表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

04.もう絶対無理

「おい、泣くな」


困ったように言うと、ミカはエスメラルダの肩にそっと手を乗せた。それでも止まらないものは止まらない。


「・・・ごめんなさい」

「何を謝ってるんだ?」

「私が一人で精霊を召喚しようとしたから」

「別に誰だってするだろう。確かに一人での召喚魔法はお前がするには難しかったかもしれないが・・・、悪いことじゃない。第一、これは精霊のせいではないだろう?」

「でもこんなトラブルにミカを巻き込んで」

「俺は違う誰かじゃなくてよかったと思ってるよ」

「ミカはいい人すぎる・・・」

「別にいい人じゃないけど」


ミカはため息をついた。


「誰にでもそう思うわけじゃない。エスメラルダだから俺で良かったと思ってるんだ」

「それは・・・申し訳なかったわ」


信頼してくれているのに。


「なんでそうなるんだ」

「だって、私に好かれたって、迷惑でしょ?」

「す・・・」

ミカが言い淀んだ。そうだよね、困るでしょ? と言おうとしたが、エスメラルダは続けられなかった。


「ちゃんと効果あったね」


クピドが言ったからだった。


「え?」


「僕の腕も確かだねー ほんの少しの勇気、そう君は言ったから、そんな愛を込めたんだよ」

「ほんの・・・少し・・・?」


ミカが恐る恐るといった顔でエスメラルダを見た。


「ミカには必要ないもんね、僕はすぐにわかったよ。だからサービスしてあげたんだ。僕のこの矢は絶対だよ、上が取り消しに来ない限り。取り消しなんて今までされたことがないけどね」


そしてにっこりとエスメラルダに微笑む。


「ね、ミカのこと、大好きになっちゃったでしょ?」


そんなこと、こんなところで言わなくてもいいじゃないの!


ミカの唖然とした顔と、期待を込めたような目の輝きに、エスメラルダはゾッとした。


なんだかんだ言ってミカは魔法が大好きだ。目の前で今、その、神の手がけた魔法の効果を見られる時なのだ。それは期待するだろう。ああ、そんなミカがとても好きだ。だからと言って私の変化を見せてなんてやるものか。


こんな屈辱は初めてだ。


「エスメラルダ、ほんとに・・・」


「ミカのことなんて好きじゃない!」


エスメラルダは思わず叫ぶと、研究室を飛び出した。休日なのに、出勤している人は多い。みんな魔法漬けなのだ。


「待て、エスメラルダ! 俺は・・・」

「いやいやいやいや、それには無理があるでしょ。私はミカなんて好きじゃない、ミカも私なんて好きじゃない!」

「なんでそう言い切れる!」

「だって、お互いのこと、全然知らないじゃないの!」

「それなら今から、・・・これからでいいから、知ってくれないか。俺のこと」

「はぁ?」

「俺もお前のことを知りたい。・・・仕事以外のお前のこと」


「・・・何言ってるの・・・」


本当に何を。


エスメラルダはミカのことはよく知っている。


好きな食べ物も休憩時間の過ごし方もくつろぐ時に飲むハーブティーの種類も。


ミカに憧れる女友人に聞かれたりして知るうちに、覚えてしまったものだ。そして、エスメラルダだけが知っていることもある。


好きな魔法の種類、こだわっている部分、人一倍プライドが高くて誰より練習してること。


だからなんだというのだ。


エスメラルダがため息をつくと、ヤジが飛んできた。周囲を見回すと、二人の周りを人が取り囲み、ニヤニヤとしている。


「知られてしまったな」

まったく困っていない涼しい顔で、ミカが言った。

「なんだ、また痴話喧嘩か? お二人さん」

誰かが言った。


またって何よ、それは?


エスメラルダが問いただす前に、ミカがそれを遮り、余裕の笑顔で答えた。

「いつも申し訳ありませんね」

すると、ヤジの声がワッと盛り上がった。


み、認めたぞ! ようやく! 


何を認めたって?


エスメラルダがぽかんと立ちすくんでいると、ミカは彼女の肩に手をかけ、こっそりと耳打ちした。


「クピド様は一本だけとは言わなかったろ。俺にも刺さったんだ・・・あの小さな羽の矢は」

「え、でも・・・」


必要ないとかなんとか?


「とっくに刺さっていたんだ。・・・愛する俺のメル」


何言ってるの?

とっく? とっくって何?

研究室に入ってきた時から?

エスメラルダがクピドから目を離した隙に?

だからクピドはあんな事を言ったんだ!


ミカと見つめ合うと顔に血がのぼるのがわかる・・・これ絶対、顔が真っ赤だ。


悔しい。


ええ、そうよ、ほんの少しでしょうとも。


自分で認めるわけにはいかなかったから。


いつかミカに肩を並べるまで、せめて認められるまでは、そんなこと思ってはいけないと思っていたから。


エスメラルダは自分でわかっていた。


何もかも劣っている自分が、ミカに釣り合うわけがない。

ミカが自分を好きになるわけがない、こんなことがなければ。


なのに、何が起こっているのか。


「やめてよ・・・」


なんて・・・なんて魅力的な笑顔なのよ。


口説き文句言われてこんな顔されたら、さらに好きになっちゃうでしょうが!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ