお金を私は持ち合わせていないのだ。
カラカラと扇風機の生温い風だけが、唯一の涼しさ…
と言っても、猛暑の暑い空気をただ循環させているだけなのだから涼しいわけがないのだが…。
はー。と私は床に寝そべり、額から汗が床へと流れていった。
私はしがないイラストレーターだ。
月に2.3の案件をもらえればいいほうで、最近はもっぱら仕事がない。お金もない。
私は何をやってんだって思いながら寝転んだまま天井を眺め、天井の筋を数えていた。
私いつからこんなのになっちゃったんだろ。
いつ道を間違えたんだろ。
そんな後悔の念を嘆きながら、ぼーっと1日がすぎていく。
死んじゃおうかな
そんなことを思うようになっていた。
ま!死ぬ前に身の回りは片付けておくか!と人は急におかしな行動を取るものだ。
私はとりあえず部屋の掃除でもするか、と引っ越してきてから手をつけていなかった、ものが溢れ返りそうなクローゼットに手を出した。
なんだこれは?と思うようなものが出てきて、自分がどれだけ掃除ができない女かということを改めて感じてしまう。
掃除をしていると懐かしいものがでてきた。アルバムだ。
一体なんのアルバムか
掃除をしているときにこう言った類のものがでてくると必ず手が止まってしまうのは人間の性かと思ってしまう。
わたしはアルバムに手をかけ、そっとページをめくろうとした。
その時、ぱらぱらと音を立てて数枚の写真が床へと落下した。
わたしはその写真を手にとり、写真の人物を眺めてみた。
誰だこれ。
そこには、若かりし頃の自分と見覚えのない少女が写っていた。
「はぁー懐かしい。中学の時のアルバムか?ポニーテールなんかして厨二病かよって。それにしてもこの隣に写っている子は誰だ?」
わたしの隣に写っていた子は、くりくりとした目に淡い涅色の髪、なんとも可愛らしい少女だった。
全く覚えていない。この子は誰だ。
しかしその子の隣には中良さそうに屈託のない笑顔で笑う自分の姿があった。
え、こんなに中良さそうにしてるのに覚えてないとかありえなくない?わたし最低じゃない?
と自分の薄情さに心底びっくりしながらもう一度まじまじと写真を見てみた。
そして元のアルバム、中学の卒業アルバムをみて、自分とその子を探す。
「私は…確か3組だったよな、あ、いたいた。げっ、卒アルで変顔してるよ。やば…恥ずかしい。」
これは黒歴史だ。覚えてないのではなく記憶から抹消しているのでは?と思いながらページをめくると、そこには先ほどの彼女が写っていた。
「大前…紗季子…?」
大勢の生徒が四角い枠の中で笑う中、その子の笑顔はどこか寂しげで、儚げだった。
どうしてわたしはこの子を覚えていないのか、何かが引っかかった。
その時
突然
ゴンッ!!
という音とともに頭を強く殴られた感覚と、何か懐かしい匂いを感じた後、わたしの意識は遠のいていった。
そして次に目が覚めたとき、そこは14年前の世界だった。